プロセカの女の子たちと、ひたすら甘やかして甘やかされて溶かされる日常 作:雨風 時雨
俺の部屋の扉が、遠慮がちに、けれど確かな意思を伴ってノックされた。
「……入るわよ」
入ってきたのは、薄緑色の長い髪を揺らす少女――草薙寧々だった。
彼女の手には、使い古された台本と喉をケアするための水筒が握られている。ワンダーステージでの練習を終え、そのまま直行してきたのだろう。
寧々は部屋に入るなり、重そうに背負っていたリュックを床に置く。ふらふらとした足取りで、俺が座るソファへと歩み寄ってきた。
「お疲れ様、寧々。今日も司たちと大暴れしてきたのか?」
俺が冗談めかして声をかけると、寧々は「……大暴れなんて、人聞きの悪いこと言わないで」と小さく毒を吐いた。
けれど、その言葉にいつもの鋭さはない。むしろ俺の反応を楽しんでいるような、柔らかな響きが含まれていた。
「あのバカ――司が、新しい演出だとか言って……。また無茶なジャンプを提案してきたの。……もう、体力が限界。声も、……少し枯れちゃったかも」
寧々はそう言うと、俺の許可を待つこともなく、ソファに座る俺のすぐ隣に体を滑り込ませてきた。
肩と肩が触れ合う距離。
彼女が纏っている微かな舞台化粧の香りと、彼女自身の清潔な匂いが、ふわりと鼻をくすぐった。
「大変だったな。……ほら、こっちおいで。少し休もう」
「……言われなくても、そうするわ」
寧々はそう呟くと、コテンと俺の肩に頭を乗せてきた。
さらさらとした彼女の髪が、俺の首筋をくすぐる。
「……ねえ。……あなたの隣、……やっぱり一番落ち着くわ」
「そうか? 普通のソファだけど」
「……ソファの問題じゃないの。……ここは、ネネロボも、司も、えむも……誰もいない。……私が、私でいられる場所だから」
寧々は俺の腕に自分の腕を絡め、ぎゅっと抱きついてきた。
人前で自分を出すのを極端に嫌がる彼女が、俺の前でだけ見せる無防備な甘え方。
俺は空いた方の手で彼女の細い肩を抱き寄せ、その華奢な体をしっかりと受け止めた。
「……寧々、今日は一段と甘えん坊だな」
「……うるさいわね。……疲れてるの。……誰かのためじゃなくて、……自分のために、……あなたに癒やされたいの」
寧々は俺の胸元に顔を埋め、深く、深く息を吐き出した。
彼女の吐息がシャツ越しに熱く伝わってくる。
「……歌うことは、大好きよ。……でも、……たくさんの視線を浴びるのは、やっぱりまだ少し怖いの。……ステージに立っている時は、必死に自分を奮い立たせているけれど……」
「……」
「……ここに来ると、……その……。……自分が、ちっぽけな女の子に戻っちゃうみたい」
寧々は俺のシャツをきゅっと握りしめ、言葉を続けた。
彼女の指先が、微かに震えている。
「……ねえ。……私、……ちゃんとできてるかしら。……みんなの期待を裏切らないように、……いい歌を、歌えてるかしら」
「何を言ってるんだ。寧々の歌声は、世界一だよ。司たちが何と言おうと、俺が一番のファンなんだから。……自信を持って」
俺が彼女の顎をそっと持ち上げ、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめると、寧々は顔を真っ赤に染めて目を逸らした。
「……バカ。……平気でそういうこと、言うんだから。……そんなの、……あなたに言われたら、……否定できないじゃない」
寧々は恥ずかしさを隠すように、さらに強く俺の胸に顔を押し付けてきた。
その愛らしさに、俺の心臓がどくん、と跳ねる。
「……ねえ、あなた」
「ん?」
「……もう少しだけ、このままでいてもいい? ……あなたの心臓の音を聴いてると、……なんだか、……頭の中のざわつきが消えていくの。……一番効く、喉のお薬みたい」
寧々は目を閉じ、俺の鼓動を全身で受け止めているようだった。
俺は彼女を安心させるように、その背中をゆっくりと、慈しむように撫で続ける。
「……よしよし。……今日はもう、何も頑張らなくていいよ。……歌も、演技も、人付き合いも。……ただの寧々として、俺に甘えてればいい」
「……うん。……ありがとう。……大好きよ、……本当に」
消え入りそうな声での、切実な告白。
俺は彼女の細い腰を引き寄せ、抱き上げるようにして、ソファの上で彼女を完全に腕の中に閉じ込めた。
「ひゃっ……、……あな、た……?」
「寧々が甘えたいって言ったんだろ。……だったら、とことん甘やかしてやる」
「……、……もう。……あなたは、……時々すごく強引なんだから……」
寧々は文句を言いながらも、その顔には最高に幸せそうな、蕩けるような笑みが浮かんでいた。
彼女は俺の首に腕を回し、自分から俺の首筋に顔を寄せてきた。
「……ねえ。……私、……歌以外でも、……あなたに『凄い』って思われたいわ」
「どういう意味?」
「……その、……私だって、……1人の女の子なんだから。……歌なしでも、……あなたをドキドキさせられるくらいには、……なりたいの」
寧々は俺の耳元で、熱っぽい吐息と共に囁いた。
内気な彼女が絞り出した、精一杯の大胆な言葉。
「……十分すぎるくらい、ドキドキしてるよ。……今の寧々、……反則なくらい可愛いし」
「……、……そう。……なら、……もっと反則、……しちゃおうかしら」
寧々はゆっくりと顔を上げ、至近距離で俺を見つめてきた。
その瞳は熱っぽく潤んでいて、俺の答えを待つように唇が微かに震えている。
俺は彼女の細い顎を指先で掬い上げ、その桜色の唇に、ゆっくりと自分の唇を重ねた。
「……んっ、……あ、……ぁ……」
重なり合う、熱い吐息。
寧々のマシュマロのように柔らかい唇が、俺の愛を確かめるようにしがみついてくる。
彼女は俺の背中に回した手に力を込め、逃がさないというように強く、きつく抱きしめてきた。
最初は、疲れを癒やすための清らかなキスだった。
けれど、寧々が喉の奥で「……んむ、……ぁ……」と甘い声を漏らした瞬間、彼女の秘めていた愛情が一気に溢れ出した。
何度も、何度も、お互いの存在を溶け合わせるように唇を重ねる。
寧々の指が俺の髪を掻き乱し、彼女の熱い吐息が俺の喉に流れ込んでくる。
「……んむ、……ふ、……あな、た……。……私……、……幸せすぎて、……呼吸の仕方を、……忘れちゃいそう……」
キスを終え、額を合わせたまま、寧々が熱っぽい吐息を漏らす。
その瞳は、もはや『内気な少女』の面影など微塵もない、愛に溶けた1人の女の顔だった。
「……ねえ。……今夜は、……このまま、……朝まで離さないで」
「……ああ。……寧々がもういいって言っても、離さないよ」
「……ふふ。……『もういい』なんて、……一生言わないわ。……ずっと、……私だけの特等席で、……私を愛して」
寧々は俺の胸に顔を埋め、幸せを噛みしめるように深く、深く息を吐いた。
窓の外では、月が静かに街を照らしている。
明日、彼女は再びワンダーステージの歌姫として、眩い光の中に身を投じるだろう。
けれど、この夜の闇の中でだけは、彼女は俺の腕に抱かれ、俺だけの甘い、不器用な人魚姫に戻るのだ。
俺は、最愛の恋人の温もりを片時も離さないように、夜が明けるまでその身を抱きしめ続けた。
二人を包む空気は、どこまでも甘く、そして深い癒やしに満ちていた。
「……愛してるよ、寧々」
「……ええ。……私も。……愛してるわ、……私の、たった一人の……あなた」
最後に耳元で囁かれたその言葉は、夜の帳に溶けて、二人の永遠の約束となった。
やばい、別の作品に浮気しそ