プロセカの女の子たちと、ひたすら甘やかして甘やかされて溶かされる日常   作:雨風 時雨

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今更ながら
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【桐谷遥】第3話

 窓の外では、世界を優しく洗い流すような静かな雨が降っていた。

 

 アスファルトを叩く一定のリズム。遠くの街の喧騒を遮断するカーテンのような雨音は、この部屋の静寂をよりいっそう深いものに変えていた。

 

 薄暗い寝室。シーツの海の中で、俺は自分の中に深く沈み込むような、至福の重みを感じていた。

 

 胸の上に、柔らかな青い髪が散らばっている。

 

 俺の腕を枕にして、俺の胸板に顔を埋め、まるで宝物を守るようにしがみついているのは、世界で一番凛々しく、そして今、世界で一番無防備な少女――桐谷遥だった。

 

「……ん……。……あな、た……」

 

 微かな呟きと共に、彼女の細い肩が震える。

 

 彼女はまだ夢の淵にいるのだろうか。それとも、この微睡みの心地よさに溺れているのだろうか。

 

 俺は空いた方の手で、彼女の柔らかな髪をそっと撫でた。さらさらとした指通り。昨日のメイド姿で見せた、あのヘッドドレスの跡など、もうどこにもない。そこにあるのは、ただ一人の女の子としての、ありのままの彼女だ。

 

「……おはよう、遥。まだ、眠いか?」

 

 俺が耳元で囁くと、遥はゆっくりと、本当にゆっくりと、その長い睫毛を震わせて瞳を開けた。

 

 潤んだ青い瞳が、焦点の合わないまま俺を見つめる。

 

 やがて、彼女は俺が誰であるかを認識すると、顔を真っ赤に染め、さらに深く俺の胸元に顔を押し付けてきた。

 

「……おはようございます。……恥ずかしいわ。……こんなに朝遅くまで、あなたに抱き着いたまま寝てしまうなんて……」

 

「いいんだよ。今日は、世界が止まってしまったみたいに静かだし。……こうして遥の温もりを感じていられるのは、俺にとって何よりの幸せなんだから」

 

 俺が彼女の背中を、服越しにゆっくりとなぞると、遥は「んっ……」と甘い声を漏らして、俺の腰に回していた腕の力を強めた。

 

 アイドル・桐谷遥。かつての彼女なら、こんな自堕落な時間は自分に許さなかっただろう。

 

 けれど今、彼女は自分の意志で、俺という甘い毒に溶かされることを選んでいた。

 

「……ねえ。……私、昨日のメイド姿の余韻が、まだ抜けないみたい。……あなたの前で、あんなに素直に『お仕えしたい』なんて言ってしまったこと……。……でも、後悔はしていないの。……むしろ、心が軽くなった気がするわ」

 

 遥は顔を上げ、至近距離で俺を見つめてきた。

 

 瞳の奥には、濁りのない深い愛情が、澄んだ湖のように広がっている。

 

「……ステージの上では、私はみんなに希望を届ける『桐谷遥』。……でも、この腕の中では、私はあなたに愛されることだけを望む、ただの『遥』。……ねえ、……今の私は、あなたにとって、どんな風に見えているかしら?」

 

 問いかけながら、彼女は自分の指を俺の指に絡めてきた。

 

 俺は彼女の指を一本一本、慈しむように握りしめ、その甲にそっと唇を落とした。

 

「どんな風にって……。……そうだな。……これ以上ないくらい愛おしくて、片時も離したくない、俺だけの可愛い小鳥だよ。……遥、君が思っている以上に、俺は君に依存してるんだ」

 

「……依存。……ふふ、素敵な響きね……。……私も同じよ。……あなたの温もりがなければ、今の私はきっと、冷たい偶像(アイドル)のままだったわ」

 

 遥は俺の首筋に鼻先を擦り寄せ、深く、俺の匂いを吸い込んだ。

 

 彼女の吐息が熱を帯びていく。

 

 俺は彼女を抱きかかえるようにして、ベッドの中で体を反転させた。

 

 今度は俺が彼女を見下ろす形になる。

 

 シーツに広がった青い髪。その中に埋もれるようにして、遥が頬を染め、期待に満ちた瞳で俺を見上げている。

 

「……遥。……今日は、一日中こうしていようか。……雨が止むまで。……いや、夜が明けて、また次の夜が来るまで」

 

「……ええ。……いいわよ。……あなたの望むままに。……今日はもう、……完璧な私なんて、どこにもいないのだから」

 

 遥は俺の首に腕を回し、引き寄せる。

 

 重なり合う唇。

 

 それは、第2話の時の情熱的なものとは違う、お互いの存在を確認し合い、慈しみ合うような、穏やかで深い、蜂蜜のように甘い接吻だった。

 

「……んっ、……ふ……、……あな、た……」

 

 何度も、何度も角度を変えて唇を重ねる。

 

 遥の小さな舌が、遠慮がちに、けれど熱烈に俺を求めてくる。

 

 彼女の鼓動が、胸を通じて俺の心臓に直接伝わってくる。トクトクと、速く、確かなリズム。

 

 俺はその鼓動を愛おしみながら、彼女の細い腰、滑らかな背中、柔らかな太ももを、慈しむように手のひらでなぞっていった。

 

 営みのような激しさはない。けれど、そこにはどんな肉体的な交わりよりも深い、魂の融合があった。

 

 お互いの境界線が消えていき、一つの温かな塊になっていく感覚。

 

「……はぁ、……あな、た……、……愛しているわ。……一生、私の隣にいて。……私の希望は、……あなたそのものなのよ」

 

「遥……。……俺も、愛してる。……君がどんなに遠くへ行っても、俺は必ず君の帰る場所で待ってるから」

 

 俺たちはそれから、雨音が遠のくのを感じながら、断続的にキスを交わし、とりとめもない会話を続けた。

 

 かつて彼女がアイドルを辞めようとした時の苦しみ。再びステージに立つことを決めた時の覚悟。そして、その傍らに常に俺がいたこと。

 

 思い出のひとつひとつを、甘い砂糖菓子を味わうように二人で振り返る。

 

「……ねえ。……私、アイドルとしての目標はたくさんあるけれど。……一人の女の子としての目標は、たった一つしかないの」

 

「何?」

 

「……おばあちゃんになっても、こうしてあなたに膝枕をしてもらって、……『遥は今日も可愛いね』って、言ってもらうことよ」

 

 遥は悪戯っぽく微笑むと、俺の腕を自分の胸元に引き寄せた。

 

 その仕草は、第1話の時のストイックな彼女からは想像もつかないほど、可愛らしく、甘えに満ちていた。

 

 昼過ぎ。雨は小降りになり、雲の隙間から、まるで祝福のような淡い光が差し込んできた。

 

 俺たちはようやくベッドから這い出し、遅い朝食を二人で作った。

 

 エプロン姿の遥――今日は普通の、俺の大きなエプロンだ――が、キッチンで鼻歌を歌いながらパンを焼いている。

 

 その背中があまりにも幸せそうで、俺は後ろからそっと抱きついた。

 

「……っ、ふふ。……もう、あなたは本当に甘えん坊さんね」

 

「遥に言われたくないよ。……さっきまであんなに俺にしがみついてたのは誰?」

 

「……それは、……あなたがそうさせたのでしょう?」

 

 遥は振り返り、俺の鼻を指先でツンと突いた。

 

 その仕草の一つ一つに、言葉では言い表せないほどの親密さが宿っている。

 

 食卓を囲み、向かい合って座る。

 

 なんてことのない食事。けれど、遥は一口食べるごとに「美味しいわ」「幸せね」と、宝石のような言葉を零した。

 

「……ねえ。……私、MORE MORE JUMP! のメンバーにも、いつか伝えたいわ」

 

「何を?」

 

「……私は、世界一幸せな女の子なんだって。……こんなに素敵な人に愛されて、……こんなに穏やかな居場所があるんだって。……それを知っているから、私はステージで誰よりも輝けるんだって」

 

 遥は俺の手を取り、自分の頬に寄せた。

 

 彼女の瞳には、かつてないほど強い光と、慈しみ、そして――揺るぎない覚悟が宿っていた。

 

 夕暮れ時。

 

 世界がオレンジ色に染まり、一番星が空に瞬き始める。

 

 俺たちはサンルームのソファで、どちらからともなく寄り添い、大きなブランケットを二人で被っていた。

 

「……遥、眠いか?」

 

「……ええ……。……心地よい疲れね。……あなたの温もりに包まれて、……心が満たされすぎてしまったみたい」

 

 遥は俺の肩に頭を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。

 

「……あな、た。……一つだけ、約束して」

 

「ああ、何だい」

 

「……明日、私がステージに立っている時。……もし、私が自分を見失いそうになったら。……今日のこの、甘い空気と、あなたの温もりを……思い出させて。……客席のどこにいても、あなたの愛だけは、私に見えるように……」

 

 俺は、彼女の細い指に自分の指を絡め、誓うように力を込めた。

 

「約束する。……俺はいつだって、君の最前列にいる。……誰よりも強く、誰よりも深く、君に愛の光を送り続けるよ」

 

「……ありがとう。……最高の、おまじね。……ふふ、大好きよ……」

 

 遥の呼吸は、次第に深く、一定のリズムになっていく。

 

 俺の腕の中で、完全に脱力し、幸せを噛みしめながら眠りにつく彼女。

 

 その寝顔は、どんなアイドルの宣伝写真よりも、どんな芸術作品よりも美しく、俺の心を救ってくれた。

 

 夜の帳が下り、静寂が再び二人を包み込む。

 

 明日、彼女は再び、完璧なアイドル・桐谷遥として羽ばたくだろう。

 

 けれど、その翼の根元には、俺が注ぎ込んだ特大の愛情という燃料が満ちている。

 

 そして。

 

 また夜が来れば。

 

 彼女は俺だけの青い小鳥に戻り、この腕の中で、世界一甘い休息を貪るのだ。

 

 俺は、愛おしい恋人の額に最後の一吻を落とし、彼女を抱き上げたまま、再び温かなシーツの海へと戻っていった。

 

 二人の物語に、終わりはない。

 

 これからも、もっと甘く、もっと深く、溶け合っていく日々が続いていくのだから。

 

「……愛しているよ、遥。……ずっと、ずっと」

 

 微睡みの中で、遥が幸せそうに微笑んだ気がした。

 

 二人を包む夜は、どこまでも優しく、どこまでも深い愛に満たされていた。

 

 




仕事、勉強、大変な事ばかりだと思いますが
頑張って行きましょ!!!



なんか書きたくなった
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