ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第十二話:オラリオの常識と、伝説の武器

薄暗い迷宮(ダンジョン)の深層。

群れを成して襲いかかってきた屈強なモンスターたちを殲滅し終えたフィン、ガレス、リヴェリアの三人は、周囲に散らばる魔石と灰を前に短く息を吐いた。

 

「ふぅ……やはりこの階層での連戦は骨が折れるね。ガレス、脇腹をやられているじゃないか」

 

「なんの、かすり傷じゃわい。リヴェリア、悪いがヒールを頼む」

 

「ああ、少し待て。詠唱を――」

 

「いや、待ってくれリヴェリア。ちょうどいい機会だ。例の物を試してみよう」

 

フィンが制止し、厳重に閉ざされたポーチの中から一つの美しい石を取り出した。

黄昏の館で、居候の遊び人から「貸与」されたアーティファクト――『賢者の石』だ。

 

フィンが半信半疑でその石を頭上に掲げる。

次の瞬間、石から溢れ出した淡く温かな光が、三人の体をすっぽりと包み込んだ。

 

「なっ……! 脇腹の傷が、一瞬で塞がりおったぞ!?」

 

「それに、体力の消耗まで回復している。……信じられん。私の精神力(マインド)は一切消費されていない。術者の代償なしに、これほどの全体回復を引き起こすというのか」

 

完全に無傷の状態に戻った自身の体を見下ろし、魔道士の頂点に立つリヴェリアでさえ戦慄に声を震わせた。

 

「ポーションは使い捨て、回復魔法はマインドを消費する……オラリオの、いや、この世界の前提が根底から覆る。しかも、石そのものにヒビ一つ入っていない。本当に『何度でも使える』ということか……」

 

フィンは手の中の石を、まるで恐ろしい呪物でも見るかのような目で見つめた。

 

「ガレス、リヴェリア。改めて確認する。この石の存在は、我々三人だけの胸にしまっておく。いいな?」

 

「ああ。こんなものが公になれば、オラリオ中を巻き込んだ血みどろの戦争が起きるわい」

 

三人は重々しく頷き合い、迷宮の奥深くで誰にも知られないように極秘の切り札をしまい込んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

数時間後、黄昏の館のラウンジ。

迷宮から帰還した三人が見たのは、いつものようにソファでくつろぎながら、悠々とワイングラスを傾けている私の姿だった。

 

「やあ、バニー。帰ったよ」

 

「あら、お帰りなさい。怪我はないみたいね」

 

「君が貸してくれたあの石のおかげでね。……本当に、規格外の代物だったよ」

 

「でしょ? ちゃんと役に立ったなら良かったわ。……あ、そういえば」

 

私はぽん、と手を打った。

 

「今日はまだ、十分間のアレ、使ってなかったわね」

 

私は目を閉じ、恩恵(ファルナ)のスキル【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を発動させた。

眩い光と共にバニースーツが消え、純白と青の『神鳥の法衣』へと姿を変える。

それを見た三人は、何度見ても慣れないというように微かに息を呑んだ。

 

「その姿を見ると、いまだにあの飄々とした遊び人と同一人物だとは信じがたいな」

 

「中身は同じよ。ちょっと待ってね……えーと、けんじゃのせいすい、エッチな本……っと、あったあった」

 

私は空間に繋がった古びた道具袋に手を突っ込み、中をゴソゴソと探って、目当てのものを引っ張り出した。

それは、白銀に輝く刀身と、精緻で神聖な意匠が施された美しい両刃の剣だった。

 

「はい、これ。これもファミリアに貸してあげるわ」

 

私がテーブルの上にその剣を置くと、フィンたちが怪訝な顔で覗き込んできた。

 

「これは……美しい剣だ。しかし、君は魔法使いだろう? なぜ剣なんか持っているんだい?」

 

「『ルビスの剣』っていう伝説の武器なんだけどね。あの頃も私は『神鳥の杖』ばっかり使ってたし、剣なんか振らなかったのよ。ずっと道具袋の底で眠ってたから、もったいないし」

 

「伝説の武器……。ちなみに、何か特殊な効果でもあるのか?」

 

フィンが恐る恐る尋ねてくる。賢者の石の件があった直後だ、彼らも警戒しているのだろう。

 

「うん。この剣ね、意識して力を引き出そうとすると、ものすごい規模の雷の魔法が撃てるの」

 

「「「なっ……!」」」

 

三人の顔色が一斉に変わった。

 

「雷の魔法だと!? つまり、魔剣か!」

 

「待てバニー、それほどの威力の魔法を放てる魔剣となれば、ただでは済まんぞ。オラリオの『クロッゾの魔剣』であっても、数回、いや下手をすれば一回の使用で刀身が砕け散るはずだ!」

 

ガレスとリヴェリアがテーブルに身を乗り出してきた。

私は不思議そうに首を傾げた。

 

「砕ける? なんで? 使用回数なんてないわよ。魔力も消費しないし、何度でも撃てるわ」

 

ピシッ、と。

再び、三人が完全に凍りついた。

 

「な、何度でも……」

 

「壊れない、魔剣……だと……?」

 

オラリオにおける「魔剣」とは、強力な魔法を撃てる代わりに必ず砕け散る使い捨ての兵器だ。

それが「壊れず、何度でも大規模な雷魔法を撃ち放てる」となれば、賢者の石に匹敵する――いや、攻撃面においてはそれ以上のバランスブレイカーになり得る。

 

「……君は、神々が定めたこの世界の理(ルール)に喧嘩でも売っているのかい?」

 

フィンが両手で顔を覆いながら、深い、深いため息をついた。

 

「でも、困ったね。私は槍使いだ。ガレスは斧、リヴェリアは杖。私たちは誰も剣をメインに使わないんだ。いくら強力な魔法が撃てるといっても、不慣れな武器を持つのは迷宮では命取りになる」

 

「あー、そういえばそうね。じゃあ……」

 

私は少し考えて、ポンと手を打った。

 

「アイズちゃんに貸してあげたら? あの子、剣士でしょ」

 

「アイズに?」

 

「うん。あの子、いつも一人で突っ走っちゃうし、強い魔法を使いたがってたじゃない。この剣なら、斬り結びながら大規模な雷も出せる。今のあの子にぴったりの手札になるんじゃないかしら」

 

私の提案に、フィンとリヴェリアが顔を見合わせた。

 

「……確かに。今のアイズは剣の腕は立つが、広範囲を制圧するような強力な魔法は持っていない。この剣があれば、彼女の生存能力と殲滅力は飛躍的に跳ね上がるだろう」

 

「しかしフィン、あのような子供にこれほど危険なアーティファクトを持たせて良いものか?」

 

「そこは、我々がしっかり管理と指導をするしかないね。『絶対にここぞという時以外は力を引き出さないこと』を条件に持たせよう」

 

フィンは慎重にルビスの剣を手に取ると、その重みと刀身の輝きに感嘆の息を漏らした。

 

「分かった。バニー、君の厚意に再び甘えさせてもらうよ。これはアイズに預けよう」

 

「ええ、そうしてあげて。あの子がこの剣でどんな風に暴れるか、ちょっと楽しみだしね」

 

私は十分の経過を待ち、再びバニースーツの姿に戻ると、満足げにワイングラスを手に取った。

強さを渇望する小さな剣士の手に渡る、伝説の雷剣。

それが暗黒期の戦場でどれほどの雷鳴を轟かせることになるのか。私のお酒の肴が、また一つ増えそうだった。

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