ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第十九話:正義の葛藤と、遊び人の実力

アストレア・ファミリアのホーム。

朝の冷たい空気が漂う中、出撃の準備を進める団員たちの顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。

 

連日のように街を騒がせる闇派閥(イヴィルス)の対応により、彼女たちの体力と精神力は限界に近づきつつある。そんな重苦しい空気のミーティングの席で、私はふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば、言うのを忘れてたんだけど。私、攻撃や睡眠以外にも、味方を強化する補助魔法や、回復魔法が使えるのよ」

 

私がそう切り出すと、武器の手入れをしていたアリーゼやライラ、そしてリューたちが一斉に手を止め、目を丸くした。

 

「強化魔法に回復魔法!? バニーちゃん、攻撃や状態異常の魔法だけじゃなかったの!?」

 

アリーゼが勢いよく身を乗り出してくる。

ダンまちの世界において、回復魔法(ヒーラー)を使える魔道士は非常に希少だ。それに加えて強化魔法(バフ)まで使えるとなれば、一個小隊の戦力を劇的に引き上げることができる。

 

「ええ。百聞は一見に如かずね。ちょっとみんな、そこに立ってみて」

 

私は立ち上がり、彼女たちに向けて無詠唱で魔法を放った。

 

「全員の防御力を上げるわ。スクルト!」

 

不可視の魔力が空間を揺らし、淡い光のベールとなってアリーゼたちを包み込む。

 

「な、なんだこれは……!? 体が、見えない分厚い鎧に守られているような……」

 

リューが自分の腕をさすりながら、信じられないものを見るような声を上げた。

普段は軽装であるはずの彼女たちの体に、重装歩兵以上の絶対的な堅牢さが付与されたのだ。

 

「次は全員の素早さを上げるわよ。ピオリム!」

 

再び光が弾け、今度は一陣の風が彼女たちの足元を駆け抜けた。

 

「うおっ!? なんだこれ、体が羽みたいに軽い! これならアタシ、普段の倍のスピードで動けるぞ!」

 

ライラがその場で軽くステップを踏むと、ブレるような異常な速度で短剣を振ってみせた。

疲労で重かったはずの彼女たちの体は、今や万全の時以上の活力をみなぎらせている。

 

「すごい……! バニーちゃん、これだけの多重魔法を無詠唱で、しかも全員にかけられるなんて……!」

 

アリーゼが興奮した様子で剣を構え直し、爛々と目を輝かせた。

 

「ふふん、これで今日のパトロールは楽勝ね。さあ、安全に稼ぎに行きましょ!」

 

◇ ◇ ◇

 

その日の昼下がり。

私たちがパトロールで歓楽街の裏通りに足を踏み入れた時のことだった。

血と泥の匂いが混じる淀んだ空気の中、薄暗い路地から数人の男たちが姿を現した。

 

「チッ、アストレア・ファミリアの犬どもか! 嗅ぎつけやがって!」

 

覆面で顔を隠したイヴィルスの残党たちだ。

彼らの背後からは、違法にテイムされたと思われる、鋭い牙を剥き出しにした数頭の凶暴なワーハウンドが低い唸り声を上げている。

 

「みんな、行くわよ!」

 

アリーゼの凛とした号令とともに、戦闘が開始された。

 

「ピオリム! スクルト!」

 

私は即座に、朝見せた補助魔法をパーティー全体に展開した。

魔法による圧倒的な加速と絶対の防御を得たアリーゼたちは、まさに鬼神の如き強さを発揮した。

 

「はぁぁぁッ!」

 

アリーゼの炎を纏った剣撃が、ワーハウンドを次々と薙ぎ払う。

 

「ふっ、たぁッ!」

 

リューの木刀が、目にも留まらぬ速さでイヴィルスの男たちを的確に打ち据えていく。

敵が放ったヤケクソの斬撃がリューの肩を掠めたが、スクルトの分厚い魔力障壁に弾かれ、彼女の肌には傷一つ付かなかった。

 

「これなら、いくらでもいけるさ!」

 

ライラも縦横無尽に駆け回り、敵の死角から次々と鋭い一撃を入れていく。

私たちの圧倒的な優位で戦闘は終わるかと思われた。

しかし、窮地に陥ったイヴィルスの男の一人が、懐から小瓶を取り出し、地面に叩き割ったのだ。

 

「ライラ、危ない! 毒煙よ!」

 

アリーゼの叫び声。

割れた小瓶から紫色の煙が噴き出し、最前線にいたライラの視界を奪う。

むせたライラの隙を突き、死に体のワーハウンドがその鋭い爪を振り下ろした。

 

「痛っ……!」

 

ライラが顔をしかめ、体勢を崩す。

彼女の二の腕から、赤い血が激しく吹き出した。

 

(しまった……!)

 

リューが助けに入ろうとするが、距離が遠い。

しかし、私は慌てることなく即座に杖を向けた。

 

「キアリー!」

 

続けて「ホイミ!」

 

柔らかな癒やしの光が、ライラの傷口を優しく包み込んだ。

次の瞬間、パックリと開いていた傷口が一瞬にして塞がり、毒や血の跡すら綺麗に消え去った。

 

「えっ……嘘、もう治った!?」

 

ライラが信じられないといった様子で自分の腕を撫でる。

ポーションを取り出す隙すら与えない、無詠唱による即効性の治癒魔法。

その光景を横目で見ていたリューは、息を呑んで硬直していた。

 

「無詠唱での、あの回復速度……。エルフの王族であるリヴェリア様すら凌駕しているかもしれない……」

 

リューの驚愕をよそに、私は前衛に出て杖を振りかぶった。

 

「さあ、残りの雑魚は私が片付けるわ! ヒャダルコ!」

 

私が力ある言葉を紡いだ瞬間、路地裏の空気が一気に凍てついた。

杖の先端から放たれた猛烈な吹雪と鋭い氷の刃が、残っていたモンスターとイヴィルスの男たちを飲み込む。

 

「ぎゃああああ……ッ!?」

 

男たちの悲鳴は一瞬で途絶え、彼らは身動き一つとれない氷の彫像と化して、その場に崩れ落ちた。

 

「ふう、お疲れ様。さてと……没収没収〜」

 

私は鼻歌を歌いながら、カチコチに凍りついた男たちの身ぐるみを、息をするように自然な動作で剥がし始めた。

 

「……」

 

リューは、そんな私を複雑な眼差しで見つめていた。

これまでは、ただの破廉恥な格好をした金汚い追い剥ぎ女だと思っていた。

しかし、先ほどの戦況を的確に見極めた支援、仲間を即座に癒やしたあの温かい光、そして圧倒的な殲滅力。

 

(あの魔法の腕と、仲間を的確に庇う判断力は紛れもなく本物……。私の彼女への見方が、偏見に満ちていたというのか……?)

 

リューの心の中で、私に対する評価が静かに、しかし確実に変わり始めていた。

 

◇ ◇ ◇

 

その日の夜。

リューは、パトロールの報酬である換金したヴァリスの束を渡すため、私がいるという大衆酒場を訪れた。

 

(彼女は、やり方は乱暴だが、確かな実力と仲間への慈愛を持った立派な魔道士だ。これまでの非礼を詫び、きちんと敬意を払わねば……)

 

リューは酒場の重たい木の扉の前で一つ深呼吸をし、意を決して中へと足を踏み入れた。

 

「あら、リューちゃんじゃない! ぐふふ、こっちこっち〜!」

 

「……え?」

 

リューの目に飛び込んできたのは、喧騒に包まれたカウンター席で、バニースーツのまま大股を開き、顔を真っ赤にして特大のジョッキを掲げている私の姿だった。

 

「ぷはーっ! やっぱ仕事終わりのエールは最高ね! おいマスター、こっちのから揚げ追加! あと高いワインも開けちゃって!」

 

私は完全に出来上がっており、隣に座っていた見知らぬドワーフのおじさんたちと肩を組んで大声で笑っている。

 

「いやー、今日のアストレアの子たちは頑張ってたわよ! あの野郎どものパンツまで剥ぎ取ってやろうかと思ったけど、さすがにやめといたわ! ぎゃはははは!」

 

「「「がっはっは! 姉ちゃん最高だな!」」」

 

「……」

 

リューは、入り口に立ったまま完全に石化していた。

昼間に見た、冷徹で頼もしい魔法使いの面影は微塵もなく、そこにあるのは、欲望のままに酒を浴び、下品な笑い声を上げるただの酔っ払いの姿だった。

 

(あ、あの人は……やはりただの破廉恥で下品な女です……! しかし、あの魔法の実力は認めざるを得ない……っ!)

 

「おーいリューちゃん! 突っ立ってないで一緒に飲もうよ! お姉さんが奢ってあげるからさ!」

 

私がジョッキを振り回しながら手招きする。

 

「わ、私は遠慮しておきますっ……!!」

 

リューは真っ赤な顔で報酬の入った皮袋を近くのテーブルに叩きつけると、脱兎のごとく酒場から逃げ出していった。

 

「あれー? 帰っちゃった。まあいいわ、マスター、おかわり!」

 

認めたくない気持ちと、認めざるを得ない気持ち。

生真面目なエルフの少女の胃薬がさらに増える日々は、まだまだ続きそうであった。

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