陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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長くなってて申し訳ない
あと2話くらいで終わる予定です
ちなみに次元エンジン第2、第3攻略の戦闘はホシノの本気ギアが入ったのを理由に飛ばしてます

先生視点です




あまねく奇跡への嚮導(4)

 

 

 『アトラ・ハシースの箱舟占領戦』は激戦を極めたが、なんとか順調に事を運べていた。

 

 第1エリアを制圧した後、ヴェリタスによって即席の本船防衛システムが構築された。

 これにより本船を防衛していた皆も多少休む時間が出来た。また占領最前線までの補給ボックス輸送も滞りなく行われており、ホシノ達、アル達の戦力も依然変わりなく維持されている。

 さらにミメシスの"ハルカ"との戦いに触発されてかホシノがいつになく気合を入れて戦い始めたため、あれから一切危うげなく全ての戦闘で勝利を収めていた。

 虚妄のサンクトゥムの守護者になった色彩化ビナー相手に一歩も後れを取らなかった時点で相当な実力を秘めているのは確かだったけど、予想を超えたその強さには、凄まじい頼もしさがある。

 そんなホシノに感化されてノノミ、セリカもやる気を出し、負けじとアル達も奮起した事で私達は快進撃を続けた。

 

「先生終わったよ~♪」

「次元エンジン、破壊完了です……!」

 

 既に第2エリアは踏破し、ちょうどいま、第3エリアの次元エンジンも破壊した。ムツキとハルカが設置した爆薬が盛大に炸裂し、爆炎と共に崩壊していく。

 

 ―――最初の次元エンジンの時のように、第2、第3エリアの次元エンジン破壊の際にも戦いはあった。

 

 第1エリアではハルカのミメシスと無名の守護者が防衛として現れた。

 第2エリアではカヨコのミメシスとユスティナ信徒。

 第3エリアではムツキのミメシスと色彩オートマタ。

 その組み合わせに何か意味があるのかは分からないが、地味にいやらしい組み合わせだなと私は感じた。"カヨコ"は人垣を縫いながら攻撃してきたし、遠距離型のムツキはオートマタ達を盾に攻撃する布陣だったからだ。

 

 まあそれらも本気を出したホシノに鎧袖一触とばかりに蹴散らされていたのだが。

 

 ……てっきり一人ずつ増えていくものだと警戒していたが、不幸中の幸いと言うべきか毎回ミメシス1人と取り巻きばかりだから同じ戦法が通用して、あまり苦労しなかった。

 その辺を分かった上でやっているのだとすると、"アル"の思惑がいよいよ分からなくなってくるのだけど……

 

"皆、補給ボックスが来るまで休憩して"

 

 ひとまず補給ボックス輸送の指示を出し、皆に小休止を言い渡す。

 それを契機に敵が居なくなった次元エンジンルームの空気がやや弛緩した。

 

「うへ~、ようやっとあと一つだねぇ。おじさんも流石に疲れたよ」

 

 いの一番に気の抜けた声を上げたホシノが肩をぐるぐる回す。疲れましたと言わんばかりのその動作も全体的に軽やかで、実際どれくらいの疲労度なのかはよく分からない。

 

「汗一つ掻かずに言われても説得力無いわよ……?」

『ホシノ先輩、珍しく完全にやる気になってますね……』

 

 セリカとアヤネも、もう強さに対して驚いてはいなかった。それ以上にあまり疲れてなさげな様子とやる気を出していることに反応している。

 ホシノもやる時はやる子だけど、ここまで本気を出している姿はあまり見せなかったのだろう。少なくとも後輩達を緊張させないように表には出さないよう努めていたはず。

 逆説的に、今のホシノは取り繕う余裕が無いのかもしれない。

 "ハルカ"と戦ってからずっとだから頼もしくはあると同時、少し心配だ。

 

「……シロコちゃんと勝負してた頃を思い出しますね」

 

 そこで、ふと懐かしむようにノノミが言った。

 目を細めながらホシノを見つめる彼女に視線を向けると、こちらに気付いたノノミは、はにかみながら話し始めた。

 

「昔のシロコちゃんは『強い人の言う事しか聞かない』と言って聞かなくて。それで、自分を倒したホシノ先輩に、よく勝負と言って挑んでたんです」

"へぇ、そんなことが"

「うへ、懐かしいねぇ。最近はめっきり減ったからおじさん、ちょーっと寂しいかも」

「まあ……ここ最近それどころじゃなかったですし、シロコちゃんにも趣味が出来ましたからね」

「多趣味で健やかに育ってくれてパパママは嬉しいぞ~! なんちゃって」

 

 にへら、といつものようにホシノが笑う。その表情だけは後輩達を大切に思ういつも通りの彼女の顔だった。

 ただその表情に、少しの寂寥が滲んでいる。

 

"……帰ったらシロコを探さないとね"

「だねぇ。まったく、今度から怪しい何かを見つけても一人で行かないようキッチリ言い含めなきゃだね」

『まあ、直前の通話の時もホシノ先輩、戻ってくるよう言われてましたけどね……』

「シロコ先輩のことだし、似たような状況に直面したら言っておいても聞かずに行っちゃうんじゃないかしら」

「そんなことはないよ~? あの子はあれでもちゃーんと注意した事は聞いてくれるからね」

"それはホシノが強い人枠だから?"

「それもあるけど、ちゃんと心配してるって分かったら聞いてくれるよ。じゃないと先生の言う事をあんまり聞いてないと思うよ?」

"あーたしかに"

 

 話の流れを聞くに『強い人』は多分戦闘面のことで、それがてんでからっきしな私はいわゆる『弱い人』になる。

 でもシロコは指示はちゃんと聞いてくれるし、注意した事も守る。

 ちゃんと思いやっていると分かれば素直に受け入れるのは確かだった。

 

「そういえばさ~、あの狼ちゃんが行方不明なのって何でなの? あの子かなり強いからまず拉致とかされないと思うんだけど」

 

 そこで話を黙って聞いていたムツキが話に入ってきた。遅れてアル達もやってくる。

 その問いに、ホシノが思い出すように目を瞑った。

 

「んーとね。連邦生徒会をカイザーが襲撃する前、非常対策委員会の招集が掛かった時なんだけど、登校途中にアビドスに兵力が集まるのを不審に思って、1人で偵察に行っちゃったんだよね。その時に変な光を見たとか通話で言ってたのが最後かな」

「変な光、ね~……それさ、もしかしてだけど……」

『―――先生、少々よろしいですか?』

 

 何か思い至ったのかムツキが話し始めたところで、ヒマリから通信が入った。全体回線だったためそれを優先してムツキが口を閉じる。

 その内容が気掛かりではあったが、ヒマリの話を無視するわけにもいかないため一旦そちらに意識を向けることにした。

 

"ヒマリ、どうしたんだい?"

『報告があります。まず箱舟の演算機能を確保できてから私達は中枢システムにハッキングを仕掛けました。防御システムなどがこれですね』

"そうだね"

 

 元々『占領戦』は演算リソースの奪い合いという意味に由来している。

 そういう意味でヴェリタスやヒマリといったハッカーの力がとても大事だった。それは本船がある第1エリア、占領済みの第2エリアに防御システムを構築し、本船の防衛や補給ボックスの確実な輸送を行うにあたって証明されている。

 

『その延長線で警報装置や通信網などを漁った結果、この箱舟内で私達や先生を除いて2人分の生体反応が検出されました。うち1人は"彼女"のものです』

"2人分……そっか"

 

 本船で乗り込んできた私達を除いて2人分。

 それはつまり、"アル"以外にあと1人しか生きてる人はおらず、彼女の『便利屋68』は壊滅しているという推察が確固たるものとなった事に他ならなかった。

 ミメシスの彼女達しか出てこないから薄々察してはいたけれど……

 いったい彼女に何があったのか。

 それが気がかりではあったが、今はひとまず報告の続きを聞くことが優先だと意識を再度ヒマリへと向けた。

 

"それぞれがどこにいるか分かる?"

『"彼女"の反応は中心部(第4エリア)にあります。もう一人も同じですが、こちらは閉鎖されたセクションですね。ハッキングした通信網経由でそちらに画面を表示します』

 

 ヒマリのその言葉のあと、次元エンジンルームの壁にホログラムが表示された。そういった機材も無いのにそれが出来るのは流石超技術と言わざるを得ない。

 そのホログラムは暫く暗転したままだったが、程なく映像が映し出された。

 ―――映し出されたのは、『2』のワッペンを付けた青い目出し帽を被った少女が室内を歩き回っている光景。

 杳として行方が知れなかった砂狼シロコの元気な姿がそこにはあった。

 

"シロコ!?"

『えっ、シロコ先輩!?』

「うへ!? まさかのシロコちゃん!?」

「シロコちゃん、ここに囚われてたんですか!? というかその恰好……」

「攫われてる状況でなにやってんのシロコ先輩……!?」

「あっはははははは!? なにそれ面白!? 狼ちゃん自由過ぎでしょ!?」

「痛っ、ちょ、痛いわよムツキ!? コートの上からでも痛い!?」

「……思ってた以上に逞しいね、あの子」

「わ、私も見習わないとですね……」

「いや、あのベクトルの逞しさを見習うのは微妙かな……」

 

 あまりの光景とまさかここに囚われていたとはと予想外の事態に唖然とする中で、ムツキが腹を抱えて大爆笑し、白目を剥くアルの背中をバシバシ叩く。抗議の声がアルから上がるもそれに反応できないくらい笑っていた。

 いやまあ、気の抜けるというか、なんというか……

 とりあえず衰弱とかはしてなさそうで安心である。

 そして、あちらにも同じようにホログラムが展開されているのか、画面越しにこちらを見て笑いかけてきた。目出し帽姿でとてもシュールである。

 

『ん、やっと見つけてくれた。先生、みんな……待ってた』

"シロコ、大丈夫? 怪我はないかい?"

『大丈夫。自転車に乗って学校に向かってたら、拉致されただけ。人質になるのはセリカみたいな子だと思ってたから油断してた。ごめん』

「な、なっ!? ちょっとシロコ先輩、どういう意味!?」

 

 挑発目的ではないのだろうけど、だからこそ本音でもあるそれにセリカが怒りを見せた。

 その反応を見て、シロコの笑みもより深まっていた。

 

『でも、助けに来てくれるって分かってたから……大丈夫。ここに放り出された時の衝撃でちょっと体の節々が痛いだけ。それ以上の危害を加える様子が無いから身代金目的みたい』

「本当に我が道の如く魔道を行くわねあなた。素直に尊敬するわ……」

「いやぁ、これはおじさんもびっくりだけどね……趣味で計画立ててるだけあるよほんと……」

 

 淡々と目出し帽姿で状況分析をするシュールな光景に、アルが呆れとも感心ともつかない所感を漏らす。かつて覆面水着団の在り方に強い憧れを抱き、それを契機に我が道を突き進むことに邁進している彼女にとってある種の原点であるその姿に、改めて感心しているようだった。

 状況が状況だから呆れも出ているのだろうけど。

 その呆れはホシノの方が強いようだった。ただ安心したという笑みが顕著だから、シロコに呆れは伝わってないかもだけど。

 

「それで、シロコちゃん。人質なのにその恰好はどうしたのさ?」

 

 そしてホシノが呆れながら問いかけると、当のシロコはホログラム越しでも分かるくらい目を輝かせ、耳をピンと立てた。

 

『ん、これは……いつもバッグに入れてるから。チャンスは準備された者に訪れるもの』

 

 キリッとした面持ちでそう言い放つ彼女に、こちらの面々はもう安心というか呆れというか、色んなものが綯い交ぜになった顔だった。

 彼女は今の状況を知らないだろうけど、それでも拉致された身であることには変わりない。

 それでもあまりにもいつも通りなその姿に安心させられた部分は大いにあった。

 

『少し前からここが襲撃を受けてるみたいだったから、脱出する時、隙を見て高そうな物を―――』

「こんな状況なのに……そんな計画を……」

「うへ~……シロコちゃんは本当に、ピンチからチャンスを生み出す天才だねぇ……―――でもさ、シロコちゃん。おじさん言ったでしょ?」

『ん……』

 

 そこで、ホシノの声音が安心したという柔和なそれから、言って聞かせる凛としたものに変わった。

 その変わりようを如実に感じ取ったらしいシロコが、バツが悪そうに目出し帽を脱ぐ。

 それから、かつてブラックマーケットの銀行を襲撃した際、銀行員が詰め込んだ約1億のお金を使おうとした後輩達に言って聞かせたホシノの言葉を口にした。

 

 ―――こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになる。

 

 ―――そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ。

 

 それはホシノなりに学校を、後輩の未来を想っての言葉だった。

 実際に盗んだお金で借金を返してもすぐ足が付く。またそれで何かを得ても、また困れば同じことを繰り返すだけ。その第一歩を踏ませないための思いやり。

 シロコはそれをキチンと覚えていた。

 それを知って、ホシノがにこにこと笑みを浮かべる。

 

「うへ~、よく覚えてるね。そこでじっとしてるんだよ? すぐ助けに行くから。積もる話は後で、ね」

『ん、待ってる。ホシノ先輩、みんな、先生……助けに来てくれるって、()()()()

 

 分かっていた、ではなく、知ってた。

 それは彼女にとって当たり前の事という認識。心配されている、大切にされていると自負している事の表れだった。

 ホシノ達が大切に思っている事はちゃんと伝わっていたらしい。

 そして、それに含まれている私の気持ちも。

 報われる気持ちに、思わず笑みが零れた。

 

"……うん。当たり前だよ"

 

 そう言葉を返すと、シロコが薄く、けれど確かに微笑んだ。

 それから、その視線が私達の横―――アル達に向く。

 

『便利屋の人達もいるのは、さすがに予想外だったけどね』

「別にあなたを助けに来たわけじゃないわ。そもそも私達もあなたがここにいるって知らなかったからね。ついでに助けてあげるのは(やぶさ)かではないけれど」

『ん、素直じゃない』

「行きがかり上というやつよ。顔見知りのよしみでちゃんと助けてあげるから、それでよしとしなさい」

 

 アルがそう笑い掛けると、シロコもまた笑みを返した。

 

『それじゃ――ここで――――ってるから――』

 

 そこで音声が乱れ、程なく映像も途切れた。

 しん、と静まり返ったエンジンルーム内で、再度ヒマリから通信が入る。

 

『先生。シロコさんがいる場所は、先ほど申し上げたように第4エリアの閉鎖されたセクションです。ですがここへ通じるゲートを開くには、箱舟の上層階に存在する『特別エリア』―――その中にある制御室を破壊しなくてはなりません』

"特別エリアか……ハッキングでは無理そう?"

『はい。物理的にもスタンドアローンな区画のため、ハッキングの影響を受けないようなのです』

"つまり次元エンジン破壊と、制御室破壊の二手に分かれないといけないわけだね"

「―――なら、私達が次元エンジン破壊に行くわ!」

 

 ヒマリとの会話に割って入ったアルがそう宣言する。ふふん、と声なき声が聞こえてくるような胸を張ったその様のまま、彼女は続ける。

 

「あなた達はあのやんちゃ娘を迎えに行ってあげなさい!」

「うへ~……有難いけど、でもおじさん居ないと厳しくない? 大丈夫そ?」

「初戦では後れを取ったけどもう問題無いわ。でしょう、ハルカ?」

「は、はい……! 私自身が相手でも、アル様のために勝ってみせます……!」

「それにウチの社員は優秀なんだから! 策を練らせれば先生にだって負けない、そうでしょうカヨコ?」

「先生にも、というのは言い過ぎだけど……ま、ただ言うこと聞くだけの奴には負けないよ」

「そして相手の意表を突くのが得意なムツキの真似なんて絶対できないわ!」

「くふふ、私と比べても撃つだけ爆破するだけなミメシスが可哀そうなだけだよ?」

「なにより、この社長たる私が居るのだもの! 全員キレてる(やる気に満ちてる)のだから負けは無いわ! 先生だっているしね!」

 

 そう言って話の矛先が私に向いた。あ、そこで私に振るんだと苦笑が漏れる。

 

「えっ、先生そっちに行くの?」

「まあ指揮が必要なのは次元エンジン側でしょうから……」

「だね~。制御室破壊はおじさん達だけでやるとして……あ、そういえば。アヤネちゃん、シロコちゃんがいるトコってどっちからが近いの?」

『えっと……ルート上だと、次元エンジンの方ですね。制御室は物理的に離れてるのもあって遠回りになります』*1

"じゃあ私とアル達は次元エンジンを破壊した後、シロコを迎えに行けばいいんだね"

「だねぇ。うへ、先生と社長ちゃん達、ウチの子をよろしくね~」

「よろしくお願いします」

「よ、よろしく……」

『シロコ先輩を、どうかお願いします』

 

 にへらと笑いながらそう言ったホシノが、ぺこりと頭を下げた。それに倣うようにノノミとセリカ、ホログラムのアヤネも頭を下げる。

 それにアル達は笑みを浮かべた。

 

「ええ、任せておきなさい!」

「くふふっ、いっぱい笑わせてもらったお礼はしないとね!」

「ま、箱舟を自爆させる以上は助けないとだしね」

「命に代えてでも任務を遂行します……!」

 

 各々が自分の役割を認識し、意気込んだ言葉を交わす。

 それと同時に補給ボックスが来たため、手持ちの弾薬等の補給を済ませ、私達は二手に分かれた。

 

 ―――そう意気込んだのは良かったのだけど。

 

 第4エリアの次元エンジンにカメ型の防衛システムや無名の守護者、オートマタ、ユスティナ信徒などは現れたが、ミメシスは終ぞ現れなかった。

 てっきり"ムツキ"、"カヨコ"、"ハルカ"の3人組で来ると思って身構えていただけに、酷い肩透かしを食らった気分だった。

 エンジンの破壊も滞りなく完了。シロコも助け出せた。

 思っていたよりも楽に終わったのは喜ばしいことだが……

 何とも言えない不安感が胸中を襲う。

 

"……今回は来なかったね"

「……嫌な流れね」

 

 私の呟きを、アルが拾う。

 これで占領戦は完了。あとは急いで本船へ戻り、箱舟の自爆シーケンスを起動するだけだが―――

 これで終わりではない確信が私達にはあった。

 

 

 

『―――ちょっと待ってちょうだい! 『ウトナピシュティムの本船』が、ハッキングされているわ!!!』

 

 

 

【『自爆シーケンス』を実行します】

 

 

 

 そして、その確信は現実のものとなって私達を襲った。

 私達がアトラ・ハシースの箱舟の占領を進めている間に、あちらはバックドアからウトナピシュティムの本船の掌握を進め、本船の所有権を手にしていたのだ。

 それはつまり、本船の演算リソースを相手が手にしているという事と同義。

 箱舟の多次元解釈を助けた形となり―――

 

 

 キヴォトスの空は、再び赤く染まった。

 

 

『ハッキング位置、確認しました。アトラ・ハシースの箱舟第4エリア中央部、多次元解釈エンジン管制室『ナラム・シンの玉座』です!』

『ここからウトナピシュティムをハッキングしてる……止めないと!!!』

 

 焦燥に満ちたヴェリタスの部員、コタマとハレの通信を聞き、私は助け出したシロコと一緒に戦ってきたアル達の顔を見た。

 5人とも、決然とした面持ちで視線を返してくる。

 

「―――要するに、そのハッキングを止めるためにはそこに行けばいいという事ね?」

"そうなるね。みんな、一緒に来てくれるかい?"

「愚問ね。私達はそもそも、あの"大きな私"の目を覚まさせるために来ているのよ? 行かない選択肢なんて最初(ハナ)から無いわ!」

「ん、どのみち戦わないといけない状況だから私も行く。ついでにお礼参りもする」

 

 アルの言葉にムツキ達は頷き、残るシロコも闘志に溢れた様子で追従した。

 彼女達に頷きを返し、私は全体通信を繋げた。

 

"私とシロコ、アル達でハッキングを止めに行く。後のことは、お願い"

 

 その通信に幾つもの息を呑む声が聞こえたが、それを無視して私達は駆け出した。

 目指すは一路、次元エンジン管制室『ナラム・シンの玉座』。

 

 ―――そこに、"アル"はいる。

 

 無価値を破壊する王を自称した彼女の下に着くまで、あと少し。

 

 

 


 

 

 

「報告。先生、砂狼シロコ、および便利屋68全員がナラム・シンの玉座へ急行中です」

 

「そう……概ね想定通りね。逆ハッキングの状況は?」

 

「現在、地上に虚妄のサンクトゥム再顕現の途中。付近に飛鳥馬トキの影あり」

「本船の自爆時間は加速中。程なく調月リオにより、多次元解釈抑制機能を以て止められるかと。現在は抑制時間の加速の準備を進めています」

 

「抑えめでいいわよ。本船が無事じゃないと、脱出シーケンスは働かない。リオに失敗体験を積ませるわけにもいかない。彼女は思い詰めてしまうから」

 

「承知しています。全ての行程を本来の75%程度のペースで進行中です」

「それより、ベルさんはこれからの事を気にされた方が良いかと。少なからず疑惑を抱かれている様子です」

 

「―――私達の世界と同じ末路を辿る分岐は過ぎた」

「その時点で、もう看破されようとされまいとどちらでもいい」

「未来を繋ぐため。そんな殊勝な風に言っても、エゴには変わらない」

「人々を脅かし、世界を存亡の危機へ陥れ、"あの子達"の遺志も思い出も利用した事実は変わらない」

「……その責任は、取らなくちゃならない」

「『ベレツ・ウザ』も、その演習の機会も、手土産には丁度良いでしょう」

 

「……理解されないかもしれません」

 

「むしろそれが当然よ」

「他人のことを真に理解できることなんてあり得ない」

 

「…………」

 

「けれどね」

 

「?」

 

「理解できないことを通じても尚、相手を理解できる場合がある」

「そして理解しようとする事を諦めない限りその可能性は潰えない」

「……きっと、先生は理解しようとし続けるでしょうね」

「どの世界でも、あの眼は変わらないから」

「だからこそ―――想定通りなのよ」

「先生がそういう人だと信じての計画だから」

 

 

*1
本編でも次元エンジンに先生、制御室破壊にホシノ達で分担

シロコの迎えには先生が向かっている

そのため次元エンジンからの方が近いとした

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