ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第二十話:リューvs元賢者の遊び人

「……やはり、あなたは本性を現しましたね」

 

人気の少ない薄暗い路地裏。

冷たい夜風が吹き抜ける中、鋭い殺気を放ちながら木刀を構えるリューに対し、私はわざとらしく口元を歪め、怪しげな笑みを浮かべてみせた。

 

「ふふふ……気付くのが遅かったわね、リューちゃん。こうなったら、大人しく私に従ってもらうわよ」

 

事の始まりは数時間前。

その日のパトロールを終えた後、「私はもう少し見回りを続けます」と一人で夜の街へ向かおうとしたリューを、私がわざと怪しい手口でこの路地裏へと誘い出したのだ。

 

「最近の活躍で少しは見直していましたが……あなたが闇派閥(イヴィルス)のスパイだったというなら、アストレア様の正義に誓って、私がここで討ち果たします!」

 

悲壮な決意を込めて宣言するリュー。

しかし、その言葉に私は思わず素で首を傾げてしまった。

 

「えっ? いや……闇派閥とかじゃないんだけど……」

 

「まだしらを切るつもりですか! 私をこの人気のない路地に誘い込んだのが何よりの証拠!!」

 

「いや、ただちょっと付いてきてほしかっただけで……」

 

「問答無用です! はぁッ!!」

 

完全にスパイだと信じ込んだリューが地を蹴った。

石畳が砕け、目にも留まらぬ速さで木刀の刺突が迫ってくる。

 

「あーもう、説明するの面倒くさい! ええい、とりあえず寝なさい! 【マヌーサ】!」

 

私は迫り来るリューに向けて、杖から淡い光の霧を噴き出させた。

リューの鋭い一撃が私の首筋を捉える――かと思いきや、木刀は私の体をすり抜けるように空を切った。

 

「なっ……幻影!? いいえ、私の距離感が狂わされている……ッ!?」

 

絶対の自信を持って放たれた一撃を外したリューが、驚愕に目を見開く。

対象の視覚情報を強制的にバグらせる幻惑の魔法だ。

 

「ならば、気配と音で……!」

 

リューは即座に目を閉じ、エルフ特有の鋭敏な聴覚と直感で私の位置を割り出そうとした。

並の魔法使いなら、これで対応されていただろう。だが、私のアプローチは物理的な法則を完全に無視している。

 

「甘いわよ! 次はこれ! 【メダパニ】!」

 

「くっ……あ、あれ……? 右が、左で……地面が、空……?」

 

不可視の魔力波を浴びた瞬間、リューの三半規管と認識能力が完全に破壊された。

強烈な混乱魔法を受けたリューの焦点が定まらなくなり、彼女はふらふらと千鳥足でその場を歩き回り始める。

 

「私が……二人……? いえ、街が回って……そこにいるのは、誰です……っ!」

 

強靭なエルフの精神力で必死に混乱に抗い、リューはデタラメな方向に木刀を振り回す。しかし、その一撃は虚しく路地裏のレンガ壁を砕くだけだった。

そんな必死なリューに対し、私はわざとらしくネットリとした怪しい声色を作って囁いた。

 

「ふふふ……さぁ〜、お姉さんと一緒にいい所にいきましょうね〜」

 

「くっ、やはり……闇派閥の、人身売買……! 誰が、あなたなんかに……!」

 

リューが悲痛な声を上げ、さらに混乱と絶望を深める。

完全に勘違いが加速しているが、ここまで来たらどうせ起きたら全部わかることだ。

 

「いや人身売買じゃないんだけどね。すごいわね、メダパニを受けてまだ立っていられるなんて。でも……仕上げよ、【ラリホー】!」

 

「あ……アストレア、様……申し訳、ありま……」

 

強制的な睡魔の波がリューの意識を刈り取る。

パタリ、と。

彼女は静かに地面に崩れ落ち、まるで子供のように幸せそうな寝息を立て始めた。

 

「ふう、ミッションコンプリート。さすがにちょっと可哀想だったかしら。……さて、会場に向かいますか」

 

私は眠ったリューをヒョイと肩に担ぎ上げ、ネオンが輝く夜の歓楽街へと歩き出した。

 

◇ ◇ ◇

 

「……はっ!?」

 

次にリューが目を覚ました時。

彼女の視界に飛び込んできたのは、闇派閥の恐ろしい拷問部屋や、冷たい地下牢……ではなかった。

 

「おっ、起きたかリュー! こっちの串焼き、冷める前に食いなよ!」

 

「あはは、バニーちゃん飲み過ぎ! そのジョッキで何杯目!?」

 

そこは、焼けた肉の匂いとエール酒の香りが漂う、ひどく騒がしい大衆酒場だった。

混乱するリューの隣では、私が両手に特大のジョッキを持ち、顔を真っ赤にして大はしゃぎしている。

 

「飲ぉんでー! 飲ぉんでー! 飲んでー回ってぇー!」

 

「バ、バニー!? なぜあなたがここに……はっ! アリーゼ、ライラ! 逃げてください! その女は闇派閥の……!」

 

リューが慌てて立ち上がり、腰の木刀に手を伸ばそうとする。

しかし、アリーゼが優しく微笑みながら、その肩をそっと押さえた。

 

「あはは、ごめんねリュー。ちょっと乱暴だったみたいだけど、全部ただのドッキリというか、バニーちゃんに頼んだことなの」

 

「……はい?」

 

事の顛末はこうだ。

今日、アストレア・ファミリアの面々は、連日の私の活躍に感謝して『お礼の食事会』を開こうと提案してくれた。

 

(えっ、本当!? お酒も飲んでいいの!? 好きなだけ!?)

 

私が目を輝かせて食いつくと、アリーゼは笑って快諾してくれた。

しかし、そこで一つ問題が浮上したのだ。

 

(でも、リューはこういう賑やかな場には中々参加してくれないのよね。『私は見回りを続けます』って言って、いつも休もうとしないから……)

 

(なるほど。なら、私に任せなさい! ちょっと怪しい感じで誘い出して、有無を言わさず連行してくるから!)

 

「――というわけで、バニーちゃんが自信満々に言うからお任せしたの。まさか、魔法のフルコースで眠らされて運ばれてくるとは思わなかったけどね」

 

アリーゼの説明を聞き、リューはワナワナと肩を震わせ、隣で酒を浴びる私を睨みつけた。

 

「そ、そんな理由で……私にこれほど理不尽で強力な精神魔法を、幾重にもかけたというのですか……!?」

 

「まあまあ、リュー。怒らないの」

 

アリーゼが、リューの前に冷えた果実水の入ったグラスをことり、と置いた。

その表情は、いつもの快活な団長のものではなく、不器用な仲間を心から案じる優しい少女のものだった。

 

「正義の活動も、もちろん大切よ。でも、私たちは神様じゃない、ただの女の子だもの。リューはいつも気を張り詰めすぎなのよ」

 

「アリーゼ……」

 

「たまにはこうやって、みんなで楽しく飲んで、笑って、息抜きをしましょ。それに、今日はバニーちゃんの歓迎会も兼ねてるんだから」

 

アリーゼの温かい言葉に、リューは小さく息を吐き、張り詰めていた肩の力を抜いた。

 

「ほらリューちゃんも! 固いこと言ってないで一緒に乾杯しよ! ぷはーっ!」

 

私が隣から空のジョッキを突き出し、ライラも串焼きを片手にニヤニヤと笑いかけてくる。

 

「……あなたという人は、本当に無茶苦茶です。寿命が縮むかと思いました」

 

文句を言いながらも、リューはそっと自分のグラスを手に取った。

賑やかに笑い合う仲間たちと、欲望のままにお酒を飲み干す破廉恥なウサギ。

その温かく騒がしい光景を見つめながら、

 

「乾杯」

 

と呟いたエルフの少女の口元には、ほんの少しだけ、柔らかく安堵に満ちた笑みが浮かんでいた。




働いてきますーヽ(;▽;)ノ
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