ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
「正体を表してもらうぞ」
バーンの指先から、小さな火の玉が放たれた。
それは、ゆっくりとした軌道で私へと向かってくる。
「あっ、アンタ! あの炎はっ……ゲホゲホッ!」
緑色の服の少年――ポップが、血相を変えて警告しようとするが、激しく咳き込んで言葉が続かない。
私は一瞬、怪訝な表情を浮かべた。
向かってくるのは、ただの小さな火の粉にしか見えない。しかし、よく見るとその内側には、尋常ではない密度で圧縮された凄まじい魔力が込められていたのだ。
(これ、見た目以上にヤバいやつね。念の為……)
「マヒャド!」
私は片手を向け、極寒の冷気をぶつけてその火の玉を相殺し、完全に鎮火させた。
「えっ……!?」
「嘘だろ……」
マァムが目を見開き、ポップが信じられないものを見るような顔で私を見つめる。
バーンは消え去った炎の跡を見て、静かに目を細めた。
「ほう……。どこからともなくこの場に現れたのだから、ただの人間ではないとは思っていたが、よもやマヒャドで相殺するとはな。確かにこれは、ただの踊り子ではないようだ」
バーンは微かに笑うと、今度は片手を掲げた。
「では、これはどうかな?」
その手のひらに、巨大な炎の鳥が生み出される。
圧倒的な熱量が、大魔宮の空気をジリジリと焦がし始めた。
「あの……カッコよくて強そうでとっても紳士そうなお爺ちゃん、ただの遊び人の女の子相手に、そんな怖い魔法を向けるようなもんじゃないと思うんだけど……」
私が苦笑いしながら言うと、バーンは余裕の笑みを崩さずに答えた。
「なに、問題はなかろう? それにそなたは、大魔王ゾーマを倒した勇者一行の賢者なのであろう? そのような者を相手に、さしもの余も、ただのメラで相手をするのは失礼であったというものだ」
「……は? さっきの強そうな火が、ただのメラ!?」
私が素っ頓狂な声を上げる。
「さぁ、次はこれを凌いでみよ! 【カイザーフェニックス】!」
巨大な炎の鳥が、絶対的な破壊の意思を持って私へと襲いかかってきた。
「その炎はヤバい! 逃げろぉっ!!」
ポップが絶叫するが、私は逃げるどころかニヤリと笑い、両手を前に突き出した。
「マホカンタ!」
カァァァッ!!
不可視の魔法の鏡が展開され、直撃したカイザーフェニックスがそのまま真っ直ぐバーンへと跳ね返った。
「ほぅ…やるではないか」
バーンが軽く笑みを浮かべ、跳ね返ってきた自身の炎を片手で払いのける。
勇者一行は、自分達を襲った恐ろしい炎が弾き返された光景に完全に言葉を失っていた。
「なんかいきなり物語のクライマックスに登場したような気分だけど、これはちょっとマジでかからないとヤバいかもね」
私は息を吐き、スキルを発動させた。
「【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】!」
私の言葉と共に、バニースーツが眩い光に包まれる。
光が晴れた後、そこに立っていたのは、破廉恥な遊び人ではない。
至高の魔力を宿す『神鳥の法衣』を纏い、威厳ある『女神の盾』と『ほしのサークレット』を装備した、真の賢者の姿だった。
一瞬にして凄まじい魔力を放ち始めたその姿と装備の神々しさに、勇者陣営も大魔王陣営も驚愕に目を見張る。
「ピオリム! スカラ! バイキルト!」
私は自身に強化魔法を重ね掛けし、さらに素早さを上げるアイテム『ほしふるうでわ』を装着した。
「いくわよ!」
私が地を蹴った瞬間、その姿は完全にブレて残像と化した。
ただのバニーガールには到底不可能な、超常的な高速移動。
私はバーンの死角に回り込みながら、弱体化魔法を連続で放つ。
「ルカニ! ボミオス!」
しかし、不可視の魔力波がバーンの肉体に触れた瞬間、パチンと弾けるように霧散してしまった。
「……大魔王のお爺ちゃん、こっちの魔法が効かないって超ズル過ぎじゃない?」
私が不満げに文句を言うと、バーンは悠然と構えたまま笑った。
「なぁに、これでも余は先程そなたが言っていたゾーマと同じく、大魔王を名乗らせてもらっているのでな。このぐらいはさせてもらおう」
バニーは高速で動き回っている。
『神鳥の杖』から灼熱の炎を放ち、【マヌーサ】で視界を撹乱しつつ、隙を突いて極大爆発魔法【イオナズン】を直撃させる。
しかし、土煙が晴れた後、バーンは服の裾すら焦がすことなくピンピンしていた。
「中々やるではないか」
バーンはニヤリと笑う。
「全然効いてないー!!」
私が泣きそうな顔になると、今度はバーンが反撃とばかりに【イオラ】を連発してきた。
凄まじい威力の爆発が次々と巻き起こるが、私は『神鳥の法衣』と『女神の盾』を上手く活用しながら、それらを難なくさばいていく。
「ほう。余の魔法を真っ向から受け流すか……」
さすがの大魔王も、決定打を与えられない私の防御力に微かに感嘆の声を漏らした。
「というか、大魔王を倒す決定打って、普通勇者が持ってるもんでしょ! 物語とかでも、大魔王相手に魔法で無双出来る賢者っていなくない!? こんなの無理ゲーじゃない!」
私がわめきながら逃げ回る姿を見て、マァムやポップ、そして長髪の青年――ヒュンケルたちは言葉を失っていた。
決定打にはなっていないものの、先程まで指一本で自分たちを絶望させていた大魔王を相手に、突如現れたバニーガールの格好をした女性が、変身して確かに『戦闘』を成立させていたのだ。
「アンタ達! こんなバケモノお爺ちゃんが相手じゃ、無策じゃ無理よ! 早く逃げなさいっ!」
私が叫ぶと、ポップがハッとして声を張り上げた。
「でも、それじゃあアンタはっ!」
「私はもう少ししたら元の所に戻るようになってるから、心配しないでいいわ!」
「分かった! ……すまねぇっ!」
ポップがダイたちを連れて逃脱の準備を始める。
バーンがそれを阻止しようと動いた、その時だった。
「うおおおおおおおおっ!!」
突如として、大魔宮の壁をぶち破り、全身ボロボロの屈強な魔族の男――ハドラーが乱入してきたのだ。
彼はそのまま、一直線にバーンへと特攻を仕掛ける。
「ハドラー……!」
バーンがそちらに気を取られた瞬間、私の足元に眩い光の魔法陣が浮かび上がり、体が半透明に透け始めた。
(よし、そろそろ時間ね!)
「じゃあねお爺ちゃん! あとは任せたわよ、そこのボロボロの人!」
「……逃げられると思っているのか?」
バーンがこちらを振り向くが、すでに遅い。
私は大きく手を振り、光と共に大魔宮から完全に姿を消した。
◇ ◇ ◇
その後。
乱入してきたハドラーを退け、静寂を取り戻したバーンパレスの荒野。
ダイたち勇者一行も、無事にその場から撤退を果たしていた。
「……追いますか?」
沈黙を破り、キルバーンが静かに尋ねる。
バーンは、バニーが消え去った空間を見つめたまま、低く威厳のある声で命じた。
「キルバーン、そしてミストバーンよ。地上に残る、先程現れた人間の娘のような姿のものを徹底的に調べよ」
「う〜ん、たしかにあれは、只者じゃなかったですもんねぇ」
キルバーンが同意するように頷くと、バーンは微かに目を細めた。
「あれには、微かだが『神』の気配が感じられた」
「……!」
その言葉に、キルバーンと、沈黙を保っていたミストバーンが同時に驚愕の反応を示す。
バーンは静かに視線を遥か遠くの虚空へと向け、大魔宮に重く冷たい威圧感を漂わせながら口を開いた。
「この大魔王バーンから、そうやすやすと逃げられると思わぬことだ」
そうして魔界の大魔王は、遥か彼方の時空へ消えた謎の賢者に思いを馳せながら、静かに冷たい笑みを浮かべたのであった。
とりあえず一旦これで投稿ー!
仕事行ってきます!