陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

2 / 23

1日半で思いのほか高評価とお気に入り貰えて嬉しかったので2話目です
ありがとうございます!

視点はパチモンアウトロー、あまねく奇跡越え本編カヨコです



あまねく奇跡への途中乗車

 

 キヴォトスは箱舟。

 世界はシャボン。

 どことも知れない異次元にプカプカと浮かぶそれらは、どこかで枝分かれした世界の数々だ。

 私はそれらを行き来した。

 

 キヴォトスが『学園都市』として成立している以上、あらゆる世界には無名の司祭達が存在している。

 

 前時代の名残であり残党のそれらも、それと共存するなら問題ない。

 だが―――アレらは、それを拒絶していた。

 色彩を認識し、色彩を介し、反転した者を傀儡として世界を滅ぼさんとする。

 

 私はそれを己の呼び鈴とした。

 

 まだ司祭がいる世界に自ら向かい、地下生活者を含めて事前に取り除きつつ、色彩が引かれていく場合は重要性が高い世界として急行する。

 世界のほとんどにおいて、先生は既に無力化されている。

 意識不明の重体であればまだマシ。即死している世界の方が多かった。

 地下生活者と思しきシャーレ爆破以前に、砂漠で遭難であったり、トリニティの騒乱や調印式での凶弾、ミレニアムで名もなき神々の王女によってアーカイブ化されていたり、鋼鉄にキヴォトスが呑まれていたり。

 自身が生きたキヴォトスは幸運に恵まれていた方だと痛感させられた。

 

 そういった世界がどんな顛末を辿るかまでは知らない。

 

 大半は自分がいた世界と同様だろう。色彩の嚮導者による急激な滅亡ではない、緩やかな滅び。

 心苦しくはある。

 並行世界の同一人物。"私"が知る、"私"を知らない知人達の悲運には、我が事で(ほぞ)を嚙む心境になった。

 

 それでも、介入はしないと決めていた。

 

 私はイレギュラー。盤外の存在。

 介入したところでどうにもならない事があり、介入して何とかなっても根本的には解決し得ない事が大半だった。

 私に出来る事があるとすれば、無名の司祭と地下生活者を滅ぼす事くらい。

 そして、『色彩の嚮導者』の立場を保守し、他の生徒が傀儡にされないよう維持するだけ。

 

 

「……"そちら"へ行くには、随分時間が掛かりそうだわ」

 

 

 肌身離さず持つ位牌に語り掛ける。

 (いら)えは無い。

 ある筈がなかった。

 

 ……無くて良かったとも思っている。

 

 人の血と死に塗れた私を、見て欲しくはなかったから。

 

 

「……落ち込んでいる暇は無いわね。次に行きましょう」

 

 

 沈む気持ちに鞭打って、私は次のキヴォトスへと入り込んだ。

 

 


 

 

「いやー良い買い物が出来たね! 手榴弾と地雷どっちも特売セールだったから予定より多めに買えたよ♪」

「確かにね」

 

 穏やかな晴れの日。

 『今日は一日休養に充てましょう』と社長―――陸八魔アルが言った事により、一日フリーになった私は、街に繰り出すならと付いてきたムツキと買い物をしていた。

 私は新曲のCDを幾つか買い、ムツキは仕事で使う爆発物の調達。

 いつも派手に使うから収支は赤字になりがちで、だからこそ特売の時に一気に数を揃えるのだが……

 

「とりあえず、ちょっと節約しなよ。最近踏み倒されっぱなしであまり収入無いから」

「分かってるってば」

 

 小言には軽い反応が返される。

 まあアルを揶揄う事が好きな彼女も本気で困ってるなら邪魔はしないくらいの分別はある。

 踏み倒そうとした依頼主から奪えば済む話なんだけどね……

 

「じゃあ事務所に帰ろうか……ハルカは、バイトだっけ?」

「うん、短期で受けてたよ。休めばいいのにねぇ」

「まあ……アルがお金に困ってるって聞いたから、居ても立っても居られずなんだろうね」

「臓器売買に手を出してないか、帰ったらチェックしないとね!」

「そうだね……」

 

 にこやかに言うムツキに、私も苦笑する。

 崇拝レベルでアルに従っているハルカの暴走ぶりは途轍もないものだ。どうしてそこまで自分の事を卑下出来たりするんだろうと、疑問に思うこともしばしば。

 帰ってきたら褒めてあげようと、密かに決めた。

 

 

 ―――その時、帰り道の途上の空間が黒く歪み、割れた。

 

 

「なっ……!」

「え、何あれ!?」

 

 ムツキと揃って戦慄し、咄嗟に銃を構える。

 

 その現象に、私は見覚えがあった。

 

 しばらく前、世界が赤い空に覆われた時のこと。遥か上空で起きた戦いにオペレーターとして参加した時に一度見た。

 色彩由来の空間転移。

 それが今、青い空の下で行われたのだ。

 おそらく―――前例から予想するなら、別世界のキヴォトスからの来訪者。

 

 敵か、どうか……

 

 そんな私達の視線の先―――黒くひび割れた空間、その向こう側に、ゆるりとした動作で誰かが降り立つ。

 黒い歪みが消えて、その背中が見えた。

 長い赤毛に、項辺りから横に生える湾曲した角。

 汚れ、くすんではいるが、赤いコートがなびいている。

 ―――まさか、と一つの予想が脳裏に浮かんだ。

 

「アルちゃん……?」

 

 その予想を、唖然とした様子でムツキが口にする。

 私達の視線の先に降り立った人物は、私達にとってとても見慣れた人のそれだった。

 

 ―――けれど。

 

 ムツキの声にぴくりと肩を揺らし、半身で振り返ったその()()の眼は、私達が知るアルとは似ても似つかないほどに昏く澱んだものだった。

 以前見たもう一人の砂狼シロコに似ているようで。

 それでも、見た事無いほどに澱んでいた。

 

「アル、だよね?」

「…………違うわ」

 

 私からの問いかけに、ゆるりとした動作で首を振って否定する彼女の声音は掠れていた。草臥(くたび)れ、(しお)れ、疲れ切った諦観のそれだった。

 屈託ない社長のそれとは似ても似つかない。

 いったい何があったんだと、焦燥にも似た思いに駆られる。

 触れていいのか、何から話すべきか分からず、黙っているけれど。

 

「私の事は忘れなさい……すぐに、去るから」

 

 そんな私達を昏い眼で一瞥した後、前に向き直った彼女は突き放すようにそう言った。

 いや―――実際、突き放しているのだろう。

 何のためか、どういった理由でかは知らないが、彼女は私達を避けようとしているようだった。

 

「私とあなた達は他人。だから、私に関わる意義は―――」

「いやだよ!!!」

 

 更に言葉を重ねようとしたもう一人のアルは、がばりと飛び掛かりながらのムツキの叫びに遮られた。

 がばりとコートの上から小柄な少女が抱きしめに掛かる。

 なっ、と慌てたようなアルが驚きの声を上げていた。

 

「やめっ、このっ……離れなさい! 私はあなたの知る陸八魔アルじゃないのよ!」

「いーや! ムツキちゃん、絶対今はこのアルちゃんから離れないよ! 何があったか知らないけどさ、こんなアルちゃんのこと放っておくようなムツキちゃんじゃないって知ってるよね!?」

「死ぬほど知ってるわよ!」

「じゃあ観念してムツキちゃんに捕まってね! 全部話してくれるまで絶対離さないから!」

「くっ、そういう所は世界共通なのね……! とりあえず離れなさい、重いし歩きにくい!」

「やだ! 離れたらすぐにさっきの黒いので飛んで逃げる気でしょ!」

「チッ、勘のいい……!」

 

 私達が知る社長より成長し、体格が良くなっているアルの後ろ腰に抱き着いているムツキは、絶対に離さないという固い意志を表明していた。

 必死に引き剥がそうとするも苦戦するアルの顔は苦悶に歪んでいる。

 ……本気で嫌がっているようだった。

 

 でも、嫌悪でも、羞恥でもないそれは―――いったい、なに?

 

 もう一人の砂狼シロコは多少未来を生きていた。それ故の経験の差異こそあれど、基本は私達が知るアビドスのシロコとほぼ同じ。

 けれど、目の前にいるアルは、よく知るアルとはどこか違うように思えた。

 挫折による性格の変化と済ませるには、なんとなく違和感。

 全然それが分かるような情報が出てないからただの直感でしかないが。

 

「……とりあえず、事務所に帰ろう。そこで話を聞かせてよ」

「誰も話すなんて言って……! というか事務所って、嫌よ絶対! そこ本物がいるじゃない!」

「「本物?」」

 

 ムツキと声が揃う。妙な言い回しをするな、と純粋に疑問だった。

 もう一人の砂狼シロコは本物、偽物という言い回しはしなかった。あくまでこの世界、別の世界、もう一人の、という言い方だった筈だ。

 シャーレで顔を合わせた時はこの世界のシロコの事を「よわシロコ」とまで言っていた。

 小鳥遊ホシノも、もう一人の~という言い方が基本だった。

 ……そもそも並行世界の同一人物にして別人の概念から言えば、どちらが本物か、偽物かなんて言い方はナンセンス。

 その言い回しが成立するのは、こちらのアルとすり替わっている場合くらいだ。

 

「別にアルちゃん、偽物じゃなくない? 別の世界のアルちゃん本人なんでしょ?」

 

 前例があるからこそ理解が早かったムツキが素朴とばかりに問いを投げた。

 

 ―――瞬間、ギシリと並行世界のアルの動きが止まる。

 

 苦悶の表情には、更に苦痛の色が浮かんでいた。

 

「……私にとっては、違うのよ」

 

 そして、どうにかという風で絞り出されたその言葉に、再度ムツキと顔を見合わせる。

 思っていたより闇が深そうだと思いながらこっそり先生に事務所に来るよう連絡を入れ、ムツキは腰に抱き着き、私は彼女の手を引いて、有無を言わせず事務所まで連れて行った。

 終始苦悶の表情だったけど、強硬的に逃げようともせず彼女は素直に付いてきてくれた。

 

「ところでアルちゃん、なんか大きいけどいま幾つ?」

「ベリアルと呼びなさい……身長なら測ってないわ。年齢なら…………」

「指折り数えてるけど、そんなに未来から来たの? たしかに大人な感じだけど」

「未来と言うと微妙な歳の重ね方してるけど……27歳ね」

「「27!?」」

 

 道中で雑談もしながら、賑やかに帰路へと就いたのだった。

 

 


 

 

・パチモンアウトロー*アラサーテラー

司祭と地下を滅ぼし続けて約10年の嚮導者

早ければ数分、長くても数日で司祭と地下生活者を殲滅しては世界を移る日々を繰り返し、渡った数は優に千を超える

『色彩の嚮導者』の座に就き続ける事で他に嚮導者を生まなくし、司祭達による滅びを阻止しつつ嚮導者を生もうとしている司祭の下には色彩の代わりに急行して降り立って皆殺しにしている

あまねく奇跡の始発点世界に来たシロコ*テラーとプレナパテスはパチモンアウトローの3つ、2つ前の嚮導者。年月に乖離が起きているのは異次元故

大半のキヴォトスが無名の司祭、地下生活者無関係に滅亡に向かっており、また司祭が動いた時点でその世界のキヴォトスは滅亡に向かっているので殲滅後は心苦しくはあるもそのまま退散し、次の世界へ

青春の日々と看取った皆の姿は未だ色褪せる事なく脳と記憶に焼き付いているため2人を前に強く出られないでいる

 

・浅黄ムツキ

あまねく奇跡越えキヴォトスのムツキ

過去に類を見ないくらいアルちゃんレーダーがビンビンに働いて一も二も無く捕まえに掛かった

ちなみにレーダーは別に見た目で動いてる訳ではない

 

・鬼方カヨコ

あまねく奇跡越えキヴォトスのカヨコ

オペレーターとしてシロコ*テラーとのやり取り、顛末を知っているので色々気付けた

シロコとシロコ*テラーとは異なる妙な事情があると察している

 

 






あまり長々と鬱させるのもアレなんでさっさと(Un)Welcome Schoolさせに行こうと思います
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。