お久しぶりです(2カ月ぶり)
小話です
振り返りを含めた導入なので特に動きはありません
手癖でシリアスになる事があると思いますがお付き合いくだされば幸いです
カヨコ視点です
便利屋の平穏な一幕
ベルが初めての『再現』を終えてから暫くが経った。
『再現』は入念な事前準備の甲斐あって大成功を収めたらしい。
詳細は聞いていないけど、帰って来た時の彼女の顔は憑き物が落ちたようだったから彼女としても満足のいく結果だったようだ。
『二度と繰り返させない』という決意を本当の意味で果たせるようになったのだからそれも当然かもしれない。
それに
ともあれ、前向きに動く理由を得られた彼女は今まで以上に精力的に活動するようになった。便利屋の家事を当番制にして時間が空いたから活動できるようになったと言うのが正しいかもしれない。
「社長、今週の収支報告書をまとめたわ。確認しておいて」
「ありがとう副社長。早速見させてもらうわ……ふふ、今週も黒字ね」
「正に堅調の一言ね。まあ、気に入らない依頼主を爆破したり、依頼を放棄したりは相変わらずのようだけれど」
「……ちょっと棘が無いかしら?」
「無いわ。それがあなたの選択なら、一社員としてその歩みを支えるだけよ」
ブラインドが茜色の陽光を遮る事務所の中で瓜二つの二人が会話を交わす。
頭一つ分の身長や体格を除けば髪の長さとコートの色褪せ具合くらいしか違いのない二人を何も知らない人が見れば、歳が離れた姉妹か、あるいは親子と勘違いするかもしれない。
「こうして見てると、ベルちゃんってホントにアルちゃんに入れ込んでるねー」
ソファでくつろぎながら社長用のデスクで話す二人を眺めていたムツキがおもむろにそう言った。その視線はこちらに向けられていて、話し相手に私を選んでいるらしいことが読み取れる。
ちなみにハルカは事務所で保管している爆発物の整理のために部屋の隅で作業をしている。
スマホでニュースを漁りつつ、特に興味を引かれるものもなくて暇をしてた私は、ムツキからの雑談の誘いに乗ることにした。
「まあ……経緯が経緯だしね」
ムツキに言葉を返しつつ、頭に思い浮かべるのは聞き知っている
キヴォトスの破滅を避けるため、生まれた頃から焼き付いていたという未来図にあった『陸八魔アル』の姿を追い求めて便利屋を立て、それを維持し、先生が来てからも日々を駆け抜け―――全てを喪った果てにこの世界に来た彼女の道程。
彼女は過去の殆どを語らないけど、それでも教えてくれた僅かな事から想像を絶する事があった事は容易に察せる。
―――そう。察せるだけで、私達は知ってはいない。
私達が知らないその『想像を絶する事』こそが、この世界のアルと別世界の
……迂遠的に、それは自己否定に等しい気はするけれど。
アルを見て、ベルが何を思い、感じているかは定かではない。
そこに踏み込むことも安易には出来ないから、私はそこに関して言及は避けるようにしていた。多分ムツキやハルカ、当然アルも同じだと思う。
踏み込む時は、ベルが無理をしている時くらいと暗黙の了解になっていた。
それを察してるか分からない当人は、社長のデスクの傍らから純粋な疑問の目をこっちに向けているけど。
「……そんなに入れ込んでるかしら、私」
「分かりやすいよー。でもアレだね、ナルシストな感じはないよね」
「ベルの場合、本物や偽物どうこうの認識が根っこにあったからだろうね」
『未来の知識』を持って生まれたベルとそうではなかったこちらのアル。その生まれついた差異が、アルは自身とは違うという認識を作り上げているのは確かだろう。
いやに低い自己評価で別人判定してる可能性もあるけど、追及し出したらキリが無いので敢えて口には出さなかった。
「社長と私は別人だもの、当然よ」
「まあそうね。私もベルが賞賛されたからって自分も凄いとは思わないし。あ、優秀な社員を持ててる点では思うわね……?」
「それはトップとしてむしろ正常だと思うしもっと誇ってもいいと思うわよ。私がここに留まる事を受け容れられた理由そのものだし、あなた」
「ムツキ達が理由じゃないの?」
「それは『留まる』選択肢を選ぶ理由。あなたは『留まる』という選択肢自体を作ったの。似てるようで違うわよ、これは」
「そう……? まあ、それならベルがウチに来てくれた事をもっと誇るわね!」
誇れと言わんばかりに微笑むベルに、アルが少しわかってないような反応をしつつ、でも褒められて悪い気はしないからと胸を張って笑った。
「くふっ♪ やっぱ"そういうとこ"だよねぇ、アルちゃんは♪」
「……だね」
「はい……」
誰にともなく満足げに笑うムツキに、そうと分かっていながら私も同調するように笑って頷く。作業を終えてこちらに来たハルカも静かに同調した。
選択肢の中から選ぶ理由になるのではなく、新たな選択肢を作る。
それは予想を飛び越えていく行動の根幹でもある部分。
鬱屈とした閉じた空気にあっても、希望を抱かせてくれるアルの良いところだ。もっと良いのはそれを本人は無自覚で――つまり計算や打算無しの心からの衝動で――やっている点。
全部が全部そうじゃないし、苦労させられる事も多々あるけれど。
……それでも、付いて行きたいと思える部分なのだ。
―――そしてきっと、これをベルも持っていた。
あちらの"私"がベルの下に居着いて色々教えるくらいだ。
こっちのアルよりは慎重で、それが必要になるくらい切羽詰まった事はずっと少ないだろうけど、だからこそ余計に惹かれていたと思う。
私とは違う出会い方をした"私"の話もいつか聞いてみたいものだ。
「……それで社長、今日の報告会は終わり?」
色々な想いを馳せることに区切りを付けた私は、社長にそう水を向けた。
一日の締め括りとして事務所にいる時は反省会兼作戦会議兼報告会をしているけれど、それもいつも大きな何かをしている訳じゃないからすぐ終わる。ベルのオペレートや情報収集のサポートが入って以来、スムーズに依頼をこなせるようにもなったから不測の事態に見舞われる事も少ない。
無論ベルが言ったように気に入らない依頼主を裏切ったりなど突拍子もない行動自体はあるけど、今日に関しては特に大きな問題も無かった。
他にはもう無いのかと視線を向けると、ふむ、とアルは少し考え込んだ。
「そうね……あとは明日の確認くらいかしら。ベルとカヨコはシャーレの当番だったわね?」
「そうだね。だから明日仕事が入っても私達は出られない」
「じゃあいっそ休みにしましょう。何だかんだで働き詰めだったし、明日と明後日の2日はお休みで! 2人は1日だけになるけど……」
「私に関しては気にしなくていいわよ。不定休どころか不定勤務で従事してない日の方が多いし」
「私も同じく。開店休業で待機するより気楽だからね」
申し訳なさそうにするアルにふっと笑って言葉を返す。
最近は多少疎らとはいえほぼ定期的に何かの依頼に従事しているけど、かつては本当に何日も依頼が入らない時がザラだった。
待機時間中の行動を社長も束縛はしないから音楽を聴いていても何も言ってこないけど、自由時間とも言い切れないから完全に気を抜いて没頭することも出来ない。そんな中でいつ来るか分からない依頼の電話を待ち続けるのは中々キツいのである。
「ぐぅっ……しょ、精進するわ……」
「別に文句ってわけじゃなかったんだけど……」
「率直な意見ほど効くものよねぇ」
なぜか渋面で苦しみながら精進すると言うアルに、ベルは苦笑しながら頷いていた。
依頼がなかなか来ずに一日待ちぼうけを食らってた日々のことをアルが気にしている事は分かっていたけど、それは私の予想以上だったようだ。
「じゃあさ、明後日なんだけど暇ならショッピングとかどう? ベルちゃんも!」
自由時間になったと見てすかさずムツキが挙手しながら誘いを掛けた。
私達は便利屋としての依頼状況で仕事の日と休みの日が変わるけど、ベルは『外』の事や突発的な『傀儡』の件もあるため本人が言っていたように不定勤務状態で固定されていない。遅くとも前日の報告会で翌日の予定を伝え、全体の予定が組まれる形だ。
だからベルを誘うなら今のタイミングが最後の機会になる。
それに最近のベルはオーパーツの研究だとかでミレニアムに行ったりと『再現』の発起に際して減らした負担がまた戻りつつある。それを少し気にしてかムツキは息抜きに付き合わせるつもりのようだった。
それとなくアルやハルカ、そして私も視線を向ける中、ムツキへ視線を返しながらベルが笑う。
「嬉しい誘いね。でも残念、用事があるの。ショッピングはまた今度ね」
「えー折角の休日なのにー? 元から入ってたんだろうけど、その用事ってなに?」
「聞いた覚えがないけど……あなたまさかシャーレの手伝いに行く気じゃないわよね?」
「ベル様……?」
アル達はベルへ疑いの目を一斉に向けた。私も言葉にこそしないけど、アルと同じ予想が頭を過ぎっていた。
通信課程の課題提出の可能性もあるからいきなり責めはしないけど……
当のベルは心配して疑っている私達に苦笑を零していた。
「信用が無いわね。まあ日頃の行いかしら……ミレニアムの
「……その言い方から察するに、リオやヒマリ達じゃないよね。ゲーム開発部?」
「当たりよ」
ミレニアムと聞いて即座に浮かんだのはオーパーツの研究へのアドバイザーとしての用事だったが、言い回しが3年生の
それを元にした予想だったけど、どうやら当たりらしい。
―――ゲーム開発部。
名前からして文科系の部活で、ウトナピシュティムの本船に乗ってきたのも好奇心故の部分が多かったように見えたけど、その戦闘力はかなりのものだと記憶している。それは虚妄のサンクトゥム攻略戦や本船防衛を担当して成し遂げた実績からも明らかだ。
天童アリス単体で言えば多次元解釈バリアを突破するキーマンでもあったし、それがなくともレールガンという絶対的な攻撃力を持つ武器を持っている点でも侮れない。
まあ当人たちはゲーム好きの子供そのものの雰囲気だったけど……
「あの子達が手掛けたゲームのアルファ版が出来たらしくて、お誘いが掛かってね」
「ああ……そういえば『再現』の時にそんな約束したらしいね」
『再現』に際して制約解除連合作戦の演習相手として協力したのはアビドスの廃校対策委員会、ゲヘナの美食研究会、ミレニアムのゲーム開発部。
そのお礼として、前二つには反転した砂狼シロコの発案によってベルの手料理が振る舞われた。
残るゲーム開発部はアトラ・ハシースの箱舟の散策がお礼として提供されたのだが、その時のインスピレーションを元にした宇宙を舞台にしたゲームを作った時、それを一早く遊ばせてあげる―――そんな約束を交わしたらしい。
このへんは後になって先生に教えてもらった。私達も一緒に摂っていた食事会にゲーム開発部は居なかったから、そこへのお礼は何だったのかと聞いた時に。
「ではベル様はゲームをしに行かれるんですね」
「そうね……」
「何でそんな微妙な顔なのさ」
「あの子達の作品は色々尖ってるから……楽しめる作品である事を祈るわ」
ふふ、と苦笑を浮かべてベルはそう言った後、それ以上を語る気は無いとばかりに口を噤んだ。
口ぶり的に多分あの子達の過去作を知ってるようだけど、素直に期待できない出来のものが多いのだろうか?
気になったので後で調べてみるかな、と心のメモに書き留めておいた。
「なるほどね~。じゃあショッピングはまたの機会にするとして、それ私も付いて行っていい?」
「あ、じゃあ私も行くわ! ミレニアムの校舎なんて早々行ける場所じゃないし、後学のためにね!」
「アル様も行かれるのでしたら……!」
「皆が行くなら私も行こうかな」
何となく仲間外れはヤだな、程度の気持ちで自分も参加を表明する。
全員付いて行く旨を聞いたベルは少し悩むような表情を浮かべた。
「……曲がりなりにも指名手配グループだから難しいんじゃないかしら」
「ベルちゃんは行けるじゃん? トップと顔見知りなんだし許可取れたら大丈夫じゃない?」
「まあ聞いてはみるけど……一応言っておくけど、ゲームをしに行くだけでミレニアムを見て回るわけじゃないから多分かなり暇よ?」
「ベルちゃんが新作ゲームで一喜一憂してるの見てるだけで多分面白いから大丈夫!」
「私はコメディアンじゃないのだけどね……とりあえずみんなの分の許可も今夜か明日にでも取っておくわ」
「くふふ、お願いね~」
臆面も無く面白がりますと言ってのけたムツキに、呆れたようにベルは苦笑した。
それから気を取り直したように表情を改めた彼女がアルに視線を向ける。
「それで、社長は明日どうするの? ムツキとハルカも」
「事務所で経営の勉強でもしてるわ。依頼の電話が掛かったら出ないとだしね」
「私はあの子達のお世話をしに行った後は事務所にいる予定です」
「私は、そうだな~。面白い物がないかショッピングでもしようかな」
「……これは近々悪戯を仕掛けられそうね」
「くふふ♪ どんなものか楽しみに待っててね♪」
「はいはい、楽しみに待ってるわね」
悪戯する気しかないムツキの犯行予告に、呆れつつも楽し気に笑ってベルが応じる。
そのやり取りに私達も自然と笑みが零れた。悪戯を楽しみに待てるなら、今のベルは無理はしてないということだ。
「―――ん、賑やかだね」
そこで、事務所に第三者の声が響いた。
声が聞こえた方向―――出入口の方へと目を向ければ、アビドスの制服姿の反転した砂狼シロコが入ってくるところだった。
"こんばんは、みんな"
「あら先生、いらっしゃい! 大きいシロコもよく来たわね!」
更にシロコの後から先生も姿を見せた。いきなりの来訪に驚きと喜色を滲ませながらアルが社長席から立ち上がって出迎える。
私やムツキ達も立ち上がって二人を出迎えた。
「先生、いきなりどうしたの~? 私達に何か用事? それとも会いたかったってだけ? 大きい狼ちゃんは護衛?」
"特に用事というわけじゃないよ。調子が気になってたのはあるけど"
「いや、明日の当番には私とカヨコも行くんだからその時に聞ける事でしょ……大方そっちのシロコが発端なんでしょうけど、本当の目的は何なのよ」
先生の答えに呆れを見せつつ、ベルは砂狼シロコへと半眼の視線を向けた。見られた方はあっけらかんとした様子で薄く微笑む。
「察しが良いね……と言っても、本当のっていうほど大した事じゃないよ。便利屋の皆を柴関ラーメンに誘いに来ただけだから」
"柴大将が店舗を持ち直したらしくてさ。その開店祝いでどうかって"*1
「ついでに言うと、私はそこのアルバイトとして入るから客引きも兼ねてる。今日はシフトじゃないけど」
ブイ、とVサインを控えめに掲げながらシロコが言う。
とどのつまり、食事の誘いに来ただけらしい。
……それにしても。
「柴関ラーメンが屋台になったの、ウチが原因なのによく誘えるね……」
かつて先生と出会ったばかりの頃、色々と追い詰められて迷走していたアルの失言を聞いて先走ったハルカが店舗に仕掛けていた爆弾を起爆させた事があった。柴大将のお店はそうして無くなった訳だが―――
そもそものお店を喪った原因の集団を開店祝いに誘うとは。
正直どうなんだと思った私は嘆息と共に言葉を投げていた。
「大将が許してるし、あなた達も同じことはしないでしょ?」
シロコの方はそれでも表情を変えないままそう言って、見当はついていたのだろう爆破の下手人―――ハルカについ、とオッドアイの視線を向けた。
「あっ、えと、その……はい。しない、です……」
「まーハルカちゃんが先走ったとはいえ元はと言えばアルちゃんの発言が原因だけどね? 『こんなお店があるのがいけない!』みたいなこと言ってたし」
「ああ、言ってたねそういえば」
「ぐぅっ……! も、もう言わないわよあんなことは!」
「だってさ。だからハルカちゃんが暴走する事も無いと思うよ~」
「……ん」
言いながらムツキは、あわわ、と慌て始めたハルカを落ち着けるように抱き着いた。そうして背の高いシロコを見上げてにやりと笑う。
それを受けたシロコが瞬きをして、ハルカやムツキから視線を外し、ベルへと向けた。
「そういう事だから、便利屋を誘いに来た。今なら開店セールで1割引き実施中。お得だよ。来るなら今」
「……いや、私は副社長なんだけど。なんで私を見てPRしてるのよ」
「便利屋のお母さんが外食を許さないとだから」
「誰がお母さんよ、誰が」
はぁ、とため息を吐きながらベルは顔を手で覆った。頭が痛いと言わんばかりの様子である。
それに私達は苦笑を漏らした。
シロコの言わんとする事も分かりはするのだ。家事関連や財布を握ってる辺りからその連想が出てくるのも無理は無いから。
実際のところは本人が先生に言われて納得もしたらしい『末っ子』部分もあるから、親というよりは姉、時に妹のような立場になるのだけど……
シロコは多分それを知らないのだろう。
つまりあの一面は『未来知識』について知っている先生と私達にしか見せていないということ。彼女の懊悩や苦悩の根幹はそこにあって、それを知らない子達には隠しているからしっかりしているように見えているだけ。
それをベルが選んでいるのならわざわざ話す必要は無いだろう。
「ま、ウチのお金の管理してるのはベルだからね。外食したいと思わないくらい美味しいご飯も作ってくれるし、言われるのも納得ではあるよ」
「デザートも作ってくれるものねぇ」
「それに別に外食禁止なわけじゃないもんね。個人のお金でなら買い食いくらい普通にするし」
「節制のため、生活のため……もっと言うと家賃のためですからね……」
"その分だと実は結構外食はしてる感じ?"
「予約するとか計画的な外食はしてるわよ。そもそも私の財務管理だって便利屋の経営が安定するまでのもので、その一環で外食制限をしてただけ。財務が安定した今も継続してるけど」
「そりゃあベルちゃんのご飯が今も出て来てるからねー。外食する理由が無いから自然とね?」
「安定するまではって話だったのに財務管理も食事の用意もそのままだからね……」
ムツキの後を追うように私も言葉を続けた。
そう、元々は先生に頼らないとご飯もままならかった状況から脱するために、安定志向の経営をしていたというベルに財務管理をしてもらっていただけなのである。
それが収支が黒字で安定するようになっても続いているのは、それが日常になっているからだった。日々出してもらえるご飯が楽しみで『節約しないと』という意識も無かったと言って良い。
生活の一部になっていたから財務管理と言っても窮屈に感じなかった。
それが辞め時を喪った一因ではあると思う。それが良い事か、はたまた悪い事かは分からない。
「ベルの負担を思えば辞めてもらっても良いとは思うけど……正直、有難いんだよね。野宿も別にいいけど出来る事なら安定した生活を送りたいから」
ちなみにベルの財務管理が無くなったら勢いはともかく散財癖が頭を擡げるかもなと警戒する程度にはアルの金銭感覚はあまり信用していない。依頼も基本電話で受けるのに見栄のために高い事務所借りて、デスクをレンタルして、電話線引いてってお金を掛けて、財務管理が始まってもその辺は妥協しなかったから……
皆となら野宿も悪くないかなとは思うけど、出来ることなら今の生活を続けていきたくはある。
これから暑くなってくる季節に空調の無いテント暮らしは普通にキツい。
「ん……事務所を追い出された時は、ベルの箱舟に居候すればいいんじゃ?」
小首を傾げながらシロコがベルに問う。問われた彼女は、やはり難しい顔だった。
「便利屋の一員として泊めてあげたいとは思うけど、自業自得の場合は泊めてあげるのは甘やかしになるからダメだとも思うのよね」
"ベルが考える自業自得とそうでないラインって?"
「社長の金遣いの荒さで追い出されたか否かね」
「私限定なの!?」
「私が財務管理してる理由のほぼ全てよあなたのそれ」
「ぐぅっ……!?」
がぁん!? と驚きを露にするアルに、呆れたようにベルが言った。それに対してまたアルが苦し気に呻きを上げる。
なんかさっきも見たなこれ……*2
「……それで、柴関ラーメンには来ないの?」
呆れながら笑っていると、耳をぱたた、と瞬かせたシロコが少し眉根を寄せながら問いを投げた。
そういえばその誘いから話が横に逸れてたなと思い出す。
「私は行ってもいいと思うわよ。柴大将のお店って定価がそもそも安かった筈だし、最近の便利屋の経営も堅調だしね。勿論、社長達が行くならだけど」
「だってさ。どうするアルちゃん?」
「そうねぇ。久しぶりに行きましょうか、話をしてたら食べたくなってきたし」
「じゃあ今日の夕食は大将のラーメンだね」
「柴関ラーメンに行くのは本当に久しぶりですね」
「決まりだね。じゃあベル、あのワープで送ってほしい」
「あなたもしかして自分の足でアビドスまで帰るの面倒でそれ目的で誘った?」
「……ベル様を足代わりに……?」
じりっとハルカが険呑な空気を纏って距離を詰め始める。仕事終わりだった事もあり銃をガンラックに置いている無手の彼女は、腰を落とし、いつでもマウントポジションを取りに行ける臨戦態勢を取っていた。
それを見てシロコもやや腰を落としながら
「そんなことはない。客引きのためでしかない」
「疑わしいわねぇ……」
ジトッとした目をベルが向けるが、シロコは薄く微笑みを湛えるばかり。私には既に同意を引き出して勝ちを確信しているからこその余裕に見えた。
それで何か言っても無駄だと悟ったのか、ため息を吐いたベルがハルカの首根っこの襟を摘まんで止めた。止められたハルカは即座に戦意を雲散霧消させる。
パッと見、猫みたいな扱いだった。
「ん。じゃあ外に出よう、自転車もあるから」
ハルカが止まったのを見て安堵の息を吐いたシロコは、意気揚々とそう言った。調子のいい子である。
「いっそいま直接飛ばしてあげましょうか?」
「それはやめてほしい。明日よわシロコとのツーリングの約束があるから困る」
「ちゃんと運動の予定入れてるのは流石ね」
「自己管理の一環だし趣味だから……ベルは体型の維持のために何かやってる?」
「ほぼ毎日戦いに明け暮れてはいるけど」
「ん、それは目的が違う……というか嚮導者のあなたがそんなに体を動かさないといけない相手っていったい……?」
「まあ色々あるから」
現役嚮導者と元嚮導者の二人はそう軽口を叩き合いながら停めてるらしい自転車の回収のために外へ向かった。
「仲良いわね、あの二人」
その背を見送った後、アルがポツリとそう言った。
"境遇が近いからだろうね"
「……ま、仲が悪いよりはずっと良いよね」
端的に纏めた先生に同調するように私はそう言った。
むしろベルと仲や相性悪い相手居るんだろうかと思いながら、私も社長達と一緒にベル達を追って事務所を後にした。
・陸八魔ベル
便利屋の財布管理人兼最後の砦
経営が安定しても半ば惰性で財務管理を続けている。動機に便利屋の一員としての業務、社員達の安定した生活だけでなくQoLの維持・向上もあるので本人としても続けるモチベは結構高い
アルの金遣いの荒さには注意しているが、基本的にはそれによる弊害や影響をフォローやリカバリーで動くだけで『止める・辞めさせる』などのブレーキ役は実はあんまり果たさない*3。その点もムツキ達との相性の良さに貢献している
翌日にシャーレの当番、翌々日にゲーム開発部の新作宇宙ゲームの試遊の予定が入っている
・便利屋68
経営状況が安定してきたアウトロー集団
ベルを加えて財布の紐を握られてもやっている事は依然変わらず。強制された事が少ないため窮屈さも無く、生活が安定しているため常に全力状態を維持されるようになり依頼もスムーズにこなせるようになった
レストランを予約するなどの計画的な外食もちょくちょくしている
『再現』以降のベルのメンタルが安定しているため、最近は心配よりも純粋に一緒に居たい気持ちで同行する事が多くなっている
・砂狼シロコ*テラー
アビドス生徒会所属の3年生兼元嚮導者
当番終わりに柴関ラーメンへ誘い、ついでに便利屋も誘った
本人曰く「自分の足で帰るの面倒になったから客引きの一環として誘ったわけではない」
軽口を叩ける相手なのは、自覚はしていないがベルが元の世界にも居なかった存在=ゼロからの関係を築いている相手であり、元居た世界の意識に引き摺られずにいるためでもある
・先生
あまねく奇跡の世界線の便利屋先生
仕事終わりにシロコ*テラーに食事に誘われ、その流れで便利屋へ
シロコとベルの仲の良さは見ていてほっこりしている
ゲヘナ編の展開ヤバ過ぎワロタ
カヨコの過去が明かされたら嬉しいですね……
便利屋が来るのか、はたまた最後の日常の締めだけなのか、楽しみにしたいところ
そんな気持ちでモチベが湧いて本話を書いております
更新についてですが執筆速度が劇的に落ちてるので期待しないで下さい
1か月半も実質毎日投稿を本話くらいの文字数で書けてたの怖過ぎます。この話3日くらい掛けてようやくなのに……
前がおかしかった
最後に
前に書き上げてからこれまでのお気に入りやここすき、評価、しおり、感想など本当に嬉しかったです
ありがとうござます
これからもして頂けるとモチベが湧いて「ん、書いちゃう」しちゃいます
単純な作者だと笑ってください
今後も楽しんでいただけたら幸いです
のんびりとお付き合いください