プロセカの女の子たちと、ひたすら甘やかして甘やかされて溶かされる日常 作:雨風 時雨
約30分間誤投稿を読まれた方には大変ご迷惑お掛けしました
夜の静寂が降りる頃、リビングの時計がカチリと音を立てて日付の変更を告げた。
予定の時間を少し過ぎて、玄関の鍵が回る乾いた音が響く。
「……ただいま。遅くなってごめんなさい」
リビングに入ってきた彼女――桐谷遥は、いつものように背筋をピンと伸ばし、凛とした微笑みを浮かべていた。
かつて国民的アイドルグループのセンターを務め、今は『MORE MORE JUMP!』として再び頂点を目指す彼女は、どんなに疲れていてもその「完璧さ」を崩さない。
「おかえり、遥。今日もお疲れ様。……でも、無理に笑わなくていいよ。今日は特にハードだったんだろ?」
俺が歩み寄って声をかけると、遥は一瞬だけ瞳を揺らし、それから「……ふふ、バレちゃった?」と、少しだけ力を抜いた笑みを零した。
「今日はダンスレッスンの後に新曲のレコーディングがあって……その後、愛莉たちと深夜までのミーティング。……少しだけ、肩が重いかもしれないわね」
彼女はそう言って、細い指先で自分の肩に触れた。
アイドル・桐谷遥は、決して弱音を吐かない。けれど、俺の隣にいる時の彼女は、少しずつ自分の「重荷」を預けてくれるようになっていた。
「とりあえず、そこに座って。遥の好きなハーブティーを淹れてあるから」
「……ありがとう。あなたの淹れてくれるお茶は、世界で一番落ち着くわ」
遥はソファに深く腰を下ろし、俺が差し出したカップを両手で包み込んだ。
立ち上る湯気が彼女の端正な顔立ちを柔らかく包み込む。
一口含み、長く、深い吐息を吐き出す。その動作一つで、彼女を縛り付けていた「アイドル」という呪縛が、少しずつ解けていくのがわかった。
――数分後。
お茶を飲み終えた遥の隣に、俺は静かに腰を下ろした。
「遥、こっち向いて。……髪、少し乱れてるよ」
「あ……本当? 気づかなかったわ」
俺はテーブルに用意しておいたブラッシング用のブラシを手に取った。
遥は少し驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに目を細め、俺に背中を向けるようにして、ちょこんと首を傾けた。
短く切り揃えられた、艶やかな青い髪。
指を通すと、ひんやりとしていて、けれどどこか熱を帯びているのがわかる。
俺は一本一本の髪を慈しむように、ゆっくりとブラシを通していった。
「……ん……。……あな、た……」
「ん?」
「……なんだか、不思議ね。……こうしてあなたに髪を触られていると、……自分が桐谷遥であることを、忘れてしまいそうになるわ」
彼女の独白は、夜の静寂に溶け込むほどに小さかった。
常に周囲の期待に応え、完璧であり続けなければならないというプレッシャー。
彼女が背負っているものの重さを思うと、俺はただ黙って、彼女の頭を撫でることしかできなかった。
「忘れていいんだよ。……ここでは、君はただの遥だ。……俺の大切な、一人の女の子なんだから」
「……ええ。……そうね。……あなたにそう言われると、……本当にそうなんだって、思えるわ」
遥は俺の膝に、コテンと頭を乗せてきた。
仰向けの体勢で俺を見上げる彼女の瞳は、ステージで見せる強い光ではなく、守ってあげたくなるような、潤んだ熱を帯びている。
「ねえ、……わがままを言ってもいいかしら」
「もちろん。遥のわがままなら、何でも聞くよ」
「……もう少し、……近くに来て。……あなたの心臓の音が、聞こえるくらい」
遥は俺の手を自分の頬に寄せ、すりすりと猫のように擦り寄せた。
俺は彼女を抱き上げるようにして、ソファの上で彼女を腕の中に閉じ込めた。
遥の細い腰に腕を回し、彼女の小さな体を俺の胸に密着させる。
彼女の呼吸が、俺の首筋に熱くかかる。
「……あったかい。……あなたの体温、……私の冷えた心を溶かしてくれるみたい」
「遥の体は、少し冷えすぎだよ。……もっと自分を大事にして」
「……自分を大事にする方法なんて、……私、アイドルになってから忘れてしまったのかもしれないわ。……でも、……あなたがこうして私を大事にしてくれるから、……それで十分なの」
遥は俺のシャツをきゅっと握りしめ、顔を胸元に深く埋めた。
完璧主義の彼女が、ここまで無防備に自分を委ねてくれる。
その信頼の重さに、俺の胸が熱くなる。
「遥、マッサージしようか。肩、カチカチじゃないか」
「……ええ、お願い。……あなたに解してもらうと、……明日もまた、頑張れる気がするの」
俺は彼女の細い肩に手をかけ、ゆっくりと指先で力を込めていく。
驚くほど華奢な体。けれど、その筋肉のひとつひとつには、彼女が積み重ねてきた努力の結晶が、硬い結び目となって刻まれていた。
「……っ、ん、……ぁ……」
遥の口から、小さな、甘い吐息が漏れる。
俺は彼女の首筋から肩甲骨にかけて、丁寧に、慈しむように指を滑らせていった。
「……ねえ。……私、……あなたの前だと、……どんどん弱くなってしまう気がするわ」
「いいんだよ。……その弱さを、俺だけに見せてほしいんだ」
「……ずるいわね。……そんな風に言われたら、……私、もうあなたの前から離れられなくなってしまうわ」
遥はマッサージを受けている間に、すっかりふにゃふにゃになってしまった。
凛としていた表情はどこへやら、今は頬を赤らめ、瞳をトロンとさせた、ただの恋する乙女の顔だ。
俺はマッサージの手を止め、彼女を正面から見つめた。
「遥。……大好きだよ。……アイドルとしての君も、……こうして甘えてくれる君も、全部」
「……っ! ……な、……急に、何を……」
遥は顔を真っ赤にして狼狽えたが、すぐに諦めたように、俺の首に腕を回してきた。
「……私も。……私こそ、……あなたがいなければ、……今の私はいないわ。……あなたが私を『桐谷遥』としてじゃなく、……一人の人間として愛してくれたから、……私は再び、ステージに立つ勇気を持てたの」
至近距離で見つめ合う。
遥の潤んだ瞳が、俺の唇をじっと見つめていた。
「……ねえ。……して」
「……何をしてほしいの?」
「……わかっているくせに。……意地悪ね」
遥は少しだけ背伸びをして、自分から俺の唇に触れてきた。
それは、羽虫が止まるような、軽くて清らかな口づけだった。
けれど、離れようとした瞬間、遥が俺の服を強く掴んだ。
「……もっと、……深いのが、いいわ。……あなたの愛で、……私を満たして」
――理性の糸が、ぷつりと切れた。
俺は彼女の細い腰を引き寄せ、逃げ場をなくすようにして、その唇を深く、情熱的に塞いだ。
「……んむ、……ぁ……ん……っ」
遥の甘い吐息が俺の喉に流れ込み、混ざり合う。
彼女は俺の背中を爪が食い込むほど強く抱きしめ、自分からも懸命に唇を動かして応えてくれた。
ストイックな彼女の情熱が、今は俺ひとりに向けられている。
その喜悦と多幸感に、脳が白く染まっていく。
何度も、何度も、お互いの愛を確かめるように角度を変えて唇を重ねた。
「……はぁ、……あな、た……、……大好きよ……、……愛してる……」
口づけを終え、額を合わせたまま、遥が熱っぽい吐息を漏らす。
その瞳は、もはや『完璧なアイドル』の面影など微塵もない、愛に溶けた一人の少女のものだった。
「……ねえ。……今夜は、……このまま、……朝まで離さないで」
「……ああ。……遥が嫌だって言っても、離さないよ」
「……ふふ。……嫌なんて、……言うわけないじゃない。……もっと、……私を壊してしまってもいいくらい……愛して」
遥は俺の胸に顔を埋め、幸せを噛みしめるように深く、深く息を吐いた。
窓の外では、夜のしじまが世界を静かに支配している。
明日、彼女は再び『希望の象徴』として、眩い光の中に身を投じるだろう。
けれど、この夜の闇の中でだけは。
彼女は俺の腕に抱かれ、俺だけの甘い、不器用な小鳥に戻るのだ。
俺は、最愛の恋人の温もりを片時も離さないように、夜が明けるまでその身を抱きしめ続けた。
二人を包む空気は、どこまでも甘く、そして深い癒やしに満ちていた。
許してください