ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第二話:ドラクエ世界のバニーガールさんがオラリオにやってきたよ

荷馬車に揺られること数時間。

荒野の向こうに、天を突くような巨大な塔が見えてきた。

 

「あれが、世界の中心……迷宮都市オラリオの象徴、『バベル』です」

 

御者台で手綱を握る商人が、畏敬の念を込めて指を差す。

その周囲をぐるりと囲むのは、途方もなく高く分厚い城壁だ。アレフガルドの竜の女王の城だって、あんなに巨大じゃなかった。

 

「へえ、すごい立派な街じゃない。酒場も期待できそうね」

 

私はウサ耳を揺らしながら、荷台の上で軽く背伸びをした。

ゴブリンの群れを蹴散らした程度の運動では息一つ乱れないが、それでも体の奥底にある魔力(MP)のタンクや、体力の上限が以前より小さくなっているのは明確に感じ取れる。

 

(大魔王ゾーマを倒した時、私のレベルは40。そこから遊び人に転職してレベル1に戻ったから、ステータスはきっちり半分ね)

 

レベル40といえば、勇者たちと共に死線を潜り抜け、あらゆる呪文を習得し終えた一流の魔法使いだ。そのステータスが半分になったとはいえ、基礎体力はそこらの戦士よりずっと高いし、魔法のレパートリーもそのまま。

 

ただ、最大MPも半分になっているため、大魔王戦の時のように高位の呪文を乱発すれば、あっという間に息切れしてしまうだろう。

 

(まぁ、もう世界を救う必要もないし。適度に魔法をやりくりして、あとは楽しく遊ぶだけよ)

 

「ほら、見てください。門の警備を」

 

商人の声に顔を上げると、巨大な正門の前には物々しい空気が漂っていた。

象の仮面を被った屈強な戦士たちが立ち並び、出入りする旅人や商人の荷物をひっくり返す勢いで検めている。

 

「彼らは都市の治安維持を担う『ガネーシャ・ファミリア』の者たちです。今は暗黒期……闇の派閥(イヴィルス)というテロリストが猛威を振るっておりまして、あのように厳戒態勢が敷かれているのですよ」

 

やがて私たちの荷馬車の番が回ってくる。

象の仮面を被った門番は、商人の顔とギルドの許可証を確認した後、荷台で足を組んで座っている私を見て、油断なく目を細めた。

 

「……そこの女。入市記録を取る。身分証はあるか? それと、随分と奇抜な格好だが……何が目的でこの街へ来た」

 

「身分証はないわ。目的は……そうね、お酒を飲んで遊ぶためかな。ちなみにこれは由緒正しき『遊び人』の正装、バニースーツよ」

 

私が微笑んで答えると、門番は呆れたように、だが警戒を解かずに商人を見た。

 

「商人よ。この女は何者だ?」

 

「わ、私の護衛です! 荒野で魔物に襲われたところを、このお嬢さんが素手であっという間に倒してくれまして……そのまま雇い入れたのです」

 

「護衛? その格好で素手で魔物を?」

 

門番の視線が、私の網タイツやハイレグの露出部分を鋭く舐めるように動く。

 

「おい、女。お前はどこのファミリアの所属だ? 神の恩恵(ファルナ)を確認させてもらうぞ」

 

「ファミリア? ファルナ? 何それ。私、そういう組織には入ってないわよ。しいて言うならルビス様くらいかな」

 

その答えに、門番は怪訝に眉をひそめた。

 

「恩恵を持たない、ただの一般人だと言うのか。……外の傭兵なら恩恵なしで魔物を狩る者もいるが、今は暗黒期の厳戒態勢だ。身元不明で目的も不純な者を、ハイそうですかと通すわけにはいかんぞ。入市を拒否されても文句は言えん立場だと理解しているか?」

 

真っ当な判断だ。

こんなピリピリした時期に、身元不明のバニーガールが「遊びに来た」と言って堂々とやって来たら、追い返されて当然だろう。ガネーシャの警備隊は真面目に仕事をしているらしい。

ここで暴れて強行突破するのは簡単だが、無駄な体力やMPは使いたくないし、犯罪者になってしまっては酒場でゆっくりお酒を飲めなくなってしまう。

 

「ちょっと待ってよ。私は本当にただの通りすがりの遊び人。……まあ、昔はちょっと魔法が使えたから、身を守るくらいはできるし、怪我の治療だってできるわ。有益な旅人よ」

 

私は荷台からふわりと飛び降りると、槍を構えて一番前に立っていた門番の腕を指差した。

彼の腕には、つい最近つけられたらしい、真新しい刃物の切り傷があった。

 

「【ホイミ】」

 

私がその短い呪文を口にした瞬間、指先から温かい光が溢れ出し、門番の腕を包み込んだ。

初級の回復呪文なら、半減したMPでも痛くも痒くもない。光が収まると、門番の腕にあった傷は跡形もなく消え去っていた。

 

「なっ……!?」

 

先程まで冷静に私を尋問していた門番の顔が、驚愕に歪んだ。

 

「キズ薬(ポーション)の類も使わずに……魔法だと!? しかも、恩恵もなしに、詠唱すら……!?」

 

周囲の兵士たちも目を見開き、ざわめきが広がる。

この世界では、神の恩恵や精霊の血筋でもない限り、人間が魔法を使うことはあり得ないらしい。ましてや無詠唱での回復魔法など、彼らの常識の範疇を超えていたのだ。

 

「これでも私を追い返す? 街の怪我人を治してあげることもできるのよ?」

 

「……ッ」

 

門番は完全に混乱し、隣の兵士と顔を見合わせた。

しかし、彼らはオラリオの治安維持を任されたプロだ。すぐに動揺を押し殺し、小声で言葉を交わす。

 

「どうする。恩恵を持たず無詠唱魔法を使うなど、聞いたことがない異常事態だぞ」

 

「だが、ギルドの許可証を持つ商人が身元を保証している。現状、彼女は法を犯したわけでもなく、ただの奇抜な治癒術師だ。理由もなく拘束や入市拒否をすれば、ギルドの規定に反する」

 

「……やむを得ん。通すぞ。だが、すぐにギルド本部と団長にこの『異常(イレギュラー)』を報告しろ。監視の目をつけろよ」

 

ヒソヒソ話が終わると、門番は咳払いを一つして私に向き直った。

 

「……よかろう。商人の保証と、その治癒の力に免じて入市を許可する。だが、妙な真似をすればすぐにガネーシャ・ファミリアが動くと思え」

 

「ふふっ、分かったわ。ありがとう」

 

重い鉄格子が上がり、私たちは迷宮都市オラリオの内部へと足を踏み入れた。

しかし、そこは私の想像していた「華やかな大都市」とは少し違っていた。

立ち並ぶ石造りの建物には生々しい破壊の爪痕が残り、行き交う人々の顔には一様に暗い影が落ちている。路地裏からは、不穏な匂いが漂ってくる。

これが、商人の言っていた『暗黒期』。

 

「……ま、とりあえずは酒場ね! 喉がカラカラよ。おじさん、約束通り一番美味しいお酒を飲ませてよね!」

 

私は暗い都市の空気や、背中に突き刺さる門番たちの警戒の視線など意に介さず、ウサ耳を揺らしながら商人の背中を叩いた。

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