陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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3、4話目ぶりのアル視点です
(久しぶり過ぎる……)




『陸八魔アル』の残響

 

 

「はぁ……まさか、昨日の今日で話に出てた箱舟のお泊りが実現するなんてね……」

 

 ため息と共にボヤいた後、お箸で摘まんだおかずの唐揚げをはぐりと口に入れる。沁み込んだ出汁と噛む度に溢れ出る肉汁で舌鼓を打ちながらご飯も運ぶ。

 

 現在、便利屋68は家なき子になっていた。

 

 それもこれも『災厄の狐』がD.U.シラトリ区の外縁部で大暴れしたからだ。

 なんでも昨夜、柴関ラーメンからシャーレへ送った時を盗撮され、それを交際疑惑としてクロノス報道部が掲載した飛ばし記事を見た結果、なんと先生に恋心を抱いていた『災厄の狐』狐坂ワカモが早とちりしてベルを襲ったのだという。

 ベルは元居た世界のワカモも似たような勘違いをしていたので、その飛ばし記事を見た時に真っ先に予想し、直後に現実となった事から早とちりを確信。先生に誤解を解いてもらうよう時間を稼ぎながら人気の少ない方へ誘導していた。

 その『人気の少ない方』が、便利屋が構えていた事務所近くだったのが私達の不運だった。まあ事務所を出て程なく襲われたらしいからそもそもの位置が近かったのだけど。

 ベルを生き埋めにするべく実行されたという落盤からは多少離れてはいたけど、埋設されていた電線や水道が断線したため、ライフラインが向こう半月から一ヵ月は死んでしまった。

 それをムツキに言われるままとりあえずモモトークで夕飯と寝床の相談を送った結果、前述の落盤の経緯諸々を教えられた後、一先ず今日は箱舟に泊まる事になった。すぐ捕まえておけば落盤は起きなかった事をちょっと引き摺ってるとはカヨコからコッソリ送られたモモトークで知った。

 

 そうして今、私とムツキとハルカは、ベルの箱舟の『ナラム・シンの玉座』という広間で昼食を摂っていた。

 近くには家財やレンタルしている家具なども置いている。今借りている事務所は解約して、新たな寝床を探す予定だからだ。流石に週単位で電気・水道が止まっているところを借り続けても無駄にお金が掛かるキャンプになる。

 まあ……まだ解約はしに行ってないのだけど。

 いまの私は、クロノス報道部の飛ばし記事のせいで――写真に写っているのはベルだけど――先生との交際を疑われている。

 そんな私や関係者のムツキ達が白昼堂々出歩いても別の問題が起きるだけだからと、今日一日の謹慎をベルはおろか先生やヒナ達にも提案された。先生がシャーレとして抗議文を送って諸々の訂正とお詫びを出させるので、せめてそれまではちょっと大人しくしていて欲しいと。

 

「あー……とんだ休日だわ」

「くふふっ♪ ま、流石にちょーっとびっくりだったけど、結局は落ち着いて勉強できそうで良かったじゃん?」

「ここなら警戒も不要ですしね……」

「ここに来れるのはベルさんか私が招いた者だけですからね」

 

 私、ムツキ、そしてハルカに続いて会話に加わったのは、この箱舟の管理AIでもある少女―――ベレナという銀髪黒衣の小さな少女。ベルの世界の先生が持っていたシッテムの箱のサポートAIであり、今はベルを主とし、名前を付けてもらった子だ。

 初めて会ったのは彼女が『ベレナ』の名になり、『再現』初回を迎えるまでの間のとある日のことだった。

 それ以降はこちらに私達が来なかったが、ベルが食事やおやつなどを一人分多く用意してはシッテムの箱の前に置き、消えていくのも目にしているので声は聞こえなかったが存在は認識していた。

 とどのつまり、こうして話すのは2回目で久しぶりということ。

 現在は私達が箱舟に居る間、ここで不自由なく過ごせるようにとベルが付けてくれたので一緒にいる。

 まあここに居てもシッテムの箱の電波は届くので、あちらのサポートもしようと思えばできるらしいのだけど。『ベルさんは当番の時もほぼシッテムの箱を使われないのですけどね』とはベレナの談だ。

 

「それにしてもさー、混沌の領域だっけ? これ結構反則だよね。完全にさっきまでいた事務所そのままだもん今の内装」

「そうねぇ……」

 

 ムツキの言葉に、私は呆れとも感嘆ともつかない反応を返しながら周囲を見渡す。

 陽光が入ってくるブラインドの窓、壁掛けのエンブレムや『一日一惡』の額縁。社長用のデスクに黒電話。社員や来客が座るソファが二脚に間のテーブルが一つ。書類を纏めて入れておくための棚。冷蔵庫やキッチン、寝室にしている隣室、小さめだけどしっかりしている脱衣所や浴室。

 家具はまあここに来る前に持ってきたものだから物は同じなのだけど、間取りに関してはあの賃貸の一角を完全再現していた。

 これが『次元、時間、実在の有無が混ざり合う混沌の領域』の力なのかと初めて見た時は戦慄したものだ。

 

「ベルちゃんとベレナちゃんっていつもここで寝てるんだよね?」

「そうですね」

「その時の内装ってどんなのなの?」

「夜の海を望める教室にベッドを構築して眠っています」

「へー。教室で寝るってなんか寝辛そう」

「ベルさんがそう言われているところは聞いた事ありませんね」

 

 そしてさっさとお弁当を食べ終えたムツキは興味津々とばかりにベレナに話しかけに行っていた。前に引き合わされた時はベルの手前か、あるいはベレナの様子を鑑みてか距離を置いていたが、今はもう大丈夫と見て積極的だ。

 まあ私から見ても『再現』当時のベルとベレナはあまり余裕が無さそうだったからムツキの対応は正解だったのだろう。

 遅れてお弁当を食べ終えた私は、丁寧に合掌しながらそんな思考で締めくくった。

 

「あ、アル様。洗いますので持っていきますね」

「ああ、ありがとうハルカ。よろしくね」

 

 さあ水に浸けておこうと思った時に、ちょうど同じタイミングで食べ終えたらしい食器洗い当番のハルカにそう言われたので、断ることなく空の弁当箱を差し出す。それを受け取った彼女は足早に再現されたキッチンスペースの洗い場へ向かっていった。

 それを見送った後、脱衣所に併設された洗面所で手早く歯磨きを済ませる。

 

「ふふー。私より小さいベレナちゃんは抱き締めちゃおうねぇ」

「ふふ……あーれーお助けー……です」

「あはっ! 冷静クールっ子って思ってたけど思ってたよりノリいいね?」

「これでも10年以上稼働していますから。応答パターンの学習により、適切と思われる応答の選択は私にとって困難なものではありません」

 

 戻ってくると、凄まじい速度で距離を詰めたムツキがベレナと楽しそうにじゃれ合っていた。

 これで片方はAIだというのだから少々信じ難い話である。

 まあ10年以上の稼働年数があるし、多くの人や生徒を見てきて情緒を学んだという事なら分からない話でもないけど……

 

 シッテムの箱。

 

 連邦生徒会長が先生に託したとされるオーパーツ。このキヴォトスに来た日、シャーレのオフィスビルを奪還してからの先生の歩みを記録し続けたモノ。

 言い換えればちょっとした『キヴォトスの日記』。

 それは彼女―――ベルの歩みも記録しているのだろう。

 

「10年……あなたがベルと会って、それくらい経っているのよね」

 

 先生とベルが知り合い、共に歩んだ時間は1年あるかないかだろう。そして爆殺を契機に交流は途絶え、シッテムの箱も起動しなかった。

 その上でベレナは、こちらの先生とベルとで後者を新たな箱の主に選んだ。

 勿論それは、プレナパテスの時と違って選べる選択肢が先生の他にあったからでもあるだろう。しかしその上で彼女はベルを選んだ。

 彼女が見てきた『かつてのベル』はどんな姿なんだろうと、ふと気になった。

 生まれながら未来を知り、未来を繋ぐために生きてきたベル。当時は記憶だけの『陸八魔アル』を真似て生きていたというが、根本が違う以上は私との差異もある筈。既に柴関ラーメン未爆破という違いもあったのだ。

 ベル本人には聞き難いが―――

 それでも、知りたいと思った。

 

「ベレナは、昔のベルを知っているのよね」

「自身を『偽物』と考えている頃のベルさんでしたら、はい」

「あなたから見て、ベルはどういう生徒に見えてたの?」

 

 純粋な疑問だった。

 ベルの過去についてはこれまですべてベル自身から聞いてきた。でもそこについて回るのはどうしようもない諦観と自己嫌悪、そして喪失の哀しみと奪った者達への憎しみが基本。どうしてもバイアスが掛かる。

 事情が事情なので詮無きことではあるのだけど、他者からの彼女の評価は未だ聞いた事が無かった。

 ベレナはそれを言える唯一の人。

 ベルが同伴していない今なら聞けると思った。ベレナが話しやすいという意味でも、過去を掘り返されてベルが傷付かないという意味でも。

 

「勿論あなたが言いたくなければ言わなくていいわ。忘れてちょうだい」

 

 私の言葉を受け、悩む素振りを続けるベレナにそう付け加える。

 彼女のことは知りたい。けれど過去を必ず聞かなければならないわけではない。彼女が困っているのでもない限り無理に聞き出すつもりはないのだ。

 思い悩んでいるのなら、それを解決するために聞くけれど。

 

「―――いえ。問題ありません。ただ、少し言葉に悩んでいるだけです」

 

 小柄なムツキに膝に載せられ、抱き締められながらのベレナ*1のその声音に気負いのようなものは感じられない。

 感情があまり乗らない声音ではあるから分かり辛くはあるけど、多分問題無いのは本当だろう。

 

「そうですね……私が、もとい私と彼女の"先生"が初めて対面したのはアビドス高等学校の校舎襲撃に際してですが、『恐ろしい生徒』が第一印象でしょうか」

「お、恐ろしい……!?」

「あー……」

 

 そして、ベレナをしてかつてはベル相手に『恐ろしい』という評価がピッタリだったそうだ。

 私はそれが少し意外だったのだけどムツキは納得とばかりに声を上げた。疑問の視線を投げかけると、彼女はベレナの後頭部に顔を当てながら答える。

 

「ベルちゃんにとっては『便利屋68』と先生が関わる初めての仕事じゃん? 失敗できないとか緊張とかでいっぱいいっぱいだったんじゃないかなーって」

「あぁ……」

 

 ムツキのその答えに、今度は私が納得の声を上げた。

 言われてみれば確かにそうだ。ハードボイルドなアウトローに憧れて起業した私と違い、彼女はキヴォトスの未来に必要だからと便利屋を立ち上げた。

 私にとっては便利屋はとっくの昔に始まっていて、アビドスでの一件は今に繋がる大きな転機という認識だけれど―――彼女にとっての『始まり』はあの襲撃だったのだ。

 話に聞く『再現』に向けた連合作戦演習でのや(・)ら(・)か(・)し(・)を聞いている私は、多分本気を出して臨んだ結果、何かをやり過ぎたんだろうなと思った。

 

「もし望まれるのでしたら、お見せしますが」

 

 そこも昔から変わってないのかと思っていると、ベレナからそんな申し出を受ける。

 けれど言葉の意味を掴みかねた私は首を傾げた。彼女を後ろから抱いているムツキもキョトンと怪訝な顔だ。

 

「見せるって……何を、どうやって?」

「当時の光景を、ホログラムで、です」

 

 私の問いに端的にベレナが答えた途端、「えー!?」とムツキが驚嘆の声を上げた。

 

「ベレナちゃん、そんなこと出来るの!? 映画とかと違って別にカメラやマイクとか回してないよね!?」

「戦術指揮機能の一つです。基本的に指揮のために立ち上げられた際は戦闘範囲内の記録をしています」

「えーじゃあこっちの先生の指揮の時も全部記録されてるんだ……」

「それ容量的に大丈夫なの? シッテムの箱がタブレットとしてオーバースペックなのは何となく分かるけど、流石に足りないんじゃ……」

「基本的に一定期間が経てば圧縮して保存していましたし、月を跨げば専用サーバーに移していましたから容量不足になる事はありませんでした」

 

 多分後に報告書に書く際に見返す用にも取っておいたのだろうけど、そんな用意がシャーレにあった事を初めて知った私は素直に感心しながら頷いていた。

 ウチもいずれそういうのを導入するべきかもしれない……

 そう考えている内に、ベレナは論より証拠とばかりに動き出した。誰も来ない出入り口側の壁や内装が、赤い空の下で戦ったミメシスやオートマタ達を倒した時のように端から光の粒子となって消えていった後、外を演出するための陽光なども無くなって暗闇が戻ってくる。

 そうして戻った暗闇に浮かんだのはホログラム。

 私から見て向かって左にアビドス校舎の正門と、そこに並ぶ対策委員会の4人と先生。奥空アヤネが居ないが、校舎の窓辺にそれらしき姿が見えた。

 向かって右からは武装して堂々と市街地を進む『便利屋68』―――かつてのベル達の姿。

 流石にその変化に気付き、洗い物を終えてソファへ戻ってきたハルカがやや呆然としながら声を発した。

 

「あれが、昔のベル様……なんですね……」

「……カヨコっちやハルカちゃんと比べると、こっちのアルちゃんよりも少し差が大きいね。薄々思ってたけどベルちゃんって元々背が高めなの?」*2

「出会った当時のベルさんは165cmです」*3

「今の私よりも5cm高い……!」

「あーこっちより安定して食べれた分かな? あと将来に備えてキッチリ運動とかしてたり? アルちゃんもちゃんとしてればもうちょっと伸びたって事かもねー」

「くううぅぅ……っ!」

 

 なんか思わぬトコでダメージを受けてしまった。

 一応私も低い訳ではないのだけど、私より背が高い分あちらの『アル』の方が大人なアウトローさが出ているような気がする……!

 そしてその差は残酷なことにも私の経営不振も一因かもしれないという。

 

「か、過去は良いのよ! 未来さえ掴み取れれば!」

「なんか良い風に言ってるねぇ」

「わ、私は背が変わろうと変わるまいと、変わらずアル様に付いて行きますから!」

「うぐぅ」

「うーんフォローになってなくて笑っちゃう」

「あ、あれ!? え、えぇっと……も、申し訳ありませんアル様自爆します!?」

「それはやらなくていいから!?」

「……ふふ」

 

 ケラケラとムツキが笑い、それにハルカが慌て、つられて私も慌てて止める。冷静に止めるか眺めるかするカヨコとベルが居ないけど大体いつもの日常だ。

 そんな様子に、ある意味特等席で眺めるベレナは笑みを零した。

 

「こんな風にかつてのベルさん達もやり取りしていたかは分かりませんが……―――始まりますよ」

 

 そうして、静かに開幕が告げられる。

 騒いでいた私達は自然と静かになってソファに座り直し、全体像が見えるよう少し縮小されたホログラムのベル達へ視線を向けた。

 

『―――あんた達は、さっき柴関ラーメンにいたゲヘナの……!』

 

 一番に口を開いたのは黒見セリカ。

 口ぶりからして、おそらくこちらの私達のように柴関ラーメンのバイトをしていた時にベル達も入店し、食事をしたのだろう。

 ただ『恩知らず』という文言が無いから普通に1人1杯で食べれたようだけど。

 こ、こんなところでも……

 

『こんにちは、アビドス高等学校の皆さん。さっきぶりね』

 

 私が昔から財務管理で負けていることを記録という形で実感していると、私とそう変わらない声が聞こえた。

 聞く者を威圧することを心掛けた喉の使い方。そして敵意を隠さない慇懃な声音。

 さっきまでは食事を共にした知り合いだが、今はあなた達の敵である―――そう言外に告げていた。

 

『"えっと、あの子達は……"』

『あ~……丁度話してたゲヘナの子達だよ。カタカタヘルメット団のお掃除で来てたんだって』*4

『"え? カタカタヘルメット団って、セリカ救出時に倒した筈……"』

『いや~どうやらそれを知らない市民の人が依頼出したらしくてさ? 夜に仕事して、朝寝て、遅めの朝兼お昼ご飯で柴関に来てたんだって。いやー地元なのにウチ以外を頼られたってちょっと不甲斐ない話だよねぇ。頑張らないとだ~』*5

 

 ぽりぽりと緩い雰囲気で言いながらピンクの長髪の少女―――アビドス最強らしい小鳥遊ホシノが前に出る。

 肩から掛けた折り畳みの盾をいつでも展開し、後輩や先生達を守れるようにしながら。

 その隣に、ベルの世界の砂狼シロコが立った。

 

『ん。こんにちは。何の用?』

『ええ、こんにちは。用事は単純。校舎を明け渡してもらう、それだけよ』

『それはダメ』

 

 端的な問いに、悠然と"私(ベル)"が応じる。

 その答えを薄々察していたらしいシロコが迷いなく愛銃の白いアサルトライフルを突き付けた。

 それを見て"ハルカ"が咄嗟に動こうとするが、"私"はそれを片手で前に出ないよう制する形で止めた。

 今度からああやってハルカを止めようか、とちょっと考えるくらい様になってる……!

 

『仕事、カタカタヘルメット団の掃除じゃなかったんだね』

『あら。私、嘘は吐かないわよ? 掃除は本当。ただ追加で仕事が来たから受けた、それが今』

『もう! 学生なら、もっと健全なアルバイトがあるでしょう? それなのにそんな仕事を受けるなんて!』

 

 ぷりぷりとオノマトペが聞こえてきそうな怒ってるというより窘める風な言葉を、マシンガン(ガトリング)を持つ十六夜ノノミが告げる。それは私にも覚えがある言葉そのものだった。

 ああ、世界が変わっても同じなんだな、と実感する。

 

『―――ふふ、あっはは!』

 

 それは、"私"の笑声で搔き消えたけれど。

 

『な、なにがおかしいのよ!』

『アルバイト? こんな学校を襲う事に、アルバイトが食い付くとでも? 普通なら大金積まれたって砂漠だらけのアビドスくんだりまで来ないわ!』

『は、はぁ!? な、なんでよ!?』

『いや普通に環境劣悪でしょうここ。不定期な砂嵐、沈みゆく住宅街、人は減るわ土(・)地(・)は(・)よ(・)く(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)状(・)態(・)だわ遭難の危険もあるわ、足を運ぶポジティブな理由なんて柴関ラーメンくらいだもの』

『それは……! ん、ぐぅ……!』

『セリカちゃ~ん。おじさん、そこで詰まられると泣いちゃうよ~』

 

 多分素だろう"私"の辛辣な言葉にセリカが唸る。柴大将のラーメンを褒められて少しによによしているが、それでも所属校のアビドスを貶された怒りもあって、なんとも複雑そうな面持ちだ。

 それにホシノがよよよ、と肩を落としながら緩い表情で合いの手を入れる。

 

『"でも、君たちは来た。ただのアルバイトじゃないって事だよね"』

 

 その様子を苦笑しながら眺めていた先生が、そこで表情を改めて問いを投げた。

 それで緩くなっていた雰囲気がピンと張り詰める。衝突は避けられないという予感。だからこそ、今の内に聞けることを聞いておこうという思惑がその言葉には含まれている。

 それを察しているだろう"私"がふ、と笑みを深めた。

 

『その通り。改めて名乗りましょう。私達は『便利屋68』。ハードボイルドなアウトローを目指し、金さえ払われればなんでもやる―――何でも屋よッ!』

 

 その宣言と共に"私"は腰を落としてシロコからの照準から外れつつ、携えていた長銃を瞬時に突き出した。ドンッ! と聞き慣れた重い音が響く。

 その弾丸は最前にいたホシノに飛翔。ほぼ反射で掲げただろう折り畳んだ状態の盾にガンッ、と当たった直後、ドカンッ! と大爆発を起こした。

 私も持っているとっておきの爆発弾。それを初手で使っていた。

 

『仕事を始める! 総員、攻撃開始!!!』

『『『了解!』』』

 

 爆発で起きた砂塵と砂煙でアビドス側の視界が不良になったその時、そうして戦端が開かれた。

 ただ―――

 

「……傭兵は雇ってないのね?」

 

 『総員』というワードでふと気付いた事。ここまで"私"のことばかり気にしていたから気付かなかったが、そういえば目の前で再現されているホログラムの彼女達は総勢4人だ。

 私は傭兵を雇っていたのだけど彼女は雇わなかったらしい。

 

「倒しちゃマズいから、とか……? いえ、ですがベル様は先生の指揮能力を知っている筈ですし……」

「そもそもアルちゃんがあんなに傭兵雇ったのはアビドスにビビッてたからじゃなかったっけ?」

「そ、そんなことないわよ! あらゆるリソースを総動員して臨むモットーのためだったでしょ!」

「あれ、そうだっけ?」

「そうだったわよ!」

 

 ケラケラと思い出しながらムツキが笑う。

 その間に、ホログラムの便利屋3人が一気に距離を詰めていっていた。

 

『ゴメンねー、今のアルちゃんはいわゆるガチモードな"社長モード"に入っててさ? めちゃくちゃやる気出してるから私達も加減できないんだよねー』

『そういうこと。怨みは無いけど、仕事だから諦めて』

『死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください!!!』

『うへ、いきなりご挨拶―――おわぁ!?』

『体は硬くても銃はそうじゃないでしょう? ほら、壊してあげるから存分に構えなさいな!』

『こ、こんの~……!』

 

 迫る3人を前に前衛のホシノが構えようとした瞬間、遮蔽に隠れた"私"からの狙撃が銃身を弾いた。手から弾き飛ばすには至らないが、それでもライフル弾を何発も受ければ銃も無事では済まないだろう。

 ホシノは銃を喪っても十二分に戦える能力があるけど、あるとないとではリーチに大きな差がある。

 なにより―――当時のホシノは、後輩達に本気を見せていなかった。

 理由は知らないが、少なくとも全力では戦わない。勿論後輩がピンチに陥れば出さざるを得なくて出すだろうが、銃破壊という自身のそれを受けて出すかで言えば可能性は低い。

 色々知った私がそう考える以上、より多くを知っていただろう"彼女"はよりそう思っていた筈だ。

 力や頑丈さでは敵わない。なら狙うなら抗う術。おそらくそんなところ。

 全員の銃を壊したらホシノは本気を出すだろうし、そもそも未来を知ってる以上本当に壊すとも思えないので、一射目は壊れても問題無いホシノを選んだのだとは思うが。

 

 しかし脅しとしてそれは効果てきめんで、校門前で立ちはだかっていたアビドス勢が揃って校庭に積み上げた遮蔽まで下がり、身を隠した。

 自ら防衛線を引き下げた形だ。

 

『隠れても無駄だよー? そーれ♪』

 

 そこに、ムツキが大型バッグに詰めていた手榴弾をポイポイ投げていく。曲線を描いて宙を落ちていくそれが、遮蔽の向こう側に落ちてどんどん爆発する。

 

『前進します!』

『ついでに社長の射線が通るように遮蔽も真ん中のは壊そう。圧も掛けられる』

『は、はい!』

 

 慌てて身を隠す遮蔽を変えるアビドス勢を追うようにハルカを先頭にカヨコ、ムツキが続き、遮蔽を一つずつ爆破で壊していく。

 それに応じてムツキも進み、最後尾の"私"も正門脇まで進んだ。

 

 その光景に私達はちょっと言葉を喪った。

 情報は力とは言うけど、『知ってる』だけでたった4人でもあんな攻略ができるなんて……

 

「えー……まだ先生の指揮無さそうだけど、いま結構一方的だね……」

「ここから逆転する策ってどんなのなのかしら……」

「べ、ベル様が負けると考えると見たくないような、でも先生の指揮と考えると見たいような……あばばばばばば」

「おお、こんな形でもハルカちゃんってあっぷあっぷしちゃうんだね」

「帰って来なさいハルカ!? いまベルの初陣のハイライトよ!?」

 

 眼がぐるんぐるんし始めたハルカを落ち着かせながら、私達はベルの『便利屋68』の戦いの記録を見ていった。

 

 

 


 

 

 

・ベレナ

ベルのシッテムの箱のサポートAI

箱舟管理も任されており、現在は様々な事情から身を寄せるアル達の不自由ない環境を用意するサポートのために留守を任された

ベルの過去を流し始めたのはアル達が全ての事情を知っていること、ベルのことや自身の"先生"のことをよく知ってほしいから

 

・陸八魔アル

便利屋68の社長

『知識』というアドバンテージによるスタートダッシュの差から、当時迷走していた頃の自分と比べて色んなところでダメージを受けている(尚最終的に巻き返している)

『陸八魔アル』を演じるベルを見て「私のイメージあんな感じなのね……!」とちょっと喜んでいる節もある

 

・浅黄ムツキ

便利屋68の室長兼幼馴染

『知識』による差がよく表れてるな~と思いながら見ている

多分演技している時のことを『社長モード』と表現しているんだなと察して、始まる前からバレてることに根っこは変わらないんだなぁと思っている

 

・伊草ハルカ

便利屋68の平社員

『銃破壊』というアルが取らない手段で圧を掛けて戦線を押し上げている手腕に感動

ここから巻き返す先生の指揮の凄さは見たいけどベル様の作戦が失敗するのは見たくない気持ちの二つで揺れている

肩書きを名乗るフェーズが無くて少し首も傾げている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・『陸八魔アル』

かつてのベルの姿

『便利屋68』として先生と関わる初回として気合い?が入ったムツキ命名『社長モード』の状態

デコレーションしたり、持っていなければ全裸より稀少扱いされる銃の破壊で圧を掛ける作戦で無理矢理ホシノを遮蔽まで押し下げ、アビドスに不利な盤面を強いている

傭兵を呼んでいないのは不確定要素と結果的に金の無駄になるため

『再現』同様、この初戦も負けることを前提にしつつ悟られないよう動いている

 

 

*1:
ムツキは144cm、アロナは138cm

プラナは公式プロフィール不明だがアロナと似た存在であることからほぼ同じとされる。ベレナもこちら

本作では3人揃って138cmとする

*2:
アル160cm、カヨコとハルカ157cm

*3:
原作165cm生徒はコノカ、トモエ、トキ、シロコ*テラー、ウミカ、ウイ、アコ、フィーナ

*4:
便利屋が柴関ラーメンに来店した際、アニメでは明確に先生はいない

アプリでは選択肢表示が無いが先生に向けたセリフも無い。場面が柴関ラーメンに移る直前のバスジャック、銀行強盗、アイドルからどれがいいか選ぶかに対してアヤネがキレる定例会議には居る

アル達が先生に反応している様子は無いのでおそらく居ないが確証は無い

*5:
時間経過はおおよそ以下の流れ

①セリカ誘拐(夜)

②セリカ救出(翌朝)。その日は活動お休み

 同日昼~夜にカイザーPMC理事が便利屋にカタカタヘルメット団始末の依頼

 同日夜~深夜に便利屋がカタカタヘルメット団処理

③定例会議(翌朝)。昼に柴関ラーメンへ

 柴関に便利屋来店(昼)

⑤アビドス襲撃(同日昼~夕方)




 
 
 
ここから少しの間、ベレナが知る過去編です
ベレナが知る=先生がいる場所で分かる範囲に限られます
全てを細かく描写するとは限らないのでご容赦ください……

そしてベル視点じゃないのは、第三者からの俯瞰・観戦視点の方が書きやすいからです(連合作戦演習然り、最終編再現の並行世界先生然り、ワカモ襲撃時カヨコ然り)
長々と重くしちゃう手癖を封印するためでもあります
どうかゆるして……

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