陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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(1話に収めるのやっぱり)無理だったよ……
すみません

視点はベル、並行世界の先生です




あまねく奇跡への嚮導(1)

 

 

『報告。条件第二項目まで該当*1する『世界』が見つかりました』

「そう……ありがとう、ベレナ」

 

 連合作戦演習が終了してから数日。

 便利屋のオペレートと少しの家事、通信課程の学業、『外』を巡る日々を送っていたその最中、『再現』し得る世界発見の報告が齎された。

 思っていたより早いというのが正直な感想だ。

 この10年間、渡り歩いてきた世界の大半で先生は死ぬか重体で入院していた。五体無事に諸問題を駆け抜けて活動し続けられているのは偉業に等しいとすら思う。

 だからこそ、私達の世界の"先生"がその偉業に至っていた事を思うと誇らしい反面、それを守れなかった事に小さくない悔しさもあるのだが……

 

 それをバネに―――私達は、計画を始動する。

 

「じゃあ……行ってくるわね、皆」

「ええ。思い切りやってきなさい」

「ちゃんと帰ってきてねー? 私達、もうガッツリとベルちゃんに胃袋掴まれてるんだから!」

「ま……やれるだけやって、ダメだったらその時だよ。あまり気負い過ぎないようにね。結局のところ、その世界の問題なんだから」

「影ながら応援しています……!」

 

 事情と共に数日帰れない事を伝えると、社長達は快く送り出してくれた。

 私が最年長の筈なのだけどとても気を遣われている。自分の事が情けなくなる一方で、思いやってくれる人がいる事はとても幸せに感じた。

 私の帰る場所なのだと。

 守りたい光景なのだと。

 そう、再認識させてくれた。

 

 それから私が『シッテムの箱』の主となり、私の世界のA.R.O.N.Aがベレナとなった事で、先生との関係性も少し変化が生じた。

 私もアロナとプラナの声が聞こえるようになったのだ。

 先生と話すときは、傍目からは2人でも、実際は5人で話しているということになる。

 

"ベル。無理だけはしないで、限界を感じたら戻ってくるんだよ"

「ええ、約束するわ」

『絶対ですよ! ベルさんもシッテムの箱を使えるようになったとはいえ、先生の生徒に変わりはないんですから!』

『同意……無事に帰ってきてください。ベレナ先輩も』

『了承。アロナとプラナ、先生から提供されたデータのお陰で、両者の動きは把握済み。私が補佐すれば問題発生時の修正も容易。計画の失敗可能性は5%以下、ベルさんの敗北の可能性は1%未満です』

『お願いしますね! あとベレナちゃんもそろそろアロナ先輩って呼んでくれていいんですよ?』

『拒否します。私はあなたより10年長く活動しているので』

『あうぅ……』

『……今更ですが、この場合はむしろアロナ先輩が『ベレナ先輩』と呼ぶ方が自然なのでは?』

『えっ!? ま、まさか、アロナの先輩の座が脅かされてますか今!?』

『いえ、私を先輩と呼ぶ必要はありません。あなたがこの世界のA.R.O.N.Aなのですから』

『そ、そうですか……? ではこれまで通り、ベレナちゃんと』

『はい、それで構いません。ただ私があなたを先輩と呼ばないというだけですから』

『で、ですが、私はいつかベレナちゃんにも先輩と呼んでもらうことを諦めませんからね!』

『疑問。アロナ先輩はなぜそこまで先輩呼びに拘るのでしょうか』

『私にも分かりません』

『うわぁぁあああん! 先生、ベルさん! プラナちゃんとベレナちゃんの仲が良すぎてアロナちゃんの入る隙間がありません!』

「まあ……少し前までプラナとベレナで合体してたし、出自含めて元来の性格も似てるからね……」

"あははは……"

 

 傍目からは男女が言葉少なく話しながらタブレットで仕事をしている風に見えるだろうけど、他者には聞こえないそれも聞こえてしまえば喧噪に満ちている。『女三人寄れば姦しい』とはよく言ったもので、女性自認だからとはいえAIのこの子達も例によってとても騒がしかった。主にアロナがムードメーカーだからだが。

 ただまぁ……こんな子だったなぁと、少し懐かしく思った。その声を再び(初めて)聴けると(聴いた時)は思わず感慨深くなったものだ。

 

 そんな彼女達と先生に送り出された私とベレナは色彩の力を使った歪曲転移で、私が本拠として使っている異空間の箱舟の『ナラム・シンの玉座』に移動した。

 

 本拠の箱舟へと戻った時点で意識を嚮導者としてのものに切り替える。

 司祭達を滅ぼすためではないから少し副社長としての意識が残っているだろうが、問題は無い。ベレナを威圧するためのものではないのだ。

 

「それで、ベレナ。その世界の詳細は?」

 

 そう問いかけると、傍らに光が発生し、実体化したベレナが現れた。

 

「当該世界時刻で23分前、カイザーコーポレーションがウトナピシュティムの本船を発掘。現在はアビドス砂漠へ戦力を集結させている段階です」

「……(奇跡)の世界だと、非常対策委員会を設立する辺りね」

「そうですね。流石に少しズレていますが……*2今あちらに行って即座に虚妄のサンクトゥム顕現のエネルギーを展開すれば、誤差は修正させられるかと」

 

 頭の中に叩き込んだ時系列情報を引っ張り出した意見に、私を見上げるベレナがそう提言した。

 

「ならすぐに向かいましょう。この機を逃す手は無いわ」

「了解。『アトラ・ハシースの箱舟』の予備機を構築。構築を終え次第、そちらに転移します」

「任せたわ」

 

 赤い空の襲来は、先生がカイザーに占拠されたシャーレを奪還し、七神リンを救出した時に起きる。

 しかしそれよりも前にプレナパテスは行動を開始している。

 非常対策委員会を発足させる要因でもある、後に虚妄のサンクトゥムを顕現させるエネルギーの存在。

 そして『砂狼シロコ』の拉致。反転したシロコと同時にその世界で自由に動けるように、その世界のシロコを『生きても死んでもいない』と世界へ誤認させるべく箱舟に閉じ込めた出来事。

 それになぞらえるなら『再現』においてはその世界の『陸八魔アル』を拉致するべきだが、私はシロコを捕らえる予定だ。

 

 理由は2つ。

 便利屋68は虚妄のサンクトゥム攻略戦、および本船オペレーター双方において不可欠であり、『陸八魔アル』は精神的支柱として欠かせないから。

 そして私はその制約を受けない確信があるから。

 プレナパテス自体、先生がいるにも(かかわ)らずシロコ拉致の実行犯として動けていた。

 既にその体が死んでいたからこそ同一世界で共存できた可能性もあるが、おそらく嚮導者の特性である世界のルール無視によるものだろう。そうでなければ私がその世界の『陸八魔アル』が生きていても問題無く介入・活動可能なことに説明がつかない。

 ともあれ、これらの理由により変える必要性が無い。

 シロコ*テラーの存在を知らないことが、その世界のシロコにどんな影響があるかは分からないが……

 仮に知らずとも、彼女は遠からず小鳥遊ホシノに比肩する実力を持つに至る。

 私はそれを知っている。見てもいる。

 

 

 ―――ん……ありがとう。

 

 

 孤独の果てに至った、絶望(望まぬ強さ)も。

 これから為す事がどう転ぶかは分からない。けれどそこまで進められた先生なら、生徒達ならば……

 その先もきっと進んでいける。

 そう信じて、私も進む。そうするしかない。

 

「―――『アトラ・ハシースの箱舟』構築完了。ベルさん、転移の指示を」

「お願い」

「指示を受諾。予備機へ転移します」

 

 瞑目と共にベレナが言ったと同時、私達の体が光に包まれる。

 その光は調月リオが構築した転移シーケンスのそれ。一人で全てを背負おうとしたエリドゥでの失敗の後にあった、彼女の成長の証でもあった。

 それが無ければ箱舟へ突入した者達は結局死んでいただろう。

 けれど―――きっと何とか出来ると、プレナパテスは信じていた。不明確な危険な未来を、それでも生きて駆け抜けられると。

 今の私が、まだ見知らぬ先生や生徒達に掛けている期待のように。

 

 

 ―――ねぇ、プレナパテス(先生)

 

 ―――あなたもこんな気持ちだったのかしら。

 

 

 それは、最初に『奇跡』を齎した先生への問いかけ。応えなんてあるわけもない独白。

 "あの人"と私では動機が違う。あちらは反転したシロコを託すため。私はその世界の滅びを変えるため。"あの人"が私と同じ動機も含めていたならまた話は変わってくるけれど……

 けれど、これから向かう世界の先生(じぶん)と生徒達を信じていたのは、きっと確かだ。

 

 ……本当に、私が"先生達"の真似事だなんて。

 

 幾度目かも分からない自嘲。

 それに含むものは、今までとはほんの少し違う。

 先の分からない未来に不安はある。どうすることが最善かと、迷いもある。

 けれど、"先生(プレナパテス)"が作った分岐をみんなの協力で立てた計画で辿っていくのは、これまでと違う歩み方。

 それは少し、"先生達"に似ているような気がして、私はいま独りで戦っているわけではないのだと実感できる。

 ……もっと早く"あの子達"に打ち明けていればよかったと、後悔は尽きない。

 

 ―――短くも深い物思いに耽っている間に、光は消えていた。

 

「箱舟予備機への転移、完了。いつでもキヴォトスへ進出できます」

「始めましょう。ベレナ、サポートは任せたわ」

 

 その後悔を繰り返さないためにも、今踏み出す。

 先生、ムツキ達、シロコ達―――

 幾多数多の人々の死と滅びの道を破却するために。

 

「委細、承知しました」

 

 少女の(いら)えを聞いて、私は箱舟全体も通れるほど巨大な歪曲転移のゲートを開く。

 

 

 

 この時を以て、『あまねく奇跡再現計画』が始まった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 皆の協力の下、一度は復活した6つの虚妄のサンクトゥムの再破壊をどうにか成し遂げた事で、赤く染まっていた空を元の青空へ戻すことに成功した。

 シッテムの箱や無線機越しに伝わってくる皆の歓喜の声に、シャーレの執務室で指揮をしていた私も思わず頬が緩んだ。

 勿論、全ての問題が解決したわけではない。

 私が公安局長のカンナ、生活安全局のキリノとフブキ、RABBIT小隊のミヤコ達の助けもあってシャーレを奪還し、カイザーに軟禁されていたリン達を助けてすぐに赤い空が来た。それを齎した者―――黒服曰くの『色彩の嚮導者』は依然として存在している。

 どうにか防衛が出来ただけだ。

 大本をどうにかしなければ、この攻勢は続くだろう。

 

"とはいえ……一先ず、皆にも休憩を取ってもらおう"

 

 気を抜いていい訳ではないけれど、常に張り詰め続けていても無駄に疲れてしまうだけ。それに空の色を取り戻したという分かりやすい結果に喜ぶ空気に水を差すのも気が引けた。

 ふぅ、と息を吐きながら体から力を抜く。

 

 

 ―――その時、眼前の空間が黒く歪んだ。

 

 

 思わず息を飲む中、視線の先の歪みからは一つの人影が降り立った。

 美麗な赤い長髪と深みのある紅蓮色のコートをたなびかせて降り立ったその人物は、とある少女を強く想起させる容姿だった。

 

"あれは、アル……?"

 

 陸八魔アル。

 私を経営顧問だと言って雇い、アウトローを理想に日々を生きるゲヘナの学生。

 その少女が(よわい)を重ね、大人として落ち着けばこんな成長をするのだろうと思えるほどの似姿の女性だった。

 その人物が私の声に反応し、切れ長の双眸をこちらに向けた。

 ふ、と不敵な笑みを浮かべる。

 

「初めまして、()()()()()()。赤い空を払いのける手際、見事だったわ」

 

 そして発せられた言葉は、警戒心を掻き立てるには十分なものだった。

 方舟の教導者。

 初めて言われた呼び方だが―――直近で、それに似た呼び方をする存在を知っている私は、嫌な予感に駆られたのだ。

 

 ―――空が赤くなった直後のこと。

 アビドス(いつかの)時のように差出人不明の、しかし内容からして無視できないメッセージを受信した私は、非常対策委員会の会議前にシャーレの屋上でとある人物と会っていた。

 ゲマトリアの一員、黒服。

 かつてアビドスのホシノを実験体にしようとしたその大人は、深手を負っていた。

 

 

『お見苦しい姿で失礼します、先生』

『―――ゲマトリアは壊滅しました。『色彩』が、遂に到来してしまったのです』

『……この表現は少し適切ではないですね。正しくは「侵略してきた」とでも申しましょうか』

 

"一体、何が起きている?"

 

『『色彩』が到来し―――無価値の悪魔がソレと接触したのです』

恐怖(Teller)の領域へと反転した彼女は、無価値なるもの全てを破壊する悪魔『ベリアル』となり―――自身の本質が赴くままに、この世界に終焉をもたらすことでしょう』

『『破壊をもたらす悪魔』を使って『色彩』がゲマトリアを襲撃した理由……それは、ゲマトリアが所持している『秘儀』と『検証結果』を奪うためだったのでしょう』

『デカグラマトンのパス、複製(ミメシス)の秘儀、聖徒の交わり(Communio Sanctorum)、ライブラリー・オブ・ロア……名もなき神の力に、無名の守護者の能力―――』

『これら全てを手にした『色彩の嚮導者』は―――』

 

"色彩の嚮導者?"

 

『ええ。『色彩』の意思を代弁する存在であり、計画を遂行する実行者です』

 

 

 脳裏に、黒服が言っていた事が思い返された。

 まさかと思いながら、口を開く。

 

"……君は、もしかして。色彩の―――"

「あら、知っているの? ……ああ、ゲマトリアね? 早々に逃げたからどこへ行ったのかと思っていたけど、そう……ここへ逃げてたの」

 

 くつくつと、可笑しそうに彼女は笑う。

 アルのそれにとてもよく似ている顔だが、指で軽く隠すようにしたその笑みからは、あのアウトローの少女とは似ても似つかない悪辣さを強く感じた。

 無価値なるもの全てを破壊する悪魔。

 黒服の推測が当たっているかは分からない。しかし、目の前のアルに似た女性は、自身がゲマトリアを襲撃した人物であると明言するようなことも言った。

 

 ―――けれど、それだと矛盾する事がある。

 

 赤い空が起きてから私は便利屋の皆に連絡を取った。オペレーターとしてカヨコが来たし、アビドス方面の虚妄のサンクトゥム攻略戦でアルには実働もしてもらった。

 何より、いまシッテムの箱に表示されているアルの生体反応は、依然としてアビドス方面に存在したままだ。

 A.R.O.N.Aがダミーを掴まされたとも思えない。そもそも偽装したところで、アル本人が現地で実際に戦っているのだから意味を為さない。

 だとするなら―――『この世界に到来した』という文言が鍵か。

 

"君は……この世界のアルじゃ、ないね?"

「―――本当に理解が早いわね」

 

 私の推測を、女性―――推定別世界のアルが感嘆と共に言外に肯定した。

 見定めるように眇めた目と、合格と言わんばかりの高圧的な微笑みが私に向けられる。

 

「いかにも、私はいわゆる並行世界を生きた『陸八魔アル』よ。そして今は無価値なものを破壊し、破却する嚮導者でもある」

"っ……本当に、そうなんだね"

 

 黒服の存在は知っていてもあいつが話した事までは知らない筈。けれど無価値なものを破壊するという文言が出たという事は、黒服の推測は当たっていたのだろう。

 当たって欲しくはなかった。信じたくもなかった。

 爛漫に咲き誇る笑みを浮かべ、理想を追い求め邁進する少女が―――こうも陰鬱で、敵意を感じさせる顔になっているなんて。

 それでも私は、一縷の望みを捨てきれないでいる。

 黒服は言った。『色彩の意思を代弁する存在であり、計画を遂行する実行者』と。

 代弁。つまり、彼女の意思によるものではないのではと。

 

"けど、君の行動は、色彩の意思によるものなんだろう?"

「色彩に操られているのでは、と?」

"違うのかい?"

「ええ、違うわ。むしろ私の方が色彩を利用しているから」

 

 だが、残酷にもその一縷の望みすらも切って捨てられた。

 酷薄な笑みでそうした"アル"は、それから何かを思い出したように表情を緩めた。

 

「と言っても、これすらも色彩によるものと受け取るのかしら……まあ好きに受け取っておけばいいわ。重要な事は、私が無価値なものを破壊するために襲来したという一点だけよ」

"……それは、何故? どうしてそうするんだい? それが、本質だから?"

 

 その問いには、なぜあの明るいアルが、という思いが籠っていた。ただ『それが悪だから』ではない、何かしらの理由があるのだと確信があった。

 私が投げた問いを聞いて、彼女は笑みを引っ込め、真剣な顔で私を見つめ返してきた。

 

「自ら定めた役割(コト)故に。私の本質は、それを為すために使っているに過ぎない」

 

 それはハッキリとした宣言だった。各自治区のトップからも受けた事のある威厳と圧を感じながら、私は即座に思考を回す。

 けれど、答えは出ない。

 謎が深まるばかりだった。

 

"自ら定めたことのため……? それが、キヴォトスを滅ぼすことなのかい?"

 

 その問いに、彼女は答えない。ふ、と嗤うように相好を崩すだけだった。

 だが―――何かを言うよりも雄弁に、答えを提示してきたように思う。

 その笑みのまま、彼女が口を開いた。

 

「ここに来るまでにも、多くの滅びがあったわ。あなたの死。生徒の死。世界の死。悲しみと絶望、憎しみと欲望に沈みゆく方舟の数々……この世界は、元々滅ぶ定めにあるのよ」

"だから、無価値だと言うのかい?"

「逆に聞くけれど、価値があるとでも?」

 

 それは、酷薄な問いだった。

 そして絶望の下に放たれた諦観だった。憧れを捨て、期待を辞めた、悲鳴にも似たものを私は感じた。

 

 ―――すべては虚しいのだと言う子達が居た。

 

 何をやっても、何があろうとも、全ては虚しいものなのだと。憎しみ合うよう育てられ、搾取されていた子達に刷り込まれた歪んだ教え。

 彼女が発した問いは、それに近しいものを感じた。

 ……一体どれほどの事があればその結論に行きつくというのか。

 明るい少女としての姿を知っているだけに、私は悲しみにも、焦燥にも似た感情に駆られる思いだった。

 だからこそ―――

 

"もちろんだよ。だからこそ、どんな未来であろうと私達は乗り越えていく"

 

 それは、赤い空が到来した直後に現れたゲマトリア―――フランシスにも向けた言葉だった。

 

 これまでの物語は全て忘れろ。

 学園と青春の物語は幕を下ろした。

 脈絡も、構成も、必然性も無くなり、果ては意味を喪い、力が暴れ回るだけの理解不能で不条理な世界になる。

 ジャンルは覆され、解体され、お前()の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものとなる。

 

 そう言っていた彼へ叩きつけた、渾身の返事。

 それに―――嚮導者の彼女が初めて、驚愕の表情を見せた。

 

 

"たとえ、滅びの運命にあるのだとしても"

"これまでに築いた全てが、無価値へと帰るのだとしても"

 

"あの子達の頑張り、苦しさの果てに得た幸せを―――"

"彼女達の青春の物語を守ってみせる"

 

"そして―――"

 

"君を、その絶望から救ってみせる"

 

 

「――――そう」

 

 驚愕の面持ちを、怜悧なそれへと変えた彼女は短く(いら)えを発した。

 冷徹な目が私を射抜く。

 見定めるのではなく、試すように。

 

 ―――そこで、シャーレの警報音が鳴り響いた。

 

 どちらも微動だにせず、互いに視線をぶつけ合っていると、執務室へバタバタと近づく足音が複数聞こえ始めた。

 

「先生、問題が発生しました! 現在、キヴォトス全域でエネルギー反応が再び検知され―――くっ!?」

 

 報告しながら飛び込むように執務室へ入ってきたのは、非常対策委員会のリーダーを務めるリンちゃんだった。

 しかし私が対峙する人物を見て、声音に警戒と敵意を強く含ませた。

 衣擦れ、ベルトが外れる音。リンが誰何(すいか)もせず銃を抜いたのだ。

 間を置かず連射。ドンッ、と重い音が幾度も続くが―――

 並行世界のアルは、纏うコートを盾にして全てやり過ごした。リンが撃ち切るまで防いだコートは傷一つなく無事。当然彼女の体も。

 驚異的な防御力に誰もが瞠目し、息を呑んだ。

 

「あなたは、カヨコさんの……!?」

「えっ! 今、リン先輩が撃ったの!? めっちゃレアじゃん!? 一体どうしたの!?」

「し、侵入者です! い、今、応援を要請しました……!」

 

 リンが発砲したことにモモカが驚き、応援を呼んだとアユムが言っている間にも、執務室に近付く足音は複数。

 虚妄のサンクトゥム攻略戦でオペレーターとしてシャーレに集まってくれていた子達だ。

 

「こんな状況で侵入者って……―――は?」

 

 その中には、便利屋所属の子―――鬼方カヨコもいる。切れ長の目つきを限界まで見開いて、並行世界のアルを見つめ、凍り付いたように固まった。

 

「ちょ、カヨコさん、そこで止まられると邪魔なんですけど!? いったいどうし―――はぁ!? 侵入者って、陸八魔アル!? あなた何でここに……いや、そもそも見た目が違いますね……?」

「え、えぇ……? 便利屋のアルさん、ですよね? でもさっきアビドスで色彩化したビナーの誘導に……それに凄く大人びていて……?」

「これは……」

 

 同じくオペレーターに来てくれていたアコ、アヤネ、ハナコが次々と困惑を露わにしていく。車椅子で静かに入ってきたヒマリも目を細めて観察に徹していた。

 次いで、彼女達の視線がこちらにも向けられる。

 いったいどういう状況なのか、と。

 

「―――我が名は()()()()。無価値を破壊する王にして、この方舟の無価値なものを破滅へ嚮導する者」

 

 そこで初めて、彼女が名乗りを上げた。

 纏う空気をより昏く、圧のあるものへと変えながら、睥睨するように彼女は私達を見据える。それからゆるりと踵を返した。

 彼女が振り向いた先に、黒い歪みが現れる。

 

「方舟の教導者。あなたがまだ諦めないと言うのなら……その価値を、示してみせなさい。出来なければ、定めのままに滅ぶだけよ」

 

 その言葉を残し、破滅の嚮導者ベリアルは立ち去った。

 彼女を見送った私は、それからリンから報告を聞いて動き出した。

 虚妄のサンクトゥムの再顕現までの時間の逆算。エネルギーの発生源―――

 

 上空7万5千メートルにある『アトラ・ハシースの方舟』を目指して。

 

 

 

 


 

 

 

 

「―――と、いう訳なんだけど」

 

「……なるほど、並行世界の私が。だから矢鱈とあの行政官が噛みついてきたのね」

 

「いったい何があったんだろうねー。並行世界とはいえアルちゃんが世界を破滅させるだなんて、流石にびっくり」

 

「アル様が、相手なんですよね……そっちの私達も、一緒にいるのでしょうね……」

 

「どうだろうね。先生と対峙してる時は居なかったけど」

 

「ま、関係無いわ。世界の破滅? 随分なものだけど―――気に入らないわね。私が目指すアウトローじゃないわ」

 

「お? じゃあアルちゃん、もしかして―――」

 

「決まってるでしょ? 私達も行くわよ! それでそっちの私達の目を覚まさせてやろうじゃない!」

 

「わ、わかりました……!」

 

「くふふっ、じゃあ私達も一緒に行くことになるね! 心強いでしょ、カヨコっち?」

 

「……ま、否定はしないよ。じゃあ先生にそう連絡しとくね」

 

 

 

 

「―――そういうことだから、アヤネちゃん。私達も『ウトナピシュティム』に乗って、先生と一緒に『箱舟』に向かうよ」

 

「アヤネちゃん一人を行かせるわけにいかないからね!」

 

「で、ですが、失敗する可能性の方が高いんですよ? シロコ先輩の捜索も必要ですし……」

 

「この戦いを越えないと世界が滅んじゃうんです。捜索以前の問題ですよ、アヤネちゃん」

 

「たしかにシロコちゃんのことは心配だけど、一先ずヴァルキューレや柴大将をはじめ住民の皆にも声を掛けてるから一旦そっちに任せよう。私達は帰って来てから捜索に参加ということで」

 

「ですが、敵が現れた場合はどうすればいいでしょうか……」

 

「そこも含めて先生に相談してみましょう」

 

「そうだね~」

 

 

 


 

 

 

・無価値なもの

もとい、無価値な原因(もの)

ベルが見てきた数多の滅びとその原因であり、滅びゆく世界、滅んだ世界のことではない

今回に限っては特に『最終編が無かった事で訪れる滅び』であり、ひいてはベル自身が経験した滅びのこと。この再現計画はベルにとって過去を乗り越える代替行為でもある

 

・陸八魔ベル

忌み名『ベリアル』を使った嚮導者

真意を悟られてはならないのでラスボスムーヴ中

演技中とはいえ口にしている言葉の幾らかは本心でもあり、先生の言葉*3で、自分はまだ絶望しているんだなと再認識させられた

それによりこの世界の先生への評価が鰻上りに高くなっている

なおゲマトリア襲撃時に地下生活者を、虚妄のサンクトゥム攻略戦の裏で様子を見に現れた無名の司祭を始末している

 

・並行世界の先生

プラナ版A.R.O.N.Aのシッテムの箱の持ち主

ほぼ原作、本作の奇跡先生と変わらない。時系列的にまだ経験が浅いところがあるが、それでも最終編まで漕ぎ付けてる強運と実力の持ち主

ベリアル/ベルが演技中とは知らないが、纏う空気や発する言葉から諦観を抱き、憧れと理想を捨てて絶望している事を察した。今はベリアル/ベルが言う『無価値なもの』がキヴォトスそのものであると誤解中

このあと並行世界のカヨコのメンタルケアに入る

シロコ誘拐の主犯か聞くの忘れていたなと後で頭を抱えた

 

・並行世界のカヨコ

アルそっくりのベリアル/ベルを見てフリーズ中

シロコ*テラーの前例を知らないので、あの明るいアルに何があったらそんな事に、と固まった

便利屋の皆で箱舟へと向かう

 

・並行世界の黒服

言ってる事の半分くらい間違ってる観測者

キッチリとベルに襲撃されて秘儀なども回収されている

原作でプレナパテスの名をどう知ったか定かではないが今回は居なかったので名前を出していない

 

・ウトナピシュティムの本船搭乗員

総数:原作+3名

■オペレーター

リン、モモカ、アユム、カヨコ、アコ

ヒマリ、ハナコ、ユウカ、アヤネ、リオ(AMAS)

■戦闘員その他

ホシノ、ノノミ、セリカ、シロコ(囚われ)

ハルナ、アカリ、イズミ、ジュンコ、フウカ(強制)

モモイ、ミドリ、アリス、ユズ

アル、ムツキ、ハルカ

 

・アビドス防衛(先生からの依頼)

ワカモ

ジャブジャブヘルメット団

他、シャーレ防衛で動いた不良達

 

 

*1
以下の内、①と②を満たす場合のこと

①先生が最終編前の諸問題に関わり、ある程度解決している

②カイザーがウトナピシュティムの本船を発掘している

③カイザーが連邦生徒会を襲撃し、先生が脱出できている

*2
本来は以下の流れを踏む

①プレナパテスがエネルギー展開

②検知したリンが非常対策委員会を発足させて各自治区に召集

③登校中のシロコがカイザーPMCの兵力を見て不審に感じて偵察

④プレナパテスがシロコを拉致

⑤④と同時刻、先生がカイザーに拉致される

現時点で①、②飛ばして③が起きている

*3
"君を、その絶望から救ってみせる"





本編ではシロコ*テラー=拉致されたシロコという勘違いがあり、捕まえるという理由でアビドス勢は全員参戦しました
本作だとベルが出てきてシロコの行方が分からないままなので、シロコ捜索や失敗した時一人残すのは……とノノミ、セリカを残す案もありましたが全員出撃に
この辺は人によって見解が分かれると思いますが、ご容赦ください

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