基本無いと言った小話です
まさかお気に入り1000件、評価100件超えるとは思わなかったのでお礼も兼ねてます
完結から一晩明けた時の伸び方見た時はビックリしました
お気に入りも評価も倍以上……
まさか☆9だけで100件超えるとは……
日間ランキングも5位にまで……
本当にありがとうございます
感想欄等も込みでモチベが出て書きたくなったので喜びのおすそ分けも兼ねて後日談的な話を書きました
もうちょっと続くんじゃ
楽しんでくだされば幸いです
「ここすき」も参考に便利屋のみんなを上手く表現出来るように頑張ります
ただし更新する時間は18時固定にしますが投稿間隔は不定期なので、そこはご了承ください
今回はベル視点のみです
このあまねく奇跡を越えた世界に来訪し、私がベリアルから『陸八魔ベル』と名を改め、便利屋の副社長に就任した日の翌日。
金欠に陥っている便利屋を見かね仕事を斡旋してくれるという先生の下へと5人で向かった。なんでも私が事務所に到着するまでの間に頼んでいたらしい。
知識として知っていたし、これまで渡り歩いてきた中では野宿している姿も見てきたが―――この世界の陸八魔アルも例に漏れず、散財癖があるようだった。
身の丈というか業務の規模や必要度に合わない割高な家賃の事務所を見栄で借りたり、高い買い物をしたりするらしい。
それに加えて前金は受け取らず、全て成功報酬として受け取るという主義。
さらには報酬を踏み倒された時も相手から分捕ったりもしない。
それらが積み重なった結果、まともにご飯にあり付けない窮地が迫っている現状だった。
これ私を雇う余裕も本来無かったんじゃ……
「それでいまお金が無いってこと。悪いね、副社長。入社早々に情けないとこ見せちゃって」
それらを説明してくれたカヨコがそう締め括った。
聞いている限り彼女が謝る必要は無い事なので、私は苦笑しながら頭を振る。
「問題無いわ。そこに関しては渡ってきた別のキヴォトスでも何度か見ていたし、そもそも私の方が『陸八魔アル』としてはイレギュラーだもの」
「くっ、2人の言葉が刺さる……! というか副社長、あなたそれフォローじゃないわよね!?」
「フォローして欲しいのかしら?」
「…………いえ、いいわ」
問い返せば、一瞬迷った末に断られる。
あれは社長としてのプライドと心の安寧を天秤に掛けて前者を取ったな。
まあ社長の金遣いの荒さや業務スタンスのせいで金欠になっている訳だから、フォローしたところで虚しいだけなのだが。
便利屋を続けられるくらい稼げはするのに必要分貯蓄しないのは宵越しの金を持たない精神にでも憧れがあったりするのだろうか?
「アルちゃんアルちゃん、大丈夫? このままだと社長の座をベルちゃんに取られちゃうんじゃない?」
「えっ……」
そこで、私の背中に飛び乗り、体の前に両腕を回して乗っかってきたムツキがそう揶揄いの言葉をアルに投げた。
真に受けたのか、前に歩いていたアルが振り返って愕然とした目を向けてきた。
純粋にも程がある。
「いや取らないわよ……」
それにげんなりとしながら私は否定を返す。
幾ら社員達の事を思っているからって並行世界のムツキ達を従えたいわけではない。
私にとって『便利屋68』は元々はキヴォトスの未来のため、フラグを満たしたり戦力提供を出来るようにというただそれだけのために結成した偽りのアウトロー組織だった。
思い出はある。思い入れも、当然。
けれどそれは、もう過去の事なのだ。
他の世界の便利屋の関係を壊してまで居座るくらいなら、さっさと司祭を探し出して始末してから次の世界に向かった方がマシである。
「私が社長をする『便利屋』は、"あの子達"とだけのものなんだから」
「……ごめん、ベルちゃん」
私の気持ちを聞いたムツキは、反省したらしく気落ちした声音で謝罪してきた。相変わらず背中に乗っかっているままだが―――前に回された腕が、ぎゅっと抱きしめるように力が籠められる。
ふ、と笑みが零れた。
「次から気を付けてくれればいいわ。まだ会って一日だもの、仕方ないわよ」
「ま、暫くは悪戯や揶揄うのは控えた方が良いね」
「だねー。つまんないけどしょうがないや」
「遠回しの馴れたらやる宣言と受け取っていいのかしらそれは」
「もっちろん! ベルちゃんのこといっぱい教えてね!」
苦笑しながらの問いかけには元気いっぱいの返事が返された。
ほんの少し新鮮なそれに、私の世界との違いが見えて別種の苦笑が漏れた。
私の世界のムツキには随分と窮屈な思いをさせていたかもしれない。ちょっかいは掛けられていたけど、彼女がそれを楽しめていたかは終ぞ分からなかった。
「ちょっと、ムツキ? 私は揶揄ってもいいってこと?」
「だってアルちゃん面白いし。というか幼馴染なんだよ? 何年も一緒に居るんだし今更じゃない?」
「釈然としないわ……」
「まあ、社長は反応が良いからね。そういうところ、嫌いじゃないよ」
「アル様は常に素敵ですから……!」
「そーそー! 人徳があるって事だよ? 喜ぼうよアルちゃん!」
「そ、そう? まあ、社員から好かれてるならいいのかしら……?」
おだてられてその気になってるアルに、思わずちょっろ、と思ってしまった私は悪くない筈だ。
とはいえ支え甲斐はありそうだ。
人の事も、よく見ている。
ムツキ達が付いて行こうと思うのも納得だった。
……私はそれが出来ていただろうか。
見抜かれていた気がしなくもない。
「―――それにしても、話には聞いていたけど本当に赤い空を乗り越えてるのねぇ」
シャーレがあるD.U.地区を進んでいく中でふと、視界に映ったものに感慨を漏らす。
視線の先ではシラトリ区復興区域の看板があった。
『
「ベルちゃんもこれは初めて見るんだっけ?」
背中からの問いかけに、こくりと首肯する。
「そうね。実のところ、あなた達が赤い空の一件で体験した事だけは私も未経験の領域よ」
知識曰くの、『最終編』。
既に存在していたサンクトゥムタワーを押し潰すように虚妄のサンクトゥムタワーが飛来し、広範囲が吹き飛んだあの一件に関する事柄をこうして目にするのは、実は初めてだった。
知識としては知っているが―――他のキヴォトスは、そもそもアトラ・ハシースの箱舟によるプレナパテスの襲来自体が無かったから。
まあ
―――だからこそ。
数多くのデジャブを経験してきた私としても初めて見る光景は、本当にここがあまねく奇跡が届けられた世界なのだと実感するのに余りあるものだった。
同時に、プレナパテスになった先生の行動がどれほど細い糸で紡がれた奇跡だったかも。
千を超え、万に届きそうなほど見てきた滅びから先に繋がったただ一度のみのこの奇跡の素晴らしさに、私は胸が震えた。
……本当に、偉大な人だった。
私が知るあの人からどれだけのものが継げただろうか。
遺品くらいしか継げていない気がする。それも私には使えないものだった。
昨日の別れ際、先生に渡した遺品のシッテムの箱が役立ってくれる事を願うばかりである。
それを重荷に感じてなければいいのだけれど……
「あの、ベル様」
じっと復興区域に目を向けながら考え事をしていると、くい、と右腕の袖を引かれる。
首を巡らせれば、記憶にあるよりもずっと小柄な――私が大きくなってしまっただけだが――ハルカが、困り眉で私を見上げて来ていた。
「なに、ハルカ?」
「ベル様は……その、色彩の嚮導者、なんですよね」
「ええ、そうよ。それがどうかした?」
「世界を渡る時に、箱舟が必要だと思ってたんですけど……ベル様は所有していらっしゃらないのでしょうか……?」
「ああ、アトラ・ハシースの箱舟のこと? 持ってるわよ」
「えっ? ちょっと待って、あなたアレを持ってるの?」
おずおずと問いかけてくるハルカへの答えに、すかさずアルが驚きを含んだ問いを挟んできた。
まあ驚くのも無理はない。世界を滅ぼす船があると言われれば誰だってそうなる。
なにせこの世界のウトナピシュティムの本船と先生達の総戦力を以てギリギリで爆破、壊滅させた船だ。
それが現存するとなれば戦慄もするだろう。
そもそも未だ存命のこの世界の無名の司祭達も所有しているのだけど。
「ええ、そうよ。鹵獲した一隻だけ異次元に停留させて拠点としているわ。それ以外は見つけ次第全部破壊して代替部品だけ回収してるけどね」
アトラ・ハシースの箱舟は名もなき神々の技術で建造されているものだ。つまりは無名の司祭側のものなわけで、その由来と私の行動原理を考えれば、本当は使うのも躊躇われる。
しかし、有用なのもまた確か。
あらゆる世界を行き来するにあたって拠点は必要。更に既に行った世界か否かの観測、司祭達が多次元解釈を使って逃走した時の対策も必要だったため、私の世界の司祭達を屠った後にそれを鹵獲し、使い続けていた。
無論他の世界線では一族郎党を滅ぼすのに合わせて破壊している。
「ふふっ、世界を滅ぼすために用意したものなのに自分達を滅ぼす存在の拠点にされるだなんて最高の皮肉よね。数多の司祭達の怨嗟を聞く限りでは効果もあったし、我ながら名案だったわ」
「司祭達にとっては悪夢だね、それ……」
「うっわー……ベルちゃん、悪党だねぇ」
「誉め言葉として受け取っておくわね」
やや引き気味に苦笑するカヨコ、きゃいきゃいと背中で笑うムツキにそう返しておく。
実際、悪党なのは否定できない。
世界を守るためと言って悪事に手を染める、いつか斃される運命の極悪人なのだから。
―――そして、意識を前に向ける。
こちらを振り返っているアルは、子供がヒーローショーに連れて行ってもらった時のようなキラッキラした笑顔を浮かべていた。
何を考えているか手に取るように分かる顔だ。
「社長には合わないから真似しない事を勧めるわ」
「何ですってぇ!?」
キッパリと憧れを否定すれば、ガーン、と愕然とする。
『陸八魔アル』の良さが詰まった表情豊かなそれには苦笑が零れた。
だけど仕方ない。そうなってしまっては、彼女らしさが消えてしまうから。
「あなたにはあなたの良さがある。それをどうか、忘れないでちょうだい」
―――私のやっている事は外道のそれ。
アウトローではなく、ヴィランと呼ばれるものだ。
自身の理想を追求し、道なき道をそれでも恐れず進む彼女には合わない。
彼女は悪を掲げているが、それは目的ではない。他者に悪と言われようとも信念を貫く在り方が彼女の理想。
悪は手段でしかなく、だからこそ彼女の善性も両立する。
己を曲げて真似し始めたらそれは喪われるのだ。
自ら示した事が悪と言われることと、悪を為すために動くことは大きく違う。
悪のために動くことになっては、いつか道を踏み外す。
―――私のようには、ならないで。
「……分かったわ」
言外の想いが伝わったのかは定かではないが、彼女は神妙な面持ちで頷き、それから前を向いて歩みを再開した。
私は社員3人と共にその背を追う。
―――不思議な感覚だ。
前は私が歩いて引っ張っていたのに、今は引っ張られている。
寂しさはある。
握る手が、体に回された腕から伝わる熱と重み、そして信頼は、私を苛み続ける。
喪った事実は決して覆せない。
その痛みは、永劫私を苛むだろう。
……それでも。
共に在れる幸せは、
それだけで、私は生きていけるのだ。
しばらく歩いてシャーレのビルに到着し、エレベーターで上階へと上がる。
「明らかにカタギじゃない私でも普通に顔パスなのどうかと思うわよここ」
「まあ実際、セキュリティなんてあって無いようなものだよね」
私の嘆息にカヨコも同調する。
やはり彼女も同じことを思っていたらしい。
しかしどの世界のシャーレもこうなのだろうなと思う。生徒やキヴォトスの市民のために幅広く門戸を開き、いつでも気軽に話せる存在である事を旨としている以上、そこは変わらない。
私の世界の先生も警備は物々しいとして置かなかった。
自主的に警備する生徒にもやんわりと断りを入れて外れてもらっていた。
まあD.U.地区はヴァルキューレのお膝元だし、シャーレが有名になって存在感を増してからは各組織の不審者への監視の目が強まって、ある程度自動的に排除されるようにはなっているのだろうけど。
今更だけどアビドスでの問題解決後によく狙われなかったものだ。
「空が赤くなる直前に攫われたでしょうに……」
「えっ、そうなの!?」
「初耳だね。ベルちゃん、それほんと?」
「ええ、たしかヴァルキューレ生に扮したカイザーPMCの元生徒の傭兵にね。そのせいで非常対策委員会に先生が来なくて、会議はグダグダになった筈よ」
「ああ……そういえばそんな感じの事を聞いた気がする」
「先生の誘拐に関しては初耳です……カイザー、全部ぶっ壊しましょうか……」
ギシ、と軋みが聞こえるくらいハルカがショットガンを強く抱きしめながら言う。
アルや私に対してのように先生に対してもしっかり尊敬を向けているらしい。安心ではあるが、それ故の特徴的な暴走が心配である。
「ハルカ、ああいうのは勝手に落ちぶれていくものよ。小鳥遊ホシノの監禁や不法な利息にはじまり色々不祥事が出てるのだから時間の問題。わざわざ関わらず、黙って凋落を眺めておきましょう」
「そうね。得るものもロクに無い以上、関わりに行くメリットは無い。それに全部潰すにはカイザーは大きすぎるし労力も見合ってないから許可は出せないわね」
「わかりました……」
社長としての観点は同じなのか、アルも同調する。それを受けてハルカがしゅんと落ち着きを取り戻した。
……そういえば私の世界のハルカは突っ走る事こそあれど、あまり暴走しなかった気がする。
拡大解釈と暴走に注意して言葉を選んでいたからだろうか。
まあ私を侮辱したと思ったら突撃はしていたけど、記憶に残っているのは、頭を撫でると嬉しそうにそのまま受け入れ続ける姿ばかりだ。
『幸せアレルギー』とやらはどこにいってたんだろうかあの子……
当時は気にしていなかった事に思いを馳せていると、ポーン、と音が鳴ってエレベーターが止まった。
スッと滑らかにエレベーターの扉が開き―――
「―――ん」
反転した砂狼シロコと目が合った。
・陸八魔ベル
現役『色彩の嚮導者』兼便利屋副社長
先生死亡後も社員3人をキッチリ養っていた能力持ち
司祭達が多次元解釈バリアで逃げた時にそれを追い掛けて始末出来るよう、自身が反転した世界で司祭を抹殺後にアトラ・ハシースの箱舟を鹵獲し、そのまま拠点として利用。他の世界の箱舟は破壊の後にパーツを回収。内部に大量にいる無名の守護者等も侵入者や指示が無い限りは箱舟のメンテナンスに従事し続けている
要は『ラスボスがスペックと軍勢そのまま&移動要塞持ちで仲間になった』状態。勿論ゲマトリアの秘儀、デカグラマトンのパス関連、更には無名の司祭の技術も取得済み。その気になったら最終編の軍勢全部+αが先生とベルの指揮の下にキヴォトスの敵を襲う
プレナパテスの事は、彼が繋げた奇跡がどれほどか細く尊いものか痛感しているため深く尊敬している
・陸八魔アル
アウトローを理想とする社長
ベルが色々暈して伝える事が琴線に触れて目を輝かせては窘められているが、素直でまっすぐなところや人を惹きつける魅力はベルからも尊敬されている
社員達がベルにべったりな事には「まあ見てないと不安よね」とむしろ推奨している
・浅黄ムツキ
ベルの背中が特等席の幼馴染
交流がまだ少ない事とアルとの差異に馴れてなくて一瞬地雷を踏みかけたが、すぐに気付ける空気の読める子
武器や爆弾諸々込みで相当な重量なのにびくともせず背負えているベルに内心割と驚いている
垣間見えたアルに対する認識で凄く話し合える気がしている
・鬼方カヨコ
シビアな視点の理解者が増えた元最年長
本船オペレーターなのでアトラ・ハシースの箱舟を所有している事実に一番驚いている。その真意も理解しているため、ベルの闇の深さの理解者でもある
ふとした拍子に弾けるのではとアルの利き手である左手側で警戒し続けている
・伊草ハルカ
尊敬する人が増えて幸せ絶頂の最年少
ベルの事をよく理解するために基本黙って観察に回っている。アルとベルが話しているのを見るだけで幸せ
ベルの癖で撫でられるのもあって右手側にいる事が多い
・(故)ムツキ
ベルの世界の浅黄ムツキ
悪戯を受け止めてくれた少女に付いて回っていた
何かに追われているのを察して悪戯は小規模、揶揄いも頻度は少なめ。量より質、僅かでも笑った顔に満足感を得ていた
共に居続けたならそれは楽しめていたという証
・(故)ハルカ
ベルの世界の伊草ハルカ
助けられて崇敬していた点は同じ
ただ相手に余裕が無く、常に何かに追われていた様子から変化が発生
言動全般がやや慎重になっていた
また自身を撫でる時は穏やかな顔をしているためそれが役に立てる事と定義。幸せアレルギー? そんな事より(あの方のために)撫でてもらわないと! な子
自身が自分にとっての雑草のような存在になれればと思い、僅かでも安息になるならと寄り添い続けた
・(故)カヨコ
ベルの世界の鬼方カヨコ
最年長という事もあり彼女のパーソナリティはベルによって変化したものが少なく、したがってベル自身も奇跡世界との差異を見出せていない
それは自然な形だったため気付けていないだけ
最もシビアな見解で一致し、意見を交わす間柄
それが彼女の楽しんでいた事だった