ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第十三話:アイズ「私もカッコよく魔法が使いたい」

黄昏の館、昼下がり。

私がソファに寝転がってワインをちびちびと飲んでいると、またしても金色の髪をした小さな剣姫の卵が、私の網タイツをツンツンと引っ張ってきた。

 

「……ねえ」

「んー? どうしたのアイズちゃん。ルビスの剣の使い方は、フィンたちに教えてもらったでしょ?」

「うん。剣はすごい。雷、ドカーンって出た。でも……」

 

アイズは真剣な瞳で私を見つめ、ギュッと小さな拳を握りしめた。

 

「私も、あなたみたいに『詠唱なし』で、カッコよく魔法を出したい。教えて」

 

私はウサ耳をパタパタと揺らしながら、深いため息をついた。

ルビスの剣で満足するかと思いきや、無詠唱でバンバン魔法を放つ私の姿がよほどカッコよく見えたらしい。「強くなりたい」に「カッコよくなりたい」が追加されてしまっている。

 

「だから、あれは教えられてどうにかなるものじゃないのよ。それに私、今は休憩中……」

 

「教えて。カッコよく魔法、出したい」

 

「…………」

 

頑なに引き下がらないアイズを前に、私は根負けして頭を掻いた。

ちょうど今日の分の【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を発動させ、手元に道具袋を繋いでいた私は、袋の奥底から「ある物」を二冊引っ張り出し、そのうちの一冊をアイズの前にコトンと置いた。

 

「仕方ないわね……じゃあ、とっておきの秘策を教えるわ。これを読みなさい」

 

「ほん……?」

 

「そう。名付けて『凄くエッチな本』よ!」

 

私が大真面目な顔で言うと、アイズは不思議そうにその本の表紙を見つめた。

幼女にはまだ刺激が強すぎる(というか意味が分からない)であろう怪しげなタイトルと装丁。だが、強くなるためなら何でも吸収しようとする彼女は、疑いながらもその本に手を伸ばした。

 

「これを読めば……カッコよく魔法が出せる?」

 

「ええ。これを一晩じっくりと読破すれば、あんたも色んな意味で悟りを開いて、立派な『賢者』になれるわ。賢者になれば無詠唱魔法も夢じゃないかもね」

 

男のロマンと賢者タイムという概念をオブラートに包み、適当なハッタリをかます。

 

「けんじゃ……。でも、本当にこれが効くの……?」

 

アイズは首を傾げながら、私が手元に置いていたもう一冊の本――『エッチな本』の方を指差した。

 

「そっちの『凄く』じゃない方は、どうなるの? 読んだら、何になれる?」

 

「ああ、こっち? 実はね、そっちの『エッチな本』でも、あんたが持ってる『凄くエッチな本』でも共通の効果なんだけど、読むと性格が変わるのよ」

 

「せいかくが、変わる……?」

 

「そう。女の子がこれを読むと『セクシーギャル』に、男の子が読むと『ムッツリスケベ』になれるの」

 

私がDQのシステム(性格補正)をそのまま説明すると、アイズは「せくしーぎゃる……?」と意味も分からず反芻した。

 

「セクシーギャルになれば、魔法が強くなるの?」

 

「魔法だけじゃないわ。力がモリモリ上がって、素早さも体力もトップクラスに成長しやすくなる、最強のステータス補正よ。この世界で言うなら、恩恵(ファルナ)の熟練度が一番上がりやすくなる最高の状態ってとこね」

 

「最強……!」

 

アイズの瞳が、キラキラと輝き始めた。

「セクシーギャル」という最強のステータスを手に入れ、さらに「賢者」になれる魔法の魔導書。彼女の中で、完全にその図式が成立してしまったらしい。

アイズが『凄くエッチな本』を胸に抱きしめ、やる気に満ちた顔を上げた、まさにその時。

 

ガチャッ。

 

ラウンジの扉が開き、リヴェリアとロキが連れ立って入ってきた。

 

「アイズ、こんな所にいたのか。そろそろ午後の座学……ん?」

 

リヴェリアの足がピタリと止まる。

彼女の翠色の瞳が、アイズが胸に抱きしめている本と、私がテーブルに置いている本のタイトルを正確に捉えた。

 

エルフの優れた視力は、表紙にデカデカと書かれた『エッチな本』『凄くエッチな本』という文字を、一字一句逃さなかった。

 

「…………は?」

 

「あ、リヴェリア。見て。私、これを読んでセクシーギャルになって、賢者になる」

 

アイズが純真無垢な笑顔で、爆弾を投下した。

 

「……せ、せくしー……ぎゃる……? け、賢者……? えっちな……ほん……?」

 

リヴェリアの顔から、スゥッと血の気が引いていく。

そして数秒後、限界まで沸点が達したハイエルフの顔は、真っ赤に染まり上がった。

 

「ブッフォォォォォ!!? ちょ、バニーちゃん!? アイズたんに何ちゅう本を……! ってかその本、ウチにも読ませ……ッ!!」

 

ロキがタイトルを見た瞬間に両鼻から盛大に鼻血を噴き出して床にダイブするが、今のリヴェリアには主神のツッコミすら耳に入っていなかった。

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

鼓膜が破れそうなほどの怒号がラウンジを震わせた。

リヴェリアは杖を握りしめ、かつてないほどの殺意と怒りを私に向けている。

 

「またしても……! またしてもアイズにふざけた真似を!! まだ幼く純真なこの子に、何という破廉恥な本を読ませようとしているのだ!!」

 

「い、いやいやリヴェリア! 違うのよ! これは本当に読むと賢者になれる(気がする)し、セクシーギャルは一番ステータスが上がりやすい最強の性格で……!」

 

「黙れこの変態遊び人!! オラリオの第一級魔道士である私の目の前で、これ以上アイズを穢すなど絶対に許さん!!」

 

リヴェリアの杖の先端に、信じられないほどの高密度の魔力が集束していく。迷宮の深層でしか使わないような、超高火力の攻撃魔法の詠唱だ。

 

「ちょっ、街の中でそれはマズいって! 落ち着い――」

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ…】」

 

「って、それ氷のもの凄い魔法ォォォ!!?」

 

私は慌ててアイズを抱き抱え、ラウンジから飛び出した。

直後、黄昏の館の一部が完全に凍りつき、凄まじい轟音と共に氷の彫刻と化した。

 

「逃がさんぞバニー!! 今日という今日は、そのふざけた根性を私が叩き直してやる!!」

 

「ひぃぃぃ! 怒れるオカン怖ぇぇぇ!!」

 

私はバニースーツのまま、アイズを小脇に抱えて館の廊下を全力疾走する。

その後ろを、般若の顔をしたリヴェリアが氷の魔法を連発しながら追いかけてくる。床で鼻血を出して倒れているロキは完全に放置だ。

 

「……? 私、本、読めないの?」

 

抱えられたままのアイズが、状況も分からず不満そうに首を傾げている。

 

「アイズちゃん、あの本は……もう少し大人になってからにしようね!」

 

かくして、遊び人の手によってロキ・ファミリアにもたらされるカオスは、日に日にその激しさを増していくのだった。

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