プロセカの女の子たちと、ひたすら甘やかして甘やかされて溶かされる日常   作:雨風 時雨

12 / 12
今更ながら
お気に入り登録、コメント、評価の方ありがとうございます!!!!


【桐谷遥】第3話

 窓の外では、世界を優しく洗い流すような静かな雨が降っていた。

 

 アスファルトを叩く一定のリズム。遠くの街の喧騒を遮断するカーテンのような雨音は、この部屋の静寂をよりいっそう深いものに変えていた。

 

 薄暗い寝室。シーツの海の中で、俺は自分の中に深く沈み込むような、至福の重みを感じていた。

 

 胸の上に、柔らかな青い髪が散らばっている。

 

 俺の腕を枕にして、俺の胸板に顔を埋め、まるで宝物を守るようにしがみついているのは、世界で一番凛々しく、そして今、世界で一番無防備な少女――桐谷遥だった。

 

「……ん……。……あな、た……」

 

 微かな呟きと共に、彼女の細い肩が震える。

 

 彼女はまだ夢の淵にいるのだろうか。それとも、この微睡みの心地よさに溺れているのだろうか。

 

 俺は空いた方の手で、彼女の柔らかな髪をそっと撫でた。さらさらとした指通り。昨日のメイド姿で見せた、あのヘッドドレスの跡など、もうどこにもない。そこにあるのは、ただ一人の女の子としての、ありのままの彼女だ。

 

「……おはよう、遥。まだ、眠いか?」

 

 俺が耳元で囁くと、遥はゆっくりと、本当にゆっくりと、その長い睫毛を震わせて瞳を開けた。

 

 潤んだ青い瞳が、焦点の合わないまま俺を見つめる。

 

 やがて、彼女は俺が誰であるかを認識すると、顔を真っ赤に染め、さらに深く俺の胸元に顔を押し付けてきた。

 

「……おはようございます。……恥ずかしいわ。……こんなに朝遅くまで、あなたに抱き着いたまま寝てしまうなんて……」

 

「いいんだよ。今日は、世界が止まってしまったみたいに静かだし。……こうして遥の温もりを感じていられるのは、俺にとって何よりの幸せなんだから」

 

 俺が彼女の背中を、服越しにゆっくりとなぞると、遥は「んっ……」と甘い声を漏らして、俺の腰に回していた腕の力を強めた。

 

 アイドル・桐谷遥。かつての彼女なら、こんな自堕落な時間は自分に許さなかっただろう。

 

 けれど今、彼女は自分の意志で、俺という甘い毒に溶かされることを選んでいた。

 

「……ねえ。……私、昨日のメイド姿の余韻が、まだ抜けないみたい。……あなたの前で、あんなに素直に『お仕えしたい』なんて言ってしまったこと……。……でも、後悔はしていないの。……むしろ、心が軽くなった気がするわ」

 

 遥は顔を上げ、至近距離で俺を見つめてきた。

 

 瞳の奥には、濁りのない深い愛情が、澄んだ湖のように広がっている。

 

「……ステージの上では、私はみんなに希望を届ける『桐谷遥』。……でも、この腕の中では、私はあなたに愛されることだけを望む、ただの『遥』。……ねえ、……今の私は、あなたにとって、どんな風に見えているかしら?」

 

 問いかけながら、彼女は自分の指を俺の指に絡めてきた。

 

 俺は彼女の指を一本一本、慈しむように握りしめ、その甲にそっと唇を落とした。

 

「どんな風にって……。……そうだな。……これ以上ないくらい愛おしくて、片時も離したくない、俺だけの可愛い小鳥だよ。……遥、君が思っている以上に、俺は君に依存してるんだ」

 

「……依存。……ふふ、素敵な響きね……。……私も同じよ。……あなたの温もりがなければ、今の私はきっと、冷たい偶像(アイドル)のままだったわ」

 

 遥は俺の首筋に鼻先を擦り寄せ、深く、俺の匂いを吸い込んだ。

 

 彼女の吐息が熱を帯びていく。

 

 俺は彼女を抱きかかえるようにして、ベッドの中で体を反転させた。

 

 今度は俺が彼女を見下ろす形になる。

 

 シーツに広がった青い髪。その中に埋もれるようにして、遥が頬を染め、期待に満ちた瞳で俺を見上げている。

 

「……遥。……今日は、一日中こうしていようか。……雨が止むまで。……いや、夜が明けて、また次の夜が来るまで」

 

「……ええ。……いいわよ。……あなたの望むままに。……今日はもう、……完璧な私なんて、どこにもいないのだから」

 

 遥は俺の首に腕を回し、引き寄せる。

 

 重なり合う唇。

 

 それは、第2話の時の情熱的なものとは違う、お互いの存在を確認し合い、慈しみ合うような、穏やかで深い、蜂蜜のように甘い接吻だった。

 

「……んっ、……ふ……、……あな、た……」

 

 何度も、何度も角度を変えて唇を重ねる。

 

 遥の小さな舌が、遠慮がちに、けれど熱烈に俺を求めてくる。

 

 彼女の鼓動が、胸を通じて俺の心臓に直接伝わってくる。トクトクと、速く、確かなリズム。

 

 俺はその鼓動を愛おしみながら、彼女の細い腰、滑らかな背中、柔らかな太ももを、慈しむように手のひらでなぞっていった。

 

 営みのような激しさはない。けれど、そこにはどんな肉体的な交わりよりも深い、魂の融合があった。

 

 お互いの境界線が消えていき、一つの温かな塊になっていく感覚。

 

「……はぁ、……あな、た……、……愛しているわ。……一生、私の隣にいて。……私の希望は、……あなたそのものなのよ」

 

「遥……。……俺も、愛してる。……君がどんなに遠くへ行っても、俺は必ず君の帰る場所で待ってるから」

 

 俺たちはそれから、雨音が遠のくのを感じながら、断続的にキスを交わし、とりとめもない会話を続けた。

 

 かつて彼女がアイドルを辞めようとした時の苦しみ。再びステージに立つことを決めた時の覚悟。そして、その傍らに常に俺がいたこと。

 

 思い出のひとつひとつを、甘い砂糖菓子を味わうように二人で振り返る。

 

「……ねえ。……私、アイドルとしての目標はたくさんあるけれど。……一人の女の子としての目標は、たった一つしかないの」

 

「何?」

 

「……おばあちゃんになっても、こうしてあなたに膝枕をしてもらって、……『遥は今日も可愛いね』って、言ってもらうことよ」

 

 遥は悪戯っぽく微笑むと、俺の腕を自分の胸元に引き寄せた。

 

 その仕草は、第1話の時のストイックな彼女からは想像もつかないほど、可愛らしく、甘えに満ちていた。

 

 昼過ぎ。雨は小降りになり、雲の隙間から、まるで祝福のような淡い光が差し込んできた。

 

 俺たちはようやくベッドから這い出し、遅い朝食を二人で作った。

 

 エプロン姿の遥――今日は普通の、俺の大きなエプロンだ――が、キッチンで鼻歌を歌いながらパンを焼いている。

 

 その背中があまりにも幸せそうで、俺は後ろからそっと抱きついた。

 

「……っ、ふふ。……もう、あなたは本当に甘えん坊さんね」

 

「遥に言われたくないよ。……さっきまであんなに俺にしがみついてたのは誰?」

 

「……それは、……あなたがそうさせたのでしょう?」

 

 遥は振り返り、俺の鼻を指先でツンと突いた。

 

 その仕草の一つ一つに、言葉では言い表せないほどの親密さが宿っている。

 

 食卓を囲み、向かい合って座る。

 

 なんてことのない食事。けれど、遥は一口食べるごとに「美味しいわ」「幸せね」と、宝石のような言葉を零した。

 

「……ねえ。……私、MORE MORE JUMP! のメンバーにも、いつか伝えたいわ」

 

「何を?」

 

「……私は、世界一幸せな女の子なんだって。……こんなに素敵な人に愛されて、……こんなに穏やかな居場所があるんだって。……それを知っているから、私はステージで誰よりも輝けるんだって」

 

 遥は俺の手を取り、自分の頬に寄せた。

 

 彼女の瞳には、かつてないほど強い光と、慈しみ、そして――揺るぎない覚悟が宿っていた。

 

 夕暮れ時。

 

 世界がオレンジ色に染まり、一番星が空に瞬き始める。

 

 俺たちはサンルームのソファで、どちらからともなく寄り添い、大きなブランケットを二人で被っていた。

 

「……遥、眠いか?」

 

「……ええ……。……心地よい疲れね。……あなたの温もりに包まれて、……心が満たされすぎてしまったみたい」

 

 遥は俺の肩に頭を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。

 

「……あな、た。……一つだけ、約束して」

 

「ああ、何だい」

 

「……明日、私がステージに立っている時。……もし、私が自分を見失いそうになったら。……今日のこの、甘い空気と、あなたの温もりを……思い出させて。……客席のどこにいても、あなたの愛だけは、私に見えるように……」

 

 俺は、彼女の細い指に自分の指を絡め、誓うように力を込めた。

 

「約束する。……俺はいつだって、君の最前列にいる。……誰よりも強く、誰よりも深く、君に愛の光を送り続けるよ」

 

「……ありがとう。……最高の、おまじね。……ふふ、大好きよ……」

 

 遥の呼吸は、次第に深く、一定のリズムになっていく。

 

 俺の腕の中で、完全に脱力し、幸せを噛みしめながら眠りにつく彼女。

 

 その寝顔は、どんなアイドルの宣伝写真よりも、どんな芸術作品よりも美しく、俺の心を救ってくれた。

 

 夜の帳が下り、静寂が再び二人を包み込む。

 

 明日、彼女は再び、完璧なアイドル・桐谷遥として羽ばたくだろう。

 

 けれど、その翼の根元には、俺が注ぎ込んだ特大の愛情という燃料が満ちている。

 

 そして。

 

 また夜が来れば。

 

 彼女は俺だけの青い小鳥に戻り、この腕の中で、世界一甘い休息を貪るのだ。

 

 俺は、愛おしい恋人の額に最後の一吻を落とし、彼女を抱き上げたまま、再び温かなシーツの海へと戻っていった。

 

 二人の物語に、終わりはない。

 

 これからも、もっと甘く、もっと深く、溶け合っていく日々が続いていくのだから。

 

「……愛しているよ、遥。……ずっと、ずっと」

 

 微睡みの中で、遥が幸せそうに微笑んだ気がした。

 

 二人を包む夜は、どこまでも優しく、どこまでも深い愛に満たされていた。

 

 




仕事、勉強、大変な事ばかりだと思いますが
頑張って行きましょ!!!



なんか書きたくなった
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

プロセカの世界に転生したオタク、過去の俺がヒロインたちに重すぎるフラグを建てすぎていて平和な日常が戻ってこない件(作者:雨風 時雨)(原作:プロジェクトセカイ)

タイトル長くてすみません▼


総合評価:616/評価:8.45/連載:20話/更新日時:2026年04月30日(木) 23:19 小説情報

日野森姉妹。愛(作者:納豆菌)(原作:プロジェクトセカイ)

日野森姉妹に大学生の兄がいたら。▼ただし、兄への好感度は限界突破している模様。▼これは全員で「ハッピーエンド」を探す物語。▼1話あたり短め。▼


総合評価:235/評価:8.25/連載:8話/更新日時:2026年05月02日(土) 18:16 小説情報

幽霊見える系男子と凪さん。ときどき遥ちゃんとビビッドストリート(作者:ポケスリ)(原作:プロジェクトセカイ)

人には見えないものが見えちゃうタイプの男の子が、自分の運命を変えることになる人(幽霊)と出会った話。▼息抜きも兼ねて某小説に影響されて書いて執筆中小説一覧に置いてあったやつの供養です。なにかあったらすぐ消します。


総合評価:1066/評価:8.92/短編:4話/更新日時:2026年01月04日(日) 12:12 小説情報

貴方のことが好きすぎるゼンゼロ女子だなんてそんな(作者:究極進化さむらい(2歳))(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ゼンゼロ女子たちに愛されて夜も眠れない♡▼⚠話ごとに設定など異なります。▼独自設定などあり▼文体が一人称だったり三人称だったりすることもあります。▼頭からっぽのほうが夢詰め込めるので、深く考えずにお楽しみください▼リクエスト等あれば、下記の活動報告にお願いします!▼https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=33…


総合評価:1410/評価:8.23/短編:10話/更新日時:2026年02月22日(日) 00:37 小説情報

『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった!(作者:ザワザワする人)(原作:崩壊:スターレイル)

『あなた』と崩壊スターレイルキャラとのお話です。▼星、穹の主人公達とのカップリングではありません。ご了承ください。▼書いて欲しいキャラとか推しとか好きな展開とかシチュエーションがあったら是非とも感想で教えていただけると幸いです!多分書きます!▼こちらでコメントしていただけると幸いです!▼https://syosetu.org/?mode=kappo_view…


総合評価:588/評価:8.2/連載:9話/更新日時:2026年04月04日(土) 09:26 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>