ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
翌日。
「バニーちゃん! バニーちゃん!」
宿屋の二階にある私の部屋の扉が、ドンドンドンッとけたたましく叩かれた。
声の主は、この宿を切り盛りしている恰幅の良い女将さんだ。
「は〜い……」
昨夜も酒場で遅くまで飲んでいたせいで、頭にはまだ少し眠気が残っている。
私は目を擦りながらベッドから這い出し、ゆっくりと部屋の扉を開けた。
「女将さん、どうしたの……?」
「どうしたのじゃないわよ! なんかお城の兵士さんが来てるわよ? バニーちゃん、もしかして何か悪い事でもしちゃったの?」
女将さんがひそひそ声で訝しむように聞いてくる。
「えっ、お城の兵士さん……?」
予想外の言葉に、私はすっかり眠気が吹き飛んだ。
「ちょっと待ってよ女将さん! こんないい子な私が、悪い事なんてするはずないでしょっ」
私が口を尖らせて抗議すると、女将さんは「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「いい子は毎日毎日飲んだくれてないわよ! ほらっ、外で待ってるみたいだから、さっさと兵士さんのところに行ってきな!」
「は〜い」
女将さんに背中を叩かれるようにして宿屋の外に向かうと、そこには本当にロマリア城の甲冑に身を包んだ兵士さんが一人、直立不動で立っていた。
「こんにちは。私がバニーだけど、兵士さんが何の用事なの?」
私が声をかけると、兵士さんはビシッと姿勢を正した。
「はっ! 私はロマリア王の使いで参った者であります。昨今、バニー殿がロマリアに越して来られてからというもの、近場のモンスターを精力的に退治して下さっていると聞き及びました。つきましては、ロマリア王が是非とも直接お話を聞いてみたいと仰せですので、ご足労願えないかと参上した次第です!」
「ロマリア王が私に?」
私は首を傾げて考えた。
確かに、ロマリアに移って来てからというもの、手持ちのお金がなくなったらそのたんびに城周辺のモンスターを片っ端から狩りにいっていた。どこからかそういう話が王様の耳に届いてしまうのも、不思議ではないのだろう。
「今からですか?」
「はい。よろしければ、バニー殿の準備が整い次第、謁見して頂きたいとのことです」
「う〜ん、分かりました。今は見ての通り寝巻きなので、着替えてくるから少しだけ待っててもらえますか?」
「承知いたしました。それでは、私はお迎えの馬車を手配して参りますので、準備が整いましたらこの宿屋の前でお待ちください」
「了解っと。それじゃあ着替えてくるからまた後でね」
私がひらひらと軽く手を振ると、兵士さんは私に向かって敬礼をし、きびきびとした足取りで馬車を呼びに向かった。
◇ ◇ ◇
十分後。
「あっ、あの、バニー殿……? そのお姿はいったい……」
宿屋の前に横付けされた立派な馬車の傍らで、兵士さんが分かりやすく困惑の表情を浮かべていた。
それもそのはず、私の着替え終わった姿は、体にぴったりとフィットした黒のレオタードに、網タイツ、そして頭にはウサギの耳――由緒正しきバニースーツだったからだ。
「遊び人の正装っていったらこれでしょ! 伝統みたいなもんだし、ダメなら私も考えるから、とりあえずこれでいかせてもらえない?」
私が堂々と胸を張って答えると、兵士さんは額に汗を浮かべながらも首を縦に振った。
「……かしこまりました。それでは、馬車の中へどうぞ」
そのまま私は馬車に揺られ、ロマリア城の中へと入っていく。
城の廊下を案内されながら、私は懐かしさに目を細めた。
(このお城に来るのも久しぶりね〜。前は勇者に付いてきただけだったから、私はお城の人と直接喋った事なんてないのよね。何だかちょっと不思議な気分だわ)
一人で謁見の間へと向かうこの状況がなんだか面白くて、私は思わず楽しそうに笑みをこぼしていた。
◇ ◇ ◇
通された謁見の間には、立派な玉座に腰掛けるロマリア王と、その傍らに立つ大臣の姿があった。
「おぉ〜! そなたがバニーであるか! 噂は聞いておるぞ? ここ最近は、ロマリアの治安向上の為に頑張ってくれているそうではないか」
王様が気さくな笑顔を浮かべて声をかけてくる。
「いや〜、それほどでも〜」
私が照れ隠しに頭を掻くと、王様は一度咳払いをしてから真剣な表情になった。
「実はな……そんなお主を見込んで頼みがあるのだ」
「頼みですか?」
(勇者でもないただの遊び人の私に、一国の王様が一体何を頼もうというのよ?)
私が訝しげに首を傾げると、王様は重々しく頷いた。
「ここロマリアからアッサラームへ向かう際の道中に、どうやら『あばれザル』の群れが住み着いてしまっているようなのだ」
「あばれザルですか?」
「うむ。この近辺に出現するモンスターの中でも、それなりに驚異度の高いモンスターじゃ。そいつらが群れで居座っているという事から、商人がひどく困っておっての」
「なるほど……」
「どうじゃ? もしやってもらえるなら、手付金として500ゴールド、成功報酬として1000ゴールド渡そう。勿論、これはお主の義務でも何でもないからの。断ってもらってもよいぞ。その際も、特にペナルティなどはない」
受けても受けなくてもよくて、しかも事前に手付金までもらえるというあまりにも良心的な好条件に、私は思わず目を丸くした。
(前回は、私が個人で王様から依頼を受けた事なんてなかったから、これはこれで感慨深いわね……)
王様から直接指名されてのクエスト。
なんだか自分が特別な冒険者になったような気がして、私のテンションは少しだけ上がっていた。
「分かりました! その依頼、受けさせて頂きます」
「おぉ〜! それは何とも嬉しい返事じゃな。日頃の治安維持も含めて、感謝するぞ」
王様は満足そうに何度も頷き、傍らの大臣もホッとしたように胸を撫で下ろした。
「では、こちらが手付金の500ゴールドです」
王様の隣に控えていた大臣から、ずっしりと重い革袋が手渡された。
「では、準備が整い次第頼むぞ」
王様が鷹揚に頷き、謁見は終了の空気を漂わせた。
だが、私は貰ったばかりの革袋を腰のポーチに放り込みながら、あっけらかんと答えた。
「あっ、特に準備なんかいらないので、今からでも大丈夫ですよ」
「それは頼もしいの! では、先程お主を案内した兵士が場所を案内するので、すまんが宜しく頼むぞ」
少し驚いたように目を丸くした王様だったが、すぐに嬉しそうに頷いた。
「任せて下さい!」
私は自信満々に、バニースーツの胸をドンッと張ってみせた。
◇ ◇ ◇
城を出た私は、再び案内役の兵士さんと共に馬車に乗り込み、アッサラームへと続く街道を進んでいた。
「バニー殿……あばれザルは凶悪なモンスターです。その……戦闘の経験はおありなのですか?」
馬車に揺られながら、向かいの席に座る兵士さんがひどく心配そうな顔で尋ねてくる。
見た目がバニーガールで、しかもたった一人で討伐に向かうのだから、彼が不安になるのも無理はない。
「あはは! 兵士さん、心配し過ぎ! 大丈夫よ! あんなのタダのちょっと大きい猿だから! 調子に乗ってるモンスターに、人間様の力を見せてあげましょ!」
私が明るい声で笑い飛ばすと、兵士さんは安心するどころか、武器らしい武器すら持たない丸腰の私の姿を見て、さらに緊張した顔をした。
「ゆ、油断はよくありませんぞ! 確かにあれは猿のモンスターですが、どちらかといえばキングコングに近い存在……くれぐれも慎重にいきましょう」
「もう、心配性ね〜」
私がカラカラと笑い飛ばすと、兵士さんは胃の辺りを押さえるようにして深い深いため息をついた。
ガラガラと車輪の音を響かせながら、馬車は街道を進んでいく。
やがて、目的地の近く――切り立った岩場が点在する荒野に差し掛かったところで、馬車がゆっくりと停車した。
「……あばれザルの数が、五匹から六匹に増えている」
馬車から降りた兵士さんが、真鍮でできた片目用の筒――単眼鏡(たんがんきょう)を覗き込みながら、驚愕の声を漏らした。
遠くの岩場に、筋骨隆々で凶悪な顔つきをした大猿のモンスターたちが群れているのが見える。
「バニー殿……一旦体勢を立て直して、また準備してから訪れましょう。アレは一個人で相手をするには難しいと思われます。王より賜った手付金で、戦士か魔法使いを雇った方が安全かと思われますが……」
兵士さんの震える声に、私は全く気にした様子もなく手をヒラヒラと振った。
「大丈夫だって! もう、兵士さんは心配性ね〜」
「しかし……」
「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「あっ! バっ、バニー殿! お待ちをっ!」
制止しようとする兵士さんを置いて、私はひょいひょいと軽い足取りで岩場へと近付いていった。
そして、群れを成して威嚇し合っているあばれザルたちの前まで来ると、腰に手を当てて大声を上げた。
「へいへいそこのお猿さ〜ん! ちょっとそこにたむろされると、人間様の邪魔だからあっちに行ってくんないかな〜?」
「バニー殿!?」
背後から兵士さんの悲鳴のような声が聞こえた。
突然現れたバニーガールの挑発に、六匹のあばれザルが一斉にこちらを振り向く。
『グオォォォォッ!!』
群れのボスらしき一際大きな猿が胸を叩いてドラミングを始めると、他の猿たちも怒り狂った叫び声を上げながら、四つん這いになって凄まじい勢いでこちらへ突進してきた。
大き身体に丸太のような太い腕。普通なら腰を抜かすような迫力だが、オラリオのモンスターや大魔王の威圧感に比べれば、そよ風のようなものだ。
「調子に乗ったお猿さんめ! 掛かってくるなら容赦しないわよ!」
私は不敵な笑みを浮かべ、片手に魔力を込めた。
「じゃあね! 【イオラ】!!」
ドガァァァァァァァンッ!!!
私が魔法の名を唱えた瞬間、あばれザルの群れの中心で、大地を揺るがすような凄まじい爆発が巻き起こった。
爆風が荒野の砂埃を吹き飛ばし、六匹の凶悪なモンスターは抵抗する間もなく、ただの一撃で黒焦げになって吹き飛んでいった。
「なっ……!?」
後方でその光景を見ていた兵士さんが、驚いてへたり込んでいる。
それも当然だ。広範囲の敵を一掃する爆発呪文『イオラ』といえば、厳しい修行を積んだ中堅以上の魔法使いしか扱うことの出来ない、高位の魔法なのだから。
それをまさか、遊び人の格好をした女性が、片手でいとも容易く放つなど、彼の常識では考えられない事態だった。
「ふぅ、スッキリした!」
土煙が晴れる中、私はパパンッと両手の埃を払うように打ち合わせる。
そして、唖然としている兵士さんの方へと笑顔で振り返った。
「それじゃ〜帰りましょうか!」
◇ ◇ ◇
【次回予告】
「なに!? あばれザルの群れを瞬殺したじゃと!?」
驚きの報告を受けたロマリア王の驚愕の声が、謁見の間に響き渡る……!
ダンまちやバーン様の言葉を意識しなくていいから、番外編は比較的簡単にお話が作れてしまう(;´∀`)
それでは、お仕事行ってきます!