ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第十四話:美の眷属と、追い剥ぎの遊び人

夜のオラリオ。

お気に入りの酒場で極上のワインを堪能し、すっかり上機嫌になった私は、千鳥足で黄昏の館への帰路についていた。

今日は護衛のガレスたちが迷宮探索で疲れていたため、珍しく一人での夜歩きだ。

 

「ふふふーん、いい気分ねぇ」

 

鼻歌交じりに薄暗い裏路地を歩いていると、ふと、前方の空間が異様なまでのプレッシャーで歪んでいるのに気づいた。

ただの殺気ではない。肌を突き刺し、空気を泥のように重く変える圧倒的な『力』の奔流。

 

「……何の用かしら」

 

私が足を止めると、暗がりの奥から二つの影がゆっくりと姿を現した。

一人は、見上げるほどの巨躯を持つ猪人(ボアズ)の男。ただ立っているだけで城壁のような威圧感を放っている。

もう一人は、殺意を隠そうともしない猫人(キャットピープル)の青年だ。

 

「お前が、ロキの所に転がり込んだ『遊び人』か」

 

巨漢の男が、地の底から響くような重低音で問いかけてきた。

 

「そうだけど。……で、誰? 大きな猪さんと、目つきの悪いネコさん」

 

「てめェ……!! 俺たちを知らねェでこのオラリオ歩いてんのか!!」

 

私の心底どうでもよさそうな態度に、猫人の青年が激昂して牙を剥いた。

 

「落ち着け、アレン。……俺はフレイヤ・ファミリアのオッタルだ」

 

「オッタル? アレン? ごめん、全然知らないわ。フレイヤってことは、ロキがたまにお酒飲みながら文句言ってる派閥の人ね。で、そんな大層な人たちが、しがない酔っ払いに何の用?」

 

私が欠伸混じりに問うと、アレンと名乗った青年が苛立たしげに舌打ちをした。その手にはすでに、禍々しい銀の長槍が握られている。

 

「とぼけるな。お前が『暴食』のザルドと打ち合ったという噂は、すでに我々の主神(フレイヤ)の耳にも届いている。ザルドは、我々が越えねばならない壁だ。その怪物とやり合ったというお前の力が本物か、ここで確かめさせてもらう」

 

「はぁ?」

 

私は呆れてため息をついた。

暗黒期という異常事態の中で、最大派閥であるロキとフレイヤのファミリアは微妙な協力関係にあるはずだ。それなのに、強さを求めるあまりにこんな路地裏で闇討ちまがいの腕試しを仕掛けてくるとは。戦闘狂もいいところである。

 

「悪いけど、お断りよ。私に何のメリットもないじゃない。どうしても私と戦いたいなら、それ相応の報酬を用意しなさいな。条件が決まらないなら帰るわ――」

 

「舐めるなァッ!!」

 

傲慢な態度に完全に痺れを切らしたアレンが、激昂と共に石畳を爆砕して踏み込んだ。

音すら置き去りにする神速の刺突。瞬きする間もなく、銀の穂先が私の喉元へと到達し――

 

「……あーあ。せっかくのいい気分だったのに」

 

私は目を閉じ、恩恵(ファルナ)のスキルを起動した。

 

【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】

 

パァァァァッ……!

 

私の体を眩い光が包み、バニースーツが『神鳥の法衣』へと瞬時に切り替わる。

アレンの槍が私の喉を貫くコンマ一秒の隙間。私は無詠唱で一つの力ある言葉を紡いだ。

 

「【ピオリム】」

 

対象の素早さを底上げする強化魔法。それに加え、腕にはめられた最強装飾品『ほしふるうでわ』の倍率が掛け合わされる。

私の体感時間は極端に引き延ばされ、アレンの『神速の槍』をスッと半歩下がって躱した。

 

「なっ……!?」

 

必殺の一撃が空を切り、アレンが驚愕に目を見開く。

しかし、彼は空振りした勢いをそのまま利用して路地裏の壁を蹴り、壁と地面をピンボールのように跳ね回りながら、四方八方から銀の閃光を浴びせてきた。

 

「チィィィィッ!! 躱してみせろ!!」

 

「速いわね。でも……動きが直線的で軽いわ」

 

私は左腕の『女神の盾』で致命傷になる軌道の突きだけを弾き落とし、隙を突いて無詠唱で魔法を唱える。

 

「【バイキルト】」

 

自身の攻撃力を二倍に引き上げる強化魔法を、自らにかける。

アレンが壁を蹴って急降下してきたタイミングに合わせ、私は物理的な膂力が倍加した状態で、杖を野球のバットのようにフルスイングで迎え撃った。

 

「ゴッ……ボァッ!?」

 

槍ごと弾き飛ばされたアレンの体が、錐揉み回転しながら裏路地の壁に激突する。壁に深々とヒビが入り、彼はそのまま地面に崩れ落ちた。

 

「アレンッ!? ……見事だ。だが、俺の一撃はどうかな!」

 

それを見たオッタルが、巨大な黒い大剣を抜いて猛然と斬りかかってきた。

レベル7に迫る規格外の膂力から放たれる、重戦車のごとき一撃。

 

私は再び『女神の盾』を前へかざす。

 

ガァァァァァァァァンッ!!!

 

大砲が直撃したかのような凄まじい衝撃音が響き渡り、衝突の余波だけで周囲の窓ガラスが一斉に吹き飛んだ。

女神の加護を受けた絶対防御の盾は傷一つなく耐えきったが、そのあまりの衝撃に、私の両足は石畳を深く抉りながら数メートルも後退させられた。

 

「重っ……! さすがにすごい筋力ね!」

 

「防ぐか。ならば……!!」

 

オッタルは動きを止めない。休む間もなく、嵐のような大剣の連撃が私を襲う。

一撃一撃が致命傷。盾で受けても内臓が揺さぶられるほどの重圧。真正面から打ち合えば、いずれこちらが削り切られる。

 

「なら、ちょっと柔らかくなってもらうわよ!【ルカニ】!!」

 

私は杖を突き出し、対象の防御力を下げるデバフ魔法を連続で放った。

オッタルの堅牢な装甲と強靭な肉体を覆う『気』のようなものが、魔力によって霧散していく。

彼がステータス低下の違和感に一瞬だけ顔をしかめた、その瞬間。

 

「凍りつきなさい!【マヒャド】!!」

 

至近距離から放たれた極大の氷結魔法が、オッタルの巨体を包み込む。

バキバキと音を立てて彼の両足と胴体が氷塊に囚われ、大剣を振り下ろす動きが完全に停止した。

 

「グゥゥッ……! 氷ごときで……!」

 

オッタルが凄まじい力で氷を砕こうと筋肉を隆起させるが、その前に私は【バイキルト】で強化された杖の石突きを、がら空きになった彼の鳩尾に深々と突き立てた。

 

「はい、おやすみなさい」

 

防御力が低下した状態での、威力が倍加した物理打撃。

鋼の筋肉を持つオッタルもたまらず肺の空気を全て吐き出し、巨木が倒れるようにズゥンッ!と地面に沈み、意識を手放した。

 

◇ ◇ ◇

 

「ふぅ。本当に世話の焼ける連中ね」

 

スキルを解除してバニースーツに戻った私は、気絶してスースーと寝息を立てている二人の男を見下ろした。

勝手に喧嘩を売ってきて、報酬の交渉すら蹴ったのだ。このままタダで帰してやる義理はない。

 

「RPGの基本は、倒した敵からのドロップアイテム回収よね。身ぐるみ剥がしてギルドで換金してやるわ」

 

私は二人の体を転がし、オッタルの分厚い重装甲や巨大な黒剣、アレンの銀の槍や高価な装飾品を次々と引っ剥がし、底なしの道具袋の中に放り込んでいった。

第一級冒険者の特注装備だ。売ればとんでもない額になるだろう。

 

「よし、こんなもんね」

 

見事にパンツ一丁という無惨な姿になった最強の二人を冷たい路地裏に放置し、私はホクホク顔でギルドの換金所へと向かって歩き出した。

 

「ふふふー、臨時収入。これでまた美味しいお酒が……」

 

「――待ちなさい」

 

路地を抜け、大通りに出ようとしたその時。

ふわりと、脳がとろけるような甘い香りが漂い、銀色の髪を持つ絶世の美女が私の前に立ち塞がった。

美の女神、フレイヤだ。彼女の後ろには、顔を引きつらせた数人の護衛が控えている。

 

「あら、フレイヤ様。こんばんは」

 

「……こんばんは、ロキの所の遊び人さん。単刀直入に言うわ。ウチの馬鹿な子たちが迷惑をかけたようだけれど……その装備一式を、ギルドに持ち込むのだけは勘弁してくれないかしら」

 

フレイヤの顔は優雅な微笑みを浮かべているが、その目は「ファミリアのトップ二人が下着一丁で路地裏に転がされ、あまつさえ装備を売り飛ばされたとあっては、フレイヤ・ファミリアの威信が文字通り崩壊する」と必死に訴えかけていた。

 

「えー? でも私、タダ働きはしないって最初に言ったんですけど。この二人、結構タフだったから疲れたのよ?」

 

「分かっているわ。……これで、手を打ってちょうだい」

 

フレイヤが護衛に顎でしゃくると、ずっしりと重い皮袋が私に手渡された。

 

「一千万ヴァリスよ。これで、その装備を返してもらえるかしら?」

 

「一千万!!」

 

私は皮袋を開け、中から溢れ出す金貨のまばゆい輝きを見て、満面の笑みを浮かべた。

 

「交渉成立ね! はい、これお返しします。あ、お二人には風邪ひかないようにって伝えといてね」

 

私は道具袋からガシャガシャと戦利品の山を取り出して護衛に押し付け、一千万ヴァリスの袋を大事に抱きしめた。

 

「それじゃ、私はこれで!」

 

ヒールを鳴らして黄昏の館へ帰っていく私の背中を、フレイヤは呆れと、そして底知れぬ怪物を見たような深い感嘆が入り混じった眼差しで見送っていた。

 

結果として、オラリオの最強派閥にすら「あの遊び人には絶対に関わるな」という暗黙の了解が刻み込まれた夜。

私の懐は限界まで潤い、明日からの酒のランクはまた一つ上がることになったのだった。

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