陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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『最終編』の再現を起こす前の予行演習編
視点はベル、クロコ
ベル視点は総力戦などで初入場した時に黒服やマエストロなどの前振りターンです




連合作戦 あまねく奇跡の求道者(A seeker of Where All Miracles)

 

 先生の協力を得たあの日以降、私は日々を忙しく過ごした。

 以前のように仕事に忙殺されている訳ではない。シャーレの手伝いや当番の頻度は下がっている。便利屋の仕事も、家事も。

 欠かさなかった『外』を巡る旅路をも、頻度を下げた。

 憎しみは依然としてある。

 安穏と過ごしている間にも他の世界の奴らは虎視眈々と滅びを齎そうと暗躍している。あるいは地下生活者による爆破で、先生が死ぬかもしれない。

 そうして滅びへと向かう事を考えれば、衝き動かされそうだった。

 

 だが―――それでも、私は抑えた。

 

 価値ある(守りたい)ものを守ること。

 それもまた、私が世界を巡る理由だから。

 

"ベル。リンちゃんに掛け合って非常対策委員会として動いていた時の報告書と、私と"彼"の指揮データを持ってきたよ"

「ありがとう、先生」

 

 彼に情報を求めたのは、限度を知るため。

 これから私がするのは『最終編』の再現。

 私が『知識』で把握しているのは発端と結果のみ。具体的な作戦内容や、各生徒の戦い方などの過程は記録されていない。

 それは『色彩』を介した情報でも同じ。色彩は結果だけを観測し、伝えてくるだけ。各々が何をどう考えてその行動を取ったかは見えてこない。

 やり過ぎれば私が滅ぼしてしまう。そうならないために、知らなければならなかった。

 

"色彩を介しても分からないんだね"

「色彩は力の概念であり、観念であり、そして世界を見つめる瞳……要はレンズなのよ。光を収束させるし、狂気として放つ事もできる、ね。現在を見て、世界に刻まれた過去(テクスト)を読み取る。けれどすべてを見通すわけではない。便利なのは確かだけど、全能ではないわ」

"なるほど……"

 

 未来がどうなるかは誰にも分からない。

 しかし、だからこそ足掻く意志と希望を持てる。未来は幾らでも変えられるのだと、最悪の結末と奇跡の世界を知っているからこそそう言える。

 幸いにも―――向かう先は、既知の領域だ。

 私はこれからその未来を変える要因になる。

 この世界があまねく奇跡へ至ったように。プレナパテスが齎した外界からの異変で、世界の流れを強引に変えたように。

 "彼"の奇跡を再現する。

 本当の意味で、並行世界のあの子達の未来を守るために。

 

「……まさか、私が"先生"の真似事なんてね」

 

 皮肉なものだと、苦笑が漏れる。

 『陸八魔アル』として生まれ落ち、失敗し、嚮導者となり、復讐鬼として世界を巡り続けた今になってまさか『偽りの先生』の名に相応しい立場に自ら就くだなんて。

 この私が奇跡へと繋げる立場になる事も……

 本当に、皮肉なものだ。

 

「同意。私も……"先生"の行動を再現する方が現れるとは思いませんでした」

 

 私の独り言を拾ってそう言ったのは白髪黒衣の少女。

 並行世界のA.R.O.N.Aであり、プラナと名付けられた少女だ。

 更に言えば、この子は私が生まれた世界のシッテムの箱のAIであった個体でもある。一度プレナパテスのプラナとも融合したからかその記録も持っているようだが、意識のベースは私の世界の方だ。

 そしてその少女は現在、タブレット越しではなく、実体化していた。私が所有する『アトラ・ハシースの箱舟』の中枢、実在と非実在とが交わる混沌の領域『ナラム・シンの玉座』にいるからこそ出来ている事である。

 

 本来であれば、私はシッテムの箱を使えない。

 なのになぜプラナを求めたか。

 その理由はオペレート・システム『ペレツ・ウザ』による制約解除機能にある。アレができなければ、私がやった事はいずれ――少なくとも預言者やデカグラマトンとの戦いで負けて――無駄になる。『再現』に際して彼女の存在は不可欠なのだ。

 だからプラナOSのコピーと、その入れ物であるシッテムの箱の起動を先生に頼んだ。

 そうして私の世界のシッテムの箱に半ば戻ったプラナは、さらに箱舟の管理AIとしても常駐するようになった。

 

 ―――これが上手くいくかは分からない。

 

 シロコ*テラーが居ない以上、必ず穴はできる。その穴を埋めるところまでは手は回らない。

 そもそも地下生活者を討っている時点で、小鳥遊ホシノの過去との決別の機会が喪われるか別の機会にズレている。その時点で私がしている事は完璧ではない。

 全てを自分一人で救えるわけがないのだ。

 私が出来るのは延命まで。そこから先は、その世界の人達の手に懸かっている。そこまでの道を、私が繋ぐだけ。

 少しでもより良い未来へ繋ぐために―――

 

 今日は、その第一歩を踏み出す。

 

「プラナ、先生はどうしてる?」

「現在、生徒の皆さんとシャーレの体育館にいます。事前に聞いた通りの方だけです」

「よし。じゃあ、()()()()()()()

「了解。次元転送プログラム、起動します」

 

 私の指示に、実体化したプラナが頷き、瞑目する。意識の集中―――それは演算速度を高めるための自然な処理。

 程なく、ナラム・シンの玉座の空間に黒い歪みが生まれた。

 少し待っていればそこから続々と人が出てくる。その先頭を歩く一際背の高い人物―――先生が、私達へと視線を向けた。

 こちらに歩いて来て、ある程度の距離を開けて止まる。

 彼の後ろには数多の生徒。

 私の方は、プラナが一人。

 

"やあ、ベル"

「来たわね、先生」

 

 言葉は少ない。既に事前の話し合いは終わっている。

 

 

「既に話した通り、私は"あの人"の奇跡を再現するわ。そのためにも入念な準備が不可欠」

 

「あなたのお陰で情報は手に入った」

 

「だから、次は実践よ」

 

 

 今からするのは予行演習。失敗しないため、成功させるためのリハーサル。

 かつて『色彩の嚮導者』を跳ね除けた者達の力を借りた再演。

 

 

「生憎と常に全力だったせいで加減を知らなくてね……」

 

「今のあなたや生徒達が当時より強くなっていて、厳密な比較は出来ないけれど、今は逆に好都合」

 

「知っての通り、私は直接は戦えない。代わりにあなたや"あの人"のように指揮する」

 

 

 反転したシロコのように自由に動く強大な戦力は無く、私はプレナパテスと違って自由に動けるけど、"先生"とその生徒達を殺したいわけでもないから直に戦う訳にもいかない。

 だからこその―――指揮。

 便利屋の社長をしていた頃とも、便利屋業務でのオペレートとも勝手が異なるそれを私はできるようにならなければならない。

 これは加減を間違えないための試験であり、同時に私が先生から学びを受ける試験でもあるのだ。

 

 

「デカグラマトンのパス、複製(ミメシス)の秘儀、信徒の交わり(Communio Sanctorum)、ライブラリー・オブ・ロア。名もなき神の力と無名の守護者の能力、忘れられた神々の力」

 

 

 ひとつひとつ、「色彩」が収集したものや私が回収したものの名を挙げる。己の誇示のためではなく、己の手札に何があるかを再確認するために。

 ―――私の周囲の空間が歪み、次元が開く。

 そこから出てくるのは種々様々な"敵"。色彩を介して支配下に置いた、私の手駒たち。

 預言を歪めて支配したケセドが増産したオートマタやドローン。

 戒律を歪めて支配したユスティナ信徒のミメシスと聖女バルバラ。

 使命を歪めて支配した数多の無名の守護者たち。

 そして―――

 

 

「そして、それらの幾つかを複合した私独自の「秘儀」」

 

 

 私の言葉に応じるように、虚空に穴が開く。

 そこから出てきたのは4丁の銃。ムツキ、カヨコ、ハルカの遺品。そして『アル』だった頃に使っていた私の銃。

 ただならぬオーラを纏うそれらを核として闇が集まり、形を取り始めた。

 出来上がったそれらは、銃に宿った誓約(想い)歴史(テクスト)を基に形作られた複製(ミメシス)。異なる世界を生きて、そして終わった便利屋68(わたしたち)の影法師。

 人の死を冒涜する外道にして外法。

 

 これを見ても、先生も、後ろで構える生徒達も、嫌悪を見せない。それどころかどこか痛々しげに見てくるばかり。

 ……その優しさを苦しいと思えるのは、良いことなのだろうか。

 ふと浮かんだ素朴な疑問を、頭を振って遠くに放る。手伝ってもらっている身の自分が一番真剣にならなくてどうする、と己を叱責する。

 改めて、前を見た。

 先生を中心に据えて、生徒達が集まる光景は―――

 

 ―――私が繋げたい未来の理想形。

 

 

「私の全てを以て戦うわ」

 

「先生。方舟の教導者よ」

 

 

 改めて、目指す形を認識した私は、覚悟と共に宣言する。

 

 

「さあ、奇跡を得るための修練を始めましょう」

 

 

 それに、先生は言葉も無く頷きで応える。片手に携えたシッテムの箱を介し、指示を飛ばし始める。生徒が動き始める。

 私もまた、色彩を介して配下と影法師たる便利屋に指示を出し始める。

 

 時を経て、方舟の教導者と色彩の嚮導者とが異なる形で衝突した。

 

 世界の存亡を懸けてではなく。

 

 

 世界の未来を繋げるために―――

 

 

 

 

 


制約解除決戦

A seeker of Where All Miracles

Beru/Army of Iridescent(色彩の軍勢)


 

 

 

 アトラ・ハシースの箱舟の中枢で、戦いが始まった。

 視界いっぱいの紅の空間。おぼろげな暗闇を床から白い光が照らすそこは、実在と非実在とが混ざり合う混沌の空間。

 かつて私が、砂狼シロコ(この世界の私)と対峙した場所。

 同じ先生の指揮を受けて、経験に差がある私と戦い、時間を稼がれた場所。

 ……あの時は、滅ぼすために戦ったけれど。

 今起きているのはまるで逆。

 殺し合いや滅ぼす者に抗おうとしているからではなく、未来へ確実に繋げられるよう研鑽するための戦いだ。

 

 私はそれに混ざっていない。可能な限り条件を合わせるためだからと、他の世界に『反転したシロコ』は居ない事を理由に参戦はしないよう言い含められていた。

 私は見ている事しかできない。

 ―――彼女は、"先生"の意志を継ごうとしているのに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!!』

「うひゃぁ、この子なんかとんでもなくなってない!? 勢いが記憶にあるそれより数段上だよぉ!!!」

「ん、ホシノ先輩踏ん張って」

「このショットガンの子、昔アビドスを襲ってきた頃より強い……!」

 

 視線の先では、この世界のホシノ先輩とシロコ、セリカが暴走機関車もかくやのところも再現された散弾銃使いのハルカを相手に苦戦していた。

 私もかつてはアビドスで対峙したけれど―――

 彼女達と同様、記憶にあるそれよりも勢いは激しい。

 銃撃だけじゃなく、殴りかかって、蹴りも入れて、とにかくホシノ先輩達の銃の照準をズラす。それに加えて足払いだとか体当たりだとかも交える。

 強引なインファイトに持ち込むそれは、得意な距離で撃ち合うことに慣れているとどうしても反応が遅れる。照準を合わせるクセも同じ。

 マウントポジションを取られれば最後と思って良いだろう。

 それほどにあの少女は――元からそうではあるけど――鬼気迫っていた。

 今日の先輩は本気装備じゃないけど、あの分だと遠からず全力で暴れるのも時間の問題だろう。

 

"ミドリ、あのマシンガン使いの子を狙えるかい!?"

「いけます! お姉ちゃん、弾幕バラまいて足止めして!」

「りょーかい! 頼んだよミドリ!」

「わ、私も吹っ飛ばすよ……!」

「私も援護しますね~!」

「アリスも援護します! 魔力充填……光よっ!!!」

 

 他方、再現された機関銃使いのムツキと距離を取って戦う色彩化したオートマタ達を相手に、ミレニアムの少女達が奮戦している。更に弾幕要員としてノノミも参加していた。

 桃色の少女とノノミが交互に弾幕を張って薙ぎ払い、足を止めたところに赤毛の少女とレールガン使いの少女が豪快にぶっ飛ばしていく。

 そのすき間を縫うように、ミドリと呼ばれた緑色のヘッドフォンを付けた少女がライフルの引き金を引いた。

 その弾丸は狙い(あやま)たず、再現されたムツキの額を強かに打った。

 

()()()()!? ()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 その衝撃に驚いた後、すぐ悪辣な顔で笑った彼女は弾丸をバラまきながら後ろ手に複数の手榴弾を掴み、ミドリ達目掛けて放り投げた。

 げぇっ!? とミドリに姉と呼ばれた子が呻きを上げる。

 

「―――そこぉッ!!!」

 

 そこで、再現ハルカを相手取っていたホシノ先輩が裂ぱくの気合の籠った声を上げた。

 ほぼ間を置かず、横から再現ハルカが再現ムツキとミレニアムの子達が戦っていたところへぶっ飛ばされていく。視線を動かせば、盾を振り抜く先輩の姿があった。

 

「もらったよ!」

 

 そして、手榴弾と再現ハルカの位置が重なったところで、ホシノ先輩がショットガンを連射した。本気になった時の早撃ち。

 撃ち放たれた細かな散弾は、宙を飛ぶ手榴弾を撃ち抜き―――

 連鎖爆発を起こした。

 再現ハルカはその炎の中に呑まれる。

 

「おお、すごい! ありがとう!」

「まだだよ、あの子はあれくらいじゃ倒れない!」

()()()()()()()()()()()!!!』

「うっわホントにピンピンしてるぅ!?」

()()()()! 調()()()()()()()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()!』

()()()()()()()()!!!』

「何言ってるか分からないけど凄く物騒な顔してるし絶対穏やかじゃない事だけは分かる!!!」

「そりゃあこの子達はそういう界隈の子だからね!!!」

 

 桃色の子と、ホシノ先輩が並んで立って、その横にそれぞれの部隊の面々が並ぶ。

 対するように再現されたハルカとムツキ、補充された色彩化オートマタ達も並んだ。

 勝負は概ね拮抗している。再現されたハルカが食い破るか、それをホシノ先輩が完全に押し返すかが勝負の要になるだろう。

 盾で殴り飛ばしたり声を張り上げてる辺り、ホシノ先輩も早々に本気を出すことにしたようだった。目つきがかなり据わっている。

 こちらのシロコもそれなりに強くなっているし、セリカも実力を上げている。メンタルを持ち直した先輩込みの3人でも押し切れない。

 私が思っていた以上にベルの世界のハルカは強くなっているらしい。

 もしかしたら再現による強化があるのかもしれないけど……

 

 ―――でも、多分それは無いな。

 

 かつてゲマトリアの秘儀を回収し、それを使う"先生"の姿を見ていたから分かる。

 秘儀は確かに強く、ミメシスなども脅威だが、元となった存在の力が上がる訳ではない。それは色彩化によって支配下に置いた場合も同じ。

 太古の教義を元に作り上げられた人工天使などとも違う。アレらは形を整え、圧倒的な力を振るうために調整されたものだ。

 しかし―――再現された4人は、違う。

 現出を目の前で見たからこそ分かる。各々の銃を核としたそれは過去の鏡写し。

 再現された"彼女達"はむしろ本人達よりも弱まっていると考えるべきだろう。ただプログラムされ、あるいは過去を忠実になぞっているに過ぎず、そこに本人達の意志は無いのだ。

 学習は無く。成長は無く。限界も超えない。

 

 あの程度なら嚮導者でない私でも一人で制圧できる。

 

 逆説的に、嚮導者となった彼女の世界の"私"を傷付けベルの生存へ繋げたという生前の"3人"の力には、再現された彼女達は遠く及ばないということだ。

 なら、それを率いていた彼女の過去はと言えば―――

 

()()

「ッ……! 速射な上に狙いも正確、無駄のない狙撃ですわね! (わたくし)も負けていられません!」

 

 美食研究会の部長と早撃ち勝負をしていた。

 再現アルの近くには無名の守護者が侍り、彼女を守る盾となっている。それを掻い潜ろうとハルナが走り―――

 射線が通った瞬間の狙い撃ちを躱し、反撃に彼女が撃つ。

 やや膠着している状況だった。

 

 ―――だが、悪くない。

 

 互いに当たればただではすまないだろう。それを承知の上で、美食研究会の部長は再現アルの狙いを引きつけている。

 その間は他の面々が強烈な狙撃を受ける危険性が薄いから。

 それを指示したのは先生だから、彼女の回避能力やスタミナ面に信頼を置いているのだろう。

 美食研究会はことある毎に飲食店を爆破してはバラバラに逃げようとする、仲間意識はあるのだろうけど目的のために見捨てる事も厭わないワンマン主義なところがあると聞く。

 一人でもやれる力があるという信頼が、大役という形で表れていた。

 

 つまり、彼女がやられるよりも先に他の3人の誰かを倒さなければならない。

 

 再現ハルカと再現ムツキにゲーム開発部4人と廃校対策委員会4人。

 再現アルには美食研究会部長。

 そして美食研究会は残り3人。彼女達は―――

 

()()()()? ()()()()()()()()()

「だーもうっ! こいつヤバ過ぎ!? すばしっこいにも程があるでしょ! お化けシスターを盾にするから当たらないし!」

「さっきから銃弾食らう度にすっごい変な気分に……空腹とも違う気持ち悪さが……」

「あら~……まさかここまでとは……」

 

 再現されたカヨコを相手に、苦戦を強いられているようだった。

 二丁のアサルトライフル使いの赤毛の子とマシンガン使いの子の斉射は、自身に追従するユスティナ信徒を肉壁にして防御。マガジン交換の隙を狙って強烈な銃弾を叩き込む。

 それをとにかく徹底して削っているらしい。

 アサルトライフルにグレネードランチャーを付けるほどのガッツリとした改造銃を持っている金髪の3年生も、少し困った風に笑っている。

 元々美食研究会は戦闘専門ではないから、その経験の差が出ているところはあるだろう。

 もちろん無限の肉壁とそれを容赦なく使い捨てられる冷徹な思考の再現が噛み合ってるからでもあるのだろうけど。

 

 先生側の戦力はこれで全部。

 廃校対策委員会4名。

 ゲーム開発部4名。

 美食研究会4名。

 

 ―――いずれも、あの時に駆け付けた子達だ。

 

 私が、この世界の先生に託される直前に立ち会った子達。

 

 私と"先生"とを、あのシロコと先生が下した時の戦いは『大人のカード』を用いた戦いだった。彼女達のほぼ全員がその戦いを厳密には経験していない。

 けれど、ベルはその子達の強さを元に調整しようとしている。

 なぜなら彼女は『大人のカード』を持っていないし、他の世界の先生達も、彼女を相手に『大人のカード』を使おうとはしないだろうから。

 そもそもからして滅ぼすための戦いではないのだ。

 赤い空と狂気の光を放ち、遥か上空に拠点を構え、待ち受けるとしても―――それは越えなければならない『必要なこと』だからこそやるだけ。

 「ナラム・シンの玉座」まで辿り着いた時点で、目的の大半は達せられる。

 残るは一つ。

 彼女が地下生活者を排除する事でおそらく無くなるだろう『"セトの憤怒"との戦闘経験』の補填のため。箱舟の中枢まで辿り着いた先生に、本船で乗り込んできた生徒達を対象とした制約解除指揮の経験をさせるため。

 

 今しているこれは、純粋な神聖の化身レベルの強さを得るための研鑽なのだ。

 

「―――第一セフィラ、開通」

 

 そこで、これまで色彩を介してか無言で指揮を続けていたベルが、戦いが始まってから初めて声を発した。

 ピン、と戦場の空気が張り詰める。

 セフィラ。

 それは、己の神性を証明する過程を示す道。道を拓き、作ることで『己は神である』という論拠を構築するパス。

 天路歴程―――

 

「来なさい、ケテル」

 

 その号令と同時、彼女の頭上に巨大な歪みが発生した。

 そこから顔をのぞかせたのは四つ足の蜘蛛のような機械。私に覚えはないが、デカグラマトンの預言者の一体だろう事は明白だ。

 本来なら白銀だろうその偉躯は色彩の侵食によって禍々しい暗黒へと反転している。

 それでも燦然と輝くモノアイが、狙いを定めた。

 その先にいるのは―――美食研究会の部長。

 

"ハルナ、ホシノの下まで後退! シロコとセリカはハルナを援護して!"

「「「了解!」」」

「分かりましたわ!」

 

 即座の先生の指示に従い、戦場が動き出す。

 再現ムツキとハルカを抑え込んでいたホシノは動けない。だからこそ、逆にハルナを下げる。そうする事でケテルの照準からも盾で防がれるから。

 再現アルがフリーになるが、一撃の重さならケテルの方が上と判断しての苦肉の策だろう。勿論シロコとセリカでの牽制射撃で、撤退する少女への狙撃妨害をしているが。

 そうしている間に、ギラリとケテルのモノアイが輝きを増し―――一拍後、凄まじい機関銃の嵐が放たれた。

 

「うへぇ、衝撃がひどいよぉ! これおじさん1人で盾役やるの厳しくないかなぁ!?」

「先輩が一番強いから仕方ない」

「ぶっちゃけシロコ先輩も似たようなもんだけどね! ホシノ先輩は唯一の盾持ちだから頑張って!」

「ふふ、頼もしい限りですわ」

 

 悲鳴上げてるけどうへうへ言ってるし一人称がおじさんのままだからまだ割と余裕ありそうだ。

 まあ戦車の主砲を盾で弾いてぶっ飛ばすのに比べればずっと楽だろうとは思う。どっちもどっちではあるけど。

 

「第二セフィラ、開通」

 

 そこで、追い打ちとばかりにベルが新たなセフィラを拓き始めた。

 

「来なさい、コクマー」

 

 機関銃を撃ち続けるケテルの隣にもう一つ、大きな歪みが生じ、その中から色彩に染めあげられた鋼鉄の獣のような個体が顔を出した。

 また私の知らない預言者だ。

 

"―――ホシノ、バリアを!"

「人使いが荒いなぁ!!!」

"みんな、ホシノの後ろまで後退して!"

 

 しかし先生は知っているのか即座に指示を飛ばした。

 それにホシノ先輩が応じるのとほぼ同時に、コクマーと呼ばれた預言者がぐっと息を吸うように身を逸らした。

 ゲームかなにかで見る、ブレスを吐く前の姿勢―――

 直後、コクマーの口腔から猛火が吐き出された。

 同時、ホシノ先輩が掲げる盾が巨大な障壁を展開。猛火は障壁によって防がれ、後退した仲間達を守り切っていた。

 

「凄いですホシノさん! タンクレベルカンストですね!」

「ホントに凄い! でもこのバリアって破れたりしない? 大丈夫?」

「うへぇ、おじさんのこれはビナーでも破れなかったから大丈夫だと思うよ。一応今まで一度も破られた事ないから」

 

 後ろに下がったミレニアムの子達がきゃいきゃいと盾を翳すホシノ先輩を褒めそやし、それに彼女は苦笑しながら受け流す。

 その間も目は周囲を探っていた。多分ミメシスの便利屋の動向を探ったのだろう。

 猛火で遮られて見えないし、ケテルの機関銃のせいで音も辿れないけど。

 

「第三セフィラ、開通」

 

 そこに畳み掛けるように、ベルが更にセフィラを開拓した。

 それを合図としたかのようにケテルとコクマーが顔を引っ込ませた直後、一際巨大な歪みと共に顔を出したのは、アビドスの面々なら誰もが知ってる因縁深い存在―――たったいま話に上がったビナーだった。

 黒く染まったそれがガパリと口を開き、エネルギーを貯め始める。

 

「あの……ホシノさん、大丈夫そう……?」

 

 それを見た桃色のヘッドフォンを付けた子が不安そうに問いかけた。

 ホシノ先輩は色彩に染められたビナーを見て、たはは、と乾いた笑いを漏らす。

 

「流石にここまで短時間で連続して使った事ないからわかんないや」

「ヤバいじゃん!? ちょ、ちょっとこれは聞いてないって!」

「うわーん! このままじゃゲームオーバーになってしまいます!?」

「ちょっとアンタ、流石にやり過ぎじゃない!? 演習なのに命の危機レベルに突入してるんだけど!?」

「ちょっとは加減しなさいよコラァ!!!」

 

 ホシノ先輩の返答に、桃色の子と元王女が慌て、美食研究会の赤毛の子とセリカが怒号を上げ始めた。他の子達にも動揺が広がり始める。

 実際演習だから命の危機を感じるとなると文句の三つや四つは言いたくなるだろう。

 

「まあでも、いけるよ。おじさんを信じなって」

 

 それを、凛とした声音でホシノ先輩が収めた。

 

"流石ヒーローだね。任せたよ、ホシノ"

「うへぇ、信頼が重いよぉ」

 

 そこで掛けられた先生からの声援に、先輩がにへらと笑い、前を向く。

 色彩化したビナーの直下に立ち、再現された便利屋と無数の軍勢を従えたベルが、ホシノ先輩と視線を交わす。

 

「いいのね?」

「いつでもどーぞ」

 

 短く交わされたそのやり取りの直後、貯めを終えたビナーの主砲が放たれた。

 ゴヴァッ!!! と空気を裂きながら突き進む極光が、展開されていた障壁に阻まれ、食い破らんと(せめ)ぎ合う。エネルギーの衝突の余波でバチチッ、と紫電が散った。

 しかし―――障壁は、終ぞ破られなかった。

 極光が止んだ時、誰も傷ついてはいなかった。

 

「ふぃー……流石にヒヤッとしたね」

 

 翳していた盾を下げながら彼女はにへらと笑い、一息入れた。それだけで呼吸を整え、次の戦いに向けた態勢を整える。

 幾らかの消耗はあるが、仕切り直しといった状況だ。

 だが―――セフィラを三つ拓いたベルの力は、最初よりも増している。

 

「第四セフィラ、開通」

 

 そして、ベルが更にフェーズを進めた。

 ある程度減っていた色彩に侵食されたオートマタ達がどこからともなく増え始め、ユスティナ信徒と無名の守護者も補充される。

 第四の預言者は、たしかケセドだ。元は軍需工場の生産AIだったもの。

 数を整えることに特化した預言者だ。

 だが―――

 

"アリス!"

「はい! カンストタンクが頑張ったなら、次は勇者の番です! 光―――よッ!!!!!!」

 

 守られている間、ずっとチャージし続けていた元王女―――勇者の光の剣が火を噴いた。

 続々と現れたオートマタや無名の守護者たちが展開する前のところに撃ち込んだため、一気に消し飛ばし、無力化する。

 その光景を見たベルはちょっと固まっていた。

 

「おおっ、流石アリス! よーし私達も続こう!」

()()()()()()()()()()()()()()ー♪』

「わっ、またあの人が来た……!」

「お姉ちゃん、出すぎちゃダメだよ!」

()()()()()()()()()()

()()()()()()()!』

()()()()()

"一斉に動き出したね! でも、バラバラになるより分かりやすい!"

「だねぇ。あはは、うちの学校を襲ってきた頃の事を思い出すね~」

「ん、あの時は傭兵達もいっぱいだったね」

「懐かしいですね~」

「ロクな思い出じゃないというか、思い出すのそれでいいのかしら……」

「うふふ、賑やかでいいですね。こんなに清々しい気持ちで戦えるのも早々ありませんわ」

「この後の食事はとても美味しくいただけそうですね~」

「少し休んだら気持ち悪いの飛んだし、まだ頑張れそう! お腹空いたけど!」

「とりあえずさっさと片付けるわよ!」

「強ボスを倒す役目はアリスに任せてください!」

 

 アリスの快進撃を見てか、全員の士気が上がって和気藹々とし始めた。再現された便利屋やオートマタ達と戦いながらでもその賑やかさは続いている。

 

"よし! みんな、もうひと踏ん張りだよ!"

 

 それを先生が指揮者として束ね、動かしていく。

 

 ―――とても、眩しい光景だった。

 

 そして、ベルも同様に眩しいものを見るように目を眇めていた。その表情も一瞬で改められたけれど……

 

「―――第五セフィラ、開通」

"ゲブラか……! アリス、右肩部分の砲台に撃ち込んで!"

「冷凍ビームですからね! 魔力、高速充填を開始します!」

「ん、なら充填まで爆発物で時間を稼ぐ」

「わ、私も撃ち込んでみます……!」

「じゃあおじさんはアリスちゃんを重点的に守るよ」

「よろしくお願いします!」

 

 強固な盾に、強力な剣。

 その双方が揃っていて活路を見出せたのもあるからか自然と二人を軸にして動き始めた。致命的になり得る部分は先生の指揮でカバーし、他は各々のスタイルに任せて対処していく。

 僅かにだが、確実に趨勢は傾き始めている。

 このまま続けば逆転され、ベルは敗北を喫するだろうけれど……

 彼女は、それを期待するかのように不敵に微笑んでいた―――

 

 

 その後、完全に本気になったホシノ先輩と、勇気凛々のアリスを軸にした先生の指揮によって再現便利屋が敗北したのを契機に演習を終えた。

 

 

「それで、どうだったかしら。結構加減はしたつもりだけれど」

"……とりあえず、もっと難易度落とそうか"

「えっ……」

 

 先生からの総評に、厳し過ぎると言われたのがとても心外そうだったのが印象的だった。

 色々経験した先生の指揮や吹っ切れたメンタルの先輩だからどうにかなった場面が少なくないから、まあ妥当な判断だろうな、と私は苦笑したのだった。

 

 

 


 

 

 

・陸八魔ベル

あまねく奇跡の求道者

遺品に刻まれた想いや歴史をテクストとして読み取り、ミメシス技術で抽出して再現するというほぼ英霊召喚みたいな事をし始めた。ベルとしては死体遊びに近く、死者への冒涜と考えている。しかし『必要なこと』なので実行に移した

善良な精神性こそあるが倫理観はかなりゲマトリアに寄っており、復讐者でもあるため常識を分かった上で踏み抜く。『目的は手段を正当化しない』と分かった上で罪を犯す

このあとの反省会で『再現』に際しての戦闘ラインを大幅に下降修正するよう強く叱責される。連合作戦の演習は苛烈ではあったがこれでもかなり加減している方

色彩ビナーの主砲『アツィルトの光』を撃つのは流石に躊躇った

残る未出の鹵獲預言者は第八セフィラのホド

今回の演習にて神デカグラマトンの半分ほどの神性を獲得した

 

・Beru/Army of Iridescent(色彩の軍勢)

自分から手出ししない指揮者タイプの制約解除決戦ボス

崇高複製の便利屋68、色彩ケセドの色彩オートマタ、ミメシス技術の色彩ユスティナ信徒、アトラ・ハシースの箱舟の再構築能力の無名の守護者で兵力は無尽蔵

その他折を見てデカグラマトンのように色彩侵食預言者を呼び出して攻撃する

 

・ミメシス便利屋68

各々の銃に蓄積されたものを核に複製された影法師

やってる事はネクロマンサーに近い

キヴォトス大乱を生き延びているので全員の実力は極めて高くなっているが、シロコ*テラーが類推しているように生前の自律思考は無いので成長性、発展性、感情の爆発による限界突破などは無い

 

・連合作戦参加生徒

『最終編』の脱出シーケンス時にいた面子

ウトナピシュティムの本船に乗船し、かつオペレーター以外で確定で動ける者で初回演習をした

これは『再現』の最終盤、コピープラナを託して制約解除機能を解放した後に予定している戦闘の予行演習を兼ねているため

鍵は小鳥遊ホシノと天童アリス

実際はオペレーターの補佐などが入るのでもう少し楽になる見込み

ベルの事情は全員聞いており、快く参加した*1。それはそれとしてちょっとやり過ぎではないかと全員思っている

 

・シロコ*テラー

秘儀を回収した当事者*2

並行世界出身なので予行演習相手としては不適として見学に

本作では「色彩を介して情報を得る」という設定が嚮導者にはあるため、短時間でも嚮導者であったシロコ*テラーはそれなりに理解がある方。ただし知れる立場ではあったが調べるかどうかは当人次第なので、コクマー、ゲブラなど知らないことも少なくない

 

・プラナ:ベル

プレナパテスと共に来たプラナの記録も共有しているベル世界の自認のA.R.O.N.A

一度は奇跡世界の先生のシッテムの箱に合流してプラナ同士で融合したが、ベルの旅路を共にするにあたってその時は分裂するように。『再現』に際して虚妄のサンクトゥム生成など、プラナ:プレナパテスの記録を元にサポートにあたる

迂遠的にベルが『再現』のために動く開始と終了それぞれで先生と顔を合わせる理由付けにもなっている

プラナ:ベルはベルがアルだった頃の言動をよく知っている

 

・先生

ベルの強さが思ってた以上で冷や汗を流した人

デカグラマトンみたく預言者を召喚し始めてビックリした

鋼鉄大陸も超えて制約解除決戦にも慣れているから何とかなったが、未経験だとまず間違いなく色々間に合っていない確信もあり、反省会で色々細部を詰めて修正することに

ミメシス便利屋の強さから察せられる世界事情に内心荒ぶっている

 

*1
把握しているのはシロコ*テラーが知っている事とキヴォトス大乱、赤い空が来なかった場合の話まで。『偽物』『本物』『知識』などは知らない

*2
原作でどの程度まで理解しているかは不明




明日の更新ですが、レイド用情報(生徒情報みたいなの)にさせていただきます
攻略掲示板のレイド情報まとめみたいな感じです

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