仕事はどれくらいありそう?
処理能力も1名で考えなきゃ
回してくる連邦生徒会の方が問題だけど
仮眠室で夜を越し、朝を迎えた執務室で業務の準備を整えていると、シュポッ、という通知音がシッテムの箱から聞こえた。
スリープモードを解除すれば、モモトークに連絡が。
"……なんだって?"
その連絡は、事務と武力専門として抽選に当たっていたそれぞれの子からの欠席連絡。どうやら発熱していたようで、高熱を示す体温計の画像と共に謝り倒すメッセージが表示されていた。
体調不良なら仕方がない事なので、気に病まないよう言い添えつつ、受診を奨めておく。
連絡を終えた私は、それからデスク上に積み重なっている書類に目を向けた。
"うーん……デスマーチ確定かな、これは"
「―――なんですって?」
ポツリと漏らした呟きに、背後から
振り向けば、執務室の入り口から入ってくるベルが、やや引き攣った面持ちを浮かべているのが見えた。
信じたくないという心情がありありと浮かんでいる彼女に、私は透き通っているだろう笑顔で微笑みかける。
"書類と武力担当の子、病欠だって"
ビシッ、とベルの動きが石の如く固まった。
ちなみに、今日のベルは事務と武力の兼任当番だった。そして他の当番が病欠の今、当番は彼女1人だけ。
「…………はぁぁぁぁ……」
状況を理解し、体調不良なら仕方ない事だと飲み下したらしい彼女は、とても渋い顔で深い嘆息を吐いた後に告げた。
「当番が休んだだけで回るかどうかな状況は今後改善しておきなさいね……」
"善処するよ……"
これまで再三に渡って背負い過ぎだ、どうにかしろと言われていた事のツケには違いなくて、彼女からの苦言に私は素直に頷かざるを得なかった。
コートハンガーにコートを掛け、荷物諸々を置いた彼女と私は、朝一番から疲労感を滲ませながら書類と格闘し始めたのだった。
―――それからおよそ十時間後。
昼を越え、彼女が用意してくれた昼食を摂った後も続け、夕方も過ぎて陽が沈んで月が昇った頃にようやく今日やっつけないとマズい書類の全ての処理が終わった。
本来なら終業時間には余裕で間に合っていた筈だが、兼任が居るのにこの有様。
これには流石に、当番のベルに対して申し訳なさが募った。
当のベルは普段から言っていて、既に今回も伝えたからか、あれからは特に触れず淡々と業務をこなしていたけど。
アル達の食事に関しては作り置きをしておいたから大丈夫との事だった。帰りが遅れる旨も連絡済み。
"……ベル、もしかして最初から残業するつもりだった?"
「書類がたくさんあると事前に聞いていたから、あなただけ残して帰る気はサラサラ無かったわよ。流石にもう少し余裕を持たせるつもりだったけど」
"うう、ありがとう……"
いつかのように両手で拝み倒しながらお礼を言うと、少し照れ臭そうにしながら片手でしっ、しっ、とあしらわれる。
「だから、悪魔崇拝はやめなさい。ただでさえ"そういうの"はキヴォトスでは特別な意味がある上にあなたがやるとシャレにならないんだから」
"私がやるのがダメなの?"
「あなたは人を教え導く者よ? 上の人間がそう簡単に頭を下げちゃダメでしょう」
"うん……? うん、分かった"
呆れたように言ってくるベルに首を傾げる。
言わんとする事は分かるが、感謝する事は別に悪いことではないように思う。
しかし何か良くない事情があるニュアンスは感じたので素直に従っておく事にした。
"ともあれ……今日はありがとう、本当に。いや今日もかな?"
「承知の上で応募してるから構わないわ……仕事の話はここまでにして、食事にしましょう。先生もお腹が空いたでしょう?」
ベルにそう言われた途端、ぐぅ、と思い出したように空腹を訴える音がお腹から鳴った。
耳が熱くなって目を逸らす私の耳に、くすくすと堪え切れてない笑い声が聞こえてくる。
「ふ、ふふっ、お腹は正直ね。ソファに座っててちょうだい。夕食用に用意したお弁当を冷蔵庫から出してくるから」
"え、お昼もお弁当用意してくれてたけど、夕食分も作ってたの?"
「そうよ、どうせ残業になると思ってね。ついでにお茶も汲んでくるわね」
とうとう満面の笑みを隠しもせずそう言ったベルは軽い足取りで冷蔵庫がある給湯室へと向かっていった。
"―――平和だなぁ"
言われた通りソファに座りながら、ふと思う。
今日も一日、どこかしらでは銃撃戦や爆発が起きていたし、彼女が来てからもそれはずっと続いている。
けれど―――やはり、極限を知っているとそう思う。
赤い空の事。
別世界での滅びの事。
それを見てきた生徒達の話。
この世界に来たばかりの頃よりも彼女はずっと笑う事が多くなった。アル達とも打ち解け、ここでの生活にも慣れてきた証拠だろう。
お弁当まで作って来てくれて随分所帯染みている……
―――そんな平和をぶち壊すように、端末が鳴動した。
思わず遠い眼で遠くを見る。
"……束の間の平和だったかぁ"
ブルブル震える携帯端末を手に取り、電話に出る。
"はい、シャーレの先生です……うん、うん…………うんっ!?"
電話を掛けてきた子の話を首肯しながら聞いていく内に、ちょっととんでもない話が飛び出てきて思わず声を上げてしまった。
ベルが戻って来て温め直したお弁当とお茶を置き、隣に座る間も連絡は続く。
"そ、そっか……なるほど……"
「…………」
呆れたような目を向けられているような気がしたが、そのまま電話を続け、暫くしてから通話が終わった。
「少し長かったけど、その様子だと追加の仕事かしら」
すかさず、ベルが問いかけてくる。
受けたのかコイツという視線に込められた呆れがこれでもかというほど伝わってくるのを感じながら、苦笑と共に頷いた。
"お察しの通りで……しかも、かなりヤバい"
「先生が言うとシャレにならないのだけど……具体的には?」
"……ベルは、ゲマトリアについては知ってたよね"
「ええ、『知識』でも、色彩を介してでもね。そもそも彼らの秘儀を回収しているのだから当然よ」
恐らくそうだとは思っていたが、やはり彼女は彼らの存在を把握していたようだ。
エデン条約に於いて私の死を知り、赤い空の下での戦いも知っていたのだ、ヒエロニムス達の存在を把握しているのもある意味では当然。秘儀を回収しているなら知らない方がおかしい。
彼女が、なんだ既知の存在か、と少し安堵の息を吐き―――私の顔を見てぴしりと表情が固まった。
「……何が出たの?」
"……グレゴリオ、ヒエロニムス、シロ&クロ、ゴズ、ペロロジラの一斉発生が確認された"*1
「は??????」
私も驚いたその事実はベルにとっても青天の霹靂だったようで、素っ頓狂な声を上げると共に唖然とした顔で固まった。こんな彼女の顔は初めて見たかもしれない。
そんな彼女に追い打ちを掛けるようで気が引けたが、私は端末に送られたそれぞれの位置情報が記されたマップを呼び出し、それを彼女に見せた。
5つの赤い点が各地に点在するマップを見た彼女は―――
「なっ、なななな、なんですって――――!?!?!?」
"おお"
ベルと初めて邂逅した時のアルと全く同じ驚愕の仕方をしていた。
色々あっても根っこは同じなんだなぁと、少しおかしな方向で安堵の念が湧く。
なお、現実逃避である。
何人もの生徒を同時に編成してようやく倒せる存在が5体同時とかふざけないでほしい。
しかも書類仕事がやっと片付いて今日は終わりだって一息入れて食事に入ろうとしたタイミングで。
"おのれゲマトリア……! やっと休めると思ったのに!"
「あの
怨嗟と共に5体の作り手である者達の組織の名を吐くと、呼応するようにベルも怨嗟と共に更に細かく彼らを象徴する名を吐き出した。
ゴルコンダに関しては、フランシスという者が言っていた事を信じるなら死んだらしいが……
『
あの赤い空の後にグレゴリオを作って披露までしているし、定期的に展開されている。ヒエロニムスも同じ。
その2体が同時顕現しておいて、今回の一件に彼が関わっていないとは流石に考えられない。
同じ思考だろうベルと、いま確かに想いは一致していた。
あいつら絶対許さない、と。
安息を奪い、食事の時間すらも邪魔した罪は重い。
それに夜に差し掛かってから生徒達を動かさないといけない私としても心苦しい。
みんないい子だから快く引き受けてくれているけど、今回は流石に不満を言われるだろうなぁ……
「先生、とりあえず夕食を摂ってから動くわよ」
"腹が減ってはなんとやらだね。皆に協力を呼び掛けたら摂るよ"
ベルの促しに応じつつ、私は各個体との戦いでよく協力してもらっている生徒達に連絡を取るべくシッテムの箱を操作する。
「ストップ」
―――が、その手をガシリと掴まれる。
掴んできた彼女を見れば、顔には不敵な笑みが。
"ベル?"
「甚だ不本意だけれど、絶好の機会だわ。私の力を見せてあげる。『色彩の嚮導者』と『方舟の教導者』、二人きりのコラボレーションと洒落込みましょう?」
彼女の言葉を咀嚼し、その意味するところを理解した私は、思わず目を剥いた。
"本気かい!? 5体全部1人でやるって事だよ!?"
たしかに、私は彼女の実力をあまり見ていない。反転したシロコを一瞬で制圧したこと、そしてヴァルキューレ生に変装していた傭兵の銃と盾を破壊したところだけ。その2例だけでも十分ではあるが、銃を使った戦闘自体は一度も無い。
今回対峙する事になる存在は生徒ではないため彼女の縛りにも反しない。
しかし―――
「目覚めた名もなき神々の王女よりはマシよ」
それまで不敵に微笑んでいたベルからスンッと一瞬で表情が消えた。
鋼鉄大陸の一件を含めてアリスの事は前々から凄いと思っていたけど、王女として覚醒した敵としてのアリスは、嚮導者として圧倒的なベルをして本当にギリギリであまり思い出したくもないくらいの強敵だったようだ……
"そ、そっか……でも、守りも無い事になるけど大丈夫?"
「私には"あの子"が持っていた盾があるし、あのコートもあるから」
私の問いに、彼女はコートハンガーに引っ掛けた自身のコートへ視線を投げた。
日焼けし、色がくすんだ紅蓮のファーコート。
アルのものと同じく右肩部分に便利屋68のエンブレムが付けられたそれは、見た目だけではない何か特別な意味があるらしい。
"あのコートって、便利屋をしていた頃から着ていたものだよね?"
「そうよ。私の繰り返しの反転と10年に及ぶ色彩の影響も受けたことで、私の体と同様にあのコートも生半可な攻撃は通さない代物……彼らが言う「崇高」に位置するものに変質しているの。実存主義者の例に倣うなら、あのコートは私の在り方を示す記号であり、歩んだ道を示す
"……つまり、ゲームの魔法で強化されたローブみたいな感じで、ものすごく防御力があるということ?"
「凄く雑に言うならそういう事よ」
ゲマトリア達が好みそうな説明をされたが、研究をしていない私にはよく分からないので自分なりの解釈で噛み砕いて問い直すと、それを肯定された。
多分細部は違うんだろうけどいま必要な部分の答えは聞けたから良しとする。
私達はきっとこれでいい。
「さぁ、どうかしら先生。あとは私の言葉を信じるかどうかよ」
"……少しでも危なかったらその時点で撤退して、他の皆と協力すること。それが条件だよ"
全部を一度に相手にする訳ではないとはいえ、それでも通常なら複数で掛かる相手を単騎、かつ連続で戦うとなれば普段以上にミスは許されない。
私のそれは、先生としての最低ラインだった。
「ええ、勿論分かっているわ」
"本音を言えば、今の時点でみんなと一緒に戦って欲しいんだけどね"
「私もそれが最善とは思ってるわ。ただ、あなたの指揮の力が嚮導者である私にどう影響するのか、それを予め知っておきたいのよ。仲間がいる状況だと下手に戦えないから」
"ああ、なるほど……"
つまり彼女にとっての「本番」は他の生徒との共闘であり、今回は予行演習という事らしい。
……まあたしかに、彼女の攻撃が生徒を殺めてしまうと考えれば、そちらを本番扱いするのは分からなくもない。ヒエロニムス達も彼女からすれば然して脅威ではないのだろうし。
"じゃあその方向で進めるとして……"
「とりあえず、手早く食事を済ませましょうか」
"もっとじっくり味わいながら食べたかったなぁ……お昼もかきこむように食べてたし……"
「次の当番の時にまた作って来てあげるわよ」
"そっか。じゃあ楽しみに待ってるね"
ベルのお弁当は、家庭料理にも精を出し始めたのかとても美味しかった。
それを今度の当番の時にも作って来てもらえると聞いて、私は喜びで笑みが零れる。
そうして食事を終えた後、ベルはヒエロニムス達の元へワープで向かい、私はシャーレから指揮して戦闘。彼女はそれぞれを休むことなく連続で撃破し、突如湧いた残業はものの十分足らずで完了された。
彼らが「崇高」を目指し、作り、あるいは観測した者達が散る風にはためくコートを羽織った彼女の強さは、世界を超えているだけあって凄まじいものだった事が記録として残ったのだった。
万が一の時の備えとしては十分でしょう
威力偵察してあげる
その上で頼らせてもらうね
受け取らないのも失礼よね
【愛用品】
『煉獄のコート』
アル*テラー/ベルが纏う厚手のコート。
彼女の永い戦いの生き字引であるそれは、
反転と色彩の影響により「崇高」に至り、
世界に従う者達の干渉を断絶する。
これを脱ぐ時は、相手を受け容れている証。
今後について
次にバレンタインストーリーを出してベルのパーソナリティを絆スト含めて出し切った後、掲示板メタ回を出す予定です。実装妄想、イベント中などで話数は未定
バレンタイン前に生徒情報を出したのはアプリでも募集で生徒情報見てからバレンタインを読む流れの踏襲です
クロノス報道部突撃取材をはじめとしたサイドストーリーの前に掲示板回をやった方が、本筋・後日談関連での情報の纏まりがあるかなと思いまして
なお掲示板回とサイドストーリーは本当に不定期になると思います
またサイドストーリーを基にした掲示板回も適宜挟む事があると思います
ご了承下さい
絆スト前に一回空きましたが今まで実質毎日投稿になってたのがオカシイ……
こ、こんな筈じゃ……
みんなが読んでくれてお気に入り登録やしおりや評価やここすきを一杯してくれてたから!
書くのが楽し過ぎた!
幸せなエンドに導きたかった!
絆スト回は雰囲気と読後感を考えて書いてなかったので今ここでお礼申し上げます!!!
本当にありがとうございます!!!
あと完結詐欺し続けてごめんなさい