プロセカの女の子たちと、ひたすら甘やかして甘やかされて溶かされる日常   作:雨風 時雨

17 / 18
お久しぶりです


【星乃一歌】第2話

 穏やかな日曜日の昼下がり。

 

 窓の外では、冬の澄んだ太陽が街を優しく照らし、時折、風に揺られた木の枝がカーテンに網目のような影を落としていた。

 

 一歌の部屋の中は、彼女の好きなミクのポスターや、丁寧に手入れされた予備の弦、ピックの入った空き缶などが並んでいる。彼女の日常をそのまま切り取ったような、どこか懐かしく温かい空気に包まれていた。

 

 部屋のスピーカーからは、小さな音量で初音ミクのバラード曲が流れていた。透明感のある電子の歌声が、部屋の静寂を優しく彩っていく。

 

「……ねえ。この曲、聴いたことある?」

 

 床に座り、俺の隣で膝を抱えていた一歌が、ふと顔を上げて俺を見つめた。紺色の長い髪が肩からさらりとこぼれ、その隙間から覗く彼女の耳が、少しだけ赤くなっているのがわかる。

 

「ああ、懐かしいな。一歌が昔、教えてくれた曲だろ?」

 

「……うん。覚えててくれたんだ。……この曲を聴くとね、なんだか心が洗われるような気がするの。……でも、今は……」

 

 一歌は言葉を切り、少しだけ躊躇うように俺の手元に自分の手を伸ばした。そして、壊れ物を扱うような慎重さで、俺の指先に自分の指を絡めてくる。

 

「……今は、音楽よりも、あなたの隣にいるこの時間の方が……ずっと、私の心を救ってくれてる気がするわ」

 

 彼女の告白は、ミクの歌声よりもずっと優しく、俺の胸に響いた。普段、レオニの練習やライブで常に気を張っている彼女にとって、こうした「何もしない時間」は、何よりの贅沢なのだ。

 

「一歌、今日は俺を癒やしてくれるって言ってなかったか?」

 

「……、そうだったわね。……ええ。今日は、私があなたを最高に甘やかしてあげるって、決めてたの」

 

 一歌は深呼吸を一つすると、決意を固めたような瞳で俺を見た。そして、座っていた位置を少しだけずらし、自分の太ももを優しく叩いた。

 

「……ここ、使って。……膝枕、してあげる」

 

「いいのか? 一歌だって疲れてるだろ」

 

「……ううん。今の私にとって、あなたを癒やすことが、一番の休息なの。……さあ、恥ずかしがらないで、こっちに」

 

 彼女の少し強引な、けれど愛情に満ちた誘いに抗えるはずもなかった。俺はゆっくりと横たわり、彼女の細い太ももの上に頭を乗せた。

 

 ――柔らかい。

 

 ギターを弾く時の凛々しい立ち姿を支えている、しなやかで力強い脚。けれど、その皮膚のすぐ下には、女性特有の優しさと、驚くほどの柔らかさが隠されていた。

 

 見上げれば、逆光になった一歌の顔がすぐ近くにある。彼女の長い髪が、まるで薄暗い帳のように俺の視界を覆い、世界から二人だけを切り離してしまったかのようだった。

 

「……寝心地は、どうかしら?」

 

「最高だよ。一歌の体温が伝わってきて、なんだか眠くなってきちゃうな」

 

「ふふ、なら成功ね。……そのまま、ゆっくり休んでて」

 

 一歌は俺の額にそっと手を添えると、髪を指先で梳くようにして撫で始めた。彼女の指先は、弦を抑えるタコで少し硬いけれど、その感触さえも俺にとっては彼女の努力の証であり、愛おしさの塊だった。

 

 指が髪を通るたびに、さらさらという微かな音が耳元で鳴り、脳の奥の疲れが溶け出していく。

 

「……あなたには、いつも感謝してるの」

 

「急にどうしたんだ?」

 

「……私、不器用だから。音楽以外のことは、何をしても上手くいかないことが多くて。……でも、あなたはそんな私の隣にずっといてくれて、……一番辛い時に、一番欲しい言葉をくれる」

 

「……だから、私もあなたに『ありがとう』って、全身で伝えたいのよ」

 

 一歌の撫でる手が、頬へと移動した。彼女の少し火照った指先が、俺の頬をゆっくりと、慈しむように撫でる。

 

「……ねえ。……私の心音、聞こえる?」

 

「ああ。少し、速いみたいだけど」

 

「……当たり前じゃない。……大好きな人が、こんなに近くにいるんだもの。……胸の中が、ずっと騒がしくて……少し、苦しいくらい」

 

 一歌は少し身を乗り出し、顔をさらに俺の顔へと近づけてきた。彼女の吐息が、俺の鼻先を熱く掠める。

 

 潤んだ瞳。少しだけ開いた桜色の唇。ミクのバラードがクライマックスを迎え、部屋の空気は砂糖を煮詰めたように甘く、密度の高いものへと変わっていく。

 

「……一歌」

 

「……なあに? ……もっと、甘えたいの?」

 

「……ああ。一歌の愛で、俺を満たしてほしい」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、一歌の瞳に情熱的な光が宿った。彼女は俺の頬を両手で挟み込むように包むと、そのままゆっくりと、自分の顔を降ろしてきた。

 

「……んっ、……あ、……ぁ……」

 

 重なり合う、熱い唇。一歌の唇は、第1話の時よりもずっと素直に、そして熱烈に俺を求めてきた。

 

 膝枕をしたまま、首を傾けて角度を変え、何度も、何度も、お互いの愛を確かめるように接吻を交わす。一歌の吐息が俺の口内に流れ込み、混ざり合い、意識が白く染まっていく。

 

「……んむ、……ふ、……あな、た……。……私……、……幸せすぎて、……もう、……離れたくないわ……」

 

 キスを終え、額を合わせたまま、一歌がとろけたような表情で囁く。彼女の青い瞳は、もはや「リーダー」の重圧など微塵も感じさせない、愛に狂おしい一人の少女のものだった。

 

「……ねえ。……もう一回、……して?」

 

「一歌の方からおねだりなんて、珍しいな」

 

「……いいじゃない。……今日は、私があなたを甘やかす日なんだから。……でも、……本当は、……私が一番、あなたに甘やかされたいのかも……」

 

 一歌は俺の胸元に顔を押し付け、ぎゅっと俺のシャツを握りしめた。俺は彼女の細い腰を抱き寄せ、膝枕の体勢のまま、彼女を強く、強く抱きしめた。

 

「一歌。……大好きだよ。……世界中で、誰よりも」

 

「……ええ。……私も。……愛してるわ、……生涯ただ一人の、私の……あなた」

 

 スピーカーからは、次の曲が流れ始めていた。それは、一歌がミクに憧れて、一番最初に覚えた希望の歌。

 

 けれど今の彼女にとって、最大の希望はミクでも、音楽でもなく、腕の中にいる「あなた」なのだ。

 

 俺たちはそれから、日が暮れて部屋に街灯の明かりが差し込むまで、ずっとその体勢のまま、何度も甘い言葉とキスを交わし続けた。

 

 一歌の柔らかな太ももの温もりと、彼女の優しい指先の感触。そして、二人を包むミクの歌声。

 

 この時間が永遠に続けばいいのに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。