ヒナ視点です
ヒナはフルネームで呼ぶ事が多いので地の文の他者の名前も基本フルネーム、一部は原作準拠で名前呼びです
フルネームはくどく感じるかもしれませんがご容赦ください
そして今回長くなり過ぎたので分割しています
実質ワカモ暴走編はあと2話予定です
今朝だけで随分と密度が高いな、と疲労を感じながら思考する。
倍率が凄まじいシャーレの当番にアコと揃って選ばれてから今日まで忙しさを縫って時間を捻出する日々は大変ではあったけどとても充実していた。当番も仕事だけど、先生と一緒に働けると思うだけでも気持ちが上向きになる。
勿論、懸念点もあった。
陸八魔ベル。
シャーレ初の復学支援制度を利用して復学した成人女性。ゲヘナでは異例の通信課程の受講。復学と同時に指名手配されている『便利屋68』への所属も確認された。
風紀委員会内でも問題視され、調査が実施されたが―――書類上は何も問題が無い。シャーレ、連邦生徒会、万魔殿それぞれが確認した上で処理されている。
ただただ便利屋への加入だけが問題だった。
そして先生がそれを認めている以上、連邦生徒会と万魔殿は動かない。
かと言って潜在的脅威の可能性は否めない。突如現れた大人による無法は、便利屋の乗っ取りだけでなく、シャーレをも蝕もうとしているのでは……という予想も囁かれていたのだ。
先生は、まあ……生徒に色々と甘いし、少しだらしないところもあるけれど、でも仕事関連はキッチリしてくれる人である。制度を利用する相手となればそこも真面目にする筈。
まあ騙されてる可能性は否めないくらいお人好しなのだけど。
だから私は事前に万魔殿のマコトに聞いていたのだが―――
『ああ、あいつか。その件について私が語る事は無い。今度当番なのだろう? 本人に直接会って聞くと良い』
シャーレのモモッター公式アカウントで公開されている当番表で一緒になると知っていたマコトは、それを理由にするように言及を避けた。
アコは何も言わないことに後に文句を言ったけど……
何となく、いつもの嫌がらせで情報を遮断しているようには感じなかった私は、それ以上は追及しなかった。
他にも、公開されているシャーレの活動報告―――総力戦や連合作戦に彼女の名前が載った際には、都度確認して危険度把握のための戦力評価も行った。
結果、規格外という結論しか出なかったが。
『ヒエロニムス、グレゴリオ、ゴズ、シロ&クロ、ペロロジラ、計5体を10分以内で撃破、ね……先生の事だから偽装はしてないでしょうけど』
『偽装だったらむしろそっちの方がアホですよこれ。編成によりますけど1体でも複数人掛かりで5分もザラなのに』
直截的なアコの物言いは、口こそ悪かったけど同感ではあった。偽装は人を騙すためにするものだけどこれは異質過ぎて逆に目を引く。
連合作戦演習の方はもっと目を引いた。
―――あの赤い空が来た時、本船に乗り込んだ戦闘メンバーと同じだったから。
対策委員会。ゲーム開発部。美食研究会。オペレーターや囚われていた砂狼シロコ、もう一人の砂狼シロコこそ参加していないが、箱舟まで行って戦った面々と共に彼女が名を連ねていた。
名目上は『親睦を深めるため』。細かな作戦概要も書かれていたけど……
先の総力戦で見た陸八魔ベルの戦力評価とはズレた内容のもので、こちらは多分偽装されていると感じた。
つまり、連合作戦演習の方になにかがある。
ただ、分かったのはそこまでだった。
『小鳥遊ホシノ。陸八魔ベルについて、少し聞きたいのだけど』
『んにゃ~……ベルちゃんねぇ。ヒナちゃんはまだ会ってないの?』
『ええ』
『そっかぁ……んー……どうしたもんか』
『話さないよう口止めをされているの?』
『いんや? 特にされてないね。それにその辺は頓着してなさそうだったよ。多分おじさん達が知ってる事って話しても
『そう……なら、教えてもらえないかしら』
『ん~……ごめんねぇ。本人から聞いて欲しいかな。多分その方が誤解も無いし……それに……』
『……それに?』
『
『アリス。あなた、少し前に陸八魔ベルという人に会わなかったかしら』
『レベルカンスト魔王のベルさんですね! はい、会いましたよ!』
『ま、魔王……?』
『はい! アリス達が戦って四天王の一人を倒した時に、『おめでとう、勇者達よ。そなた達の勝利と認めよう』と言ったので! ベルさんはラスボスの魔王……いえ、エンドコンテンツの裏ボスの大魔王です!』
『そ、そう……四天王のこともよく分からないけど、彼女は強かったのね』
『それは分かりません! ベルさんとは直接戦ってないので!』
『え? そうなの? 彼女、総力戦をソロでこなしてるから戦えない訳ではない筈だけど……』
『それは……アリスには説明が難しいです。それにアリスの口から言っていい事かどうか……直接ベルさんに聞いてみてください。ベルさんはとても優しいので教えてくれると思います。もしくは先生に! アリス達は先生から事情を聞いて協力したので!』
『ハルナ。反省房で暇でしょう? 私と話をしましょう』
『あらあら……ヒナさんがこちらに足を運ばれるとは。今日は余裕があるのか、あるいは
『察しが良いわね。単刀直入に聞くわ。陸八魔ベルについて、知っている事を話してもらえるかしら』
『お断りします』
『何故かしら?』
『彼女は我々、美食研究会の同志だからです』
『それは……待って。一体どういうこと……? 彼女は便利屋68の副社長の筈じゃ……それにあなた達と一緒にお店を巡っているという報告も無い筈だけど』
『ふふ、冗談ですわ。彼女の料理の腕を見込んでいる事は事実ですけれどね? それはそれとしてベルさんについてお話しできる事はそれ以外ありません。理由としましては……本人から直接、聞くべきだからです』
『……彼女と知り合った他の人も、同じように言っていたわ』
『なるほど……みなさん、同じ気持ちのようで。ええ。安心しました』
『……一体何を知ったのよ、あなた達』
『そうですね……いえ、喩えも控えましょう。どうぞ、ご自身でお聞きになってください。きっと話してくださいますよ。知られてもいい事しか彼女は話しませんから』
電話で小鳥遊ホシノに。
休暇で天童アリスに。
仕事で
当番の日までの間、陸八魔ベルと知り合ったグループの内、私と特に繋がりがある面子にそれぞれ聞いても、三者三様ながらほぼ同一の答えしか聞けなかった。
本人に聞け、と。
ホシノとアリスは、彼女は優しい。
ホシノとハルナは、知られても問題無いことしか話さない。
マコトや先の三人から揃って直接聞けと言われた後だと先生に聞くことは躊躇われた。聞いても多分同じ答えが返ってくるのではと。
とはいえ―――誰もが本人に聞け、そしてホシノ達は話してくれると言うのなら、当番になった時におそらく聞けるだろうと判断を一旦保留にした。
問題視されているのはシャーレの支援を受けながら指名手配組織に身を置いている事。
課題提出などはしっかりされているようだし、それまでの当番での素行は問題無く、普段の便利屋同様に様子見や現行犯対応で十分だった。
そして今日、問題の当事者である彼女から話を聞けた訳だが―――
「……頭が痛いわね」
『どう報告書に纏めましょうか、これ……』
「部外秘……ウーン……マスコミ対応も含めるとマコトとも相談が必要ね、これは……」
『本来なら最初に共有すべき、と普段なら言うのですが……まあ今回は文句は言わないでおきましょう……』
色彩の嚮導者という事実。彼女が歩んできた過去。死ねない理由。生きる理由。
色々と常識外の情報が多過ぎて、話が終わってからの私はアコと揃って頭を抱えていた。
陸八魔ベルの戦闘力は、私の掃射を受けてもピンピンとしていること、ワカモが放ったというロケットランチャーの直撃も無傷という鬼方カヨコの話、そして風紀委員会と幾度も交戦しては都度逃げおおせていた彼女を一撃で沈めた攻撃力から推察するに極めて高い。
それは例の総力戦5連続単独制覇からも推測されていたこと。特に驚きはない。
気になる点は対人戦闘力も高いことか。転移ありとはいえ
彼女の話を鑑みれば、ゲヘナ3年の想像をも絶する修羅場を潜って培った経験に相違ないはず。
―――……一体どれほどの人を手に掛けたのだろうか。
その疑問は、無名の司祭と地下生活者という復讐対象を除いてのもの。
尾刃カンナの死を契機として歴史が分かたれてから、おそらくは砂狼シロコの反転を契機とした終わりの始まりまでの期間だろう『キヴォトス動乱』において、彼女が手を汚した人数はどれほどに上るのか。
その人物の危険度を測り、一線を越えかねないと見たからこそ気になった。
たとえ便利屋の子達と一緒にいる間は落ち着いていようと、万が一はあるのだから。
―――でも……彼女は、狐坂ワカモを殺さなかった。
その万が一を考慮した上でも私が警戒を解いたのは、一方的に襲った狐坂ワカモへの対応を見たから。
崩落していく区画を眺める彼女の背後を取り、しばらく様子を見て、気付かれたと同時に鳩尾を殴って行動不能にする。
そのどこにも一線を越え得る可能性は見えなかった。
むしろ狐坂ワカモの方に見えたから私は咄嗟に愛銃の引き金を引いたのだ。
―――きっとこのキヴォトスに来てからずっと、彼女は自制し続けてきたのだろう。
どういう経緯で先生や便利屋と会い、何を話したのかは分からない。
砂狼シロコすら暫く放浪して対策委員会から距離を置いていたというのに、その期間が無さそうな点も気掛かりだ。
それでも―――彼女がこの世界に来てからこれまでの間、大きな事件を起こさなかったのは事実。
彼女は自身を律せている。
憎しみはある。話している間に漏れ出たものは、私をしても恐れを抱くほど濃密で、鋭く、昏い意志だった。重みの違いこそあれどエデン条約調印式において先生を狙い襲撃してきた錠前サオリ達が向けてきたものと同質のもの。
本物の殺意。
それも幾度も繰り返し、復讐を果たして尚絶えない憎しみと恨みに裏打ちされ、先鋭化したもの。
多くの人の死を招いたから地下生活者をより憎み、怨むようになった彼女は、より直接的原因になっていただろう悪い大人達への復讐をそれでも志さなかった。あくまでそれらは地下生活者への憎しみを強くする要素であって、根幹ではないから。
地下生活者への憎しみは、先生を殺したから。
そしてもう一つ―――無名の司祭への憎しみは、色彩に触れ嚮導者となった砂狼シロコを操り、彼女が率いた社員達を手に掛けたから。
この二つを軸に、彼女は一線を越える。
それ以外にはおそらく殺意を振るわない。ワカモへの対応を見た限りは、銃のグリップすら握らない。
連合作戦演習の目的も聞いた今、なぜアリスが戦っていないと言ったのかも何となくわかった。四天王とやらが何を指しているかは不明だが、相手を殺さないよう自らが動かなくても戦える術――アバンギャルドという名のロボットのようなもの――を陸八魔ベルは持っているのだろう。
そうまでしてでも彼女は、別人と分かっていても浅黄ムツキ達を救いたかったのだ。
この世界に来てからの事はサラリと流されたが……
それまでの濃密な死の過去や恨みつらみの経緯を聞けば、どれほど執着しているかは想像に難くない。
無論、これも直接話したからこそなのだけど。
「又聞きだったら危険視してたわね、これは」
『そうですね……潜在的に危険である事には変わりありませんが、彼女の話を聞いた限り、プレナパテスの時のような騒乱を起こすとも思えません。動機がありませんし』
「他の世界ではやっているようだけど、まあ理由を聞けば理解は出来たわね」
ただ単に『カイザーを引き揚げさせるため』だけなら理解は出来ても共感は出来なかっただろう。虚妄のサンクトゥム飛来や数多の敵に対する防衛戦では多大な労力が掛かり、市民の多くが恐怖に見舞われたのだから。
しかし―――そうしなければ動乱が起き、死者が出るというのなら話は別だ。
同様に、彼女の復讐も……
先生を殺めた者とその目的を聞いた今となっては――それが本来許されない事であると理解した上で――彼女を応援したいと思ってしまった。
先生と地下生活者。命の数で言えば同数で、価値を天秤で掛けてはならない。
ただ……一生徒として多くを助けられ、そして信頼した相手と、何も知らない相手となると、どうしても前者を選んでしまう。
そしてキヴォトスが滅ぶかどうかの前では、悩む必要もないくらい無名の司祭とやらを排除すべきとも考えてしまう。
「……だめね、私は。彼女の行いを責められない」
『……難しい問題ですね……先生は、どのような答えを出されているのでしょうか……?』
アコの問いは、私も同じく抱いているものだった。
先生は間違いなく彼女の死ねない理由、生きる理由を知っている。それを知った上で協力している様子だけれど……
生徒が手を汚すことに対して先生が何も言わないとは考えられなかった。
きっと衝突した筈だ。その上で、それでも和解している。
どういう過程を経て、どんな答えを出したのか、自ら答えを見出せない私達は迷子の気分になりながら先生達の方へ意識を向けた。
「長話をしてごめんなさいね。結構待たせちゃったかしら」
"あー……いや、そんなに長くは待ってないよ"
「それにまだ狐坂ワカモを搬送するための護送班も到着していません。お気になさらず」
「そう? それならまあよかったわ……それにしても、アレね。この落盤の規模を見るとちょっと気が遠くなるわね……多分シャーレに手伝いの要請行くでしょうし……」
「同感です……」
"ははは……そうだね……"
「ごめんなさい、先生。これなら最初から無力化して縛り上げるべきだったわ」
「先生にも似たような事を言いましたが……改善の余地はあるとしても、この結果に対して責任を追及される程ではありません。それに今回あなたは完全な被害者なんですからその立場でもありません」
"そうだね。盗撮や飛ばし記事のことも含めてベルは今回何も悪くないよ"
「……フォローありがとう。先生、尾刃局長」
当たり前のことだけど、とっくにその答えを持っている先生は自然体で話していた。
少し気になったのは尾刃カンナも同様に自然体なこと。陸八魔ベルは指名手配グループの便利屋68の一員で、彼女からすれば畏まる相手ではないだろうに、先生に対するような言葉遣いをしている。
その尾刃カンナに縛られて立っている狐坂ワカモは、なぜかじっと陸八魔ベルを凝視していた。
「ねぇ、先生。ワカモがさっきからずっとベルのことを見てるんだけど……誤解は解けたの?」
そのことに、頭を撫でられ直球の言葉もぶつけられて珍しく狼狽して以降沈黙を保っていた鬼方カヨコも気付いたようで、白い肌にまだ薄い赤を残しながらも表情を改めて問いを投げた。
なんだかまた別の問題が起きそうな予感を抱きながらアコが操作するドローンを伴って私も先生達の下へ向かう。
カヨコに問われた先生はワカモを見た後、鬼方カヨコを見て首を縦に振った。ちょっと弱々しいけど。
"うん、解けた……解けた筈だよ"
「いますっごく不安になったんだけど……」
「話を聞いていた私からしても狐坂ワカモが抱いていた誤解は解けたように思う。彼女が行動を起こした発端はとある記事だが、それが無根拠なものである事に理解を示していたからな」
どうやらワカモが行動を起こした原因は交際疑惑の飛ばし記事だったらしい。
ゴシップに興味があるとも思えないから、ここに来るまでの車内で話していた『先生を悪人から守るため』という理由か、ともすれば先生の事が好きで暴走したのか。
どっちにしても根拠のない記事を信じ込んで一地区を崩落させる程の手筈を即座に整え襲撃までしたのだから、そのスピード感含めて傍迷惑が過ぎる話だと思った。*1
「とある記事……交際疑惑のか」
"カヨコも知ってたんだね"
「まあ、それをベルが見つけて、勘違いしそうな子に心当たりがって深刻そうな顔してる時に襲われたからね。あと『あの方のために~』ってワカモが言ってるのも聞いたし」
そして、鬼方カヨコは飛ばし記事の事を知っていたらしい。口ぶりから察するに陸八魔ベルも。
シャーレに来た時や移動中は飛ばし記事の事なんて一度も触れていない筈だけど……
"ん……? もしかして……ベル、ワカモのことも色々と知ってた?"
「…………まあ、"向こう"でも散々あったからね」
先生の疑問の声に、ベルは心底呆れたような眼を一瞬向けた後、視線を落盤によって開放的になった廃墟へと向けた。*2
「―――それは、あなたの世界の
そこで、それまで沈黙を保ち続けていた狐坂ワカモが声を発した。
お面を付けた顔は陸八魔ベルに向けられ続けている。
サイハイブーツで大きく背伸びした状態の彼女に、それでも身長で勝っている女性が、緩慢な動作で肩越しに振り返る。
赤の混じった金の瞳が、自身を襲っていた少女を静かに見据えた。
「落盤させる前に言われていましたよね。悲しい事に初めてではない、と。あれはそちらの"私"に同じことをされたという意味なのでは?」
「こっちの話、聞こえていたのね」
「こちらの話が終わって以降はあなた方の話し声だけでしたので……ゲヘナの風紀委員長が亡くなられたという話からは。それで、どうなんです?」
話を逸らすな、と言わんばかりの強い意志を感じる再度の問いかけに、陸八魔ベルはわずかに目を眇めた後、再度顔を落盤した廃墟へ向けた。
風によってコートがわずかに靡く。
どことなく、淋しさを覚える背中だと思った。
「あなたの予想通りよ。先生が命を落とす前は頻繁に襲撃されていた。やれ恋敵だ、やれ誑かしている、やれ惑わしているって……まあ先生を介せば共闘もしていたけど、相争った回数の方が倍以上多いわ。落盤の経験もその一つ。当時は本気で死も覚悟したわね」
彼女にとっては七囚人の襲撃も慣れ親しんだ事だったらしい。
だから飛ばし記事を見て、狐坂ワカモの恋心を察したと。
ならもしかして、鬼方カヨコが口にしていた『見知らぬ大人が~』の予想の方は関係ないのだろうか。確かにアレは彼女の予測に過ぎない話ではあったが……
「それで、聞きたい事はこんなことじゃないでしょう。何を知りたいの?」
私は私で別の疑問を浮かべていたが、それを知る由もない彼女達の話は更に進んでいく。ベルはやはり変わらずこちらに背を向けたままだ。
なぜ対面しようとしないのか、ふと疑問に思いつつ邪魔をしないよう口を噤む。
「あなたは……先生が爆殺されたと、仰っていましたね」
「言ったわね」
密やかに、狐坂ワカモが確認する。
陸八魔ベルはしっかりと頷いた。否定できない事実だと。
「聞けば、そちらの"私"も先生に恋をしていた様子」
「そうよ」
誇るように、狐坂ワカモは確認する。
陸八魔ベルは、再度頷いた。否定する必要もない事だと。
「では―――先生が亡くなってからの"私"について、なにかご存知ですか?」
静かに、けれどハッキリとした語調で、狐坂ワカモは確認する。
陸八魔ベルは―――
「っ―――」
言葉を返さなかった。
あるいは、返せなかったのか。言葉に詰まるような、そんな気配の揺らぎを感じた。
大きな紅蓮のコートを背負う背中が、少し萎む。彼女は肩を落としていた。
「お答えください。そちらの"私"は、先生が亡くなってからどうなったのです」
業を煮やしたか、堪えきれないと問いが再度投げられる。
彼女を落ち着かせようと先生や尾刃カンナが近寄るが、狐坂ワカモは微動だにしないくらい真剣に視線をただ一人に注ぎ続けていた―――
・陸八魔ベル
過去と心の傷に滅多打ちにされてる人
話す気が無かった部分に思い切り突っ込まれ、脳裏には『最後の会話』とその後に見た光景が蘇り、呼応して感情が込み上げ始めて内心荒れ狂っている
背中を向けているのはその内心を知られたくないため
・狐坂ワカモ
知らず知らず傷を抉っている七囚人
自分の衝動のままに突き進む人格なのでベルの様子も気にしておらず、また先生とカンナが言っていた事も――言われてすぐ直せるものでもないが――あんまり分かってない
このあと強烈なしっぺ返しを食らう事をまだ知らない
・先生
あまりに直球な問いに焦りが出ている苦労人
ヒナ達に話していた事を聞いており、いまワカモが投げた問いはベルが「知る必要は無い」と口を噤んだ事だと当たりを付けている。そしてベルが背中を向けて一向にこちらを見ようとしない事から
ワカモには今度心の機微や人との距離感について教えようと決意すると共に、またベルに謝らないといけない事が増えたと頭を抱えた
・尾刃カンナ
あまりに不躾な問いにお前マジかと焦っている苦労人
風紀委員長の死を見て骸を運んだ時の話の様子を見た上での問いなので「先生に人に迷惑かけるのは良くないと言われたのに全然わかってないじゃないか!」が今の内心
色彩の嚮導者と分かったベルがキレたらどうなるか分からないので割と余裕無く本気で焦っている
・空崎ヒナ
場を俯瞰して見つめている人
事前に多方面のツテを介して情報収集していたが全員に『本人から聞いて』と言われていたので書類上しか知らなかった。今回その理由を知り、納得した
ワカモが先生を好いている事は今回初めて知ったが一連の流れを知った後なので納得
ワカモに関してベルの方も何か因縁があったのかと疲れ気味で驚いた
ベルが暴れそうな気はしていないが、おいそれと触れられる部分ではない点から少し警戒。銃は無意味と体当たりで取り押さえられるよう少し距離を詰めている
・天雨アコ
ヒナ同様に情報を集めていたが中々集まらなかった。しかしそれも納得の背景であり、万魔殿議長が語らなかったのも流石に嫌がらせではなさそうと判断した
なんとなく先生とワカモが何度も会っていることを察したが空気を読んで何も言わなかった。多分キレた時に口から突いて出る
・鬼方カヨコ
紅蓮のコートの背中をじっと見つめている人
黙して語らず。ただいつでも手を掴めるように身構えている
カヨコがシャーレに転移してきたのは8:30以降かつヴァルキューレに通報が飛んだ後
つまりワカモは記事掲載から約1時間で全ての準備を整えてベルを襲撃したことになる
そして狐坂ワカモと初対面する時、先生はシッテムの箱のバリア無し
一目惚れによって難を逃れただけのそれを知らない訳がないでしょうと諸々込みで突っ込みたいが、『知識』について知らないヒナ、アコ、カンナ、ワカモが居るので言葉を飲み込んだ