陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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先生視点です
屋内(ムツキだけ召喚)最終戦関連のストーリーになります


ベル(屋内戦)最終戦後ストーリー 残影のトリックオアトリック

 

 

 

 

 


残影のトリックオアトリック


 

 

 

 

 

 

 ダダダダダダ、と断続的な射撃音が響き渡る。

 召喚された"ムツキ"のマシンガンと、色彩化オートマタやドローン達の一斉射撃が奏でるそれに、相対する生徒―――『ゲーム開発部』の4人を指揮して私も抗う。

 今はアリスが自動充填中の光の剣を盾にしてモモイ、ミドリ、ユズを守っている状況だ。

 

"ユズ、今から指示する方向に曲射して!"

「わ、わかりました……!」

 

 シッテムの箱を介し、着弾させたい位置から角度を逆算した発射方向をユズへ伝え、グレネードランチャーを撃ってもらう。

 私は着弾までの間に次の指示を出していった。

 

"モモイ、ミドリは着弾後に一気に斉射を! とにかく動きを乱せればいいから!"

「ラジャー!」

「了解です!」

"動きが乱れた隙にアリスは"ムツキ"に光の剣を!"

「分かりました!」

 

 アリスが元気よく応じた直後、ユズが放ったランチャー弾が着弾。爆発とその余波を受けて掃射の波に乱れが生じる。

 その瞬間、モモイとミドリがアリスが翳す光の剣の陰から銃口を突き出し、やられた分をやりかえさんとばかりにありったけの弾を乱れ撃ちした。ユズも角度を低くしほぼ直撃させる形で参加し、更に隊列を乱していく。

 

()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()!?』

 

 そこで、ベルが指示を出したのか"ムツキ"が動き出した。ニヤリと好戦的な笑みと共に後ろ手に提げていたバッグを振りかぶる。

 

「またバッグを……!」

 

 うげぇ、とモモイが呻きを上げた。ちょうど弾切れでマガジン交換中だから、空中で撃って落とす事が出来そうにない。これはミドリも同じ。

 ユズのグレネードランチャーは撃墜するのには不向き。

 上手い具合に差し込んできたな、と歯噛みしながらも笑みが零れた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!』

「させません! 光―――よっ!!!」

 

 ブオン、と勢いを付けて爆弾が詰まっているだろうバッグが投げられたのと同時に、アリスが光の剣を展開し、極大のエネルギー弾を放った。

 一際大きいエネルギー弾は放り投げられたバッグを誘爆させ、そのまま"ムツキ"へと直進。ゲーム開発部の子達と遜色ない小柄な少女の体はエネルギー弾の直撃を受け、いとも容易くぶっ飛ばされた。仕込んでいた手榴弾や地雷などがエネルギーに触発されたからか、宙を飛ぶ少女は幾度もの爆発に呑まれ、そして消えた。

 それを暫くベルは目で追っていたが、やがて爆炎の中から少女が出てこない―――つまり消滅した事を悟ったようで、パン! と手を叩いた。

 直後、まだ残っていた色彩に侵食されて禍々しい色味になっているオートマタ達が、空間に開いた黒い歪みの中に消えていく。

 そして彼女はこちらに不敵な笑みを向けた。

 

「おめでとう、勇者達よ。そなた達の勝利と認めよう」

 

 そして、ゲーム開発部の子達が――特にアリスが――好きそうな言葉選びで、勝利を称えた。

 途端モモイ達がぱぁっ! と喜色を露にする。

 

「ぱんぱかぱーん! アリス達は四天王の1人に勝利しました!」

「いえーい私達の勝利~!」

「なんとか勝てた……勝ててよかった……」

「うう……オートマタは暫く見たくないです……」

「ですがユズの範囲攻撃は強力な攻め手でした! キルスコアで言えばユズがトップです!」

「よっ、UZQueen! 流石だねぇ!」

「あ、ありがとう……モモイの足止めも、ミドリのヘッドショットも凄かったよ。ラストアタックを取ったアリスちゃんもね」

「へへー」

「ありがとう、ユズちゃん」

 

 四者四様に無邪気に喜ぶ様子に頬を綻ばせながら、私は一緒に観戦していた子達と共にベルの方へと近づいた。

 同じように頬を綻ばせていたベルも、こちらに気付いて歩いてくる。

 

"お疲れ、ベル。最後の"ムツキ"の行動は特に上手かったよ。アリスのチャージが終わってなかったら負けてたかも"

「ありがとう。とはいえ対処されちゃったけどね。あなたの指揮にはまだまだ及ばないわ」

"まあ、私が戦闘で役に立てるのはこれくらいだからね"

 

 前に立って戦う力や体の頑丈さを持たない私はみんなを指揮して助ける事くらいしか戦いでは役に立たない。相手の戦力や状況によっては足手纏いになることもある。

 指揮自体はシッテムの箱が無くても問題無いけど、相手の位置情報や細かな指示は出来なくなるし、なによりアロナの守りが無くなるのは銃弾が飛び交う戦場に於いて致命的過ぎる。そしてアロナの守りも、ゼロ距離での催眠ガスなどには無力だ。

 デカグラマトンにはシッテムの箱を無力化もされた。大人のカードが通用しない事もあった。

 そこをここ最近で特に思い知っているから指揮の精度を上げる事には精力的な方だと自負している。負けてはいられないのだ。

 ……まあ彼女との初回演習では、加減されててもそれを危うく上回られかけたのだけども。

 この度重なる連合作戦演習は私にとっても多くの学びになっている。失敗しても何も問題が無いからこそ、試行錯誤した戦術指揮を試す場として大いに助かっていた。

 

 そんな想いの私の言葉に、ベルの表情は呆れのそれになる。

 

()()()()()、ねぇ……本当に指揮しか能の無い人ならここまで信用と信頼を向けられるわけないでしょう」

「まったくもってその通りです」

 

 呆れと共に言いながらベルが視線を私から横へ逸らすと同時、共に観戦していた一人―――白髪赤眼の少女、天童ケイが呼応するように肯定した。

 私達よりもずっと小柄な彼女は、かつては敵でもあった存在―――名もなき神々の王女を支える鍵だった者。

 かつては敵愾心を剥き出しにしていた彼女も、預言者との戦いを巡る中で残滓ともいえるデータから復活し、紆余曲折を経て使命よりも『なりたい自分』という未来を選んでからは極めて友好的になり、シャーレの当番にも度々来ては私を助けてくれている。

 ゲーム開発部にアリスがいるのもあってモモイ達の面倒もよく見ていて、今回はそれもあって観戦を希望して箱舟にやって来ていた。

 理由はゲーム開発部の面々の戦闘分析。『モモイ達に細かな分析や改善案の提示は難しいでしょう』という何とも辛辣な……でも、酷い話だけど、ちょっと否定できない理由だった。

 そんな少女がむっとした顔で隣の私を見上げてくる。

 

「この人は自分を軽く見過ぎているんです。もっと言ってやってください」

「―――それはまた次の機会にしましょう。今は演習の振り返りを優先するべきよ」

 

 ケイのその言葉を遮ったのは、観戦者の一人であるミレニアムのセミナー会長、調月リオ。

 彼女は『無名の司祭の技術関連を知れるかも』というケイとはまた異なる理由で演習の観戦に来ていた。

 

「そうですね。このミレニアムの超天才清楚系病弱美少女ハッカーの明星ヒマリがいかに信頼し、また信用を置いているかを理解していただく機会は別に設けるとしましょう。時間はたっぷりありますから」

 

 いつもと変わらず黒のビジネススーツ風の制服に身を包む少女の横で、対照的に真っ白な制服と車椅子、髪や肌の色をした少女、明星ヒマリが頷く。彼女はライブラリー・オブ・ロアなどの特異現象について、現在も静かにだが調査を続けている。それを行使しているベルに話を聞きたいとのことで観戦に来ていた。

 ちなみに、観戦者はこの3人で全員だ。大きいシロコは外せない用事があるからと残念そうに連絡してきたから今回は居ない。

 

"実際戦闘だとそれくらいしか出来てないと思うんだけどな……"

「あなたが言う『それくらい』の価値は蔑ろにしていいレベルじゃないということよ。謙遜も過ぎれば欠点よ?」

 

 私の呟きを拾ったベルが呆れ顔でそう言うと同時、ケイ、リオ、ヒマリが揃って頷いた。*1

 私に味方はいないらしい。

 いやまあ、まったくもって無駄だとか無価値と言われるよりはずっといいし有難いことだけど……

 鋼鉄大陸を一緒に戦い抜いた面子だからこそ、取りこぼしてしまったものを考えて、ネガティブになってしまっているのかもしれない。

 

 ―――それから6人で演習の結果や作戦について振り返った。

 そもそも『再現』では負ける前提だからそこまで振り返らなくていいのだけど、あちらの私達に少しでも悟られにくいよう本気で滅ぼしにきてるように見せかけつつも負けるという塩梅にしたいらしい。

 勿論やり過ぎかどうかの確認が主題ではある。しかし今回の演習ではアリスという強力な火力枠がいて、鋼鉄大陸含めて様々な戦闘経験があるとはいえ根っこはゲーム開発が主軸の非戦闘員という事を意識していたのか、あるいは今日までの指摘を留意してか、やり過ぎに関しての注意は無かった。

 なので演習の振り返りは、早々に『リオやヒマリ達が当時の立場でその戦闘を見てどう判断するか』という点にシフトしていった。

 

「ねぇねぇベル! 暇だから箱舟の中を探索してきていい!? 宇宙船のネタにしたくて!」

 

 その最中、暇を持て余したモモイが堪えきれないとばかりに話に割って入って、そんな質問をした。

 それにケイが「はぁ!?」と、信じられないと言わんばかりの声を上げる。

 

「今製作中のゲームに宇宙船やSF関連のものは無いですよね!? またファンタジーにSFを混ぜる気ですか!?」

「いや違うよ!? 取材できる機会なんて早々無いんだから今の内にしとこうって事だよ! 本船に乗った時とか占領戦の時とかそんな余裕無かったからじっくりしたくて!」

「箱舟についてのデータは私が知ってるので後で図面を引いてあげますよ!」

「図面で見るのと自分で探して見て回るのとじゃ全然違うよ! 私は生で見たいの! ケイも分かるよね!?」

「それは、まあ……―――いえ、それとこれとは話が違います! そもそも『ウトナピシュティムの本船』もそうですが『アトラ・ハシースの箱舟』も宇宙船ではありませんからね! 『アトラ・ハシースの箱舟』は『プロトコル:ATRAHASISによって生み出されるモノ』であり、その形は一つのものと定まっていない具象化した概念なんですよ!」*2

「あーそういう専門的なのはいいから! 人が見てどう思うかがこの場合大事なの! 私は宇宙船だと思ったから!」

「そうやってあなたはいつも人の説明を!」

「ケイが難しいことを言うからだよ!」

 

 突発的に始まった喧々諤々の言い争いに私達は呆気に取られてしまった。

 ベルも唐突な要望とその言い争いを見てわずかに目を見開いていたが、すぐに苦笑を浮かべ、頷いた。

 

「あー、モモイ? こっちは予備の船だから内部はスカスカだけど、それでもいいなら見て回っていいわよ」

「ホント!?」

「ちょっとベル、甘やかさないでください!」

「甘やかしじゃなくて、私のことで付き合ってもらってるからそのお礼よ。宇宙船じゃないのは確かだけどイメージの助けになるなら構わないわ」

「ありがと、ベル!」

「あ、ありがとうございます、ベルさん……でも箱舟って広いから迷いそう……」

「話し合いが終わったらプラナの転移で地上に戻すから、好きに探索なさい」

「つまり時間制限付きの探索イベントですね! モモイ、ミドリ、ユズ、早速行きましょう!」

「だね! 色々見て回って"いんぴれーしょん"を掻き立てよう!」

「お姉ちゃん、それを言うなら"インスピレーション"ね。ベルさん、ありがとうございます」

「ええ、気を付けて行ってらっしゃい」

 

 ベルの許しを得たゲーム開発部の4人はドタドタとナラム・シンの玉座から出て行った。

 その背中を、ケイはぐぬぬと不満げな顔で見送っていた。

 

「ケイ、分かってほしい気持ちは分かるけど、これもケースバイケースよ。分かっているべき人が分かっていればいいのだから」

「それはそうなのですがっ! 私の根幹にも関わる事なので正確に知っておいてほしいのです!」

「なら別の機会にする事ね。今は探索に意識が向いちゃってるみたいだから馬耳東風よ」

「そうします……はぁ……」

 

 ベルの慰めに、ケイはがっくしと肩を落として嘆息した。

 スペルの読み間違いとはいえ『アリス』と『ケイ』という名前を付けて、『なりたい自分は自分で決める』と最初に言ったモモイだからこそ知ってほしいんだろうなぁと悟った私は、ケイのいじらしさのある姿に笑みが零れた。

 

「ケイ、私達なら正確に理解できるわよ」

「それは分かってますが、そういう事じゃないんです……」

「ふふ。人知れず事を為す事も厭わないあなたがこれを理解するのは、まだ早いかもしれませんね」

「……どういうこと?」

"理解されたい相手が決まってるという事だよ"

「ああ、なるほど。そういうことね」

「えっ。リオが人の心情をすぐ理解した……?」

「私がどう思われてるか大体分かっているけれど、その上で言うわね。流石に心外だわ」

「―――先生、人の内心を赤裸々にしないでください!」

"ごめんなさい、ケイちゃん"

「『ケイちゃん』じゃありません! あと、絶対にモモイ達には秘密にして下さいよ!? もしもバラしたら先生を殺して私も死にますから!」

"酷い脅し文句!"

「鬼気迫る様が本気のそれねぇ……」

 

 顔を真っ赤にして怒るケイに私は慄くように身を引き、ベルは感心とも呆れともつかぬ面持ちで所感を漏らした。

 自分が対象になってないからか余裕の顔である。

 そんなベルに腹が立ったのか、ケイがズビシッ! と指を突きつけた。

 

「あなたも他人事ではありませんよ、バラしたら大変な目に遭わせますからね! 『プロトコル:ATRAHASIS』の構造式を知っている私なら箱舟の掌握が可能なんですから!」

「掌握しようとしても今はプラナがいるから多分無理よ?」

 

 ベルがそう言った瞬間、彼女の背後に光に包まれながら小さな人影が現れる。

 それは今は箱舟の管理AIになっているベルの世界のA.R.O.N.Aだった。突如現れた彼女にケイがぎょっと目を剥く中で、彼女はベルの服の裾を握りながら無表情のまま口を開く。

 

「肯定。シッテムの箱と次元エンジンの演算リソースを併せ持つ私は無敵です。電脳のまま、あるいは『名もなき神々の王女』の中にいるならいざ知らず、今のあなたから奪われる可能性はゼロに等しいと言えます」

「ぐぬっ……そうでした。今は箱舟に管理AIがいるのでしたね……それより、さっきの口ぶりから察するにひょっとしてアリスが王女に至った姿を知っているんですか?」

「一部否定。私は箱舟の中の記録から把握しているだけです。実際には彼女しか知りません」

 

 ケイの問いにそう答えたプラナが、ゆっくりとベルを見上げる。自然とケイや話を聞いていたリオ、ヒマリ、私の視線も彼女に向いた。

 当のベルは嫌な事を思い出したと言わんばかりに眉根を寄せて、遠い目をしていた。『過去一ヤバい状況のキヴォトス』の話で名もなき神々の王女の名前が挙がってたから、その顔になるのも理解できる。

 

「見たんですね」

「見たし破壊(戦い)もしたわ。二度と会いたくないくらいよ。もう複数回破壊して(戦って)るけど」

"複数回は初耳だね……"

「全ての世界に無名の司祭がいて、先生達が失敗すれば確実に顕現するからね。世界の数だけ顕現する可能性があるわ。幸い世界を跨いで滅ぼしてる王女に会ったことは無いけど……それレベルの個体が出ないことを願うばかりね」

 

 顔を顰めながら吐き捨てるようにベルは言った。

 私はどういう戦いになったかの概要は聞いているし、『プロトコル:ATRAHASIS』を起動した事があるケイや、それを知っているリオ、ヒマリもどういう戦いになったのかは想像がついたようで、何とも言えない顔をした。

 

「その……これは、演習から少し外れるのだけど」

 

 その沈黙を、リオが破った。恐る恐る触れるように話を切り出した彼女にベルが胡乱な目を向ける。

 

「他の世界から箱舟と共に名もなき神々の王女となったアリス……AL-1Sや司祭達が来た時、私達がどうするべきか、何か方策はあるかしら」

「現状無いわね」

「……ならあなたはどうやって勝ったの?」

「私は『色彩の嚮導者』、いわゆる『外』の概念の者。司祭の技術や王女の力は世界の『内』の概念のもの。概念の力関係上、アレらの力は私には通用しなかった。だから勝てただけよ」

「とんでもない暴論ですね……では仮にリオが言ったようなことが起きたら、私達には為す術は無いと?」

「現状はね。デカグラマトンの『アツィルトの帯』をどうにか出来るなら話は別。だから無名の司祭の技術の研究は必須ね……その辺はケイから聞いてるんじゃないの?」

 

 そう言ってベルがケイを見ると、白髪赤眼の少女が少し難しい顔をした。

 

「理屈自体は話しています。しかし、研究となると対象物が必要ですから……そこはどうしようもなくて」

「……なるほど。それで手詰まりなのね」

「ええ。私が発見している物での研究にも限度があるから……」

「鋼鉄大陸もすぐ沈んでしまいましたからね……」

 

 やや沈んだ様子の3人を見て、私も少し物思いに耽った。

 アイン、ソフ、そしてオウル。数多の預言者達のエンジニアとして生み出され、名もなき神々の技術をも扱えていた彼女達がいれば……と、ふと考えてしまった。

 そんな目的のために入学を薦めていたわけじゃないけど……

 

"ベルは何か知ってたりしないかい? 色彩化した預言者を召喚もしてたよね"

「そういえばアリスやモモイ達からそんな話を聞きましたね……まさかとは思いますが、あなた、デカグラマトンとも戦って……?」

 

 訝しむように問うケイに、ベルは苦笑と共に首を横に振った。戦っていないらしい。

 

「今まで渡ってきた世界の中には鋼鉄に呑まれたキヴォトスもあった*3けど、私は無名の司祭と地下生活者さえ排除できれば良かったから互いに不干渉で済ませて、戦ってはないわ。召喚に関しては……まあ『色彩』の力を使って、色々と。デカグラマトンのそれとは別系統だから参考にはならないわよ」

"そっかぁ"

「最早何でもありですねこの人……」

「色彩が、ね。私自身はそうでもないわ」

 

 ぐったりとした顔で呟くケイに、訂正するようにベルが付け加えた。

 彼女にとっては自らのものではないからと誇示しないようだ。自分の知恵と力だけで出来ている事ではないから、という考えからのものかもしれない。

 支配されないよう抗って、その力を自在に振るえてる時点で凄いと思うけど……

 そう思っていると、視線の先のベルがふむ、と口元に指を当てて考え込み始めた。数秒の黙考の後に口が開かれる。

 

「そうね……箱舟には観測したデカグラマトンやこれまで集積した無名の司祭の技術に関するデータ、幾らかのオーパーツがあるから、それをあなた達に提供しましょう」

 

 それは、願ってもない事に違いなかった。

 これまで謎に包まれていて、追うことも容易くは無い技術のデータを提供してくれるというのだ。数多の世界で観測されてきたそれは値千金以上の価値があるのは素人の自分でも理解できる。

 専門家に等しいリオ達は一瞬で目の色を変えた。

 彼女達を代表するように、リオが重い口を開ける。

 

「……いいの?」

「いいから言っているのよ。あなた達が今日ここに来た理由はそれでしょう? ……それに、今いるこの奇跡の世界を守りたい気持ちは私も同じ。そのために出来ることなら()()()()()()()

 

 ベルのその言葉は、かつてのリオを思わせるものだった。

 そして有言実行もしている。かつて喪った幼馴染をはじめ、あの3人のミメシスを作っている。その事実だけで彼女のスタンスとその覚悟は推し量れる。

 口調としては重くない。

 けれど、確かに重い。

 その重さを、かつて同じ決意を秘めて行動していたリオも感じ取ったのか、神妙な面持ちでベルを見つめた。それから僅かに瞑目し、息を吐いた。

 

「ありがとう。ミレニアムを代表して、感謝するわ」

 

 瞼を開けてすぐに彼女が口にしたのは感謝の言葉。ミレニアムを守るために何だってする覚悟を抱くほど大切に思っているからこその、深い感謝の念だった。

 その感謝に、ベルは苦笑を零した。

 

「礼を言うには早いわよ。まだ提供した物が有用かどうか分からないのだから」

「関係無いわ。あなたの決断にこそ、感謝しているのだから」

「……そう」

 

 ベルは苦笑を浮かべたまま、リオが向ける真っ直ぐな目から逃げるように顔を逸らした。

 照れているらしい。

 

"ベルが照れるなんて、凄く珍しいね"

「うるさいわよ」

"いでっ"

 

 口は禍の元か。

 ビシッ、と額にデコピンを食らってしまった。

 

 ―――その後、私達はシャーレへと転移した。

 

 ベルは本船(ほんせん)ともいえる拠点としている箱舟から該当のデータを持ってきて、リオ達に渡した。オーパーツ類は嵩張るので後日、ミレニアムの特異現象捜査部へ運び入れるとの事。

 「暫く忙しくなりそうだ」とは、やる気に満ちたリオの弁。

 セミナーの仕事が疎かになってユウカがまた怒ったりしないかがちょっと心配だ。

 

 特異現象捜査部のヒマリとケイは、ベルが持つライブラリー・オブ・ロアやテクスト関連の知見についても興味を示したため、また諸々が落ち着いてから話し合いの場を持ちたいと掛け合っていた。ベルもこれを承諾した。

 モモイ達はある程度満足するまで箱舟を探索できたようで、いずれ作る宇宙を舞台にしたゲームで活かすと活き込んでいた。

 

「ゲームのアルファ版が出来たら、ベルにもやらせてあげるね!」

「え……え、えぇ……楽しみにしてるわね……」

 

 モモイは凄く懐いたのか、ベルにテスト版のプレイさせてあげると言っていた。

 TSCの評判は知っているのかやや引け腰になりつつ、けれど断らないベルに心の中で静かに合掌しておいた。

 願わくばゲーム開発部の次回作の出来がTSC2レベルの高評価を受けるものであらんことを……

 

 そうしてゲーム開発部を軸にした連合作戦演習は、演習とは関係ないところの付き合いが生まれる形で幕を下ろした。

 至って平和で明るい未来を感じる一日だった。

 

 

 


 

 

 

・陸八魔ベル

ゲーム開発部の次回作テストプレイが確定した人

初回演習、対策委員会、美食研究会を通して色々な改善点を修正しているので加減もバッチリ。既にフェーズは『バレないようにできるか』という点に移っている

司祭の傀儡となった王女AL-1S、Keyを別世界で破壊している事もあり、ややアリスとケイに甘い

またリオとスタンスが近しいので気が合った

自己肯定感の塊にしてリオと反発しがちなヒマリとだけやや相性が悪いが、反りが合わないわけではない

過去に神デカグラマトンと対峙したが、不干渉で済ませて世界を去った事がある

 

・ゲーム開発部

戦闘部隊もかくやの実績を持つ非戦闘部活動の1年生達

ベルの事をラスボスや魔王と捉えているが、アリスやリオのことを乗り越えているので普通に接する。なんなら魔王仕草でアリスに合わせるため良い人判定した

アリス、モモイはユウカ同様に呼び捨て。ミドリ、ユズはさん付けで接する

後日完成した宇宙を舞台にしたRPGでベルを苦しめることになる

 

・天童ケイ

アトラ・ハシースの箱舟について最もよく知っている元従者

脅し文句として言った箱舟の掌握自体は本当に出来るが、電脳時代と違ってハッキングの速度が生体ボディにより劣るため、シッテム+箱舟の演算リソースを持つA.R.O.N.A相手には勝てない

ベルの事は性格の良い人だとは思っているが得体の知れなさも感じており、やや警戒気味。とはいえアリスを勇者扱いする魔王ムーヴで既に割と心を許している

アリスと自分が変わる原因を作ったモモイにはもう少しちゃんと色々理解してほしいと思っている

 

・調月リオ

目的のためなら何だってする覚悟を持っていたセミナー会長

一線を越えられなかった、越えなくて済んだベルとも言える立場であり、だからこそベルの『何だってする』の言葉の重さを一番実感と共に理解できた

スタンスの理解者でもあるので話も気も合う

ただし究極的な状況では先生側に付くので、ベルと反発してしまう定めにある

 

・明星ヒマリ

実は一番ベルを警戒している人

会話していく中でかつてのリオを彷彿とさせ、かつ便利屋ミメシスの存在で飛び越えていった事を知って警戒。協力してくれているので友好的な態度ではあるがどこかしらで衝突する確信を持っている*4

それはそれとしてアリスの勇者ムーヴに付き合っている点で好感度自体は高い

 

・先生

鋼鉄大陸でのことを思い出している人

ベルが他校の生徒と仲良くなったり、リオが仲のいい相手が増えて内心喜んでいる

自分の力がもっとあれば、という悔やみがぶり返していてややメンタル不安定。あの時の喪失を糧に戦術指揮の向上を目指している

 

 

 

*1
それぞれの絆ストーリーで

「先生がこの世界を見捨てないというのなら。私だって最後まで、絶対に諦めたりしません」

「私にとって貴方は……「代替不能」な存在ということよ」

「先生はこの瞬間も――そしてきっと、これからも――私にとって、誰よりも、何よりも大切で……かけがえのない方なのです」 

と言っている

*2
船の他にはエリドゥで顕現時はシェルターのような形、最終編では光の剣の発展形など複数あり、『アトラ・ハシースの箱舟』の形状は定まっていない

*3
2話目の時点で遭遇済み

*4
『無名の司祭を生かすか殺すか』問題






書いてて思いましたがベルとリオ、ケイとヒマリの口調がとても似ていて混乱しやすかったです
地の文で少しでもそれが解消できていればと思います

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