陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

48 / 67
 
 
カヨコ視点です




燎原の火の如き恋心

 

 

 一夜明けて、朝。

 

「それじゃ社長、私達は当番に行ってくるね」

「終わったら連絡するわね」

「ええ。2人には不要かもだけど、道中気を付けてね」

「行ってら~」

「行ってらっしゃいませ、ベル様、カヨコ課長」

 

 3人に見送られながら私とベルは予定通りにシャーレの当番のために出発した。

 D.U.シラトリ区郊外に構えている事務所からシャーレまではそれなりに距離があるため、道中をバスで乗り継いでいく。

 ベルの転移で行くことも出来るけど、そこは気分。今回は頼まなかった。

 私達に甘い彼女のことだ、頼めば快く送ってくれるだろう。でも道中の何気ない時間を共有する機会を喪うわけで、必要に迫られてないのにそうするのはちょっと勿体ないかなとも思っている。

 誰だってそうだけど、皆といる時と2人きりの時では見える顔が違う。

 ベルの場合、それは特に顕著だ。

 時、場所、場合―――TPOのどれか一つが違えば、たとえ同じ相手でも見せる顔が違う。

 

 バスの2人掛けの席の窓際に座った私は、音楽を聴くためのイヤホンを耳に掛けながら、廊下側に座ったベルの横顔をチラリと盗み見る。

 彼女は酔わないようにか軽く持ち上げたタブレット端末でニュースチェックをしつつ、時折自然な様子で周囲を見ていた。

 その彼女と視線がパチリと合う。怪訝な顔で、小首を傾げられた。

 

「どうかした?」

「ニュース、なにか目ぼしいものあったかと思って」

 

 ホントはあなたを見てたんだよ、と言うのは気恥ずかしくて咄嗟に誤魔化す。勿論ニュースも気になってたのは嘘じゃないけど。

 それに騙されてくれたのか、ベルはそうねぇと胡乱な目つきでタブレットを見つめた。

 

「爆発、強盗、襲撃、抗争、摘発……まあどれも変わり映えしないわね。ああ、クロノスが書いた記事がちょっと注目を浴びてるみたい」

「記事? どんなの?」

「『S.C.H.A.L.Eの先生に春の気配!? 交際相手ついに現る!?』ですって。飛ばし記事ねこれ。あの人の忙しさとプライベートの無さを考えれば男女交際は無理があると分かるでしょうに……」

「まあ、それは同感かな……」

 

 悲しいかな、シャーレの執務室は盗聴盗撮の温床になってるからプライベートは本当に無い。

 シャワーを借りる生徒もいると聞くし、食堂も同じ。まあその辺は開放されてる施設の部分だから問題無いけど、中には先生も使う仮眠室に入り込んだ生徒もいると聞く。

 そして先生の日々の忙しさは早々に出会った私達はよく知っているし、だから男女交際は物理的に成立しないという意味で無理があると判断できた。ベルは多分私達以上に色々と知っているだろう。彼女が飛ばし記事と見たのもこれが理由だと思う。 

 まあ色彩を介して過去を見て「居ない」事実を知ってるからなのもあるだろうけど。

 

 なのでそちらの方面は興味は無かったが、一方飛ばし記事の内容は実際どんなものなんだろうとこれから先生に会う事もあって――内容次第では報告も必要なので――気になり、教えてもらったニュースだろうクロノスの記事を自分のスマホでも見つけてざっと流し見る。

 件のニュース記事はクロノス報道部が昨晩撮ったらしい写真を基に即行で書き上げ、私達が事務所を出た後くらいに掲載したものだった。

 その記事に掲載されている写真は一枚。シャーレオフィスビル前にいる先生と、詳細は見えないが長身の大人の女性が話している姿が映ったもの。

 

 ―――合成の可能性もあるけど、まったくの無根拠というわけじゃないのか……

 

 写真を見て真っ先にそう思った。

 しかもこの女性の後ろ姿、物凄い見覚えがあるなと、おもむろに隣に座る大人の女性(・・・・・)に顔を向ける。

 

「でもこれ、客観的には飛ばし記事とも言い切れなさそうだよ」

「え? 何でそう思うのよ」

「ん」

「……ん?」

 

 疑問を投げてきたベルに、私は人差し指を突き付けた。答えはあんたそのものだと。

 それでもよく分かってないようなので、更に記事に掲載されている画像を見せる。

 

「これ、どう見てもベルの後ろ姿でしょ」

「そうね……でも、これだけで? どうして……」

「大人の男女。夜に一緒。2人きり。親しげ。状況証拠的に交際してると疑われても仕方ないと思うよ。ベルを知らなかったら私も写真を見て少し信じてたかも」

「…………………………………………」

 

 前々から残業に付き合ったり自主的に手伝いしたりと遅くまで一緒にいたから感覚が麻痺していてその辺の自覚無かったんだろうけど、ベルを知らなかったら私も「もしかして」と少なからず疑念を持っていたかもしれないくらいには、まあ状況証拠が揃い過ぎている。

 私の指摘を受けて初めて客観視をしたらしいベルは、さっきまでの困惑顔から一転して険しい面持ちになった。

 その表情があまりに深刻そうで少し面食らってしまう。

 面倒そうだで済ませると思っていたから危惧を抱くほどとは予想外だった。

 

「なんか、随分と深刻そうだね。結構マズいの?」

「ちょっとね……これ見て早とちりする子に心当たりが―――」

 

 私の問いに、視線をこちらに寄越しながら言っていたベルが、窓の方を見て言葉を止めた。

 

「ベル? どうし―――」

「伏せてッ!!!」

 

 たのか、と続けようとした私の言葉に被せながら私を抱きしめてきた。そのままぐるんと席の位置を窓側と廊下側で入れ替える。

 

 その直後、バスを横殴りする大爆発が襲った。

 

 爆発の基点は私がいた窓際の席。私を抱きしめ、庇っているベルの背中。

 私達を狙い撃ちにした攻撃の可能性がある。

 そうと分かっても私に下手人の顔を確認する余裕は無かった。私よりずっと背が高いベルに覆いかぶさるように抱きしめられてるから肩越しに見るなんて出来ない。

 そもそもその爆発を受けたバスは激しく揺れ、横転していた。

 

「うわ―――ッ」

 

 天と地、壁の上下左右が曖昧な中、私達が座っていた席と反対の横転して地面側になった窓へと落ちる。

 宙に放り出された中でもまたぐるんと回って、体勢が入れ替わる。

 廊下側の席に入れ替わり、地面側になった窓に背中を向けていた私は、天に開いた窓側を背にする位置に。

 ―――ベルが背中を地面に打ち付ける体勢に。

 

「なんの……!」

 

 けれどそのまま落下はしなかった。ベルが座席端から天井に伸びる手すり代わりの突っ張り棒を片手で握り、天井からぶら下がっているような体勢へと立て直したからだ。

 それからすぐにぱっと手を離し、地面に降り立つ。

 その流れで片手で抱きかかえられていた私も降ろされた。

 

「あ、ありがとう、ベル」

「ええ……」

 

 私の礼に、しかし彼女は他の事が気になるのか険しい面持ちで周囲を見回していた。

 周囲は咄嗟に受け身を取ったり出来ず地面に落下、あるいは爆発の衝撃で目を回している乗客で溢れている。登校中の生徒、出勤中の大人、サボろうとしてたらしい不良と乗客は種々様々。

 

「……全員カタギか」

 

 眼を回している乗客を見てポツリとベルが呟く。

 直後、今は壁になっているバスの底面に再度の爆発。まず無いとは思っていたが流れ弾の可能性もこれで排除された。

 そして2度目の爆発で目を回していた乗客たちも目を覚まし始めた。

 

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

「これから仕事だってのに何でまた……! このバスで行けなかったら遅刻確定なのに!」

「手榴弾かバズーカか知らないが撃ち込んだのどこのどいつだ!?」

「良い気分でサボろうって時によぉ! 穴だらけにしてやんよゴラ゛ァ゛ッ!!!」

 

 争いに無縁な人は慌てふためき、仕事のことが気掛かりの人は遅刻することに悲嘆に暮れる。

 残りの人はいきなり攻撃された事に怒りを露わに怒号を放ちながら割れた前方または後方の窓から外に出ていく。慌てていた者達も自身に降りかかった災難を嘆きながら血気盛んな者達の後を追っていた。

 私もその後を追って進んだが、数歩歩いたところでベルが立ち止まったままな事に気付き、振り返る。

 

「ベル? 出ないの?」

「……カヨコはそっちから出なさい。私は上から出る」

「は? 上って……」

 

 疑問に思ったのも束の間、直後には彼女は地を蹴って天井になった割れた窓から外へ飛び出した。

 

 ―――同時、重い銃声が響く。

 

 どこかから放たれた銃弾がチュイン、とバスの車体を掠めた音が耳朶を打った。

 先に出て行った乗客達に攻撃は無く、後から飛び出たベルへの瞬時の射撃。やっぱり私達―――特にベル狙いなのかと確信しながら私も急いで前方の大きい窓から外へ出る。

 ようやく視界が開けて辺りを見回すと、周囲は横転したバスで前に進めない車の渋滞や通行人の人だかりでいっぱいだった。

 

 だが―――それでも、下手人はすぐに分かった。

 

 

「あらあら……今ので倒れておけば楽になれたでしょうに、運が悪いですわね」

 

 

 たおやかな口調で物騒な事を言った人物は、横転したバスの上に立つベルが見据える先、反対車線で停車しているトラックの荷台の上にいた。

 使い終わったロケットランチャーの発射器を足元に投げ捨て、短刀を装着したボルトアクション式の長銃をベルへ突き付ける、黒いセーラー服にガーターベルト、ダメージストッキングに身を包んだ狐面の生徒。

 少しでも危機管理意識を持っているなら誰もが知るだろうトレードマーク『狐面の生徒』。

 その上で往来で破壊活動する者など有名なのは1人だけ。

 

「お、おいアレ、七囚人の……」

「『災厄の狐』!?」

「狐坂ワカモだぁ!? なんでここに!?」

「いやいや無理無理無理無理アタシらじゃ敵いっこねぇ!?」

「るっせぇ怯えんな! 七囚人がなんだ、一回捕まって出てきただけの雑魚じゃ―――」

 

 下手人がハッキリとして騒然となる集団で、自分を奮起するためかがなっていた不良がワカモのノールック射撃で沈められた。

 それを見て少しでもやり返そうと企んでいた者達が二の足を踏んだか、狙われたくないと思ったか、息を潜めるように静けさが広がり始めた。

 

「五月蠅い声も無くなりましたし……あの方のためにも、あなたにも消えていただきましょうか」

「やれるものなら」

 

 銃口を突き付け、戦意を滾らせるワカモの言葉に、しかしベルは泰然と応じた。そのまま流れるような動作で懐から手榴弾を取り出す。

 

「甘いですわ」

 

 それを見逃さず、ワカモが引き金を引いた。

 

「あなたがね」

 

 しかしベルも予想していたのか、瞬時に半身を逸らして銃弾を回避。そのまま手榴弾のピンを抜いて宙へと放る。

 それが何なのか察した私は咄嗟に目を瞑り、耳を塞いで下を向く。

 一拍遅れて激しい閃光と爆音が弾けた。

 

「くっ、閃光手榴弾(フラッシュバン)……!?」

「生憎殺傷力の高いものは使わない主義なの」

 

 キィンと耳鳴りがしてくぐもって聞こえるワカモの驚愕を、ベルが受け流す声が聞こえる。

 顔を上げて目を開ければ、丁度ベルがぴょんと横転したバスから飛び降りたところだった。

 ワカモはと言えば、お面を付けていても両目でしっかり見ているからか、目元を押さえてたじろいでいた。

 

「カヨコ、こっちに!」

 

 私の眼前に降り立ったベルは、私が何かを言う前に私を抱き寄せ、地を蹴った。驚異的な脚力で混乱する人垣の上を飛び越えていく。

 更に、いつのまに持っていたのか――おそらくいつぞやの盾のように虚空から呼び寄せたのだろう――変わった形の銃器を手にして、それを雑居ビルに向けた。ベルが引き金を引くと同時、バシュッという音と共に金属のフックが射出される。

 金属フックは雑居ビルの壁面に当たると同時、爪を立てるように食い込んだ。

 続けて射出機がまるで釣り糸のように鉄線をキュルキュルと音を立てて巻き始め、グンと体が感じる慣性に変化が生じた。緩やかな曲線を描いて落ちる筈だった体が、雑居ビルの方へと引き寄せられていく。

 

「ベル、それ何!?」

「大乱時に作った現代版忍具ってやつよ!」

 

 どうやら現代版忍具―――フィクションでしか見ないフックショットと呼ばれるそれは、キヴォトス大乱で動いてた時に手にした物だったらしい。

 そんなものが、と感心するのも束の間、フックが嚙んでいる雑居ビル壁面が狙撃によって破壊された。フックが外れ、私達を引き寄せる力もガクンと一気に失われる。

 それでもベルは慌てずフックを巻き取って回収しつつ、地面に着地。その慣性も殺すことなく利用して前へと駆け始める。

 私はされるがままに運ばれ続けていた。気を遣ってか全然揺れないから不快感は無いけど。

 少ししてベルは路地裏へと逃げ込んだ。人が多い表通りを逃げるよりは周りへの被害が少ないと見たからか。

 

「それで、なんで狐坂ワカモがベルを狙ってきてるのさ。心当たりある?」

 

 逃走中ではあるが、とにかく気になった部分を解消するべきだろうと考えて問いを投げる。

 バスから出る時の様子からして何となく察している気がしていた。

 その予想は当たっていたようで、私が見上げるベルの顔が何とも言えない面持ちになった。

 

「あー……あるわね。あの飛ばし記事だと思うわ」

「アレが? ……まさか、先生と交際してる相手と思い込んで攻撃してるって事?」

「もしくは、見知らぬ『大人』が先生を騙そうとしているに違いないと見たかね」

「えぇ……?」

 

 あくまで予想に過ぎないというニュアンスだけど、いずれにせよどうなんだそれ、と思わずにはいられなかった。

 

 これがもう一人の砂狼シロコや対策委員会、風紀委員会ならまだ分かる。

 彼女達は先生のことを強く信頼している。多くを助けられたから同じだけ返そうと、先生の身を案じてもいる。

 異性として好いているか、あくまで大人として尊敬しているかの差はあるだろうけど、先生に近付いている『見知らぬ大人』を信用できるかどうか疑いはするだろう。

 まあ彼女達でもいきなり攻撃するとも思えないが。

 ともあれそう思えるのも、先生と彼女達の間に確かな積み重ねがあるから。

 

 だが、狐坂ワカモにはそれが無い。

 なのに先生を守ろうとしているというのは、ちょっと信じ難い話だ。

 

「私が知る限りだと先生とワカモってロクに接点無いはずなんだけど……」

 

 少なくとも私は知らないと、記憶を掘り返しながら思う。*1

 そして、ふとあることを思い出した。

 それは空が赤くなった日の事。

 

「そういえば虚妄のサンクトゥム攻略戦の時、シャーレに迫る敵を退ける不良達の中にワカモが居たって聞いたけど……アレってもしかしてただ暴れたいんじゃなくて、本当に先生を守るためだったって事?」

「そうね。だからまあ、その時とほぼ同じ理由で私を襲いに来たんだと思うわ」

「……飛ばし記事を見て、か」

 

 接点なんてロクに無い先生を守るため。

 そのキッカケが、例の飛ばし記事。

 二つの点を一つに結んで導き出される答えに、私は思わず顔を顰めた。

 

「もしかしてだけどさ。ワカモって先生のこと……」

「……黙秘しておくわ」

 

 私の予想を、ベルは肯定も否定もしなかった。だけど言わんとすることを察した上で敢えて沈黙を選んだ事こそがほぼ答えである。

 まあ勝手に人の心を暴くのが良くない事なのは確かなので、私もそれ以上追及はしなかった。

 

 ただ、マジか……と何とも言えない脱力感に見舞われた。

 どうやればこの状況から脱せるかちょっと見通しが立たない。

 七囚人の中でもトップクラスに警戒されてる狐坂ワカモすらも魅了してるなんて、先生はホント罪な人である。今回は悪い意味で。

 

「もういっそ先生に押し付けた方が早い……?」

「実際それが一番早いわね。それしかないとも言うけど」

 

 私の投げやりな案に、思いのほかベルは乗り気だった。本人が後付けしたようにそれしか手が無いも同然だからだろうけど。

 

 

「私(わたくし)からいくら逃げようとしても無駄ですわ!!! 地の果てまで追いかけ、必ず排除して差し上げます!!!」

 

 

 遠くからワカモの決意表明が聞こえてきた。

 数瞬遅れて、辺りを破壊してるのだろう爆破音も響いてくる。

 先生が来る前から暴れ狂っていた狐は、どうやら今は人への想いに狂っているらしい。しかもかなり攻撃的かつ破壊的な方向で。

 仮に本当に先生がお付き合いしてる人だったらそれを排除した事でワカモは責められるという事を理解しているのだろうか……?

 

「執念深過ぎる……」

「先生の事で思い込むと一直線だからね彼女……とりあえず、逃げ続けても被害が広がる一方だから私は足止めで残るわ」

「えっ? もう転移で先生を呼んだ方が早いんじゃ?」

「私の隣に先生が居たらヒートアップするだけよ。これだけ暴れた以上ヴァルキューレから要請が飛んでる筈だから、そこと一緒に先生を連れてきてちょうだい」

 

 そう言われ、ベルの目的を察する。

 あくまでヴァルキューレに頼られて止めに来た『シャーレの先生』という立場を求めているのだ。ただ止めるために先生を今呼んでも、それはワカモが怒りを抱いている『先生の交際相手という思い込み』を助長するだけになる。

 だから当番として、シャーレの先生として、この事態を収める方向で動いてほしいのだと。

 

「分かった。先生達と一緒にまた来るよ」

「ええ、頼んだわ。先生の制止が無いと私は今後事務所に居られなくなるか、私と勘違いして社長が襲撃されるようになるかもだから、私も頑張るけど逃げられる前にお願いね」

「……! 絶対間に合わせるよ」

 

 示唆された可能性は決して否定できないものだったので強い決意と共に頷く。便利屋68という私達の居場所も、漸く落ち着いてきたベルの安息も、どっちも必ず守ると。

 その返答にベルは満足げに微笑み、私をその場に下ろした。

 それから即座に黒い闇を路地に発生させる。

 

「この先はシャーレの給湯室に繋げてる。よろしくね」

「わかった。ベルも気を付けて」

 

 こくりと頷いて、ほぼ定型に等しい心配の言葉を掛ける。

 実際のところ『色彩の嚮導者』の特性を有するベルに関して案じるべきのは、普通は相手を殺めてしまわないかという点だと思う。相手が強いほど手加減なんて出来なくなるから。いわゆる相手の方を心配すべきという形。

 それに私を庇う形でロケットランチャーの直撃を受けても彼女は傷一つ付いていない。

 頑丈さも含めて私が彼女の身を心配する必要は無いだろう。

 

 だから私が心配するのは、心の方。

 

 多分ベルがワカモに襲撃されるのは初めてじゃない。

 そう考えるのも、あの狐の先生への狂いぶりを知り、また襲撃前後の冷静さ、すぐに理由に思い至った過程を見ているから。

 恋人が出来たという飛ばし記事だけでここまで激しい反応を示す恋に狂った狐が、果たして先生が死んだ世界で、先生を目の前で守れなかった彼女を前にしてどう動いたか。

 少なくとも私が経験している今よりもずっと激しく、悲愴なものの筈だ。

 ベルはその経験があったから襲撃からずっと冷静だったんじゃないかという予想が浮かんでやまない。

 

 ―――つまりワカモとの対峙は、それがたとえ別人だとしても、ある意味心の傷に向き合う事と同義。

 

 『自分は先生を守れなかった』という拭えぬ過去。先生に向けられていた想いを知る程に重さを増すそれと向き合い、背負う過程。

 知っていて防ごうとして、防げなかったと自責し背負った彼女の過去。

 

「無理だと思ったら、逃げてよ」

「―――それは、出来ないわね」

 

 心配の定型文に続けた言葉で、彼女は何となく私の思考を察したらしかった。言葉の上辺だけでなく思いを知った上で―――

 それでも拒否された。

 ……きっとそれが彼女の進む道であり、かつてから選び続けてきた道なんだろう。

 そして、あちらの"私達"が繋げた道。

 

「わかったよ……まったく。そういうところは社長と同じなんだから……」

 

 始まりも過程も違い、歪んだ果てへと行きついて―――

 それでも尚背負い続けた者に、苦笑を零す。

 

「また後でね、副社長」

「ええ」

 

 そうして、社長やみんなにするように言葉を投げて黒い門を潜る。

 

 

 

「―――カ、カヨコさん!? なっ、なんでいきなりそんな現れ方を!?」

 

 

 

 出て直後、丁度コーヒーを用意していたらしいゲヘナ風紀委員会の行政官(天雨アコ)のキンキンと頭に響く声に晒された私は頭を抱えた。

 背後を見れば、空間の黒い歪みは消えている。

 

「あの、カヨコさん、無視しないでもらえますか? なぜあなたがあの色彩が襲来した時の砂狼シロコと同じ現れ方をしたのか説明して欲しいのですが。なんですか、今度は便利屋68がキヴォトスを破滅へ導くと言うのですか!? そうなんですね!? 最近あからさまにウチを避けて活動しているのは風紀委員長に潰されたくない陰謀があるんでしょう!? それに陸八魔アルが先生と交際している疑惑も出てるんですよどういうことなんですか!? というかカヨコさんあなた色彩に触れているんじゃ―――」

「……これ私が説明しなきゃかぁ……」

 

 急いでるんだけどなぁ……とため息をつきながら、当然の疑問から陰謀論に足を突っ込んでることまでを立て板に水のように喋り続けるアコの言葉を聞き流しながらオフィスへと向かったのだった。

 

 

 


 

 

 

・陸八魔ベル

歩んできた過去と心の傷に更にぶん殴られ始めた嚮導者

先生が死んだのはベルの責任ではないが現場に居合わせてた点から色々あり、ワカモとも色々あった。ワカモ自体に隔意もトラウマも無いが、生徒達の『先生に向ける想い』を基にした心の傷を持っており、それが先生の死を忌避する言動にも繋がっている

対ワカモ戦は経験があるが嚮導者の特性により銃撃できないハンデを負って時間稼ぎを担当

『現代版忍具』はキヴォトス大乱時に協力したミレニアムの科学技術と百鬼夜行の忍術研究が合わさり実現したガジェット。ベルが持つ1個しか現存していない

 

・鬼方カヨコ

便利屋の課長兼ベルの姉ポジ

ベルが精神的に社長時代で止まってる部分に於いては姉のように心配する立場にあり、今回はワカモを介して過去と向き合うのではと察して心配した

それでも過去に向き合おうと逃げない姿勢に、これは無理だと受け入れた

襲撃以降はほぼずっと大きめの猫のように抱きかかえられていた

 

・狐坂ワカモ

災厄の狐こと先生(あなた様)バーニングラブフォックス

絆スト曰く、先生の予定はすべて把握しているらしい

先生が死んだ時に最も哀しみ、最も怒る筆頭であり、先生に近付く雌への敵視も凄まじい人

煽動を含めて総合力や単騎戦力は高いがホシノ、ヒナ、シロコ*テラー程ではなく、単独襲撃の今回はベルにはどう足掻いても勝てない戦いになっている事をまだ知らない

一応各種イベントを経ているが根本は変わっておらず、今回はクロノスの飛ばし記事を見てベルを恋敵と認めて先生の見ていないところで排除しようと動き出した

 

・天雨アコ

ゲヘナ風紀委員会行政官

今日のシャーレの当番の1人

給湯室にいきなり色彩の嚮導者が襲撃してきた時のシロコ*テラーの現れ方でカヨコが出てきたため、世界の危機再来やカヨコが色彩に触れているのかなど様々な可能性が頭に浮かんで本気で動揺している

 

 

*1:
バレンタインイベント、アビドス水着イベント、百鬼夜行水着イベントそれぞれで先生は対面はしているが、記録に残せるレベルの協力関係は構築されていない

また最終編2章シャーレ防衛では先生とワカモは対面してすらいない




 
 
感想欄でかつて出ていたクロノス報道部が関わってくるネタ、先生に思いを寄せてる生徒のネタを漸く書き始められました
大変お待たせいたしました……
まだ続きます

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。