陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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『陸八魔アル』の反響

 

 

 

「今日の動き方だけど、昨夜も言ったように一昨日昨日と二日連続で戦った上に砂漠越えもしてるからね。今日は一日フリーよ。みんな自由にしてちょうだい」

 

「それはいいけど、社長はどうするのさ」

 

「私はブラックマーケットに行って"次の作戦"で呼ぶ戦力を見繕ってくるわ」

 

「傭兵を雇われるのですか……?」

 

「まあそうね。といっても今日は相場と見比べての資金周りの計算をするだけだから、付いてくる必要は無いわ。相談はここに戻って紙と睨めっこしながらにするから」

 

「……了解。じゃあ私は新録されたCDでも買いに行ってくる。ついでに食料もね」

 

「ええ、頼んだわ」

 

「では私は、カヨコ課長に付いていって荷物持ちをします」

 

「お願いね」

 

「じゃ~私は散歩でもしよっかな。アビドスって砂だらけで暑いから出たくないけど、土地勘無いから覚えておきたいし」

 

「分かった。みんな、遭難しないようくれぐれも注意しなさいね。あと水とお弁当を忘れないように」

 

「はーい、お母さん♪」

 

「了解、母さん」

 

「分かりました、お母様」

 

「あなた達ってびっくりするくらい息ぴったりの時あるわよね」

 

「そりゃあ―――"アルちゃん"の社員だからね」

 

「どういう意味よ。まったく……」

 

 

 


 

 

 

 短くも濃いベルと先生の初めての邂逅となるアビドス襲撃を見た後のこと。

 少しの小休止を挟んでから、私、ムツキ、ハルカの三人で再び過去の記録をホログラムでベレナに見せてもらっていた。

 アビドスの一件は『便利屋68』、もとい私にとっては大きな転機。

 その辺りは一通り知っておきたかった。きっとベルにとってもあの頃は『知識』に関わる大きな事態だっただろうから。

 しかし―――いざ映し出されたシーンには、"私"は映っていなかった。

 ホログラムでアビドスの市街地を歩く先生、奥空アヤネに絡むムツキの姿。

 

「あーこれ翌朝のあの時の」

 

 翌朝。

 つまりアビドスを襲撃し、私は雇った傭兵達が定時上がりしたことを契機に戦略的撤退を図った日の翌朝、まだお互い敵同士だった頃にムツキは先生達と個人的に会っていたらしい。*1

 

「心当たりがあるのね、ムツキ室長……?」

「くふっ。バレちゃった♪ ごめんごめん」

「まったくもう……」

 

 それを役職呼びで咎めるも、こちらのムツキは意にも介さず笑ってからホログラムに目を向ける。

 まあもう今更か、とため息を吐いてから私も同じように目を向けた。

 

『あっ、先生じゃん! おっはよー!』

『な、あ、あなたは……浅黄ムツキさん!?』

『ん? 名乗った覚えは……ああ、調べたんだ? くふふっ、偉いねぇメガネっ娘ちゃん!』

『お、奥空アヤネです! 馴れ馴れしくしないで下さい! どういうつもりですか!? まさか先生を拉致するつもりじゃ……!』

 

 あちらのムツキがケラケラ笑いながら先生達に絡む。絡まれているアヤネは肩を怒らせながら先生を庇うように前に立ち、ムツキを睨む。

 温度感のある対立に、こちらのムツキは懐かしむような顔で黙って笑っていた。

 

『拉致? あー、それは無いよ。アルちゃんそういうの一般人(カタギ)にやるの大嫌いだから』

『嫌い……? 学校を襲うなんて事をしでかすのにですか?』

『それもねー、ぶっちゃけアルちゃん乗り気じゃないっぽいんだよね』

『は……はぁ!?』

『"でも、"社長モード"だっけ? 君は昨日、ガチモードをそう言ってたような……"』

『たしかに言ったけど、ガチの方向性が違うんだよねぇ……』

 

 先生とアヤネの疑問に、ムツキがへらりと笑う。その笑みや気安く見えたけど、それまで浮かべてた親しみを感じさせるものとはまた違っていた。

 なにか触れるとマズいような、そんな笑み。

 

 ―――『知識』のことだな、と私はすぐに察した。

 

 本気で打ち込んでいるものは仕事ではなく、奇跡の未来へ繋がるよう『知識』をなぞらえ逸脱しない動き方。『便利屋68』を率い、奇跡へ貢献する者―――『社長』としての在り方。

 おそらくはそれなのだと。

 あちらのムツキはその事をまだ知らない。それを知ったのは絶望の末に反転した砂狼シロコと戦う直前のことだ。

 それでも、気付いていたのだろう。

 幼い頃より会っていて、それがデフォルトに見える筈なのに見ているものや先が違うことを、あのムツキは。

 

『もしアルちゃんが全力だったら……そうだねぇ。あの爆発弾はカッチカチのピンク髪ちゃんじゃなくて他の子に使ってただろうし、銃を弾くのも爆発弾だったと思うよ。それでピンク髪ちゃん以外はノックアウトできたね。そのピンク髪ちゃんも―――まあやり方は私もびっくりしたけど、アレで目を回してたから縛り上げられただろうし』

『あ、あれで全力ではなかったんですか!?』

『威力偵察って言ってたじゃん』

『"た、たしかに言ってたね……"』

『ですが乗り気でないにしては、去り際含めて色々本気だったように見えますが……』

『くふふっ。実はアルちゃん、元気にぶん回して投げてたけどピンク髪ちゃんの一撃であの後グロッキーになってたんだよね。物凄いやせ我慢してたっぽいよ』

『えぇ……』

『"……思い返すと確かに脂汗を掻いてた気がしなくもないかな"』

『あそこから続けてたら途中でダウンしてたかもね? まああと、最初からピンク髪ちゃんを物凄く警戒してたからねぇ。あの子、最上級生とは聞いたけど過去になにかあったの?』

『それは……―――いえ、知っていたとしてもあなた達に教える義理はありません!』

『あはっ! それは『自分は知りません』って白状してるようなもんだよ? 素直だねぇ。悪い大人に丸め込まれそうで心配だな~』

『なっ……! せ、先生、助けて下さい!』

 

 メガネっ娘もといアヤネのことをいたく気に入ったのか、ムツキはさっき見せた一線を引くようなものとは打って変わった快活な笑顔で抱き着きに行く。抱き着かれたアヤネは眼を白黒させながら先生に助けを求めるように顔を向けた。

 先生はと言えば、まあやり合いはしたけどムツキも生徒の一人と思っているからか、とりあえず撃ち合いになってないならと手を出すことは無く苦笑で見守っていた。

 

『助けてって、まるで襲ってるみたいじゃん。ひどい言い草だな~』

 

 そんな先生に、アヤネに抱き着いたまま首を巡らせてムツキが先生を見る。

 

『それにシャーレの先生は、あんたたちだけのモンじゃないでしょ? だよね、先生?』

『"ケンカはしないでくれると嬉しいかな"』

 

 定型文だろうけど、でもきっと本心だろう先生のその言葉に、ムツキはにんまりと笑みを浮かべながらアヤネから離れた。

 

『それは先生次第かも? アルちゃん、すっごい注目してるみたいだからね。シャーレってまだ大して知名度無いみたいなのにアルちゃんに知られてるって結構凄い事だよ?』

『……先生、どこかでアルさんにお会いしたことが?』

『"いや、無いよ。今まで会った生徒は皆覚えてるけど、アルは覚えが無い"』

『無くて当然だと思うよー。たしか、先生ってワカモとやり合ってたんだよね? それを遠くから見たから指揮の凄さとか知ってたらしいよ』

『"見られてたんだ……というか現場にいたんだね……"』

『なぜそこにアルさんは……?』

『今日もそうだけどアルちゃんよく一人で出歩くからねぇ。情報収集とか、仕事現場の下見とかで。あの頃D.U.周りで仕事をよくやってたから多分その時に見たんじゃないかな?』

『"D.U.でも仕事をしてるんだね"』

『というかゲヘナ以外なら割とどこにでも行くよ。先生同様こんな砂漠の先のアビドスまで来るくらいにはフットワーク軽いから、先生も必要になったら是非頼ってね?』

『"営業ってことかな?"』

『そういう側面もあるかもね?』

 

 ふふ、と冗談めかして笑う先生に、くふ、とムツキも同じく冗談めかして笑う。

 そんな二人の間に割って入り、先生を庇うように再度立ちはだかったアヤネが肩を怒らせながら声を上げた。

 

『先生は! 現在は対策委員会に協力して頂いてるんです! 私達の敵であるあなた達に協力はしません!』

『だからー、シャーレの先生はあんたたちだけのモンじゃないでしょー?』

『"ふ、二人とも、落ち着いて……"』

 

 そんな二人に立場上で板挟みされる先生は平和を願うばかり。

 生徒みんなの味方を標榜するからこその苦しみだろうけど、どことなく楽しそうにも見えた。

 

『まあそれに、先生のことを気に入ったら今のクライアントから乗り換える……なんてことも、あるかもだし? 敵じゃなくなれば問題ないよね?』

『そ、そんな不誠実な真似をするのですかあなた達は!?』

『クライアントは絶対(カミサマ)じゃないからねー。契約内容を破ったり騙してきた相手は勿論、ウチのポリシー? 信条? モットー? とかを無碍にする相手ならまあ裏切るよ?』

『平然と裏切るような人達を信用なんて出来ません! ましてや、アビドスを襲ってきた人達なんて!』

『あははっ! この界隈だとむしろ自衛なんだけど……これはしたり、どっぷり浸かり過ぎちゃって忘れてたよ』

 

 あくまで常識的な観点から糾弾するアヤネに、あちらのムツキは自嘲するような言葉を吐きながらにんまりと笑みを浮かべた。正しいことを真っ直ぐ言える姿に好感を覚えているような、そんな笑み。

 こちらのムツキも、似たような笑みでアヤネを見つめていた。

 彼女もこちらで似たような会話をしたのか。それともまったく違う会話だけど、でもアヤネに抱いてた好感は同じなのか。

 気になったけれど、敢えて問う事はせずそのままホログラムへ意識を戻す。

 その後は便利屋へ遊びに来る誘いを先生に掛け、またアヤネに怒られつつもにこやかに挨拶を残して去っていくムツキの姿を最後に一旦ホログラムは終わった。

 

「やっぱり、結構違うね」

 

 終わるとほぼ同時、それまで笑みを浮かべて眺めていたムツキがぽつりと呟いた。

 それを聞いたハルカが首を傾げながら口を開く。

 

「違う、とは……どういうことでしょう」

「私、あそこまでアルちゃんのこと話してないんだよね。普通にアヤネちゃんや先生の方に意識向いてたから」

「つまりあのムツキ室長は、アル様……ベル様の方に意識が向いていた……?」

「まー色々気にはしてたんだろうね。予想は出来るけど……今はいいかな」

 

 ほんの少し陰のある面持ちをしたムツキは、すぐにふっと緊張を解くように笑い、ソファに座り込んだ。話す気は無いという事らしい。

 私としても無理に聞くことは憚られたので追及はしなかった。

 ハルカも、私とムツキの言外の意思を感じ取ったのか口を噤む。

 そんな私達を見回したベレナが、静かに口を開いた。

 

「次は、ブラックマーケットでの銀行強盗になります」

「ああ、覆面水着団。アルちゃんが目をキラッキラさせて憧れの~ってしたトコね」

「ぐぅっ……」

 

 ムツキの容赦の無い口撃に呻きが漏れる。

 憧れ自体はいいのだ。『目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く』というモットーに感銘を受けた事は事実だから。

 あの頃、お金が足りなくて融資を受けるために闇銀行へ行き、しかし6時間待たされても様々な理由によりお断りされ、顔色を窺わなければならない自身の姿が理想としていたものとかけ離れていた事に苛立っていた。金を奪うことも考え、しかしマーケットガードやブラックマーケットを敵に回しては……と躊躇う。その顔色や立ち振る舞いを考えることそのものに苛立っていた。

 私が望んでいたのは、何事にも恐れず、何者にも縛られない、ハードボイルドなアウトローだったから。

 そんな折、それらを物ともしない勢いで颯爽と現れ、初めてとは思えない手並みで強盗を働き、去って行ったのが『覆面水着団』。

 私はあの在り方に憧れを、そしてモットーに感銘を受けたのだ。

 

 まあ、その正体が当時敵対していたアビドス高等学校の生徒と知り、襲撃していた立場との感情の板挟みにあって色々とショックだったのだが。

 そのショックを引き摺り過ぎた結果、失言をしてしまい、ハルカの暴走とそれによる柴関ラーメンの店舗爆破を招いてしまった。

 それらも含めて私にとっては苦い思い出。

 その側面もあるのが『覆面水着団』なのだ。

 ―――そういえばあの紙袋を被ってた子、トリニティの制服だったけど未だに誰か知らないわね。物凄く今更だけど誰なんだろうあの子。いやまあ知られないための変装だから知れる訳が無いんだけど。

 

 そんな私の内心を知る由もないだろうベレナは、感情の薄い顔で話を続ける。

 

「当時、対策委員会の方々は便利屋の全力の襲撃を警戒していましたが、先のムツキさんとの会話でベルさんが一人で出歩いている事を聞いていたので、その隙にカタカタヘルメット団が使っていた違法武器の出処を探ることになりました」

「あー。あの子達、だからブラックマーケットに来てたんだ?」

「言われてみれば、先生達があの場に何故いたのか今まで知らなかったわね」

「そういう理由だったんですね……」

 

 つまり最初から銀行を襲うためにブラックマーケットに来ていた訳ではなかったらしい。

 

「……それはつまりアレは本当に突発的な計画だったという事よね? それなのによくもまああんな手際良くやれたわね……?」

「砂狼シロコさんが常日頃から銀行の警備周りを見て強盗の計画を立てることを趣味としていた事が上手く働いたようでした」

「狼ちゃんの趣味、それなんだ……?」

「ちなみに、ベレナ? シャーレに所属する時に書く趣味の欄もそれだったの?」

「趣味の項目にはジョギング、体力トレーニング、ロードバイク、と」*2

「流石に計画だけとはいえ書かないだけの理性があの子にもあったのね……」

「いえ、先生とホシノさんが止めていました」

「書こうとはしてたのね……」

 

 流石にね、と思ってたら案の定書こうとはしていたらしい。

 押しが強いあの子を止めた先生と小鳥遊ホシノの苦労がしのばれる。

 

「つまりアルちゃんが憧れた覆面水着団の根本はあの狼ちゃんのナチュラルアウトロー精神って事になるのかな?」

「そ、そうなるんでしょうか……?」

 

 話を聞くほど周りのこと、法すらも気にせず己を晒す自己表現の極致をいっている。そこはたしかに憧れた魔境を行くモットーに沿っているのかもしれない。

 

「でもなりふり構わずはちょっと格好良くないわ。ここ一番! という所で決めたいのよね」

「『ここは私達に任せて先へ行きなさい!』とかね。アルちゃんはカッコつけだからねぇ」

「わ、私はいいと思います! 格好いい姿のアル様を、もっと見たいです!」

「ふふ、ありがとうハルカ。でも今はベルの格好いい姿を見ましょう」

 

 私の姿を理想とし、ムツキ達を率いている当時のベルなら同じように格好いい姿も見せてくれるだろうと期待し、ベレナを見て先を促す。

 ムツキに抱きしめられているベレナはこくりと頷いた。

 

「では、銀行のところからになります」

 

 そう言った後、またすっと瞑目した。

 そして闇に再びホログラムが浮かぶ。思い浮かべるだけで高揚してしまうくらいに何度も記憶をリフレインさせたあの日の舞台、ブラックマーケットの闇銀行の内部だ。

 かつて私は融資の相談のために専用の受付に座っていて、そこに襲いに来た『覆面水着団』が現れ、頭を下げ受付の机の下に隠れていたのだが……

 

「……ベルが居るとこ、融資じゃなくて依頼関連の窓口ね?」

 

 ズラリと並ぶ窓口には、あまり数は多くは無いが依頼関連のやり取りをするための窓口もある。

 銀行とはいうが、そこはブラックマーケット。そこで口座を作った人向けに仕事の斡旋や依頼の仲介をする業務も担っており、それ用の窓口も作られている。

 ウチがそこを利用した事はないけれど、"私"はその席の一つに座っていた。

 

「ベルちゃんって資金繰りで困ったこと無さそうだし、融資受けないとってなってなかったんじゃない?」

「『知識』でこの後のことも知っているから、別の仕事を受けようとされている、とか……?」

 

 ムツキからは単にお金に困ってなかった可能性を、ハルカからはカイザーからのアビドス襲撃依頼を投げた後の仕事を見繕っている可能性が示唆された。

 そのどちらも間違ってはなさそうだ。

 

 まあ―――その真相は銀行強盗によって有耶無耶になってしまうのだけど。

 

 唐突な停電。間髪を入れずの銃声。

 非常電源によって明かりが点いた時にその場のエントランスホールに現れたのは、紙袋に5、色とりどりの覆面に1~4を書いたもので顔を隠した5人組。覆面水着団だった。

 

『全員その場に伏せなさい! 持っている武器は捨てて!』

『言うこと聞かないと、痛い目に遭いますよ~♧』

『あ、あはは……皆さん、ケガしちゃいけないので……伏せてくださいね……』

『うへ~無駄無駄ー。外部に通報される警備システムの電源は落としちゃったからねー』

『ほら、そこ!! 伏せてってば! 下手に動くとあの世行きだよ!?』

 

 まず警告、次に脅し。武器を持ったり警備を呼ぼうとした者達にはすかさず威嚇射撃で身動きを封じる。

 それから青色覆面の砂狼シロコが銀行員ロボットにバッグを渡し、ブツを要求。

 大混乱に陥った銀行員ロボットは命乞いと共に金も書類も手当たり次第に詰めていく。

 そうして数分足らずで彼女達は去って行った。

 

 ―――あーこれよこれ! 何度見ても最高!!!

 

 その姿を見た私の内心はテンションぶち上がりだ。

 ブラックマーケットの銀行を襲うなんて、少しでもブラックマーケットを知っていたら躊躇うのが普通。知らなくても大胆な計画を実行するその胆力は尋常ではない。

 しかし、彼女達は実行した。

 しかも聞けば状況的には突発的な犯行。それなのに改めて見ても手際の良さは凄まじく、超プロフェッショナルもかくや。まるでそのためだけに生まれてきたほどに自然体。

 あれこそまさに真のアウトロー! と私は心の中で涙出そうなくらい拍手喝采だ。

 今はもうアビドスの子達とも友人関係だから手放しに喜んで見てられるのもあって当時よりもテンションは上がってるかもしれない。

 いや嘘。やっぱり初見でのあのインパクトと感動に並ぶくらいだ。つまりやっぱり最高!!!

 

 

『[―――ま、マーケットガードを呼べ! 一人も逃がすな!]』

 

 

『……これは、話ができる状況じゃなさそうね』

『[も、申し訳ありません、お客様……こんな事態を起こす輩が出てくるとは……]』

『構わないわ。現行の相場資料は貰えたし、事務所に戻って色々検討するから。今日はどうもありがとうございました』

『[あ、はい。お気を付けて]』

 

 騒ぎの間、静かに経緯を見守っていた"私"は対応していた事務員ロボットに挨拶をし、受付から離れる。他の客と同様に銀行から立ち去るのを最後に、一旦ホログラムが終わった。

 次に映ったのは、見覚えのある歩道橋。私が彼女達から『覆面水着団』のチーム名やモットーを聞き出したところだった。

 

『仕方ないですよね。このバッグは、私が適当に処分します』

『ほい、頼んだよーノノミちゃん』

『―――待ってください! 何者かが、そちらに接近しています!』

 

 例の一億円が入ったバッグの処遇が決まったところだったらしい。そこで、通信越しにアヤネの警告が飛ぶ。

 追っ手のマーケットガードかと警戒と共に覆面を被り直し、その場にいた先生も急いで近くの街路樹に隠れた――こっちの先生もそこに居たのかしら――ところで駆け付けたのは、"私"だった。

 さっきの様子を見る限り別に『覆面水着団』に感動している様子は無かったけど一体……?

 そう私が疑問に思ったように、あちらのシロコも困惑を露わにしつつ警戒と共に銃を突き付けた。

 

『落ち着いてちょうだい。別にあなた達を捕まえようってわけじゃないわ』

『何であいつが……?』

『ホシノ先輩、どうする? 撃退する?』

『一人みたいだし戦う気も無さそうだけど、でも初手を取られるとちょっと……』

『お知り合いなんですか……?』

『まあ、そこそこねー』

『……えっと。急いでるでしょうし、用件を話してもいいかしら』

 

 小声で相談する面子を見て、時間も押してるだろうからとおずおずと"私"が切り出す。

 ひとまず本当に敵意は無いと見たらしいシロコ達は銃を下げた。

 

『……用件って、なに?』

『あなた達の事を知りたくてね』

『……どういう意味?』

『銀行を襲撃したところを見させてもらったわ。ブラックマーケットのある意味の心臓部、かの闇銀行をものの5分で攻略し、撤収……誰もが考えても実行には移さなかった恐るべき犯行をあなた達は見事にやり遂げた。ある種、感動すらしたのよ。その手並み、その実力、ただものじゃないとね』

『褒めても何も出ないよ』

『いやシ……ブルー、これで喜ばないでよ』

 

 "私"の賞賛に、応対をしていた2番青覆面のシロコがふんすと言葉とは裏腹に満足気な顔をした。それに4番赤覆面のセリカが呆れたように突っ込む。

 シロコという少女は本当に銀行強盗が楽しいんだなと分かると同時、なんであそこまで銀行強盗に執着しているのだろうかと気になった。まあ考えても答えが分かる訳も無いけど。

 

『それで、あなた達の組織名を知りたいの。あと、これを』

『ん……名刺?』

『ええ。出会いの記念兼お近付きの印にね。私は陸八魔アル。金さえ払ってもらえれば何でもやる何でも屋、『便利屋68』の社長をしているわ。今日は次(・)の(・)仕(・)事(・)を探してるところだったのだけど……』

『次の仕事? 今の仕事は?』

『ちょっ、先輩!? こいつ私達のこと気付いてないのにそんな前のめりで聞いたらバレるでしょ!』

『今のはちょっと迂闊だったかなぁシロコちゃん』

『ん……ごめん』

『……今の仕事は、まあ、色々あってね』

 

 食い気味なシロコの問いにセリカと1番ピンク覆面のホシノが責めるように言うが、それを気にせず、また聞こえていないかのように"私"は話を続けていた。

 滲んでいる苦笑は仕事の進捗の悪さの自嘲とも取れるけど、色々知って見ている私からすると、聞こえてないふりはするけど……という心情が現れての苦笑に見えた。

 

『それで、あなた達は?』

『ん……どうしよう?』

『今回だけのつもりだったからチーム名なんて考えてないわよっ!?』

『―――はいっ! 私達は、人呼んで……覆面水着団! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!』

『うへ~本来スクール水着に覆面が正装なんだけどね、今は昼だしちょっと緊急だったもんで覆面だけなんだー』

『なんか妙な設定を付け足してる……!?』

 

 "私"からの問いにシロコ、セリカが返答に困ったその時、3番緑覆面のノノミがすかさず声を上げ、それに乗るようにホシノも続いた。セリカは小声で先輩2人の悪ノリにドン引いていた。

 そっかぁ……私が目をキラキラさせてたの、即興の設定だったのね……

 まあ感銘を受けたのは所業の方だから水着がどうとかはどうでもいいのだけど……

 なんでだろう。ちょっとしょんぼりしてしまった。

 

『な、なるほど……』

 

 そして"私"は『知って』はいたのだろうけど実物を前にして、少し引いていた。

 その辺の感性も私とは違う……

 いや、先に知ってしまったからこその感動の無さなのか。ネタバレを踏んでサスペンス映画を見るようなものと考えれば、あんな感じに俯瞰的に一歩引いて見てしまうのも納得できる。

 私はあの時、目の前の覆面水着団を見て会話して色々聞けた事に感動していたけれど。

 彼女はそれを『知識』で知っていることを改めて聞いているだけ。即興の設定というのも知っていたら感動するものも出来ない。

 ―――彼女が感動した事ってあるのだろうか、とふと気になった。

 

『ん……ちょっと引かれてる?』

『いやまあ引くでしょこれは。私でも反応に困るもん』

『あ、あはは……』

『こういうことはノリと勢いが大事です! ホシノ先輩、締めをお願いします!』

『うへ……目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!!!』

『それじゃあこの辺で。アディオス~☆』

『行こう! 夕陽に向かって!』

『夕陽、まだですけど……』

 

 覆面水着団のモットー。それを最後に言い放った後、彼女達はそそくさと足早に立ち去って行った。

 その場に約一億もの大金が詰まったバッグを残して。

 そして、街路樹に隠れた先生を置いていって。

 

『……元気な子達ね。ねぇ、先生?』

『"うっ"』

 

 多くを既に知っているからこそ感動や一億という大金に揺らぐことは無く、冷静にバッグを手に取りながら"私"は、いつ移動しようか様子を窺っていた先生に視線も向けずサラリと声を掛けた。

 声を掛けられた大人は、ぎくりと動きを硬直させた。

 それからバツが悪そうに街路樹から姿を見せ、"私"に笑い掛ける。

 

『"バレてたんだね"』

『隠れ方が下手よ。というかあれで隠れる気あったのね』

『"うぐぅ"』

 

 

「それに関しては一億円の衝撃が無いベルの方が例外じゃないかしら……」

「先生が居たのは当時気付かなかったんだけど……」

「私も、先生には気付きませんでした」

 

 

『"えっと……彼女達のことは……"』

『覆面水着団でしょう? 言いそびれたけど、『そのモットー、魂に刻むわ』と伝えておいてもらえる?』

『"あ、うん……"』

 

 

「これ分かってて暈してるわよね……ベルなら『知識』無しでも気付いたのかしら……?」

「アルちゃん純粋な上にドはまりしちゃってたからねー。アウトローな所業に目が行き過ぎて全然細かくないトコも見逃しちゃうのホント見てて面白いよ」

「あの、そもそもベル様が『知識』を持たずに生まれていたら、それはアル様なのでは……?」

「……たしかに……」

「そのへん考え出すと混乱するね」

 

 

『それで、このバッグ置いて行ったけどどうするの?』

『"ホシノ達は要らないって言ってたから、処分する方向なんだ。置いておいて誰かに拾ってもらうのは……"』

『一応言っておくわね。これ、あの子達素手で触ったでしょ。指紋ベタベタな上に直近で銀行強盗が起きている以上拾った人によっては落とし物検査の一環で指紋検査が入る。そうなれば間違いなく素性に行きついてしょっ引かれるわよ』

『"うっ……そ、それは……"』

『アテがないなら私が拾っておくけど』

『"……それ、今の仕事のために使ったりしない?"』

『しないわ』

 

 先生の危惧を、ベルは否定した。

 私も純粋に気になった。『覆面水着団』に憧れていた私は、彼女達の落とし物である一億円を手に付けることをアウトローな生き様ではないと良しとはしなかった。

 それを『知識』で知っているからか。

 あるいはほかに別の理由があるのか。

 

『ほら、追ってこない先生を心配してあの子達が戻ってきたから、もう行きなさい。これはこっちで回収しておくから』

 

 その答えは明かされず、バッグを持った"私"は歩道橋を飛び降りて足早に去って行った。

 それを見届けた先生は、"私"が飛び降りたのを契機に覆面を脱いで離れたところから様子を見ていたホシノ達の下へ駆け寄った。

 

『先生、何を話してたの?』

『も、もしかして私達のことバレてた?』

『そもそもあの子は先生がいまウチにいる事を知ってるからねぇ……バレたんじゃないかなぁ』

『"どうだろうね。とりあえず、皆に伝言があるけど"』

『伝言ですか? 何でしょうか?』

『"『そのモットー、魂に刻むわ』だって。気に入ってたみたいだよ"』

『そ、そうなんですね……あはは……よ、よく分からないですけど、なんだか怖い方ですね……』

『まあ、昨日ウチに襲撃を仕掛けてきた子のトップだから、そりゃあ怖い子だよ。おじさん達、いいようにされちゃったしね』

『いいようにされたのはホシノ先輩だけだけどね!』

『うへぇ……』

 

 前日の襲撃後にも見たやり取り。それを最後に、覆面水着団との邂逅のホログラムは終わった。

 ふぅ、と再びソファに倒れ込む。

 そしてはぁ、と満足感たっぷりに息を吐いた。

 

「やっぱり覆面水着団のアウトローぶりは素晴らしいわ……」

「アルちゃん、また目をキラキラさせてるね」

「当然でしょ!!! あの何物をも恐れぬ様、何にも縛られない立ち振る舞い、あれこそ私の憧れのアウトロー像!!! 法の外にあっても信念を貫く姿なのよ!!!」

「声でかっ」

「正体ではなく、在り方に惹かれている慧眼、流石ですアル様……!」

 

 とにもかくにも覆面水着団の雄姿をもう一度、ホログラムという形で見られたのはとても良かった。

 あの生き様、あのモットーで己を貫く姿こそが理想なのだ。

 

「そういえば……ベルちゃんの世界だとあの一億円、どうなったんだろうね?」

 

 そこで、ムツキが素朴な疑問とばかりに声を上げた。目を向けると、ハルカが入れた冷えたお茶のコップで口を潤したムツキが口を開く。

 

「だってさ、ベルちゃんの世界の柴関ラーメンって爆破されてないでしょ? でも一億円はこっちと同じように持って行った。じゃあそれどこ行ったかって気になるじゃん?」

「確かに、そうですね……こちらは柴大将への寄付として持っていきましたけど……」

「……大将の店が爆破されないなら、無用だものね」

 

 昨日の夜、柴関ラーメンに行く道中で爆破していないと聞いた時は気付かなかったけど、たしかにどうなったんだろう、と首を傾げる。

 依頼に使ったのだろうか? まああり得なくはない。

 あるいはもしもの時のために置き続けてそのまま使わず終いになった可能性もある。

 

「その辺は、いずれ分かりますよ」

 

 そんな私達が抱いた疑問に、ベレナは薄く微笑みながらそう言った。

 どうやら分かるらしいので、私達は小休止を挟んでから続きを見ることにした。

 

 次に便利屋と先生が関わるのは―――対ヒナ抜き風紀委員会だ。

 

 

 


 

 

 

・『陸八魔アル』

『知識』で全てを知っている人

治安が悪化し始めてからはD.U.地区を中心に依頼を受け、ワカモの脱走や襲撃を察知できるよう備えていた*3。先生が来たのを確認したので以降は諸々に備え、満を持してアビドス入りを果たし、襲撃に至る

"次の作戦"をアビドス襲撃と受け取れる言い方をしているが、既にアビドスを再度襲撃する気は無く、またその理由を説明する要素がまだ未来のことなのでムツキ達にも黙っている

社員には自由行動を告げているが自分は仕事のために一人で行動

覆面水着団を追いかけてきたのはバッグ回収のため*4だが、モットー自体は本当に気に入って憧れてもいる

シロコにちょっと気に入られているので対応相手が固定化されつつあるが気付いていない

 

・陸八魔アル

アウトロー精神のファン

覆面水着団の所業そのものより、所業に基づく在り方や信念、モットーのファン。別世界のものとはいえそれを体現しているほぼ同一の強盗場面を見れて、ヒーローショーに連れて行ってもらった子供のように大興奮

その点から、『知識』の有無だけでなく知っている事による心境の差も大きそうだなと考えている

 

・浅黄ムツキ

メガネっ娘好き?の子

先生とアヤネと絡んだ時の自分より話題がアルばかりだなと感じ、先生に知ってもらいたいのかなと予想

アルの覆面水着団への反応を見て「アウトロー一途で他は全部ぶん投げていくアルちゃん最高だな」と再認識している

 

・伊草ハルカ

アル様ベル様ファン

『知識』の差があった上で『どちらも素晴らしいですね』で一貫してるのであんまり反応が無い

ただ彼方のムツキを見て少し寂しそうと感じている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・(故)ムツキ

『陸八魔アル』が選んだ一番目の社員

なにかが始まったんだな、という気配を察している

社員に黙って単独行動しがちなアルのことが気掛かり。でも探られてほしくなさそうなので黙って待っている

―――出会ってから約10年、そうしてずっと待ち続けていた

 

 

*1:
アニメだとこのシーンはカットされているが、本来ここでアヤネによって便利屋がゲヘナ学園の生徒だと先生は知らされる

*2:
公式設定の趣味

*3:
先生が来るか否かの最初のお祈りポイント

*4:
『アル』が追い掛けなければ順当にノノミが捨てていただろうが、万が一変な捨て方をしたらマズいので『知識』にある程度沿う形に収まるよう動いた




 
 
 
アビドス編回想はあと2話で終わる予定です
長引くか短くなったらごめんなさい……(長引いた前科)
予定は未定とは正にこのこと……

それと、お気に入り6000超えて6100届いてたことのお礼を書こう書こうでも雰囲気がとかしてたら忘れてました() すみません
ありがとうございます
あとしおりとここすきと感想と評価もありがとうございます。本当に嬉しいです
日間ランキング一桁に上がってたり30位くらいにあったりと地味にちょくちょくランクインしてるの見て喜んでます。大抵気付くのは「なんかお気に入りの増え方大きいな」と気付いた時です
ん、嬉しくて書いちゃう(実質毎日約1万文字投稿)

それといつも誤字報告や表現などの誤用指摘すみません……
いつも助かってます
ありがとうございます

今後も気長にお付き合いくだされば幸いです

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