ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
大魔王ゾーマは死んだ。
光の玉によって闇の衣を剥ぎ取られ、勇者の剣と、私の放ったありったけの魔力によって、光の中へと消えていった。
世界に平和が訪れた。アレフガルドにも、上の世界にも。
平和になった世界で、悟りを開いた「賢者」の力なんて、正直持て余すだけだった。だから私はダーマの神殿へ行き、神官の静止を振り切ってこう言ったのだ。
「私、遊び人になります!」
神聖な賢者のローブを脱ぎ捨て、網タイツにハイレグのバニースーツ、そしてウサ耳。
ファミコン時代から脈々と受け継がれる、由緒正しき「遊び人」の正装である。
それからの私は、勇者たちと別れ、酒場に勤めながら毎日お酒を飲んで、歌って、踊って、たまに客の頭をはたいて笑い合う、最高に怠惰でハッピーな日々を送っていた。
……はずだった。
「う、うーん……頭痛い……」
ガンガンと響く頭を抱えながら、私は目を覚ました。
最後に覚えているのは、酒場の常連客たちと強い蒸留酒の飲み比べをして、カウンターに突っ伏したところまでだ。
「あれ、ここ、酒場じゃない……?」
目を開けると、そこは荒涼とした岩肌が続く見知らぬ荒野だった。
アレフガルドの毒沼でもないし、上の世界の砂漠でもない。ひんやりとした風が、露出度の高いバニースーツの肌を撫でる。
「うわっ、ちょっと待って! 飲み過ぎてどこかに捨てられた!?」
上半身を起こし、ズキズキ痛む頭を押さえる。
視線を下ろすと、そこには見慣れた黒の網タイツと、ハイレグのバニースーツ。カジノや酒場でお馴染みの、由緒正しき『遊び人』の正装だ。
アレフガルドを深い闇で覆っていた大魔王ゾーマを、勇者たちと共に打ち倒して数ヶ月。
平和になった世界で『賢者』の力を持て余した私は、ダーマの神殿で「遊び人になります!」と宣言し、神官を呆れさせた。それからは、酒場でバニーガールとして働きながら、飲めや歌えの自堕落で最高な日々を送っていたのだ。
昨夜も確か、常連の荒くれ者たちと強い蒸留酒の飲み比べをして……そこで記憶が途切れている。
「って、ここどこよ!」
思わず大声を出すと、頭痛がぶり返して「痛たた……」と蹲る。
冷たい風が吹き抜け、露出度の高い肌から容赦なく体温を奪っていく。
二日酔いの上に、見知らぬ荒野への放置プレイ。タチの悪い悪戯か、それとも酔っ払ってルーラでも暴発させたのだろうか。
「はぁ……とりあえず、水……水場を探さないと死んじゃう……」
ふらつく足取りで立ち上がり、網タイツの埃を払ったその時だった。
――ギャギャッ!
――ヒィィッ! 誰か、助けてくれぇっ!
岩陰の向こうから、醜悪な叫び声と、人の悲鳴が聞こえた。
平和になったはずなのに、魔物?
眉をひそめながら音のした方へ駆け出すと、岩に囲まれた窪地で、荷馬車を引いた恰幅の良い商人が、緑色の小鬼――ゴブリンの群れに囲まれていた。
五匹、いや六匹。粗末な石の槍や棍棒を振り回し、商人の荷馬車に群がろうとしている。
「あーあ。どこの世界にも、ああいう野蛮なのはいるのね」
私は小さくため息をつき、バニースーツの胸元を少し整えると、岩場から跳躍した。
ピンヒールが荒野の地面を蹴る。
遊び人に転職してレベルは1に戻ったが、賢者時代にカンストするまで鍛え上げた基礎ステータスの恩恵は消えていない。
風を切って落下しながら、一番手前にいたゴブリンの脳天に、容赦のないかかと落としを叩き込んだ。
グチャッ、という鈍い音。
「ギ、ギャ……?」
何が起きたか理解する間もなく、ゴブリンは黒い灰のようなものに変わり、後には小さな紫色の石がコロンと落ちた。
(……え? 死体が消えた? しかもこの石、魔石……?)
元の世界の魔物とは違う独特の死に方に一瞬戸惑ったが、残りのゴブリンたちが私に標的を変えて飛びかかってきたため、思考を打ち切った。
「ほらっ、あんたたち! レディの二日酔いに響くから、静かにしなさい!」
迫る石槍を身を捩って躱し、カウンター気味に回し蹴りを放つ。
さらに一匹の首根っこを掴んで放り投げ、同士討ちを誘う。魔法を使うまでもない。ただの物理攻撃だが、元賢者の膂力と反射神経の前では、下級の魔物など動く的でしかなかった。
数十秒後。
最後に残ったゴブリンの眉間にピンヒールを振り下ろすと、そいつもまた灰となって崩れ落ちた。
「ふぅ……ちょっと運動したら、余計に喉が渇いちゃった」
私が前髪を掻き上げながら振り返ると、へたり込んでいた商人が、信じられないものを見るような目で私を見上げていた。
「あ、あなたは……一体……?」
「私? 見ての通りのバニーガール。しがない『遊び人』よ」
私は腰に手を当てて、ウサ耳を揺らしながらウインクしてみせた。
「そ、そんな馬鹿な……いや、しかし助かりました。本当に、なんとお礼を言えばいいか……」
「お礼なら、お水か、冷えたエールがいいな。それよりおじさん、ここってどこ? ロマリア? それともアッサラーム?」
私が尋ねると、商人はきょとんとした顔で首を傾げた。
「ロマリア? ……いえ、ここは迷宮都市オラリオへ続く街道です。私はこれから、あそこのギルドへ物資を納品しに向かうところでして」
迷宮都市オラリオ。
聞いたこともない地名だ。ルーラの暴発どころか、どうやら私は、酔った勢いで世界の壁を越えてしまったらしい。
「オラリオ……ねえ。面白そうな場所じゃない」
「お、面白そうなどと、とんでもない!」
商人は顔を青ざめさせ、首を横に激しく振った。
「今のオラリオは地獄です! 『イヴィルス』と名乗る闇の派閥が街でテロを起こし、冒険者たちと血で血を洗う抗争を繰り広げている……いわば『暗黒期』。おまけに奴らには、規格外の怪物のような強者が何人もついているとかで……私のようなしがない商人は、こうして命がけで日銭を稼ぐしかないのですよ」
絶望を帯びた商人の声を聞きながら、私は荒野の風に吹かれていた。
暗黒期。闇の派閥。規格外の強者。
普通なら震え上がるような単語の羅列だが、どういうわけか、私の胸の奥では少しだけワクワクする感情が芽生えていた。
平和な世界に飽きて、遊び人になった私。
もしかして、神様(ルビス様?)が私に与えてくれた、新しい遊び場なのだろうか。
「ねえ、おじさん。私、行く当てもないし、そのオラリオってところまで護衛してあげようか?」
「えっ!? い、いや、しかし……そのお姿ですし、今のオラリオは本当に危険で……」
「心配ご無用! 報酬は、その都市で一番美味しいお酒で手を打つわ。どう?」
私がニカッと笑って見せると、商人は少し戸惑った後、やがて安堵の息をついて深く頭を下げた。
こうして、二日酔いのバニーガールである私は、見知らぬ商人の荷馬車に揺られながら、血と混沌の匂いが立ち込める迷宮都市へと向かうことになったのだった。
転スラの二次創作小説を書いていて面白かったので、ドラクエ✖️ダンまちのクロスオーバーも投稿してみました。ちょっと微妙に思われるところもあるかもしれませんが、小説の投稿自体初めてなので、とりあえずお試しでやってみようと思います!