ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第三話:イヴィルスの襲撃で飲んでたお酒が溢れちゃったんだけど…

商人に案内されたのは、冒険者たちが集う大衆酒場だった。

オラリオは「暗黒期」の真っ只中だというのに、いや、明日をも知れぬ命だからこそなのか、店内は殺気立った熱気とアルコールの匂いが充満していた。

 

「ぷはぁっ! やっぱり長旅の後はこれに限るわね!」

 

ドワーフ特製だという強いエールのジョッキをドンッとテーブルに置き、私は口元の泡を手の甲で拭った。

冷たい炭酸とアルコールが、乾いた喉と、少し小さくなった魔力のタンクに心地よく染み渡っていく。

 

「お、お気に召したようで何よりです……」

 

向かいの席で、商人は周囲の視線を気にしながら縮こまっていた。

無理もない。薄暗く殺伐とした酒場の中で、網タイツにハイレグのバニースーツを着た女が豪快に酒を煽っているのだ。周囲の荒くれた冒険者たちは、あからさまに値踏みするような、あるいは訝しむような視線をこちらに向けている。

 

「なに? あんたたちも飲みたいの?」

 

私がウサ耳を揺らしながら周囲を睨み返すと、冒険者たちはチッと舌打ちをして目を逸らした。

見た目はこんなだが、彼らの持つ気配くらいは分かる。いまの私でも十分にあしらえる相手だ。

 

「さて、おじさん。約束通り美味しいお酒も奢ってもらったし、ここで解散に――」

 

私が立ち上がろうとした、その時だった。

――ズドォォォォンッ!!

鼓膜を破るような爆発音が響き、酒場の壁が激しく揺れた。

天井からパラパラと土埃が落ち、ランプの火が揺らぐ。外の通りからは、人々の悲鳴と、下品な笑い声が聞こえてきた。

 

「ヒィィッ! イヴィルスの連中だ!」

 

「クソッ、よりによってこの通りを狙いやがったのか!」

 

酒場にいた冒険者たちが武器を手に立ち上がり、客たちはパニックに陥って店の奥へと逃げ込む。

 

「……あーあ」

 

私はテーブルの上を見つめた。

爆発の衝撃でジョッキが倒れ、おかわりしたばかりの黄金色のエールが、床に向かって虚しく滴り落ちている。

 

「私の、お酒……」

 

冷たい声が出た。

楽しい酒の席を台無しにする輩は、絶対に許さない。遊び人にとって、それは世界を闇に包むことよりも万死に値する重罪だ。

私はバニースーツの裾を軽く払い、喧騒に包まれる外の通りへと歩み出た。

 

「おい、姉ちゃん! 出ちゃダメだ、殺されるぞ!」

 

背後から名も知らぬ冒険者の制止する声と、商人の「ひぃっ」という悲鳴が聞こえたが、私は構わず酒場のスイングドアを蹴り開けた。

通りは凄惨な有様だった。

黒いローブを羽織った男たちが数人、禍々しいマジックアイテムや武器を掲げてゲラゲラと笑っている。彼らの足元には、逃げ遅れた一般市民が倒れていた。

 

「いいぞ! もっと火を放て! 神々の箱庭を恐怖で染め上げろ!」

 

「ちょっと、あんたたち」

 

ローブの男たちの背後から声をかけると、彼らは一斉にこちらを振り返った。

怒りと殺意に満ちた暗黒期の街並みの中で、ウサ耳をつけた私の姿は、あまりにも場違いだっただろう。

 

「あぁ? なんだお前、娼婦か? 狂った街にふさわしいイカれた格好だが――燃えカスになりな!」

 

男の一人が攻撃魔法の詠唱を始め、別の男が手にした火炎の魔石をこちらに向けて起動しようとした。

 

「【マホトーン】」

 

私は詠唱を始めた男にピタリと指を向けた。

対象を封じ込める呪いの波動が男を包み込み、その喉の奥で練られていた魔力が、霧散して不発に終わる。

 

「なっ!? 詠唱が……魔力が練れない! てめぇ、何をした!」

 

突然の不発に男が狼狽える。マホトーンは対象の呪文の発動を封じる魔法だ。

だが、もう一人の男が持っているような「魔石」や「魔法の杖」といったアイテムにマホトーンは効かない。元賢者として、そんな基本は骨の髄まで染み込んでいる。

 

「死ねっ!」

 

魔石が起動し、業火が放たれようとした瞬間。

私は地面を蹴り、すでに男の懐へと潜り込んでいた。

 

「アイテムには効かないから、こっちは物理でいくわよ」

 

「は……?」

 

バニースーツのピンヒールが、男の手首を的確に蹴り上げる。ゴキリという鈍い音と共に、魔石が手から弾き飛ばされて明後日の方向で虚しく爆発した。

 

「ぐあああっ!?」

 

「そして、おまけの【ヒャダルコ】」

 

至近距離で私がその呪文を口にした瞬間、指先から極寒の嵐が吹き荒れた。

鋭い氷の刃と猛吹雪が男の体を容赦なく打ち据える。パキィィィンッ! という涼やかな音と共に、男の体は一瞬で氷の彫像と化し、そのまま地面に倒れて砕け散った。

 

「ヒィッ!?」

 

「バケモノ……っ!!」

 

残りの男たちが恐れをなして逃げ出そうとしたが、遅い。

私はピンヒールで地面を滑るように移動し、回し蹴りと手刀を立て続けにお見舞いした。レベル40から半減したとはいえ、それでもただの人間の急所を打ち抜くには十分すぎる。

わずか十数秒。黒ローブの男たちは、誰一人として悲鳴を上げる間もなく、路地の冷たい石畳の上でゴミくずのように転がっていた。

 

「ふん。手応えがないわね」

 

私はウサ耳を揺らしながら、ため息をついた。

こぼれたお酒の恨みは晴らしたが、どうにも後味が悪い。

 

「……ほう」

 

その時。

路地の奥から、地鳴りのような低い声が響いた。

 

「今の動き、そして無詠唱の魔法。未知の魔法封じ……。おい、お前。どこのファミリアだ?」

 

ズシン、ズシンと。

重い足音と共に姿を現したのは、見上げるほどに巨大な体躯を持つ男だった。

身の丈をゆうに超える巨大な大剣を肩に担ぎ、その全身からは、先ほどの黒ローブの男たちとは比較にならない、圧倒的な『死』と『暴力』の気配が立ち昇っている。

この男が放つのは、圧倒的な強者の余裕と、全てを喰らい尽くす『底なしの飢餓』だ。

 

「こんなふざけた格好の強者がオラリオにいたとはな。……俺の食事の邪魔をされたのは不愉快だが、少しばかり興味が湧いた」

 

男は、飢えた獣のような目で私を見下ろした。

酒場から恐る恐る様子を窺っていた冒険者たちが、その男の顔を見て絶望の悲鳴を上げる。

 

「あ、悪食……! イヴィルスの幹部、『暴食』のザルドだぁぁっ!!」

 

周囲がパニックに陥る中、私は首をコキリと鳴らした。

なるほど、こいつが商人の言っていた怪物の一人か。

 

「あんたが暴食? ちょうどいいわ。あんたの部下のせいで、私のお酒がこぼれたのよ」

 

私はバニースーツの腰に手を当て、不敵に笑い返した。

 

「新しいお酒代……あんたに払ってもらうからね」

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