今回は先生視点オンリーです
前話同様、会話多めです。先生、シロコ、ベル、アル達だけでなくA.R.O.N.A3人組もいるので……
もう一人のシロコの誘いに乗り、ついでにと便利屋の5人も誘った私達は、ベルの歪曲転移のお陰でD.U.シラトリ区の一角から瞬時にアビドスの市街地へと飛んだ。
"一瞬でこの距離……これ、慣れたらダメなやつだ……運動不足になっちゃう……"
アビドス特有の砂塵に塗れた市街地を歩きながら、私は電車を利用しても片道何時間も掛かる道程が数瞬で済んだことの感覚を言語化した。
それは楽を覚えることへの戒め。
キヴォトスをあっちこっち行く事が多い私にとって、彼女の歪曲転移はやはり誘惑の塊だった。
「あなたの日々の忙しさと
"そうかな?"
「あなた現場にも指揮で出るから、移動量自体は結構なものの筈よ? だから運動量よりも定期的な運動や規則的な生活習慣を心掛けることを気にした方が良いわ」
"あー……たしかに……"
シロコやスミレ筆頭に運動好きな子に誘われて付き合う事もあったけど、定期的かと言われると否と返さざるを得ない。外回りで動く時もあるけど書類仕事に忙殺されて丸一日座り仕事で動かない、連続徹夜の時もザラ。
たしかにそちらを気にするべきかも、とベルの指摘に考える。
そう話していると、徐にベルの背中にムツキが飛び乗った。ベルの
「そういえばさ~、ベルちゃんのとこのハルカちゃんも柴関ラーメンは爆破したの?」
「ぶふっ」
"ムツキ!?"
笑いながら唐突に放り込まれた爆弾にベルは予想外とばかりに吹き出した。変なところに入ったのか、あるいはアビドスの砂埃の多い環境のせいか、暫くげほげほと咳き込み続ける。
「ゲホッ……い、いきなりなんて事聞くのよ……」
「ごめんごめん―――でも、大将に会う前に聞いておきたくてさ?」
軽い謝罪の後に、ほんの少し真剣みを帯びた声音でムツキは言った。
咎めるように右肩の方に視線を向けていたベルはそれを聞いてか少し神妙な面持ちで黙り込む。彼女達の間でだけ通じる何かが今あったのかもしれない。
少なくとも単なる悪戯心で確認したのではないことは私にも分かった。
沈黙の中、砂利を踏む足音だけが耳朶を叩く。
「……私の世界では、爆破は無かったわ」
少しして、静かにベルが話し始めた。
その内容にシロコの耳がピクリとしばたく。
「無かったの……? そこから違うんだ?」
その疑問を聞いて、そういえばシロコはベルの『未来知識』の事を知らないんだったか、と思い出す。
生まれた頃からこちらのアルと別人となった原因。
ベルが『陸八魔アルとして生きた』という半生のその根幹を。
少なくともシロコが会っている時は毎回私も同席しているが、その中でそれが語られたことは無かった。多分ベルは話していないのだ。
―――とはいえ、それも無理からぬ事だと思う。
彼女はプレナパテスや反転したシロコの存在を最初から知っていた。色彩に触れて知った過去としてではなく、生まれた時点からの未来として。
つまりシロコが『知識』について知るという事は、かつて彼女自身が口にしていた『滅びの運命』が真実だったと肯定されるも同義。
ベルが来る前は、死の神アヌビスと名付けられた事や絶望感による思い込みだったけれど―――
『知識』を知ってしまえば、再びそう思い込んでしまうかもしれない。
ベルはそれを危惧して話していないのだと思う。彼女の心は
色彩を介してこの世界で起きた過去を知っているからこそ避けたのだ。
「ええ……まあ」
私の予測が当たっているかは定かではないが、言葉を選ぶように言い淀みながらベルは頷いた。
「じゃあ当時のあなたは失言をしなかったんだ」
「な―――っ、ぐ……! くぅ―――っ!!!」
「我慢出来てえらいよ、社長」
その直截的な問いかけに私の隣を歩くアルが無言で怒りや悔しさや羞恥で百面相をし、カヨコが苦笑しながら労うのを他所に、シロコはベルにだけ視線を向け続ける。
「……まあ、そうね」
その視線にベルは呆れとも笑いともつかぬ微妙な顔をしながら再度頷いた。
「あなたも知ってるように私は財務管理を担当してるわけだけど、それくらいには私が率いていた便利屋68は安定してたから。そもそもカイザーに雇われての動き方自体違うんじゃないかしら」
言外にアビドスでやり合ってた頃のこちらの便利屋は余裕が無かったと言い捨てている言葉だったが、誰もそれを否定はしなかった。1杯600円のラーメンを4人で分けて食べようとするくらいには金欠だった事はこの場にいる誰もが知る事実なのである。
それを思い出したのか、シロコもああ……と遠い目で納得の顔をした。
……まあ、「なぜ安定していたのか」の理由は暈されたままなのけど。
ベルが難しい顔をしているのも、自身が『赤い空が来なかった時点で分岐した陸八魔アル』と認識されている事を自覚していて、それよりも前に差異がある点から突っ込まれるかもと警戒しているからだろう。その答えを話すわけにもいかないから言葉を選んでいるわけで。
とはいえ私達も彼女の過去を知らないからフォローも難しいのだけど……*1
「ん……じゃあ色々変わりそうだね」
「そうね―――まあそれはもう済んだ話だから。それでムツキ、他に何か聞きたい事は?」
「無いよ! ありがとね!」
あまり掘り返されたくないからか半ば強引に切り上げ、話を戻したベルの問いに、ムツキが笑って応じた。聞きたい事は聞けたと。
―――多分本命は違うだろうな。
知りたくて聞いたというより、踏み込んじゃないけないと分からせるために聞いた印象を私は受けた。
少なくともシロコは本人が早々に話を切り上げたのを見て、身内の便利屋にすらも話しておらず、話したがらないベルの過去においそれと触れようとはしなくなった筈だ。
ベルに近しい立場にあるからこそ、余計に触れ難い。
言ってしまえばそれは幸せを喪った傷に触れるようなものだから。
それは、
それを知ってか知らずか、話を終えたと見たベルは視線を背に乗っているムツキからアルへと移した。
「ほら社長、トッピングや替え玉も好きなだけ頼んでいいから機嫌直してちょうだい」
「べ、別に怒ってなんかないわよ!?」
「くふふっ♪ アルちゃんは自分自身に怒ってるんだよね~」
「んんっ……! だ、だから怒ってないってば……! ほら、もうお店に着いたからこの話はおしまいにするわよ!」
幼馴染からのからかいにむくれながら無理矢理そう切り上げたアルが、目的地である店舗―――新装開店した柴関ラーメンの前で胸を張った。
店舗はずっと前、アビドスに来たばかりの頃に見た外装と同じだった。1階の屋根部分に『柴関ラーメン』の屋号の木の看板が掲げられ、その隣にキセルを咥えた柴大将の看板が並ぶ。
シロコが先導して店舗部分の引き戸をガララと開いて中に入る。
多人数用の席が複数に、カウンター席、厨房側の壁に掛けられた長銃と、内装もかつてと同じだった。
そしてその厨房に立つ人も――店主だから当然だけど――変わらない。
「いらっしゃい―――っと、シロコちゃんに便利屋の子達、それに先生も! よく来てくれたなぁ! シロコちゃんが呼んでくれたのかい?」
「ん、そう。今日シャーレの当番だったから誘った」
「そうかそうか! ありがとな! そんじゃ改めて、新装開店! 柴関ラーメンにようこそ! 好きなとこ座ってくれ!」
わはは! とあの頃と変わらず―――いや、むしろ快活に大将は笑った。
それは屋台でよく見た笑顔。私がお店に来たのが1回だけだったからなのもあるかもしれないが、そういえばお店に来た時はここまで呵々大笑の雰囲気は無かった気がする。
気の好い人なのは同じ。ただあの頃は立ち退き要求などもあって諦観がどこかあったのかもと、そう思うくらい今の大将は明るく笑っていた。
その笑顔の大将に促されるままに複数人が座れる席へと向かう。
"あーっと……席、どうやって座ろうか"
「明らかにテーブル席でも人数オーバーね」
そこで小さな問題が発生した。
テーブル席に座れる人数は基本4人想定*2、詰めれば6人は座れるかもだけど私達は7人いる。
更に言えば私とベルはそれなりに体格も大きい。どちらか片方が廊下側に椅子を置いて座っても、詰めても食べる時にかなり大変なことになる。
さてどうしようと動きを止めてすぐ、ベルが案を出した。
「席は空いてるし、2グループに分かれて座りましょう。社長達4人で一つ、私と先生とシロコとで一つで」
「えー。誰かが廊下側に座れば5人で食べるんだし、ベルちゃんも一緒に食べようよ」
「ムツキ、今回くらいは我慢なさい」
「私達だけで来たならともかくテーブル席2つ必要ってくらいだしね……」
「ベル様、また後で」
ムツキが不満をありありと示したものの、諸手を挙げてというほどではないが消極的な賛成でアル達が諫めながら隣のテーブル席へと移動していった。
それを見届けた後こちらもテーブル席に着いた。向かって右にシロコ、左にベルが座る。それから廊下に立つ私を二人が見つめてきた。
「先生、こっち空いてるよ」
「誘われてるしそっちに座りなさいな。こっちの空きスペースはベレナ達用にすればいいし」
言いながらベルは腰のポーチからタブレットを取り出しながらそう返した。
―――シッテムの箱。
彼女が生きた世界の先生の遺品であり、現在の持ち主として受け継いだものだ。
そのタブレット内に常駐するサポートAIのA.R.O.N.A―――ベレナと彼女が名付けた少女にも食べさせてあげたいと言っていた。
『ベルさん、私は別に構わないのですが』
「折角の機会だから食べてみなさい。きっといい思い出になるわ」
『……ベルさんがそう言われるのでしたら』
"あはは。じゃあ、お言葉に甘えてシロコの隣に"
ベレナとやり取りするベルの会話を他所に、私は
それに苦笑しながら私もシッテムの箱を取り出し、サポートAIの二人―――アロナとプラナを呼び出した。
"アロナとプラナもラーメン、食べるかい?"
『えっ、私達も良いんですか!?』
『思案。そういえばラーメンを食べた事はありません。興味があります』
"じゃあ2人の分も頼もうか"
『わーい! ありがとうございます、先生!』
『ありがとうございます。早速どのラーメンを食べるか決めましょう』
普段外ではあまりしないのだけど、ベルを見て気にするのも野暮かなと思っての提案だったが思いの外好評のようだった。
シッテムの箱の前に置いた物が消える光景をあまり見せない方が良いと思ってあまり外ではしなかったけど、今度から外食する時は気持ち多めに頼んで、2人に分けてあげてもいいかもしれないと思った。
流石に立ち食いだと厳しいけど、屋台の焼き鳥みたいなテイクアウト品は人目を盗んで送ってあげればいいし……
そう思案しながらメニュー表をアロナ達にも見せていると、隣からくすりとシロコが笑ったのが聞こえた。
「3人しか座ってないのに頼むラーメンは6人分……私達、大食いと思われるかもね」
「並盛2杯くらいなら食べられはするでしょうけどね。栄養面がアレだけど」*3
"ははは……この歳になると消化がキツいんだけどね。あと塩分と脂質……"
「まあ、そうね……昔ほど無頓着に食べることは出来なくなった気はするわ……」
若い頃は肉! 炭水化物! でバクバク食べれていたのに今となっては腹に溜まって胸焼けを気にするように……大人としてはまだ若いのは分かるけど……
それはベルも同じらしい。
なんと悲しい事か。
"こんな事で教え子と苦労を分かち合う日がこんな直近で来ようとは……!"
「まあそもそも私はラーメンを全然食べなかったからそれ以前の話だけどね」
"あれぇ!? 分かち合えると思ってたら即座に梯子外された!?"
「自炊してたら早々食べないものの一つでしょ、ラーメンって」
"それは確かに。ベルは袋麵でも作らなそうだよね"
「腹は膨れるけどイマイチ体に力が入らないからね。具材や味噌で少し値が張っても豚汁の方が良いわ」
自炊してても食べる人はいるだろうけど、ベルは何となく食べなさそうだなぁとは思った。アル達はよく食べてるらしいのだけど。
そこもまた2人の違いの一つなんだろう。
それにしても具体例として名指しで豚汁が挙がった辺り……
"ベル、もしかして豚汁好き?"
「具沢山だから結構好きね。そこまで凝って作りはしないけど、具を変えれば味も変えられるし色んな栄養も摂れるからよく作るわ」
「だからあのお礼の時の汁物が豚汁だったんだ」
「そういうことよ」
"なるほどなぁ"
ふむふむと頷きながら、安堵を抱く。
ちゃんと好きな物があるのは良いことだ。少し前に休日の過ごし方や趣味探しで困っていたけど、その頃とは随分と変わった。
……あるいは抑圧されていた気持ちが解放されたのか。
『再現』以来前向きになったとは思っていたけど、その見方は間違っていなかったようだ。
『えへへ……どれにしようか迷っちゃいますねぇ、プラナちゃん』
『あまり時間を取り過ぎるのも問題ですから、そろそろ決めないとですが』
『いやいやプラナちゃん、そんなアッサリは無理ですよ! 醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンに豚骨ラーメン、柴関ラーメン! より取り見取りでどれを食べるか決めきれませんよぉ~。これに加えてトッピングもあるんですよ? 迷っちゃいます!』
『疑問。そもそも私達は食べるのが初めてなので味の想像は出来ず、悩む要素もあまり無いのでは……アロナ先輩は以前に食べた事が?』
『や、ややや、やだなぁプラナちゃん! 私にだってありませんよ? 初めてだからこそどれにしようか悩んじゃうってだけですよぉ!』
「ふふ……私は柴関ラーメンのメンマと海苔とネギのトッピングにするわ。ベレナは何にするか決めた?」
『肯定。私の初めてのラーメンは紫関ラーメンにします。トッピングはチャーシュー2枚で』
「柴関ラーメンのチャーシュー2枚ね」
『アロナ先輩、あちらは決められたようですよ』
『即決ですね! むむむ……では私は豚骨ラーメンに―――』
『先生、私も紫関ラーメンとチャーシュー2枚トッピングにします』
『―――やっぱり私も紫関ラーメンで! 海苔とチャーシューを付けて下さい!』
"アロナ達も紫関ラーメンだね。私も同じのを頼もうかな。トッピングはベルと同じで"
「5人とも柴関ラーメンなんだ……じゃあ私もそれにする。トッピングはチャーシューで」
ベルが口火を切ってから流れるように注文が決まった。麺の硬さや量もそれぞれ決めた後大将に注文。「同じ種類のラーメンを替え玉じゃなく6人分纏めて?」と首を傾げられたが一先ずその通りに作ってくれた大将には感謝である。
少しの待ち時間の後に届けられた6杯のラーメンをテーブルに並べた後、アロナ達の分をシッテムの箱の前に置くと、程なく光の粒子となって器ごとラーメンが消えた。画面の中にいる2人の教室机の上にはそれぞれのトッピングが添えられた柴関ラーメンが映っている。
ベルが持つシッテムの箱も同様に器が消えたので、あちらも同じようになっているだろう。
「……分かってはいても、こうして見ると不思議だね。物体が取り込まれる光景って」
割り箸をパキリと割りながら、二枚のシッテムの箱を見つめてシロコが呟く。
"あー……私は慣れてるけど、シロコはそうだよね"
「うん。ベルは……ベルも慣れてるよね」
「若干呆れと諦めが混じってないかしら……? まあ当たってるけど」
「ん、やっぱり。まああなたもシッテムの箱を使えるようになったから当然だよね」
「まあね」
"あはは……とりあえず、伸びちゃう前に食べようか。いただきます"
「「『『いただきます』』」」
『いただきまーす!』
苦笑を零しながらも発した食事前のあいさつにシロコ、ベル、プラナ、ベレナ、アロナが唱和する。それから誰からともなく食事を始めた。
麵を啜り、スープも味わう。コシの利いた細麺とコクのあるスープで舌鼓を打つ。
少しして、お冷を飲んで一息入れるように小休止を挟む。
ふぅ、と吐き出した吐息に確かな満足感があるのが自分でも分かった。
頬も自然と綻んでいた。
"うん……柴大将のラーメン、やっぱり格別に美味しいね"
ラーメンは色んなところでちょくちょく食べているけど、キヴォトスに来て初めて食べたラーメンの味だからか美味しさは一入に感じられる。
それに同意する声が傍らのタブレットから上がった。
『本当に美味しいです……! 柴大将さんの腕は凄いですね!』
『同意。また食べたくなりますね、これは』
"そうだね。また機会があったら来よう"
「その時はベルも誘ったらいいと思う」
「あなたやっぱり私を足代わりに考えてるわよね?」
「そんなことはない。私はただあなたも来れば便利屋も来て大将のお店に落ちるお金が増えるなとか、先生も忙しさを縫って遭難せずに来れるなと考えただけで他意はない。そもそも私はアビドスで暮らしてるからワープは必要ない」
「いきなり早口になるじゃないあなた……」
『推察。統計的に図星を突かれた時に誤魔化そうと早口になる人が多いです。砂狼シロコは図星を突かれたのだと思います』
「でしょうね」
「……ベレナが何か言ったの?」
「早口になった辺り図星を突かれたんだろうって」
「そんなことは、ない」
「早口をやめた時点で語るに落ちてるわよ」
「ん…………」
"あはは……"
幾度目かの呆れの目を向けるベルに、すまし顔ながらどこか憮然としてもいる顔で黙るシロコ。どうにもシロコは口で勝てないようだった。
そんな二人の数える程度なのに見慣れた気もするじゃれあいに苦笑しながら私はまた麺を啜った。
それから程なくラーメンを完食した私達はそれぞれで会計を済ませ、大将の見送りの声を背に受けながら柴関ラーメンを後にした。
「いやーお腹いっぱい食べたわね! 久しぶりに食べたからかずっと美味しく感じたわ!」
「屋台の時も美味しかったけど、やっぱ設備があるお店で作った方が格別だね!」
「懐かしいね……あの時は10人前の量だったっけ」
「お腹いっぱいに食べれて……こ、こんなに幸せで、い、いいんでしょうか……」
「ハルカ、三大欲求を満たした幸せだから素直に喜んでいいのよ」
「そ、そうでしょうか……えへへ……」
便利屋のみんなも柴大将のラーメンの味に満足そうにしていた。ハルカは幸せアレルギーが出かけてベルに諭されていたけど、それくらい美味しかったことが分かって微笑ましくもあった。
これも今回シロコが誘いを掛けてくれたからこそ。
"シロコ、誘ってくれてありがとうね"
「ん、気にしなくていい。ベルがいるから気楽に誘えただけ」
薄く微笑みながら彼女はベルへ視線を向けた。
アル達を伴って立つ一際背の高い女性はその視線を受け、静かに見つめ返す。
数瞬の間、謎の沈黙が広がった。
「……まあ、理由はともあれ美味しいラーメンを食べられたし、私からも礼を言っておくわ」
異様な沈黙に私やアル達が戸惑いで口を噤む中、ベルがそう口火を切った。
それはなんて事の無い礼の言葉だけど―――
なんとなく、含みがあるようにも感じられた。
「ん。今度ツーリングで見つけた美味しいお店にも案内するよ」
それを理解した上か、あるいは直前の沈黙を深く捉えないと決めての事か、シロコも同様になんて事は無い言葉を返す。
それは私やアル達を伴わない二人だけの誘い。
ベルはふっと笑みを浮かべた。
「もう隠さなくなったわね……偶になら付き合うわよ。事前にモモトークで相談してくれれば、予定を空けるわ」
「わかった」
その快諾に、耳をぴこぴことしばたかせながらシロコが笑う。
それを契機に私達は帰路に就いた。シロコは自転車で自宅へ向かい、便利屋は転移で事務所へ帰る。
私もまた彼女の転移でシャーレへと送られた。
二人の間でだけ通じたのだろうなにかは結局分からなかったが、平穏な日常を送れている証だろうと、気にしない事にした。
・陸八魔ベル
便利な移動手段を持っている嚮導者
ベレナを猫可愛がりして色々食べさせてあげている
足扱いされてることに反応しているが内心そこまで不満には思っておらず、シロコの性格上はハッキリ言うだろうになんで隠そうとするのか……と考えて突っついていた
最後のやり取りで理由は何となく察した
『未来知識』で安定志向の経営をしていた事もあり余裕もあったので元世界の柴関ラーメンに繋がる失言はしていない
・砂狼シロコ*テラー
便利な移動手段を喪った元嚮導者
『本物』、『偽物』、『知識』について知ると最終編当時口にしていた事や経験したことが既定路線だったと思い込み、尋常でないダメージを予想されているためベルから話されていない
距離の詰め方が少し不器用。思ってることをハッキリ言う性格だが、少し言葉を濁す傾向もある。最後の方でそれを察されたことを理解して肩の力を抜いた
本当はベルと話す理由が欲しかっただけ
『再現』初回を無事に終えたベルに思う所がある*4
・便利屋68
ベルのほぼ全てを知る身内
シロコ*テラーに『知識』について話していない理由は聞いていないが、話さないだけの理由があるのだろうと考え各々のやり方でカバー
今回は
・柴大将
新装開店柴関ラーメンの店主
以前から知ってるアビドスの子達の
何かあったらアビドスの子達の時のように先生が対応するだろうと信じている
実はシッテムの箱の前に置かれたラーメンが消えた瞬間も見ているのだが、先生とシロコ*テラーが当たり前のように受け容れてるので「俺が知らないだけでおかしくはないんだろう」と流した
・先生
しれっと『よく遭難する人』にカテゴライズされた大人
第一印象って大事だなと今日を振り返りつつ、ベルとシロコ*テラーのじゃれ合いをプレナパテスの大人のカードに報告した
私はそれに混ざっていない。可能な限り条件を合わせるためだからと、他の世界に『反転したシロコ』は居ない事を理由に参戦はしないよう言い含められていた。
私は見ている事しかできない。
―――彼女は、"先生"の意志を継ごうとしているのに。
ベルとシロコ*テラーの会話が多いですがこれでも割とカットしました()
書いてて楽しいですが先生とアルちゃん達置いてきぼりになり過ぎるのも困りもの……
そして人間、案外書けるものですね……
感想やお気に入り、ここすき、評価を投げて下さるお陰です
ありがとうございます