陸八魔アルに転生しました   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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更に一晩明けたらお気に入り3000件突破してる……ざっくり1000件増えてる……
評価☆10が10件、星9が200件超え……いっぱい……
しおりも気付けば4桁……
午前中日間ランキング1位……というか一桁にずっといる……
うれしいけどこわい!
こわいけどうれしい!
ん、モチベがモリモリ湧いた。書いちゃう。書いた

皆さまが見て下さってるので楽しく書けています
本当にありがとうございます

今話もシロコ*テラー視点です
ベルの話がありますが、1~4話までは先生・便利屋という身内向けであるのに対し、今話はシロコ*テラーという外部向けで伝えている内容に若干差があります
今後の先生、便利屋以外に話すシーンを短縮するためもかねて今話で尺を取っています
ご了承ください

今回、誠に勝手ながら感想欄で気に入った内容を一部使わせて頂きました
ありがとうございました




嚮導者の世界(ジャンル)適応障害

 

 

「―――ああ、そうそう。先生、戦闘に関して話しておく事があるわ」

 

 ヴァルキューレの応援要請があった地点まで向かう道中、思い出したようにベルが話を切り出した。何だろうと気になって私も耳をそばだてる。

 

「私は生身の人間に攻撃できないから代わりに相手の武器やメカ類を狙うわ。それ前提で作戦を立ててほしいの」

"それは構わないけど……どうしてかは聞いてもいいかい?"

「私が『色彩の嚮導者』だからよ」

 

 ベルの返答に、先生や便利屋のみんなは首を傾げる。

 どうやら便利屋も彼女から聞いていないし、シャーレに来るまで戦闘もなく平和だったようだ。意味合いを理解できていないように見える。

 

 だが―――私には、分かった。

 

 短期間とはいえ私も一度は嚮導者という傀儡になった。

 神秘。恐怖。

 それらとは異なる概念―――色彩。

 どれも全ては理解していないけれど、それらの力が戦闘においてどんな結果をもたらすかは実際に経験している。

 ただ、私も理解はイマイチだ。人に説明して納得を得られるかは分からない。

 感覚的な意見と結果しか述べられない以上、あまり役立てそうにはない。

 

"えっと……? シロコは普通に攻撃できるけど、彼女とは違うの?"

「ん……? ―――ああ、なるほど。シロコ、あなた話してないのね?」

 

 そこで、私に話の矛先が向いた。

 さっきの事もあり少しバツが悪い私は目を逸らした。

 はぁ、とため息を吐かれる。拾われたばかりの頃、黙っていた悪い事がバレた時のホシノ先輩の反応が脳裏に浮かんだ。

 

「ベルちゃん、色彩に触れたら反転する訳だし、反転してる生徒と嚮導者って結局同じなんじゃないの?」

「それだとシロコもいま嚮導者という扱いになるじゃない。とはいえなった事がないなら分かる訳無いわよね……うーん、何と言えば伝わるかしら……?」

 

 再度背中に乗っかっていたムツキに応じたベルは、歩きながら沈思を挟んだ。

 少しの後、やや俯いていた顔が上がる。

 

「そうね。将棋を思い浮かべてちょうだい」

"将棋……?"

「そう。『ボードゲーム』というジャンルが『キヴォトス』、『将棋』という枠組が『学園都市』。盤面が戦場、駒が生徒、指す人が先生や指揮官。表のままの駒はハルカ達普通の生徒で、成って裏返ったのがシロコのような反転生徒」

 

 つらつらとベルが例を並べ立てる。

 言われて考えて、何となく分かった気がした。

 反転した生徒は強力だ。将棋に於いては、成り駒にあたる。

 また色彩に触れて反転した者は元には戻らないのも成り駒のそれ。成るか否か選べる点は違うが、成った後に限定すれば同じだ。

 その場合、ホシノ先輩の半端な反転が議論の余地ありになるが……

 まああくまで例えだ、理解が促されれば問題無いだろう。

 実際当事者にして経験者の私がそれで理解していってる訳だし。

 

 ―――……ん、未経験者には伝わるのかなこれ。

 

 ちら、と横目で便利屋や先生達を見る。それぞれがふむ、とベルの例えの意味を咀嚼するように頷いていた。

 大体伝わってるらしい。

 共に赤い空を乗り越えているから既知の概念なのもあるだろう。

 

「なら、色彩と『色彩の嚮導者』のベルはどういうポジションなの?」

 

 そこで、気になっていた事をカヨコが聞いた。

 私はそれに対する答えが即座に脳裏に浮かんでいた。思わず顔を顰めてしまう。嫌な奴を思い出した。

 

「チートとチーターよ」

「……ん」

"……なるほどね"

 

 私やアビドスに関しての因縁の相手(GM気取り)を思い出させるには十分な文言だ。

 予想通りの言葉が出てきて、思う所があるらしい先生も神妙な様子で一つ頷いていた。

 

「神秘と恐怖は駒やコインと同様に表裏揃って一個として意味がある。駒が成っても強くなるだけでゲームは崩壊しないでしょう? むしろそれが前提とされている以上、たとえ反転しても問題無いわ。キヴォトスに於いてもそれは同じ。(生徒)としているなら、と但し書きが付くけれど」

 

 そう言いながら、ベルが私を見る。

 実際にテラーとなり、この世界に来て『生徒』として居着いた私こそがその実例だと言外に示す視線だった。

 ―――それが、ふっ、と伏せられる。

 

「けど、色彩は違う。条件を満たしていないのに駒を成らせる埒外の概念。それは因果を無視し、蓋然性を無へと帰し、世界をも壊す最悪な存在」

 

 それは―――

 それは、まるで。

 

「地下生活者……」

 

 私の先生を瀕死に陥らせ、ホシノ先輩を狂わせた元凶のようで。

 そして、"先生"が嚮導者に成り代わるまで破壊を齎していた、私の事のようで。

 ズキリと胸が疼き、思わず手を胸に当てた。

 

「そうね。人を惑わす地下生活者も嚮導者を傀儡とする無名の司祭も、内側にありながら『色彩の嚮導者』と同様の世界(キヴォトス)の敵よ」

 

 私が想起した存在の名を、彼女は肯定する。

 無名の司祭―――おそらく、私が色彩に触れた時に現れ、私を操っていた白仮面の者達の存在も示唆した。

 同時に己もそれらと同等の存在だと。

 当然、ただ世界の敵として同じカテゴリだと言っている訳ではない。彼女の言葉には何かを唾棄するような含みがあった。

 

 ……私は、それを否定せず沈黙のまま続きを待った。

 "先生"は、私は悪くないと言ってくれたけれど……

 私は色彩で成った駒だったが、意思があり、自由もあった。

 少なくとも―――傀儡ではなくなった身でありながら、嚮導者("先生")と共にこのキヴォトスを滅ぼそうとしていた私には、何も言えない。

 抗う意思も希望も無かったから流されていた事は、何の免罪符にもなりはしない。

 

「『色彩』は世界(ジャンル)の破壊者。嚮導者はそれを齎す者。だからあくまで世界(キヴォトス)のルールに従う存在にこの力は危険なのよ……銃弾を弾く生徒はおろか、先生のバリアだって容易に穿てるのだから」

「何ですって?」

「マジで……?」

「そう、なんですか……?」

「……実際、どうなの?」

 

 アルを始め、便利屋から唖然とした声が上がった。どうやら聞かされていなかったらしい。

 昨日会ったばかりというのは本当なのか、各々がベルに、そしてかつて同じ立場にあった私を見てくる。

 ―――私はそれらの疑問に、小さく頷く。

 息を呑む音が複数上がるのを聞きながら、私は口を開いた。

 

「先生のバリアも、『色彩の嚮導者』なら破れる。私は色彩の力を宿した拳銃弾で"私の先生"のシッテムの箱を破壊した」

 

 その先の、『箱の持ち主を殺せ』という意思には抗った。

 しかしそこに行きつくまでは少なくない破壊と死の気配を振り撒いた。手段は問われなかったから相手への直接攻撃は避け、建造物の破壊で振り切るのをメインにしていたが……

 無力化のために手足を容易く撃ち抜いた瞬間は未だに記憶に焼き付いている。

 そしてベルはそれに頷いた。

 どうやらそちらの"私"も同じように動いていたらしい。*1

 

「だからまあ、さっきのシロコの対応は正しかったのよ。みんなも責めちゃダメよ」

「ベル様が、そう言うのでしたら……」

 

 ベルがそう諭すのを聞いて、彼女の右腕の袖を握りしめていたハルカが頷いた。彼女の据わった目は私にしっかり向けられている。

 さっきから無言だったのは私に対しての報復を思考していたからかもしれない。アルを妄信している彼女にとっては、別世界とはいえベルも同様の存在だから敵対者に対する出力が同じらしい。

 ベルが諫めてくれてなかったらヤバかったかも、と安堵の息を吐く。

 ……そういえば、まだ謝ってなかった事に気付く。

 一瞬で殺されそうになった動揺で忘れていた。

 

「その……さっきは、ごめん」

「謝らなくていいわよ。先生を殺させないための判断としては正しかったもの」

「ん……でも、ごめん」

「……もう。これじゃ堂々巡りね。はいはい、謝罪は受け取ったから、そんな捨てられた子犬みたいな顔やめなさい」

 

 昔、ホシノ先輩やノノミ、先生に謝る時のように謝罪を繰り返せば、苦笑を浮かべたベルにそう言われた。

 子犬か……私は狼なんだけど。

 なんだか舐められてる気がする。

 

「私、これでもよわシロコよりは成長してる」

「そう言ってる間はまだまだ子供(子犬)ね」

 

 私の抗議の言葉は微笑みと共に、にべもなく流された。

 余裕の表情だ。

 

「これが大人の余裕……!」

「高校中退の余裕なんて無いも同然よ」

 

 そして彼女の上司は、かつて覆面水着団を見た時のような憧れの眼を彼女に向けていた。それに気づいたベルは自嘲の笑みと共に受け流す。

 釈然としない。

 というか高校中退とはいったい。

 ベルって見た目大人だけど幾つなんだろう。

 

「ベルっていま何歳なの?」

「嚮導者になってから10年経って今は27よ」

「……私より10歳も上……」

 

 アッサリとした返答は、ちょっと予想の上だった。

 自分の前例からせいぜい20歳かと思っていたけど、彼女は10年以上も嚮導者として放浪の末にこの世界に来たらしい……

 

「年増……?」

「「「「"ぶっ!?!?!?"」」」」

 

 私が漏らした呟きに、先生と便利屋4人が噴き出した。

 何言ってんだこいつ!? と言わんばかりの眼を向けられる。

 ベルからは呆れの眼を向けられていた。

 あんまり効いてなさそう。

 

「酷過ぎる言い草ね……そりゃあ20代後半の私はあなたから見れば年増でしょうけど、一般的には30代後半から言われるのよそれ」*2

「ん、細かく弁解するのは年増の証。年八魔」

「ちょっとそれ私にも流れ弾来るんだけど!?」

「さっきは神妙に謝ってたけどさては負けた事と子供(子犬)扱いされた事を根に持ってるわね……?」

「そんなことはない」

 

 嘘。子犬扱いされたのはちょっと根に持ってる。

 負けた事に関しては本当に気にしていない。勝てるビジョンが浮かばないだけで挑戦しない理由にはならないし、気になっているのはむしろ彼女の内面の方だ。

 

"年齢イジリも名前イジリも本当に失礼だよ。シロコ、めっ"

「ん……ごめんなさい」

 

 ぺしょ、と耳を倒れさせながら頭を下げる。

 頭を上げた時に見えた彼女は呆れ顔のままだった。

 

「他の人に言ったら間違いなく銃撃戦待ったなしだから気を付けなさいね。名前イジリは親にも失礼だからやめなさい」

「そうよ! 今度言ったらあんたの顔に鉛玉ぶち込むから!」

「んーさっきも今も謝罪だけで許しちゃうのもどうかと思うなー。喉元過ぎればとも言うけど熱さ自体無くなーい?」

「ベル様を年増と言うなんて許せない許せない許せない許せない許せない殺しますか殺しましょう殺します」

「うーん……まあ止める理由は無いかな……」

「分かりました殺します!!!!!!」

「いや落ち着きなさいあなた達。私は別に気にしてないし、こんな事で目くじら立てる方が面倒よ」

「ふぁああ!?」

 

 殺気立つ便利屋を諭し、今まさに暴走するところだったハルカをがっしりと捕まえ、撫でながらベルが心底面倒そうな顔で言った。

 さっきの言葉からずっとこの調子だ。

 

 ……"そっち"に深く浸かり過ぎて他がどうでもよくなってるのかもしれない。

 

 私よりもずっと早くその世界の自分がいる場所に馴染んでるけど、多分今の私のように踏ん切りがついた訳じゃない。私が垣間見たあの感情や嚮導者に関しての説明の事を考えれば、今もずっと、深い憎しみに囚われていると見るべきだ。

 10年も嚮導者を担い、支配を跳ね除け続けるほどの深い憎しみを。

 殺しを厭わない精神性を作り上げたものを。

 ……平然としているようで、日常にあっても揺らがない程に強固なものを。

 

「ん……動揺作戦は効果なし」

「あなたやっぱり根に持ってるでしょ」

「そんなことはない。ただ勝つためなら何でもするというだけのこと」

 

 ふんす、と意気込みながら応える。

 ―――もしも、彼女が操られたら、その時は……

 私が。

 

"根に持つと言えば、さっきのシロコの警戒ぶりはそういう事だったんだね"

 

 私を叱りつけた後、私達のやり取りを静かに見ていた先生が思い出したように話を振ってきた。

 助け舟だろうか。

 乗っかっておくとしよう。

 ベルには忘れるようお願いされたけど、これは先生から振った話だから私は悪くない。

 

「ん、そういうこと。『色彩の嚮導者』としての力は危険。そして操られてると思ったから……今更だけどなんでベルは操られてないの?」

「気合よ」

「えぇ……」

 

 気合で跳ねのけられたら苦労しない。みんなも胡乱な目でベルを見た。

 

 ……が、そこで私はある事を思い出した。

 それは思い出すのも辛いあの日の出来事。

 

 

 ―――やっぱり、私には出来ない。

 

 

 『シッテムの箱』に三発穴を開け、更に突きつけた銃で"先生"を殺そうとし―――銃口を下げた、あの瞬間。

 

「そういえば、私も『箱の持ち主を殺せ』という意思には抗えてた……私を託してくれた、嚮導者になった"先生"も……」

 

 あの時、私は確かに抗ったのだ。

 "先生"を殺したくない一心で。

 "みんな"を喪い、絶望した心が見出した、意識を取り戻した先生を前にして。

 ……その結果、"先生"が私から代わる形で嚮導者の座に就く事になったけど。

 思い返せばそれから私は手を汚していない。

 滅びは見たしその側に付いていたけど……

 ということは……

 

「えっ……まさか、本当に気合の問題……?」

「自我と自己をしっかり認識した上での感情は力になるのよ。あなたの先生の覚悟は私も尊敬するレベルだわ」

「……じゃあ、あなたはどうだったの?」

「私はムツキ達を死なせた哀しみとそのシロコを操っていた司祭への深い憎しみによる反転で支配から脱したわ」

「ん…………ん……?」

 

 怒涛の勢いで流れてきた情報に頭がパンクしそうだった。

 え、なに、このひとホシノ先輩と同じ反転を完全な形でやってるの……? 絶望して色彩に触れた反転からさらに哀しみと憎しみの反転で支配から脱したという事……?

 しかも聞いた限り、そっちの嚮導者の特性を持ってる状態の"私"を犠牲ありとはいえ倒してる……

 

「どうやって嚮導者の座を奪ったのかと思っていたけど……あなた、反転する前からそっちの私を倒せるくらい凄く強かったんだね」

 

 それならさっきの結果は妥当だったかもしれないと思った。どれくらい元々強かったのか気になるところ。

 ……しかし、その理解は少し間違っているようだった。

 

「私個人はそうでもないわ。あの子を討てたのは……私の世界のムツキ達が決死の覚悟で消耗させてくれてた事と、哀しみによる反転で差が縮まったお陰だもの」

「ん……!?」

 

 返された内容に頭が混乱した。

 もしかしてホシノ先輩のパターンは……

 

「哀しみと怒りの反転って、もしかしてそれぞれ別個……? 2回やってるの……?」

「そうね」

「ん―――」

 

 サラリと返されて、私は思わず額に手を当てた。

 つまり素の便利屋として"私"と戦い、3人が死亡。その哀しみで反転して戦い勝利。

 そこから色彩に触れて反転し、嚮導者に。

 支配されかけても、"私"を操っていた者達だからとムツキ達を殺した事への憎しみで……

 

 ―――彼女の身に何があったかようやく理解できた。

 

 私に反射で動いた時に憎しみが出ていながら、私には関係ないと言った事も。

 

「あなたは、自分を操ろうとしてた存在を……無名の司祭を、逆に滅ぼしたんだね」

「そういう事よ。以来、私はずっとこの席に居る」

「『色彩の嚮導者』は全ての世界において一人だけだから、他に嚮導者が発生しない」

「ええ」

「……そして、他の世界の司祭と地下生活者を滅ぼしてる」

「その通り」

 

 どれもサラリと流される。あっさりとした肯定は、当然だと言わんばかりのものだった。

 それがどれだけ異常な事か分かっているのだろうか。

 

 ―――地下生活者を、私は殺さなかった。

 

 私が生きたキヴォトスが滅亡の一途へ向かう確かな原因だった。

 けれど私は、脅すに留めた。理由は様々だが―――その中に、私の世界の地下生活者ではなかったからというのも無かったと言えば噓になる。

 

 けれど、彼女は違う。

 自分の世界の司祭も地下生活者も滅ぼしている。その上で、他の世界のそれらにも手を伸ばしている。

 当たり前のように出来る事ではない。

 さらに、気になる事が一つ。

 先生はそれを許したのか。

 

「あなたの"先生"は……」

「シャーレの爆破で即死したわ」

「――――」

 

 バッサリと、切って捨てるように吐き捨てられた事実に、私は今度こそ言葉を喪った。

 

 引き留めてくれる人が居なかった。

 代わってくれる人が居なかった。

 私のように、罪も責任も背負ってくれる人が―――最後の光すらも、彼女には無かったのだ。

 

「仮に生きていたら、許さなかったでしょうね。プレナパテス(あなたの"先生")やここにいる先生のように」

"許さないとはちょっと違うかな。ただ、別の道を探すよ。生徒の未来が閉ざされる事を止めるのは先生の役目だからね"

「……他に手が無くても、そう言い続けるんでしょうね」

"当たり前だよ。それが私の務めで、責任だから"

「そう……節操が無いわね」

 

 相対するように、二人の視線がぶつかる。

 ……さっきの緊迫した空気感の理由はきっとこれだ。

 "先生"も居なくて、止まる理由が無かった憎しみに走り続ける彼女を、先生はなんとか繋ぎ止めようとしている。

 託された私の時のように。

 

 ―――肝心のベルは、自らその道を選んでいる。

 

 私のように流されてではなく、自らの意思で憎しみを選び戦う事を選んだ。

 だから先生の意思と反発する。

 それを彼女も理解していて、その上で交流を続ける事を選んだ……

 

 思わず、くしゃりと顔が歪む。

 

「まったく、もう。どうしてあなたが泣くのよ?」

「……知らない」

 

 嘘。本当は分かっている。

 これは―――"共感"。

 生きた世界が似ている。ただ一つ、『先生の死』という致命的な差が私達を分けた。大きな違いだ。でも似ている。

 私の事じゃないのに、我が事のように感じてしまっていた。

 かつて感じていた孤独と寂寥感が込み上げてきて、涙が零れる。

 想いを紡ごうにも、言語化出来ない。

 

「はぁ……ほら、こっち来なさい」

「ん」

 

 撫で続けていたハルカを離し、ムツキも降ろしたベルが手招きする。私はそれに応じて、彼女の胸元に顔を押し付けた。

 さら、と髪を梳くように撫でられる。

 ホシノ先輩やノノミがしてくれていたように、優しい手つき。

 

「これじゃまだまだ子供(子犬)からは卒業できないわね」

「ん……!? ん!」

 

 ため息とともに失礼な事を言われたので、耳をしばたかせてぺしぺしと彼女の手や首元に当てて抗議の意を示す。

 くすぐったいわよ、と笑って流されるだけだった。

 

 

 

 

「それで、作戦についての話に戻すのだけど」

 

 停滞していた空気を動かすように、私が落ち着いたのを見て離れたベルがそう切り出した。

 ものすごく横道に逸れたけど、そういえば戦闘時のベルの役割についての話だった事を思い出す。

 

"そういえば元々それについてだったね……嚮導者の特性の事を踏まえると、ベルは基本的に戦わない方がいいという事になるのかな? 少なくとも前には出れないよね"

「生徒相手ではそうね、火器を使えば素手より簡単にスプラッタな現場になるから。カイザーみたいなロボットやオートマタ、ドローン、預言者相手なら問題無いけど」

 

 先生の問いに彼女はそう答える。

 要は殺人にさえならなければいいから対人だけアウトという事だ。

 ……素手より、と言ってるのが恐ろしいけど。

 

"……一応聞くけど、素手でもスプラッタな事になるの?"

 

 先生も気になったのか、私も引っかかった所を聞いていた。

 まあ気になるよね……

 怪訝な目で見る私達とは裏腹に、当の本人はあっけらかんと頷いていた。私の喉に添えられていたあの手も反射だろうから何度もやってきた手段だとは思っていたけど……

 

「ハルカを問題無く撫でているのは見ているでしょう? 加減は間違えないから安心してちょうだい」

"しないだけで出来るんだね……"

「色彩の力は世界の法則も無視する。死体でも生きてるように動かせるそれを10年間直に受け続けてるのよ? あまり舐めない方が良いわ」

 

 何かとんでもないこと言ってるけどなにそれ私知らない……

 本当なのか訝しむ目が便利屋の方から向けられたけど私は首を横に振った。嚮導者の特性に成長性があるものがあったなんて本当に知らない。

 本当に怪力なのかと疑ったら、証拠として亜空間から取り出された野球ボールサイズの金属塊を片手でグニャグニャにする様を目の当たりにさせられた。しかも特に力んでる様子が無い。

 元々柔らかいのかと思ったけどグニャグニャになった金属塊はキチンと硬かった。

 なにそれ……

 この眼で見て触っても理解ができない……

 

「ん……」

 

 小さい頃にホシノ先輩が単騎で戦車をぶっ壊したのを見た時の恐怖を思い出した私は耳を伏せながら彼女から少し距離を取った。

 

「あら、逃げられちゃったわ」

「ごめん、鉄塊を片手で潰せるのを見た直後は流石に怖い」

「……それもそうね」

 

 納得しつつも、ちょっぴり残念そうな目を向けられた。

 良心が痛む……

 ―――そんな彼女に、背中に乗っかったままだったムツキが笑いかけた。

 

「ベルちゃんやっばぁ! だから私が装備込みで乗っかっても平気そうなんだね?」

「体重諸々込みで50kg以上の重石を背負ってるようなものなのに、さっきあんなに速かったのもそういう事だったんだ」

"さっき言ってたチーターの意味が思ってた以上に物理でも訴えかけて来てるのは予想外だったなぁ……"

「つくづくベルが敵じゃなくて良かったわねこれ……そもそもベルに攻撃って効くの……?」

「わ、私も同じ事が出来るようにならないとでしょうか!?」

「あなたは今でも年齢に見合わないくらい十分強いし色彩級(私レベル)は埒外だから出来なくていいわよ」

 

 ムツキ達はやや引きながらも感嘆を述べ、先生とアルは彼女を率いる身だからか戦慄していた。

 たしかに嚮導者を長く続けているほど強化されるならベルはこれ以上ないほどの強敵だった事になる。昨日の時点で先生と便利屋は死んでいただろうし、私も即座に殺されていただろう。

 他の存在が嚮導者になっていても同じ。

 銃口を掌で押さえて封じてきた辺り、多分頑丈さも時間に比例している。ホシノ先輩や風紀委員長レベルは間違いなくある。

 

 ……そう考えると、"先生"が嚮導者を代わったのは自身が銃を使って戦う立場じゃなかったからなのもあるかもしれない。指揮も大人のカードもこちらの先生と対等の条件で、色彩の影響は確認した限りは無かった。

 そして、体が死んでいたにしても、強度は変わらない。

 箱舟で生徒達を転移させる間、私を守るようにボロボロの体で立ちはだかっても銃弾を受け切れていたのは、そういう事だったのかも。

 そんなに長い期間ではなかったのにそれなら、10年も浴びている彼女はいったいどれほどなのか。

 少し、恐ろしく感じた。

 彼女にではなく、そうさせる色彩という存在とそれによる事象に。

 

「ねーベルちゃん、それって爆弾や地雷にも影響ある感じ?」

「範囲はあまり変わらないけど、威力に関してはそうね」

「……ベルは非戦闘員になってもらうしか無いんじゃない?」

「あとはまあ、頑丈さに任せた盾役かしらねぇ。シールドは持ってるし」

 

 カヨコに答えながら、虚空に作り出した黒い空間からズルリと重厚な盾が取り出される。

 ……すごく見覚えがある。

 

「ベル、それ……もしかして……」

「……私の世界の"シロコ"が持っていた盾よ」

 

 やや伏せ気味に視線を返してきながら、ベルが答えた。

 ―――絶望して色彩を呼んでしまった"私"を終わらせてくれた人。

 そう思うと、感謝の念が湧く。

 その頃の"私"にとっては間違いなく救いの手だった筈だ。先生すら居ないとなれば、その絶望は私以上に測り知れないものだったのは想像に難くない。

 だが、無名の司祭が原因とはいえ、少なくとも彼女はそこで一線を踏み越える事になった。

 別世界の自分とはいえ同じ自分だ。申し訳なさも湧いてくる。

 

 ……また泣きそうになったので、私はその思考を一旦横に追いやった。

 

「先生の指揮があるし、とりあえず今回は閃光手榴弾と煙幕とシールドを使って前に出ようかしら。力負けはまずしないでしょうし。攻撃はハルカ任せで」

"ならそうしてもらおうかな。アル達も構わないかい?"

「ええ、問題無いわ。ベルの事についても分かったから今後気を付けるわね。でももっと早く言ってほしかったわ。シャーレまでの道中で絡まれてたら(コト)だったわよ?」

「それは……ごめんなさい、昨日の今日で正直忘れてたわ」

「ま、その時はその時だったでしょ。前に出るのは私達がやればいいしね」

「やっとウチにもバックアップ専任が出来ると思えば悪くないね。しかも誰にも負けないとなれば、護衛に人員を割く必要も無い……ウチとしてはすごく助かるよ。今回は盾役だけど」

「よ、よろしくお願いします。しっかりとベル様をお守りしますね!」

「みんな、ありがとう。あとハルカ、今回は私が盾で前に出るから私を庇ったりしなくていいわ」

「あ……は、はい、そうですよね、すみません私なんかがお役に立てると思って不要なのに出しゃばってすみません……」

「もう、責めてる訳じゃないのだけど……」

 

 ベルはくすりと苦笑し、ごく自然な流れのようにハルカの頭を撫で始めた。

 彼女の過去について聞いてる間も撫で続けてたけど、私が見てる限りでこれ何回目だろう……

 

「えへ、えへへ……えへっえっへへえへあははばばばばばばば」

「うわぁ幸せアレルギー発症しちゃった! さっきは耐えてたけど流石にもう限界っぽい!」

「なるほど、これが『幸せアレルギー』なのね……」

「いやまじまじと観察してないで止めてあげなよ」

「というか見た事無いのね?」

「無いわね。私が率いていた便利屋は引っ越しはあれど生活水準は一定を保ってたし、最初からよく撫でていたから慣れていたせいかも」

「あーじゃあハルカちゃんのは野宿生活との落差のせいなのかな?」

「どうでしょうね。自分を卑下しがちなハルカに『これが普通』と刷り込ませてみれば、発症しなくなるかもしれないけど」

「……だってさ。社長、財務管理してもらったら? 事務所の費用結構高いし、電話線もタダじゃないしさ。引っ越しも報復回避のはともかく家賃払えない場合のはキツいよ」

「くっ……で、でも、それは必要な出費で……」

「副社長、どうぞ」

「細かな収支は置いておくとして、生活に困らないよう貯蓄しなさい。"衣食足りて礼節を知る"よ。先生の下に押しかけ……もとい頼るのだって、何度も繰り返せば失礼なんだから。改善の意思無しと見られたら大変よ?」

「ぐぅっ、それは本当にそう……!」

「アッハー♪ これは野宿になったら本格的に怒られちゃうねぇ!」

「そもそも現段階で今月分の家賃も危ないし朝食抜いてるからね」

「受け入れてもらったのは嬉しかったけどこの財務状況を知った時は正直申し訳なさが強かったわ……飢えで共倒れなんて嫌よ私……」

「ぐううううぅぅ……っ!!! わ、わかったわよ! 貯蓄が出来るまでベルに財務管理してもらうわ!」

「わーい♪」

「よし。頼んだよ、副社長」

「新参だからあまり口出しし過ぎるのも憚られるけど……まあ、頑張るわ」

 

 くすぐったそうにしたハルカが次第に目をグルグルさせ始めたのを契機にワイワイと騒ぎ始める。

 便利屋の人達はいつも騒がしい。

 ベルは、それに馴染んでいるようだった。

 ……もしかしたら彼女にとって便利屋は、私にとっての"先生"(最後の光)なのかもしれない。

 私の首に掛けられた手が止まったのは、きっと……

 

 賑やかな喧噪を暫し見詰めた後、深呼吸を挟む。

 

 ひとまず、今は仕事を先に済ませよう。

 現場はもう目の前だ。

 

「先生、着いたよ」

 

 安全装置を外した愛銃を手に準備を済ませて、呼びかける。

 シッテムの箱を起動した彼は、こくりと頷いた。

 

"うん。みんな、行くよ! 戦闘開始!"

「「「「「了解!」」」」」

 

 先生の一声に、一瞬で切り替えた便利屋が声を揃えて応じる。

 ヴァルキューレと勝負が成り立つ程度の連中が元嚮導者と現嚮導者の反転生徒、そしてブラックマーケットでも活動を続けている便利屋、そしてベルの世界の『A.R.O.N.A』も合流して演算能力がパワーアップしたシッテムの箱を使う先生の指揮に敵う筈も無く、アッサリと戦いは終了。

 それから朝ごはんを食べてないのだという便利屋と一緒に、昼食を摂りに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

・陸八魔ベル

頑張って馴染もうとしている怪物枠の現役嚮導者

元の世界の友人知人の遺品は全て所有しており、"シロコ"の盾もその一つ

色彩の力を有する嚮導者の特性上《キヴォトス》に存在する全てのものを容易く殺せるため、完全盾役か不落の後方支援*3の配置になる。預言者など対メカにのみ銃火器を使う

心身が未だ復讐の修羅の中なので実は所々挙動がおかしい

過去については話している間はほぼずっとアルを視界に収めながらムツキハグ、カヨコ手繋ぎ、ハルカ撫でをしている

名実ともに強者だが様々な事情から内務担当予定

司祭による傀儡化を気合で撥ね退けると言っても自己否定反転するレベルで自責してようやくなので出来る方がおかしいが、その異常度合いを理解していないベルは奇跡を届けたプレナパテスの方が凄いと思っている

 

・シロコ*テラー

ベルについて殆ど知った元嚮導者

『本物』『偽物』『知識』関連については知らない。元嚮導者としての知見もあるが、先生・便利屋以外の部外者枠では今後も一番ベルの事を把握できる立場に位置する

『先生が即死しなかったキヴォトス』出身の元嚮導者であり、即死した世界線のベルの過酷な環境を知り、傀儡化を跳ね除ける際の反転に必要な感情の大きさや負荷はホシノの一件から知っているため、あらゆる方面で現状ベルに一番理解があり、その境遇と背景に涙した

ベルにとっての便利屋のポジションが自身にとっての対策委員会(帰る場所)にして"先生"(最後の光)と二重の意味で重要であるとも察し、先生とベルが最終的に反りが合わない点から心配もしている

ベルが傀儡にならない確信を得たので警戒は解いたが、支配を跳ね除ける理由の異常さとその理由から更に案じている

それはそれとしていつかリベンジを決意。よわシロコ時代のようにあの手この手で攻略の糸口が無いかを手探り中。要は懐いた

 

・陸八魔アル

冷や冷やしながら見ていた社長

『本物』『偽物』『知識』関連についても知っているのでベルのメンタルが崩れないか見守っており、あまり話に割り込まなかった

視線でハルカが幸せアレルギーで倒れないよう指示していた

一定の貯蓄が出来るまでは散財しないよう先生がされているようにお財布を管理される事になる

社名の由来でもある苗字弄りをしたクロコにはキレておりいつか自分も反転無しのベルくらい強くなってぶっ飛ばす気でいる

ベルの強さは分かったがヒナにぶつける気は毛頭ない

 

・浅黄ムツキ

クロコが泣いてる間以外ずっと背中に乗っていた室長

一切拒否されないので割と気に入っているのではと予想中

嚮導者の特性を聞いて、決死の覚悟で消耗を強いたもう一人の自分達の戦果のヤバさに内心冷や汗を掻いている

"シロコ"の盾を見て「これ多分"自分達"の武器も壊れてないなら持ってるね……?」と察した

 

・鬼方カヨコ

ほぼずっと左手を握っていた課長

嚮導者の特性とその座に就いている間は他の世界でも嚮導者は生まれない点、先のクロコに対する一件、そして特性の把握状況からベルの10年間の凄惨さを凡そ把握。ここぞとばかりに後方支援要員としてプッシュした

盾役として出すのも内心微妙だったがハルカと一緒なら良いかと思っている

財務状況と生活が安定する目途が立ってここ最近で一番機嫌が良い

 

・伊草ハルカ

ほぼずっと撫でられ続けていた最年少社員

怪力を見ても怯えず受け入れておりベルにとって最大の癒し枠

ベル様に舐めた口利いたから殺しますとクロコ相手に臨戦態勢を取っていたが怪力で捕らえられて撫で回されて無力化されていた

一日に何回も撫でられるのを頑張って受け入れていたがとうとう耐え切れず幸せアレルギーを発症

作戦中にベルに守られている事実でまた発症しかけていたのは秘密

『幸せアレルギー克服作戦』が密かに画策されており、その一環で容赦なく撫で回される運命にある。ベルが撫でたいだけともいう

 

・先生

色んな意味でメンタルボロボロな教導者

今回で『ベルが他の世界で傀儡嚮導者が生まれる事態を防いできた』ことの事実と重要性、事の難題さを思い知った

大人なので取り繕っているが、デカグラマトン編で子供(無限光三姉妹)が命を賭して戦った結末を見ているためデジャブっており、なんとかしてベルを休ませたがっている

他者の自己犠牲を見た上でそれに倣う=嚮導者の座に就くのも覚悟していると受け取れる点からプレナパテスと同様の道を辿ってでもという意図を見抜かれ、ベルに距離を取られている事には気付いていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・『色彩の嚮導者』

『色彩』から力を与えられた先導者の名称

全ての可能世界から一人だけがその座に就ける

色彩に触れて反転しただけではその座に就けない。また選ばれただけでは傀儡ではなく、必ずしも無名の司祭側の存在ではない

世界(ジャンル)のルールに従う者達に対し絶対的優位な権能を与えられている。そこに神秘、恐怖等の有無に別は無く全てが等価

破壊を齎すか

奇跡を繋ぐか

いずれにせよ、嚮導者は『外』へと逸脱した『外』から訪れる導き手でしかない

先々代(プレナパテス)は死体の賦活と最後の放たなかった一撃を除き、その権能を振るっていない。彼の者の意思は最後まで子供を託し繋げる事に貫徹されていた

―――その道しか残されていなかった

今代の嚮導者はその意志を深く尊敬しているが、倣う(繰り返す)べきではないと考え、原因となるものの排除を主張し、教導者と対立を続けている

 

 

*1
ベルは知識で把握している奇跡シロコ*テラーの過程に頷いているだけ。ベルの世界の傀儡シロコ*テラーとはシッテムの箱破壊前に戦闘しているが、それを奇跡シロコ*テラーは知らないため早とちりしている

*2
諸説あり。元々は娘盛りの10代後半〜20代前半を過ぎ少し年かさの増した成熟した女性を指す褒め言葉だが、現代では単に30代後半~50代の女性を指すものとして用いられる。byGoogle先生

*3
ゲーム的に言えば『HPを持つ遮蔽物判定を持つ召喚物』のSPECIALタンク生徒

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