めっちゃ高評価とお気に入り増えてて感想まで来て本当に感謝です
ルーキー1位にもなってて光栄です
筆が乗ったのもあって次話は本日18時予約投稿済みです
パチモン視点、本物視点と変わります
失敗した、と幾度目かも分からない独白を胸中で零す。
キヴォトスへの移動はあまり細かな操作が出来ない。一度大枠で入り、そこから転移で細かく移動するのが常だった。
加えて―――これは、あくまで推測だが。
どうにも初回の転移先は『その世界の縁』に引き寄せられている気がしていた。
本物が率いる便利屋68と出くわす頻度が高いのだ。おそらく"私"を構成するテクストの類似性によるものなのだろう。
……そう、並行世界の彼女達と顔を合わせるのもこれが初めてという訳ではない。
慣れた事の筈だ。既知の筈だった。
だが、こちらを見て驚いた後の行動を躱せた試しは一度も無い。
心配そうに、不安そうに飛び掛かってくるムツキを避けられた試しは無い。
憂いの表情で問い掛けてくるカヨコを無視できた事は無い。
オドオドと不安そうに、けれど決して弾劾しないハルカから目を逸らせた事も無い。
……そんな彼女達を率いる本物を前に、平静でいられた試しも。
別人だとは理解している。
顔も性格も既知のそれ。別人だが、並行世界の同一人物。
邪険に出来る筈も無かった。
たとえそれが、私の前で死んだ3人への不義理になるとしても……
無理矢理にでも退散すべきだったと、後で自省する事になるのだとしても。
守りたい価値あるものからは、逃げられないのだ―――
一日を休暇としたその日、便利屋68の社長である私は溜まりに溜まった書類を捌く事に時間を費やしていた。
社員3人は各々好きなように時間を使っているだろう。
正直カヨコに手伝ってもらった方が効率は良いのだけど、これは自分がやるべき事だ。少しは見栄を張りたい。
報酬を踏み倒されて実質タダ働きが続いている身で何を言っているのかとも思うけど。
「はぁ……先生に仕事を回してもらおうかしら……」
ポチポチとキーボードをタッチしながらボヤく。
先生。
経営顧問として時々相談相手にもなってくれているシャーレの顧問である彼は、あまりに財政状況が悪い時、差し入れだったり報酬が確約されている仕事をこっそり流してくれたりと、便利屋のことをよく見てくれている大人だ。
彼のお陰で最悪の事態を避けられた事も少なくない。
私もいつかはあんな立派な大人として組織を安定して回せればと思っているのだけど……
中々、思うようにはいかない。
現実は時に厳しい。
「はぁ……どうしたものかしらねぇ……」
コーヒーを注いだカップを持ち、口に含む。温くなった苦く酸味のある液体が舌を刺激してきた。
社員達が居ないのに見栄でブラックにする必要無かったかもな、と思う。
いやシュガースティックの本数減ってたらバレるし……と、誰もいないのに反論がすぐに浮かんだ。
"―――やほ、アル"
「んごふっ……!?」
そう思っていたら、いきなり廊下から人影―――さっき思考に上げていた先生が姿を現し、軽快に挨拶してきた。
あまりに予想外なタイミングに飲み込む前だったコーヒーで噎せてしまった。
ギリギリで顔を背けたから服はもちろん、PCや決算書類には掛からなかったけど……
「げほっ、げほ! せ、先生!? なんで、ここに……!」
"カヨコに呼ばれたからだけど……大丈夫?"
「え、ええ……けほっ、うぅ…………いきなり過ぎてびっくりしたわ……足音は聞こえてなかったと思うのだけど……」
"最近、忍者を志す子から忍び足の極意を教えてもらってね。早速試してみたんだ"
「そ、そうなの……」
どう? とワクワクとした雰囲気で問い掛けてくる彼に苦笑を返す。言外の声は聞こえてない事にした。
アウトローの事務所に忍び足一つで入り込まれてそれに気付きませんでしたなんて認めるわけにはいかないのだ。
コーヒーを噴き出してる時点で気付いてなかったと言っているようなものとは言ってはいけない。
「それより、カヨコが呼んだの? 今日は一日フリーだから特に協業案件でもないのだけど」
"私も内容までは。ただ『緊急案件、事務所まで来て』ってあっただけで"
「……なにか巻き込まれたのかしら」
PCの作業を一旦保存した後、ふむ、と口元に指を当て考える。
便利屋を怨む者は、まあ正直多いと思う。裏の仕事に従事し、舐めた事をする連中には容赦の無い報復を――主に社員達主導で――実行し、その名を轟かせてきた。
ご近所さんからの評判は悪くない。
でも敵対した連中からの恨みは間違いなく買ってる。報復相手に関しては、そもそもキッチリ報酬を出すなり騙してこなければ良かった事だから逆恨みだけど。
そういった者達が、私達がバラバラになったところを狙ってきた……という線は普通にある。
「……でも私の方には何も連絡が無いのよね」
"そうなの?"
「ええ」
自身の端末のモモトークを見るが、3人とも最後の連絡は昨日以前。他のメッセージボックスを確認してもやはり緊急性を伴うメールは送信されていない。
作業に没頭して気付いていなかったのかと思ったけど、そうではないらしい。
「まあカヨコは悪戯で人を呼びつけるような子じゃないし、何かあったのは確実なんでしょうけど……」
"そうだね……猫を拾ったとかかな?"
「うーん、わざわざ先生を呼ぶ程とは……それにウチで飼うにも色々と問題があるしねぇ。カヨコがそれを無視して拾ってくるとは……」
"それもそっか"
仕事柄、普通に危険なので小動物を飼う事は流石に厳しい。
あと金欠で家賃滞納して野宿になったりとか、ご飯抜く事もあるので虐待になる。
社長としてのプライド故に明言はしないけど。
まあ先生はそれを見てるし知ってるから意味無いでしょうけど。
「とりあえずお茶を出すわ」
"いや、大丈夫だよ。道中で買ってきたし……あとこれ、差し入れね"
そう言ってガサリと手に提げていたレジ袋が置かれる。中を見れば人数分のお茶のペットボトルと一食分のお弁当だった。
金欠の身としてはありがたい。
「うっ……あ、ありがとう。いつも悪いわね。今度報酬が入ってきたら必ず返すわ」
"焦らなくていいからね。というかその様子だと、また報酬踏み倒された感じ?"
「ぐっ……え、ええ……報復のためにも色々使って、正直赤字で……」
"……シャーレの仕事、回そうか?"
「…………後で教えてもらえるかしら」
"いいよ"
なんでもお見通しとばかりに言い当てられて、降参とばかりにお願いする。くすりと先生は苦笑して頷いてくれた。
ああ、もう……自分が情けなく感じる……
いや実際社員達に苦労掛けてるから情けないのだけど……
うぎぎ、と歯噛みしながらお弁当類が痛まないよう冷蔵庫に仕舞っていると、複数の足音が廊下から聞こえてきた。
足音は3人分。
どうやらハルカはかなり短めのバイトにしていたらしい。
「あの子達が帰ってきたみたいね」
"そうみたいだね"
夕食にはまだ早すぎるので弁当だけ仕舞って、ペットボトルのお茶だけ再度机の上に戻し、社長用の椅子へ戻る。
先生は勝手知ったるとばかりに――実際事務所に来た時の定位置である――ソファに腰掛け、3人の到着を待つ体勢を取った。
そうしてカヨコ達が戻ってきて―――
「ただいま社長、先生。別世界のアル拾ったよ」
「逃げないようにムツキちゃんがホールドしてまーす!」
「……………………邪魔するわ」
廊下から姿を見せたのは、成長した私みたいな女性と、その手を引くカヨコと、コートで見えないが後ろから腰に手を回してホールドしているらしいムツキだった。
3人目の足音はハルカではなくその女性のものだったようだ。
「なっ、なななな、なんですって――――!?!?!?」
あまりに予想外なその人物の登場に、私は驚愕のあまり声を上げてしまった。
"君は……並行世界のキヴォトスの、アルかい?"
「簡単に言うなら、そう。私の事はベリアルと呼びなさい。呼び分けにもなるわ」
驚愕のあまり固まった私を他所に、いち早く復帰した先生が問いかける。
それに応じた女性は、自らをそう自称しながら肯定した。全面的な肯定ではないらしいけど……
関係上はアビドスに降り立った黒いドレスの方の砂狼シロコに位置するのだろうか。
「それにしても、この子達もそうだったけど先生もいやに理解が早いわね。もしかして前例があるのかしら」
"……まあ、そうだね"
「……なるほど。砂狼シロコね?」
そこで、ピタリと前例の人物名を言い当てた。
ぴくりとカヨコが片羽を揺らし、もう一人の私を見上げる。先生も少し表情が硬くなった。
"知ってるの?"
「情報としては。
"……!"
淡々と告げる彼女に、今度こそ間違いなく事務所の一室に緊迫感が充満した。
―――『色彩の嚮導者』。
その存在を私達は知っている。空が赤くなったあの日、色彩と共にキヴォトスへ襲来し、世界を滅亡させんとした存在の尖兵だ。
そしてそれに付き従っていた黒ドレスのシロコを、こちらの先生に託した存在でもある。
それと同じ存在だと目の前の女性は言っている。
おそらく……世界を破滅させる者の座に就いているのだと。
"……でも、空は赤くなってないよね。色彩に類する反応も確認されていない"
「その気が私には無いからよ。私が滅ぼすものは、キヴォトスでも……」
そこで、もう一人の私が視線を逸らす。ちらりと向けられた先にあるのは自身と繋がれた手と、腰に巻かれた腕。
それらを見てから彼女は先生へ目を向け直した。
「……別人とは言え、社員達でもない」
"そっか……なら、いったい何を?"
「……知る必要は無いわ」
そこで、淡々としてはいたが答えていた彼女の纏う空気が硬くなった。どうやら触れられたくない部分らしい。
……けれどそれは、物事の核心という事も表していて。
「えー! ムツキちゃん知りたーい!」
それを鋭敏に感じ取ったムツキが彼女の背中で駄々をこね始めた。途端、彼女の暗澹な面持ちがしかめっ面になった。
「聞こえなかったのかしら。知る必要は無いと言ったのよ」
「ムツキちゃんはあると思いまーす! というか教えてもらうまで絶対離れないよ? いいの?」
「……いま私が後ろに倒れ込んだらあなたは潰されてケガする訳だけどいいのかしら?」
「
「…………ハァ……」
駄々をこねるムツキとの応酬に、頭が痛いとばかりに頭を振って手を持ち上げ―――それが止まる。
カヨコが彼女の左手を握り続けているからだった。
「……あなたも、そろそろ離しなさい」
「いや、離す訳ないでしょ。何のために先生まで呼んでここに連れてきたと思ってるの」
"私も聞きたいかな。君も知っているように、シロコという前例があるからね"
「……私まで背負おうと言うの? あの子と違って、託された訳でもないのに」
ムツキに拘束され、カヨコにも手を引かれたもう一人の私がジロ、と先生に濁った眼を向けた。
"そこも知ってるんだね……私は別に頼まれたり、託されたから背負っている訳じゃないよ。それが世界を背負う者の、そして大人の責任だからだ"
「私ももう大人よ。27歳だもの」
"シロコの例を踏まえて聞くけど、君、ちゃんとゲヘナは卒業した?"
「……………………」
ぐっ、と押し黙るもう一人の私。
「え、私卒業せずにアラサー迎えるの……?」
「……あなたは問題無いでしょう。私の世界では、それどころじゃなかっただけだから」
私の呟きに、彼女は律儀に応じてくれた。
いやなんか物凄い不穏な情報も聞こえてきたけど!
「それどころじゃって、いったい何があったのよ?」
「……別世界の砂狼シロコと、概ねは同じ。違いはシャーレの爆発で先生が即死だった事よ」
「「「……!」」」
"……そっか"
シャーレの爆発。
それはこちらでも起きていた。いや過去にも何度か起きていた*1けど、あくまでキヴォトスの茶飯事として処理される小規模なものだった。
直近で起きた爆発は異例の大規模としてニュースになる程だった。
勿論シャーレの存在感がずっと増していて、注目度や重要度が高まっていたのもあるだろうけど……
「たしか黒いドレスのシロコがシャーレに来るようになる前にあったわね……」
「ああ……なるほど。地下生活者の一件も終わってるのね」
"それも知っているの?"
「さっきも言ったけど『色彩の嚮導者』よ、私は。情報としては色彩を介して知っているわ。どのキヴォトスで起きた事かまでは気にしていなかったけれどね」
はぁ、と苦い記憶故か彼女は顔を顰めながらため息を吐いた。
それはそうだろう。私達が日々世話になり、親しくしてもらっている先生が死んだ時の事を思い出しているのだ。
地下生活者という者がそれを引き起こしたのだとも知っている。
思い出すだけで鬱屈とするだろう。
彼女からすれば―――怨敵そのものなのだから。
私はそこまで誰かを深く怨み、憎んだ事は無い。
……世界を渡っている彼女の目的は、もしかして。
「ねぇ、訊きたい事があるのだけど」
「何かしら、本物」
「ほ、ほんもの? い、いえ、それはいいわ。それよりあなた、もしかして……その地下生活者とやらへの復讐で、色んなキヴォトスを渡り歩いているの?」
「…………否定はしないわ」
問いに返されたのは、消極的な肯定。
復讐、憎悪を彼女は受け入れているらしい。
その上で―――彼女は、何かを為そうとしている。
ふと、先ほどの彼女の視線の動きを思い出す。
腰に回されたムツキの手と、自身を離さないカヨコの手に向けられた眼は―――
「あなた、3人はどうしたの?」
―――その問いを投げた瞬間、鋭い殺気が飛んできた。
向けてきたのは当然もう一人の私だった。
その反応で、答えは分かった。
「……そう。そうなのね」
「っ…………」
明確に言葉にはしない。けれど言わんとする事は彼女にも伝わったらしい。苦悶の顔に、深い悔悟の念を浮かべていた。
……その念は、正しくないと思う。
悔悟とは、自身に起因する過ちを悔いること。
でも3人の死はきっとあなたのせいではなかった筈だ。
―――伝えるべき事が出来た。
社長椅子から立ち上がり、もう一人の私の傍に寄って彼女の右手を手に取る。
「みんな。少しの間、2人きりにしてちょうだい」
私からのお願いに、彼女は隠しもしない渋面を浮かべていたが。
ムツキが離れ、カヨコが手を離しても、逃げる素振りは見せなかった。
・パチモンアウトロー*アラサーテラー
守りたい相手に強く出られない反転者
かなりの高頻度で並行世界の便利屋と遭遇しており、その都度別離も経験しているが、力ずくで逃げようとしないのは守りたいものの再確認のため
パチモンは社員達の事を大切に想い続け、取りこぼした罪の自覚と自省による自傷が発狂を押し留めている
せめてもの誠実さとして嘘、偽りは口にしない
また頑なにムツキ達の名前を口にしない
本物を前にして限界ギリギリ
・ゲヘナモノホンアウトロー
あまねく奇跡越えの陸八魔アル
パチモンアウトローにとって原点にして自身が目指した理想
シロコ*テラーの過去は詳細こそ知らないがアビドスの生徒達とのやり取りや先生の気に掛けようから凡そ予想している
パチモンを見て思う所が出来た
実は内心でもパチモンが名乗った『ベリアル』の名を一度たりとも認めていない
・先生
いわゆる便利屋先生
特に根拠は無いが『ベリアル』と呼ぶことを避けつつ、『アル』とも呼ばれたくなさそうなので二人称で会話した
明らかに放っておける身の上ではないパチモン自身が助けを求めてなさげ+根無し草の放浪者なので取っ掛かりに困ったが、アルが動き出したのを見て静観に回った
このあとバイトから帰ってきた何も知らないハルカに頑張って事情説明する