陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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占領戦ストーリー見返す度に、なんで先生単独で次元エンジン破壊進めてるんだ……と思ってます*1
大人のカード大盤振る舞いなんですかね?
代償凄そうだしそれ見たらベルは心削れてそう
まあ本作では廃校対策委員会、便利屋68と一緒に進むんですが

今話の視点は先生だけです

*1
ホシノ達は第1・2エリア攻略時は本船防衛、第2エリアのエンジン破壊(クロコ戦闘後)に合流、第3エリア帯同、第4エリア(中心部)攻略時はシロコが囚われている特別エリアの扉を開けるため別行動で管制室制圧
ゲーム開発部と美食研究会は本船防衛のためそもそも占領戦に参加していない




あまねく奇跡への嚮導(3)

 

 

「うへ~敵が多いねぇ。やんなっちゃう」

「本当よ! あーもう、こいつらもしかして無限湧きなの!?」

「かもしれませんねぇ……」

 

 本船を出て、第1エリアの次元エンジンを目指す道すがら、続々と湧いて襲ってくる"Divi:Sion"――浮遊するタコやクラゲを思わせる機械・無名の守護者や色彩化したオートマタ達――を相手するホシノ達が、うんざりすると言わんばかりの声を上げた。

 いわば体内に侵入した細菌に等しい私達は、免疫機能に相当する色彩の軍勢に襲われ続けている。これは次元エンジンを破壊し、このエリアを制圧するまで続くだろう。

 辟易する気持ちもよく分かる状況だ。

 特にホシノは守備に長けた盾持ち、ノノミは殲滅力に長けたガトリング持ちなので指示を出す事も多いので、こちらとしても頼り過ぎかもと心苦しい。

 

「泣き言だなんてらしくないじゃない。まさか、一人欠けた程度で腑抜けたんじゃないでしょうね?」

 

 そんな彼女達に挑発的な言葉をアルが投げかけた。

 嚮導者ベリアル―――"アル"と対峙してから今に至るまでずっと険しい雰囲気を保ち続けている彼女は、自身が目指すアウトローもかくやの様子で戦い続けている。

 ここまで常に真面目モードに振り切っている姿は初めて見るので少し新鮮に思えた。

 

「そっちの委員長が囚われの身になってる時も心折れかけてなかったっけ? 実はアビドスって意外とメンタル弱かったりするの?」

「仲間意識が強いからこそ一人欠けたら……なのかもね。しかも行方不明だし。ま、それを抜きにしても面倒に感じる気持ちはよく分かるけど」

「さっきから立て続けですもんね……」

 

 それにムツキ、カヨコ、ハルカが続く。

 彼女達はかなり前にホシノを救出する作戦で幾度も共闘した間柄だ。対策委員会の強みも、そして弱っている姿もよく知っているからこその言葉だった。

 シロコの行方は未だ杳として知れない。

 その懸念や不安がホシノ達の気力を幾らか奪っている部分があるのは否めない。色彩化ビナーと戦った時は切羽詰まっていたからかキレがあったホシノ達の動きも、ある程度余裕がある今はやや鈍いのは確か。

 それは気が緩んでいるという訳ではなく、気がそぞろで戦いに集中できていないのが正確だろう。

 それを自覚しているからか、あるいは便利屋の約半分に責められるように言われたと感じたのか、セリカがキッと眦を釣り上げてアル達を睨んだ。

 

「そうは言うけど、この事態って並行世界のあんた達の社長(リーダー)が引き金じゃない!」

「この事で私が責められるのはちょっと納得いかないのだけど?」

「まあまあセリカちゃん、落ち着いてください。ここにいるアルさんが悪いわけじゃないですよ」

「そうだね~。並行世界の"社長ちゃん"の責任をここにいる社長ちゃんに問うのは流石に酷ってもんだよ。それにあんま社長ちゃんを悪く言ってると、こわ~い社員ちゃんが爆発しちゃうよ?」

「へ?」

「アル様を悪く言うなんて、許せない……」

「げっ」

「はいはーいハルカちゃん、今は抑えよっか。あんま暴れてる余裕無いしね」

 

 セリカに敵意を向けて暴れようとするハルカにムツキが抱き着いて抑え込む。

 その様子にはぁ、とカヨコがため息を吐いた。

 

「先生が弾薬補給を適宜手配してくれるとは言え、手持ちには限りがあるからね……」

"今のところ相手の総数が未知数だし、いつまでこの手が通用するかも分からないから手持ちにも余裕を持たせておきたいね"

 

 ウトナピシュティムの本船を飛ばすまでの8時間でありったけの物資は本船に積んでいる。それらを最前線で箱舟占領戦を進める私達の下へアヤネのドローンを使って輸送し、逐次本船へ戻る手間を省いていた。

 その途上に敵がいると届かない可能性も高く、何が起きるかも不明なのであまり無駄遣いも出来ない。

 おそらくあちらの"アル"もこの輸送手段を把握している筈だ。今は本船との距離が近い第1エリアだから問題ないが、徐々に離れていく関係上、遠からず妨害によって補給もままならなくなる可能性が高い。

 そうなった時は、誰かしらをドローンの護衛に付けることになるだろう。

 ……まあ、この手も"アル"には読まれているだろうけれど。

 

「ところで社長ちゃん、ちょっといいかな?」

 

 次元エンジンまで進んでいく中で、雑談できる余裕があると見たのかホシノがそう話を切り出した。

 

「何かしら?」

「社長ちゃんならあっちの出方が分かったりしないかな~って。"何かあった"ことで変わったにしても、やっぱやり方は似通(にかよ)うと思うんだよね~」

 

 そう言って、肩越しに視線をアルへ投げるホシノ。表情はやや鋭い。

 普段の柔和なそれから打って変わった真剣な面持ちに息を呑む音が多数上がる中、それを真っ向から受けたアルは、動揺することなく口を開いた。

 

「『これだ』と言える事は無いけれど……引っ掛かる部分はあるわね」

「ほうほう。引っ掛かる部分って?」

「ちょっと回りくどい気がする。聞けば彼女が最初に現れたのはシャーレで、先生と一対一で会話したらしいじゃない?」

 

 言いながらアルがこちらに視線を向けてくる。確認を含んだそれに頷くと、すっと瞑目して考えるような面持ちになった。

 数秒の沈思を挟んで目を開いたアルが、再び口を開く。

 

「でも、彼女は先生に危害を加えなかった。これは本船を襲撃した時も同じ」

「そうだね。社長ちゃんと色違いの銃は持ってるけど、使う素振りが無かった」

最初(ハナ)から使う気が無かったのでしょうね。まあ本船の時は会話してる間に敵を集めてたとかの時間稼ぎだったんでしょうけど……やっぱり先生を前にして、何もしてないのが引っ掛かるわ。逃げる時に使ったのが閃光手榴弾なのもね」

「私達の任務で閃光弾なんて非殺傷武器、まず要らないもんねぇ。爆発で黙らせちゃう方が手っ取り早くて確実だし、拠点をぶっ壊すのにもうってつけだし。『歓迎』って言ってた時はキッチリ爆発させてたのに撤退する時は使わなかったから逆に驚いたよ」

 

 アルの言葉を引き継ぐようにムツキが言う。

 言われてみればたしかに、アル達が閃光手榴弾を使っている場面を見た覚えはない。ムツキやハルカが使うものも全て爆発物だ。

 そもそもで言えば非殺傷武器のそれを使っている子の方が極めて少ないのもあるだろうけど。

 大半は火力でゴリ押しての無力化を図る。ムツキが言ったように、その方が手っ取り早いし確実だから。

 閃光手榴弾を使う子はスズミやSRT特殊学園の生徒達のように、技術や絡め手に特化している子が多い。あくまで補助に使い、その後の攻撃に繋げるためのもの。

 アル達も使えはするだろうけど、派手に爆発させて倒す方が性に合っているところもあるのだろう。

 

「なるほどね~。じゃあ社長ちゃんがあっちの立場だったらどうする?」

「世界を滅ぼす前提なら真っ先に先生を排除するわ。それほど、先生の指揮は凄まじいもの」

 

 そう言ってアルの鋭い目がこちらに向けられる。

 その眼は、どこかあの"アル"に似ているように感じた。敵意は無く、ただ評価しているそれの雰囲気が、どことなく。

 

「あるいは飽和攻撃を仕掛けるわね。あちらの総戦力がよく分からないから、これはしたくても出来ないだけなのかもだけれど」

「総戦力と言えば……あっちの私達の姿が見えないのが気になるね。影も感じられない」

 

 そこで、カヨコがポツリと言葉を漏らした。声音には多大な警戒心と僅かに寂寥を含んでいるように感じられた。

 彼女のその言葉には、ハルカを抱きしめて抑え続けているムツキが反応した。

 

「だねー。てっきり行く先々でもっと爆発が起きると思ってたんだけど、全然無い。なんだか拍子抜けって感じ」

「もしかして……居ないのでしょうか……?」

 

 そこで、ピタリと動きを止めたハルカも会話に参加した。おずおずと、そんなわけがないと信じたそうな不安混じりの言葉。

 それを聞いたアルが、僅かに瞑目した。

 

「……あり得ないとは言い切れないわね」

 

 そして、静かな声音でハルカの予想を肯定した。

 ―――ピン、と空気が張り詰める。

 

「アル様……?」

「『知るくらいなら死んだ方が楽』と彼女は言ったわ。実際に彼女が何を見て経験したかは分からないけれど……真っ先に考え付くのは、"そういうこと"くらい」

「ちょ……まさか、"そういうこと"って……」

「……ヘイローが壊れること、だろうね」

 

 アルの推測に対し、恐れで引きつりながらも問い掛けるようにセリカが言わんとした事を、ホシノが引き継ぐように言った。

 『ヘイローが壊れる』。

 それはキヴォトスに於いて"死"の比喩として使われる言葉だ。

 

"つまり……あっちの"アル"は、ムツキ達が死んだ結果ああなった……?"

「確証は無いわ。箱舟に居ない理由と彼女の言葉からの推測に過ぎないし、今の彼女の状態が色彩によるものかどうかも不明だもの」

「言動がバラバラなのは色彩が発してる精神を乱す光の影響なんじゃってこと?」

「その可能性はあると思うわ。色彩の嚮導者だからと言って影響が皆無とは限らないから」

 

 カヨコの質問に、アルが頷く。彼女の推論に私も含めた皆が納得したように頷いていた。

 たしかに、筋は通っている。虚妄のサンクトゥムが発していて、2週間を目途に臨界点に達するとされた色彩の光は、人の精神を狂わせる性質を持っているという分析結果が出ていた。

 それを発している色彩に最も近い位置に"アル"はいる。

 そう考えると、これまでの言動の不一致にも辻褄が合う。

 仲間を喪った只中にあって、狂気へ誘う色彩に選ばれ、その光を直に浴びた。悲しみや怒りの矛先が狂気によって乱されて、狂い続けて世界を渡り歩いているのかもしれない。

 私達の前に現れた時に会話は出来ているのはその名残なのか。

 

 ―――それにしては、私を見る時の眼が気になるけれど……

 

 思い出すのは二度の邂逅の中で向けられた"アル"の眼。軽んじることも侮ることもなく、見定め、試すようなそれには理知的な色があった。

 ……ネガティブな予想をするなら、自身を止めるに足るか、救いを求められる相手かどうかの選別の可能性もある。

 だが、そうなると引っ掛かる事もある。

 

 ―――あなたがまだ諦めないと言うのなら……その価値を、示してみせなさい。出来なければ、定めのままに滅ぶだけよ。

 

 シャーレからの去り際、彼女はそう言っていた。

 『定められた滅び』が何なのかは分からない。ただその言葉だけを素直に受け取るなら、彼女はそれを乗り越えさせるために一連の事態を引き起こしているようにも考えられる。

 行動そのものは世界の存亡を懸けたレベルのもの。やり過ぎというのも否めない。

 けれど、彼女の言葉は世界の未来を想うもの。

 

"……結局のところ、彼女に聞かないと分からないね"

「そうね。まあ、箱舟を占領していく内に会えるでしょう。逃げ場が無くなる訳だからね」

 

 笑うでもなく、淡々とアルが言う。

 なんだかいつも以上にアルが頼もしいなと感じていると、通路の途中で一際大きな隔壁があるのを見つけた。左右に開いていて覗けた室内には一際大きな機械が中央に鎮座していた。

 

「ねえ、アレが次元エンジンというやつじゃないかしら?」

「ぽいね~」

『先生、そちらが『次元エンジン』です!』

 

 各リーダーのアルとホシノが言うと同時、リンから通信が入る。どうやら予想は当たっていたらしい。

 同時、侵入者を感知したからか次元エンジン周囲に大量の敵が出現し始める。

 

『気を付けてください、先生。次元エンジンを守っている防御システムを確認いたしました……』

"こっちも確認したよ。中々多いね"

 

 アユムの報告を聞きながら戦闘準備を整える。

 相手は部屋に入ってさえいなければ反応しないようで、まだこちらには向かってくる様子が無い。となれば先制攻撃で一気に数を減らす手を打つのが上策だろうと思考する。

 その間にも本船からの通信は続いた。

 

『箱舟の主要設備である分、それ相応の戦力を覚悟していたつもりでしたが……これほどとは』

『おっと……ちょ~っと、しんどい戦いになりそうだねぇ』

"でも、やるしかないよ"

 

 リンに続き、モモカのたじろいだような声に、私は安心させるように言葉を告げた。

 そう、やるしかないのだ。

 "アル"が何を目的にし、何を考えてこんなことをしているかは分からないが、それを知るためにもまずはやるべき事をやらなければならないのだから。

 

 

 ―――そう意気込んだその時、次元エンジンルームの空間が歪んだ。

 

 

 それは、"彼女"が転移してくる前触れの歪み。瞬時に私達の間に緊張が走る。

 だが―――出てきたのは、"アル"ではなかった。

 フィルターを被せたかのように薄暗く、異様なオーラを纏い、立ち上らせているその人影は、"アル"よりも小柄だった。

 どこか気弱そうで、けれど確かな決意を感じる目を持つ紫紺の衣装と銃を持つ少女。

 

「え……私、ですか……?」

 

 "伊草ハルカ"が、黒い空間から降り立った。

 

"あれは、あっちのハルカ……? 彼女も色彩に……?"

「でもそこまで見た目変わってないわよ? 変なオーラは出てるけど」

「なんというか……ユスティナ聖徒会のミメシスみたいですね?」

「―――まさか」

 

 私、セリカ、ノノミが疑問の声を上げる中で、何かに気付いたらしい声を上げたのはカヨコだった。

 自然と視線が集まる中、カヨコはそれを意に介さず、次元エンジンを守るように立ちはだかった"ハルカ"に愕然とした面持ちで視線を注ぐ。

 

「いや、でも、そんな……そんなことまで? だとしたら正気じゃない……っ」

 

 信じたくない、けれど信じざるを得ないと言わんばかりの表情で思考を言語化するカヨコの様子からは、いつも冷静な彼女らしからぬ焦りや恐れが滲んでいた。

 彼女をして、恐怖を抱くほどの何かがあったらしい。

 

"カヨコ、何か気付いたの?"

「……確証は、無いけど。あの"ハルカ"がユスティナのそれと同じだとするなら、それを使ってるあっちの"アル"は―――」

「話はそこまで! "平社員ちゃん"がこっちに来るよ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!!!!!』

「先生、指揮をお願いするわ! カヨコ課長も今は集中しなさい!」

「ッ……了解!」

"分かった。みんな、行くよ!"

 

 何かを言っているけど聞き取れない言葉を叫びながら突っ込んできた"ハルカ"を契機に、第1エリアの次元エンジン破壊作戦は始動した。

 

"ホシノはあっちの"ハルカ"を抑え込んで! アルはホシノの支援を! こっちのハルカはカヨコと一緒に出入り口の監視! ノノミ、ムツキは次元エンジンとその防衛システムの破壊を担当、セリカはその支援に回って!"

「「「「「了解!」」」」」

 

 突っ込んできた"ハルカ"には盾を持ち、この面子で最強のホシノをぶつける。その援護には、この中で一撃の火力が高いアルを宛がった。

 ミメシスは再現元の戦闘力を持っているため、"ハルカ"には生中な攻撃は通用しない。そしてその勢いは並みの生徒では止められないほどの爆発力がある。だからこそ絶対に止められる鉄壁と、それを穿てる火力の二人を担当させる。

 こちらのハルカと間違えないよう、そして動揺が抜けきっていないカヨコは出入り口に配置。

 私の近くにもなるから護衛替わりになるし、挟撃されてはマズいからこその指示だ。カヨコからは気遣われた事にか不満の視線を感じたがハルカの制御を任せている側面もあるので我慢してもらう。

 肝心の数が多い敵の一掃にはマシンガン使いのノノミ、そして爆発物を大量に使うムツキをぶつけ、冷却中やマガジン交換中の隙はセリカでカバー。一人で厳しくはあるだろうが、元々寡兵で戦ってきた経験があればある程度は持ち堪えるという判断だ。

 

 それらを捲し立てた後は、シッテムの箱を介して適宜指示を送る。

 とはいえ、それが基本必要なのは次元エンジン防衛システムとの戦いくらい。

 出入り口の方は監視を置いているから今は注意しなくて良く、ホシノとアルの戦いは細かな指示を出す方が却って危ないほど激しかった。

 

()()()()()()()ッ!!!』

「くっ!? このっ、なん―――無茶苦茶強くないこの子!? こっちの平社員ちゃんより数段上じゃ……!?」

「狙いが付けられない……!」

 

 アビドス一の実力を持つホシノと数多く見てきたスナイパーの中でも上位に位置するアルを相手に、"ハルカ"は善戦していた。

 銃撃自体がまず少ない。距離を詰めてからはストックで殴り掛かったり、回し蹴り、足払い、体当たりまでしてとにかくお互いに銃を使う機会そのものが少なかった。

 仕切り直そうとホシノがシールドを押し出すが、それを食らってもあまり吹っ飛ばず、すぐ距離を詰め直す。

 早々に弾を撃ってリロードが必要になっているホシノが苦戦を強いられていた。

 そして激しく動き回ることもあり、誤射を警戒してアルも狙いを定められずにいる。

 

"ホシノ!"

「ッ……先生! こっちは()が抑えておくから社長ちゃんをそっちに行かせて! その方が早い!」

"大丈夫なのかい!?"

「負けはしないよ!!!」

 

 その返答と同時、ホシノが振りかぶった盾で"ハルカ"を殴り飛ばした。あっさりと着地したけど何メートルもぶっ飛ばされたことでホシノと少女の距離が開く。

 その隙にホシノは素早く何発分かをリロードして盾を持ち直し、距離を詰めていった。

 体捌きを生かした近接格闘を、彼女は重厚な盾で圧殺しに掛かったのだ。

 

"―――アル、君も次元エンジン破壊に回って!"

「……了解よ!」

 

 今まで見た事もないくらいあまりに攻撃的なスタイルに思わず唖然としたが、そんな状況ではないと思い出し、すぐ指示を飛ばす。

 (もつ)れあうように戦う二人を神妙な面持ちで見ていたアルは一拍遅れで返事をして、ムツキ達の加勢に加わった。

 

「加勢するわ!」

「あ、アルちゃんじゃん! 助かる~! アレ硬すぎて手を焼いてたんだよね!」

「周囲のザコは私達に任せて!」

「お願いしますね、アルさん!」

"アル、指示する位置に狙撃を!"

「任せなさい! ―――片手でも命中させられるわ!!!」

 

 厚い装甲を持つカメのような四足歩行の防衛システムは、アルが放った爆発する狙撃弾の一撃で一気に破壊へと追いやられた。

 今後はアルをこっちに宛がうのが正解なのかなと考える視線の先で、ノノミ達は周囲の防衛システムのオートマタや無名の守護者達を一掃し、次元エンジンもムツキの盛大な爆弾で破壊していった。

 

「よっし破壊完了! あとは―――」

「ホシノ先輩!」

 

 快活に勝利宣言を上げるセリカに続き、切羽詰まったような声音でノノミが駆け出す。

 その先では未だ全身を武器に殴り掛かる"ハルカ"と盾を駆使して応戦するホシノが激戦を繰り広げていた。

 

"ホシノ、加勢するよ!"

「―――追撃お願い!」

 

 こちらの声掛けに彼女はそう応え、すぐに盾で"ハルカ"を再び殴り飛ばした。やはりすぐ着地して距離を詰めようとするが、シッテム越しに指示を出してみんなで追撃を仕掛けることで足止めする。

 その間にホシノはショットガンの弾をフルリロード。

 

「ミメシスだっていうなら、遠慮は要らないよね―――!!!」

 

 それから、盾を置いてトップスピードで駆け出し、銃弾が止むのと入れ替わるように飛び蹴りで襲い掛かった。

 咄嗟のことに"ハルカ"も反応が遅れ、その飛び蹴りを諸に食らって倒れ伏す。

 その上にのしかかったホシノが油断なく白と桃色のショットガンを構えた。

 

「これで終わりだよ」

 

 いつになく冷たい声音とほぼ同時に銃火が放たれる。二度、三度と油断のない連射。

 "ハルカ"も逃げようとしていたが、全体重を掛けてマウントポジションを取られているせいで全く逃げられず、ホシノが放つ散弾を全身に浴び続けた。

 そして一拍の間を空けてから放たれた一射がトドメとなって、"ハルカ"は脱力して動かなくなる。

 程なく、風に吹かれたかのように、あるいは紙が炎に炙られ焼けていくかのように体の端から消えていき、その存在は消滅した。

 張り詰めた空気に満ちる次元エンジンルームが静寂に包まれる。

 

「―――は~……疲れたぁ」

 

 そこにホシノの気の抜けるような声が上がって、空気が少し緩んだ。

 ふぅ、と詰めていた息を何人も吐くのが聞こえた。

 

「ホシノ先輩、つっよ……えっ。普段と全然違うじゃない。まさかいつもは手を抜いてたの?」

「いや~、抜いてた訳じゃないよ? ただおじさん、元々は盾を使わない方だったからさ。いわゆる昔取った杵柄ってやつ? まさかここまでやらないとダメな相手が出るとは思わなかったな~」

 

 にへら、と笑いながら置き去りにした盾を拾いに行くホシノ。その小さな背中を見るセリカの眼は驚きと困惑、そして尊敬の色に染まっていた。

 そこで、本船からアヤネの通信が入る。

 

『ホシノ先輩が強いのは知ってましたけど……それよりも、今は相手の方ですね。まさかハルカさんのミメシスが出てくるとは思いませんでした』

「そうですね。それに、出鱈目に強かったです。ホシノ先輩が本気になるレベルという事ですから」

 

 引き継ぐように言うノノミが、出入り口の監視から戻ってきた二人の片割れを見る。

 見られたハルカの方は不安そうに眉を寄せていた。

 

「私も、あんなに強くなれるんでしょうか……?」

「なれるんじゃないかな。元々ハルカって体が頑丈で、よくインファイトもするし」

 

 ただ、不安に思っているのは自分もああなれるのか、という点だった。

 アルの役に立ちたい一心で戦う傾向にあるからこその発想に、ミメシスのハルカを見て何かを察し、恐れていたカヨコも気が抜けたかのように苦笑していた。

 

"ハルカのそういう真っ直ぐなところは私も見習わないとだね"

「え!? えっと、その……お、畏れ多いです……」

 

 恐縮するように身を縮こまらせるハルカ。

 そんな彼女に、カヨコが語り掛けた。

 

「いや、私も同じ思いだよ。ちょっと動揺し過ぎてた……先生に社長達にも迷惑かけたし」

"これくらいは全然。動揺するのも分かる事だしね"

「だねぇ。そう自分を責める必要はないよ」

「そうよ。それだけ色々考えているという事だから、悪い事ばかりではないわ」

 

 私、ホシノ、そしてアルからフォローの言葉を掛けられたカヨコは、少し気恥ずかしそうにしながらそっぽを向いた。

 

「ところで……戦う前に何か気付いた様子だったけど、何に気付いたの?」

 

 カヨコの様子に微笑ましさを感じていると、アルがそう話を切り出した。

 少し気を持ち直したのか、今度は至って冷静な様子でカヨコは話し始めた。

 

「虚妄のサンクトゥム攻略戦の際に読んだ資料の中に、ミメシスやライブラリー・オブ・ロアの事ついて書かれてたから気付いた事なんだけど……ミメシスというのは、凄く雑に言ってしまえば『人形遊び』だよ」

"人形遊び……?"

「『ユスティナ聖徒会』は第一公会議に由来した戒律を基に再現されてる守護者。それらに意思はなく、エデン条約機構になった存在に動かされてる駒。だよね、先生」

"……まあ、概ねそうだね"

 

 カヨコの確認に頷く。

 私も全てを把握している訳ではないけれど、かつてユスティナ聖徒会を指揮していたサオリ、それを使っていたゲマトリアのベアトリーチェや、ミメシス技術を使って人工天使を創り出したマエストロという双頭の人形のような姿を持った大人達の話を総合すれば、凡そは彼女の言う通りだ。

 ユスティナ信徒。聖女バルバラ。アンブロジウス。ヒエロニムス。

 いずれもミメシスによって作られたもの。戒律を基に再現しているか、あるいは新たに作り出されたかの違いこそあれ、いずれにも各々の意思は無く、使役者や創造主の命に従って動いている。

 ―――そこまで考えて、言わんとする事を察した。

 

"……なるほど。死者を人形みたいに使っていることに、カヨコはさっき動揺したんだね"

 

 それはあちらの便利屋が全滅しているという予想を前提にした言葉だったけれど、カヨコは表情を歪めつつもこくりと頷いた。

 

「うん……アルが、そんな事をする筈が無いから。だから正気じゃないって思った」

「あー……たしかにアルちゃん、そういうことしなさそうだよね。私達が死んでも墓前にお供えしてめそめそ泣く方がよっぽど"らしい"というか」

「ねぇ、これ褒められてる? 若干貶されてないかしら? いや実際そうなったらするだろうとは思うけど」

"常識的で良識的って意味で間違いなく褒めてると思うよ"

「アウトロー的にそれっていいのかしら……?」

「―――いいんじゃな~い? 社長ちゃんが目指してるのって外道じゃないでしょ?」

 

 首を傾げるアルに、盾を拾ってきたホシノが笑いながら言葉を掛ける。

 ―――その眼は、あまり笑っていなかったが。

 

「うへ。あっちの"社長ちゃん"の便利屋がどうなってるか分からないけどさ。もし仮に居なくて、さっきのミメシスを出してきたなら、それはもうアウトローというよりヴィランだよ? それもとびっきりのやつ」

「ヴィランも格好良いと思うのだけど……」

「あれあれ~? アルちゃんってば、『私が目指すアウトローじゃない』って言ってなかったっけ? 迎合しちゃう?」

「あ、アル様がどんなアル様になっても付いて行きますから……!」

「いやしないわよ!? なんにせよあの"私"の眼を覚まさせてやる気ではいるから!」

「くふふっ、だよね~♪」

「どこまでも付いて行きます……!」

 

 くわっ! と怒り顔でそう宣言するアルに、ムツキとハルカがやんややんやと合の手を入れる。ホシノ達もその様子に苦笑だったり微笑ましい笑みだったりを浮かべていた。

 

「まあ、私もそうしないとちょっと気が済まないかな。多分あと3つの次元エンジンでも私達のミメシスが出てくるだろうし」

"そうだね……一人ずつ単独か増えていくのかは分からないけど、最悪を想定して進んでいこう"

 

 新たに増えた謎。死者を操っているも同然の悪辣な一手は、彼女をどう見るべきか私達を確かに惑わせる。

 けれどやるべき事は変わらない。

 私達は箱舟占領戦を続けるべく、補給を済ませてから第2エリアの次元エンジンを目指して歩を進めた。

 

 






シロコ*テラーと違ってベルは自ら攻撃しないから怪しまれるというどうしようもないジレンマ
『嚮導者の特性』により直接攻撃できない弊害が好感度稼ぎに繋がるとはこのリハク(以下略)

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