知ってるわよね?
でも私もそこまで詳しくないよ?
聞いてもらえると助かるのだけど
想定している使用状況は後で送るわね
ベルに頼まれた事をこなした私は、ミレニアム自治区のショッピングモールへ向かった。
モールに着くと、出入り口の自販機付近にいた女性―――ベルがこちらに気付き、歩み寄ってきた。
「こんにちは、先生。付き合わせて悪いわね」
"これくらい気にしなくていいよ"
「とは言ってもねぇ……私は信頼できるメーカーさえ教えてもらえれば良かったのよ? 購入に付き合う必要は無かったのだけど」
"経営顧問だからね。把握しておきたかったんだ"
「物は言いようね」
ふっ、と苦笑を漏らすベル。
「まあ、今回はありがたく頼らせて頂くわね。そろそろ行きましょう。時間は有限なのだから」
ひとまずそう納得したらしいベルが、お目当ての商品を取り扱っているテナントに向けて歩き出す。私も彼女の後を追って進んだ。
キヴォトス随一の科学先進校なだけあり、他学区では見られないような商品や、明らかに安価に扱われている品々に惹かれつつ、今回はベルの付き添いだからと誘惑を振り切ること暫く。
ある程度奥まった場所に通信機材を取り扱うテナントがあった。
"思ったより奥にあるんだね?"
「入口付近は偶に暴れる子が出るからでしょうね。精密機器だもの、粉塵一つで商品が台無しになるし、万が一盗難を許せば被害額は食品や雑貨類の比じゃないわ」
"なるほど"
「とはいえ、仮に窃盗しても検知システムが働くわ。脱出するまでの距離が長い分、セキュリティの配備が間に合いやすくなる。こういう単価が高い商品を扱ってるテナントはそのために奥に場所を取ってる事が多いのよ。場所を貸し出す方、借りる方、双方にとってそれが万が一の時に良いから」
"詳しいね?"
「あら、裏社会なら常識よ? ……ま、警備の依頼に就いた時に教えてもらった事なのだけどね」
テナントに入り、種々様々な機材が置かれている棚を歩きながらベルが言う。
彼女には既にミレニアムのエンジニア部やヴェリタスイチ押しのメーカーを伝えているので、あとは彼女の予算内で買えて、かつ使いやすそうなものを見出すだけ。
なので自分は本当に見てるだけの付き添いである。
必要ないと言われればそうだが……
「……そんなに心配そうな顔をしてどうしたのよ?」
考え事をしながら商品と睨めっこしている様子を眺めていると、おもむろにこちらを見て、ベルがそう言ってきた。
"心配そうに見えた?"
「割とね。大丈夫かな、という心情がありありと漏れてたわよ」
"まあ……実際そうだからね。オペレーターって君の便利屋でも無かった訳だから、初体験となると不安じゃないかなって"
彼女は『知識』を前提として彼女のキヴォトスを生きていた。
彼女がしていない事は、必要性に駆られなかった事。言い換えれば『知識』に無かった事である。
誰しも初めての挑戦には不安になるもので、彼女のことが心配な身としては、その第一歩となる今回の事が上手くいくかを案じていた。
私の内心を感じ取ったらしいベルは、ああ、と得心がいったように頷いた。
それから、再び苦笑。
「先生も大概心配性ね……まあ、不安が無いと言えば嘘になるけど、それ自体は便利屋を始める時もそうだったわ。私の『知識』も一挙手一投足全てを網羅してる訳じゃなかったもの」
"そうなの?"
「ええ。大抵は滅びの要因、その結果、それに関わった者達の存在を知れる程度。『色彩の嚮導者』になってからは色彩を介して知るようになったけど……そうなる前は、結構穴だらけだったのよ」
静かに瞑目し、過去を振り返ってそう言うベル。
それは因果と結果を知れたとしても、背景が分からないということ。その人がどうしてそれをしたのか、何故そこに至ったのかが分からない。
あるいは―――重大な事案に関する事以外が不明瞭なのか。
"それは……本当に、大変だったね"
「まあね……オペレーターに関しても、本当は新たに誰かを雇い入れる事も可能だったわ。依頼を達成することや効率を考えるならそれが最善手。こっちのカヨコ同様、私の世界のカヨコにも案として出された事はあった」
"ああ……たしかに、カヨコなら組織運営の観点から提案しそうだよね"
「実際そうだったものね。私の時は『知識』から外れるから、適当に理由を付けて却下したけれど……あの子には悪い事をしたわ」
ふぅ、と物憂げに息を吐くベル。
『便利屋68』が『先生』と関わる場面は見えても、関わっていない場面で何をしていたか分からなかったのだろう。だから『知識』から外れそうな事は滅多に出来なかったのかもしれない。
……もしかしたら財務管理や後方支援を受け持ったのも、その時断った時の罪悪感から来る事だったのか。
ベルはこと『内』に関する事は、かつて経験した滅びや過ぎ去った過去への罪悪感が顕著に出るようだった。
―――これ以上過去を思い出させるのもよくない。
私は本来の目的である機材の方に意識を向けるために、沈んだ目で物憂げに俯く彼女に、話題を変えるための言葉を投げかけた。
"……ところで、良さそうなのは見つかったかい?"
「……そうねぇ。予算内かつ、保証が効いたり扱いやすさで言えば、何点か。絞るためにも口コミと店員に確認してみましょうか」
それを察してか、あるいはあえて触れなかったのか、彼女も目的を果たす方に思考を回し始めた。
それからネットの口コミや店員のオススメ等を聞いて選んだ物を購入。その機材を現在の事務所の住所へ郵送する手続きを済ませた後、私達はショッピングモールを出た。
「今日は付き合ってくれてありがとう、先生。このお礼はいずれ仕事か当番の時に返すわ」
"気にしなくていいよ"
「気にするわ。信頼できる情報を提供してくれた上に、貴重な時間を使ってもらったのよ? そのお返しくらいはさせなさい。いいわね?」
念押しするように笑って言ってから、ベルは別れの挨拶と共に踵を返した。
いずれ強引にでもお礼されそうだなと思いながら、私も帰路に就いたのだった。
手伝おうと思っていたのだけど