ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館。
与えられた自室の机に向かい、私は羽ペンを走らせていた。
「うーん……空間の座標指定を、こう、別の次元軸にズラして……魔力出力は三倍くらいで……」
賢そうな銀縁のメガネを鼻眼鏡にかけ、真剣な顔で羊皮紙に複雑な術式を書き込んでいく。
勿論、服装はいつもの露出度が高いバニースーツのままだ。私としては、どんな時であってもこの正装をきちんと着こなすという、強いこだわりがあるのだ。
カリカリというペンの音だけが響く部屋に、控えめなノックの音が聞こえた。
「バニー、入ってもいいかい?」
「ええ、開いてるわよ」
扉を開けて入ってきたのは、ロキ・ファミリアの団長であるフィンだった。
「君が一日中部屋にこもって真面目に何かをしていると聞いたからね。珍しくてつい見に来てしまったよ。……一体何をやっているんだい?」
フィンは、私の顔にかかったメガネと、机の上に散乱する羊皮紙を見て目を丸くした。
「ああ、ちょっとね。元の世界に戻る方法を考えてたの」
「元の世界に……? それは、何か上手くいきそうな当てができたのかい?」
「そうよ。私、一度行ったことのある場所なら瞬時に移動できる『ルーラ』っていう魔法が使えるんだけど、その空間跳躍の理論を基準にして、元の世界に戻る術式を開発できないかと思ってね。使える魔法を組み替えて、術式を改良して新しい魔法を創り出すのよ」
私がサラリと言うと、フィンは絶句したまま固まってしまった。
「……移動魔法、だって……? それだけでも破格の魔法だというのに……既存の魔法を組み替えて、術式を改良して新たな魔法を創り出す……?」
フィンの声が、微かに震えている。
このオラリオにおいて、魔法とは神から与えられる恩恵(ファルナ)の枠組みで発現するものであり、個人が自由に術式をいじって新しい魔法を作るなど、常識の範疇を完全に逸脱しているのだ。
「リヴェリアですら、そんな真似は出来ないっていうのに……。君は本当に、どこまで僕たちの常識を壊せば気が済むんだい……?」
フィンが頭を抱えて呻いているのを横目に、私は再び羊皮紙に向かってペンを走らせた。
◇ ◇ ◇
そして、夜。
「出来たぁぁぁっ!!」
私が部屋の中で歓声を上げると、廊下を通りかかったのか、フィンだけでなく、ガレス、リヴェリア、ロキ、そしてアイズが連れ立って部屋にやってきた。
「バニー、随分と騒がしいが……一体何が出来たというんだ?」
リヴェリアが、床に描かれたものを見て怪訝そうに尋ねてくる。
私は、床に描いた直径二メートルほどの複雑な魔法陣を指差した。
「ええ。昼間にフィンにも話したんだけど、これ、別の次元に跳躍するための魔法陣なの。使い捨ての陣だけど、これに魔力を通せば発動するわ。元の世界に繋がるかは分からないけど、次元を跳躍する理論自体は完璧なはずよ」
「次元の跳躍やと!? マジか……お前、ホンマに何でもありやな……」
ロキが呆れたように呟く。
その時、アイズがトテトテと私の前に歩み寄り、私のバニースーツの裾をぎゅっと掴んだ。
「バニー、帰っちゃうの……?」
純真な金色の瞳が、不安そうに揺れている。
どうやら、私がこのままお別れも言わずに元の世界へ帰ってしまうと思ったらしい。
「ふふっ、大丈夫よアイズちゃん。これはあくまで試験的な魔法陣だから、帰らないわよ」
私はアイズの頭を優しく撫でた。
「この術式はね、安全装置を組み込んであって、転移してから十分ちょっと経ったら、自動的に強制送還されてここに戻ってくるようになってるの。魔法陣は一回使ったら消えちゃう使い捨てだから、もし別の世界に飛んだ後で、向こうでまたゼロから帰還用の魔法陣を作り直さなきゃいけなくなったら大変でしょ? だから今回はあくまで、この方法で上手く次元を越えられるかどうかの検証なのよ」
「……ほんと? ちゃんと、戻ってくる?」
「ええ、約束するわ。十分後にはちゃんとここにいるから」
私がウインクをして見せると、アイズはホッとしたように表情を緩め、頷いた。
「それなら、安心した。……いってらっしゃい、バニー」
「おっしゃ、じゃあ魔力を通すわよ! ちょっと行ってくるわね!」
私は魔法陣の中心に立ち、足元の陣に向けて直接魔力を流し込んだ。
カァァァァッ……!
魔法陣が目も眩むような光を放ち、空間がぐにゃりと歪む。
「おぉっ……!」
フィンたちの驚きの声が遠ざかり、私の視界は白一色に染まった。
◇ ◇ ◇
――ドンッ!!
光が晴れた瞬間、私の耳を劈いたのは、凄まじい爆発音だった。
転移した先は、ゴツゴツとした岩肌が広がる荒野のような場所。
そこで繰り広げられていたのは、目を疑うような絶望的な光景だった。
「ぐわあああああっ!!」
少年のような声の悲鳴。
見れば、緑色の服を着た少年が、全身を猛烈な炎に包まれて火だるまになっていた。
「ポップ!!」
額に不思議な紋章を輝かせた少年――ダイが、悲痛な叫び声を上げる。
火だるまになった少年(ポップ)の着ていた服が、ボロボロと崩れ落ちていく。
「くっ……法術で編んだ法衣が、一瞬でこんなにボロボロに……! これが、メラゾーマだっていうのか……!?」
ポップと呼ばれた少年が、苦痛に顔を歪めながらも、信じられないものを見るような目で前方を見据えていた。
その視線の先には、白いローブを纏った、白髪で老人ほどの体格の、しかし底知れぬ威圧感を放つ魔族が立っていた。
大魔王バーン。
彼が、薄く笑いながら静かに口を開く。
「……今のはメラゾーマではない。……メラだ」
「な……なんだって……!?」
小さな火の玉であるはずの『メラ』が、自らの最強魔法である『メラゾーマ』以上の威力を持っている。
その絶望的な事実に、ダイやポップたちが完全に心を折られかけた、その時だった。
「……えっと、これどういう状況?」
「「「……え?」」」
大魔王と勇者一行の間に流れていた、息の詰まるような絶望的な空気を完全にぶち壊し、私がバニースーツ姿のまま、彼らのど真ん中にひょっこりと現れたのだ。
誰かが黒焦げにされて倒れ伏し、尋常ではない殺気と絶望が入り混じる戦場。
そんな場所に突如として現れた破廉恥なウサギ女を前に、ダイたち一行は完全に思考を停止させて固まっていた。
炎の余韻が燻る荒野で、大魔王バーンが静かに目を細め、低く威厳のある声を響かせた。
「……何者だ」
|・ω・*)チラ