ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
私が結界を解除すると、闘技場は元のロキ・ファミリアの訓練場へと姿を戻した。
それと同時に、オッタルとアレンが負っていた深刻な火傷やダメージは完全に消失し、両断された大剣も粉砕された槍も、結界に入る前と全く同じ無傷の状態で手元に戻っていた。
「……信じられん」
オッタルが自身の掌と大剣を見比べながら、低く唸る。
アレンもまた、己の体と槍を信じられないといった様子で何度も確認していた。
その後、フレイヤに頼んで二人がステイタスの更新を終えると、フィン達ロキ・ファミリアの面々が近付いてきた。
広場には、アストレア・ファミリアとフレイヤ・ファミリア、オラリオを代表する強者達が一堂に会している。
「それで、どうだったかな? あの大魔王バーンという存在と戦った感想は」
フィンが楽しそうな笑みを浮かべながら、皆に向かって問いかけた。
「あ〜、まぁ確かに、とんでもない存在なのは間違いないね」
アリーゼが頭を掻きながらため息まじりに同意すると、輝夜やライラ、リューたちアストレア・ファミリアの面々も、疲労困憊といった様子で深く頷いた。
フィンは次に、フレイヤの傍らに控える二人の第一級冒険者へと視線を向ける。
「そちらの感想も聞かせてもらえるかな?」
問いかけに対し、オッタルは静かに目を閉じ、先ほどの圧倒的な死の記憶を反芻してから口を開いた。
「……俺は、Lv7のザルドと何度か戦った事がある。Lv6とLv7で違いがあるとはいえ、それでも多少は戦いが成立するものだ。だが、あの男はそんなザルドよりも更に高い壁のように感じた。大魔王という事の真偽の程はさておいて、強さは確かに認めねばならんだろう」
「くそっ、あの野郎……!」
オッタルの冷静な評価の横で、アレンが忌々しそうに吐き捨てる。
オラリオの頂点に近い彼らでさえ、大魔王の強さは規格外だと認めざるを得なかったのだ。
「なるほど、両ファミリアの感想は受け取った。それともう一つ情報だ。見た目がエルフに近いというのは僕達も思っていたんだけども、ロキに確かめてもらったら、あの大魔王という男の言葉の真偽は確認出来なかったそうだよ」
そのフィンの言葉を聞いて、オッタルの眉がピクリと動いた。
「なに?」
神々は、下界の子供たちの嘘を本能的に見抜く力を持っている。神の目をごまかす事は、下界の住人には不可能なはずだ。
「つまり、見た目はかなりエルフに近い存在ではあるけども、神が嘘を見抜けなかったという事から、エルフとは異なる種族のようだ。本人は魔族と言っていたよ。あと、雑談程度に聞いてみるに、頭のツノもどうやら自前のものらしいしね」
「なるほどな……。確かにただのエルフの翁としては、ありえんほどの強さだ」
オッタルは深く納得したように頷いた。
「これで、バニーが半月でレベルアップした件については納得してもらえるかな?」
フィンが全員の顔を見渡しながら、静かに、だが力強い声で告げる。
「あの大魔王の幻影ではない本物と対峙して、一戦交えて生き延びた事。大魔王と戦っていたという勇者一行を退却させた事。あとは、既存の魔法を工夫して、新しい魔法を生み出して違う世界に渡ったという事。……十分過ぎる程の実績だと思うんだけども」
その問いに、いち早く反応したのはアリーゼだった。
「……そうね。私は納得したわよ。どちらかというと、確かにあのお爺ちゃんは強かったけども、既存の魔法を改良して違う世界に渡る魔法を作りあげたっていう事の方が、とんでもない気がするけどもね」
アリーゼの言葉に、リューが目を輝かせて力強く同調する。
「確かにそうです!世界を渡る魔法など、聞いた事もありません!それに、あの男と対峙して、あまつさえ人も逃すなど……バニー、あなたは本当に凄い人だったのですね」
信頼の眼差しを向けてくるリューに、私は「えへへ〜」と照れ笑いを浮かべた。
そしてオッタルも、未だ悔しそうに顔を歪めているアレンへと一つ視線をやってから、真っ直ぐにこちらを見据えて答えた。
「分かった。俺達フレイヤ・ファミリアも、その事についてとやかくいうつもりはない。その女の強さも、先日体感させてもらった事だしな」
アリーゼとオッタルの言葉を聞いて、ロキ・ファミリアの一同は思わずホッとしたように肩の力を抜いた。
「よし! じゃあバニーの件はこれで片付いたね。それじゃあ次の話だ」
フィンはアストレア・ファミリア、フレイヤ・ファミリアの一同をぐるりと見渡した。
「どちらもさっきステイタスの更新をしていただろう? それで、結果はどうだったかな?」
「はいはーい! 私達はステイタスの数値が皆かなり伸びてたよ! 戦闘自体は一瞬だったのに、やっぱり力量差のある相手とやりあうのは、かなり効率のいい方法だね!」
アリーゼが明るい声で即座に答える。
「俺達もだ。あの僅かな戦いで、伸び悩んでいた数値が大きく伸びた。確かにこの機会を提供してもらった事には感謝せねばならんだろう」
オッタルも静かに、だが確かな実感を持って頷いた。
二人の言葉に対して、私は得意げに胸を張った。
「ふふ〜ん!」
「そこでなんだけどもさ、この大魔王戦に限ってはファミリア間で協力しないか?」
フィンが真剣な表情で提案を切り出すと、オッタルが眉をひそめた。
「……協力だと?」
「あぁ、まず第一にあれはバニーの魔法だ。ファミリア毎に交代しながら戦うというのは、その間ずっと魔法をつかっていないといけないバニーにかなりの負担が掛かる」
(確かに……)
フィンの言葉に、アリーゼは心の中で深く同意した。
あんな化け物を呼び出して、あまつさえ結界が解除されれば怪我も武器の破損も何もかも元通りになるのだ。これで魔力の消費が少ない訳がない。
「なるほどな。それはこちらとしても異論はない」
オッタルが頷き、その背後でアレンが忌々しげに舌打ちをした。
「……チッ」
「それに、これは僕達ロキ・ファミリアもそうなんだけども、まだ僕達は誰も大魔王に一撃すら入れられてないんだ。それぞれ普段の活動もあるだろうし、このまま個別に向かっていっても、時間だけが過ぎていく気がするしね」
「……こちらは問題ないわ。むしろ戦力としてはうちが一番劣るのだから有難いくらいよ」
アリーゼが快諾すると、オッタルもそれに続いた。
「……こちらも異存はない。本音を言えば一人で挑んでみたい気持ちもあるが、ダンジョンにも潜る必要があるからな」
オラリオを代表する三つの派閥が手を結んだ瞬間だった。
そんな彼らのやり取りを見ていた神々も、楽しそうに微笑み合っている。
「なんや、これはおもろい事になってきたで」
「ファミリア間での協力……それも悪くないわね」
「私のところも問題ないわよ」
ロキ、アストレア、フレイヤの三柱がそれぞれ頷き、神々の間でも大魔王討伐への合意がなされたのだった。
◇ ◇ ◇
再び、私の魔法によってロキ・ファミリアの訓練場に特殊な結界が展開され、闘技場の風景が広がる。
そしてその中央には、大魔王バーンの威風堂々たる幻影が立っていた。
彼と対峙するのは、フィン、ガレス、リヴェリア、アリーゼ、輝夜、ライラ、リュー、オッタル、そしてアレンの計九人の実力者たちだ。
「さて、あなたがとんでもなく強いのはよく分かった。だから、今度は僕達全員で戦わせてもらうよ」
フィンがニッコリと笑いながらバーンに告げた。
「ほぅ……これはまたゾロゾロとやってきたな」
大魔王は一切動じる事なく、余裕の笑みを浮かべて彼らを見下ろしている。
「今度はこっちの番じゃわい!」
「今回は、以前のようにはいかんぞ、大魔王!」
「オラリオでも有数の、神の眷属の力を見せてあげるわ!」
「いくぞ」
ガレスが斧を構え、リヴェリアが杖を突きつけ、アリーゼが炎を纏い、オッタルが大剣を握り直す。
彼らの闘志に満ちた言葉を聞いて、大魔王も少し口角を上げた。
「では、少しは世の本気を見せてやろう」
バーンは両手を左右の腰に構え、深く息を吸い込んだ。
「はぁぁぁっ!!!」
裂帛の気合いと共に、大魔王の体から底知れぬ魔力と圧倒的な暗黒闘気が練り上げられていく。
その凄まじい力の奔流と空間を震わせるプレッシャーに、オラリオの猛者たちは思わず息を呑み、目を見開いて硬直した。
結界の外から見守っていた神々も驚きを隠せない。
「……マジかいな」
ロキの額から冷や汗が流れる。
「はぁっ!!!」
大きく息を吐き出し、完全に力を解放したバーンの姿は、先ほどまでとは明らかに力強さの質が違っていた。
ただ立っているだけで肌を刺すような威圧感を放ちながら、彼は悠然と笑う。
「このまま一対九で始めるのも面白そうだが、少し余興を見せてやろう」
「余興だって?」
フィンが訝しむように眉をひそめると、大魔王は懐からいくつかの小さな物体を取り出した。
「あれは……チェスの駒か?」
リヴェリアがその形状を見て呟く。
「ほぅ、この世界にもチェスがあるのか。それはまた興味深いが、そなた達には更に面白い物を見せてやろう」
バーンが手の中の駒を弄んでいると、遠くからその様子を観察していたフレイヤが、驚きの声を上げた。
「あれは……もしかしてオリハルコンで出来ているの?」
「オリハルコンだと?」
絶対の強度と希少性を持つ超金属の名に、フィン達冒険者も困惑の表情を浮かべる。
「流石は女神よな。一目でこれを見抜くか。では刮目せよ」
バーンがチェスの駒に魔法的な何かを施したかと思うと、それを闘技場の前方へと勢いよく放り投げた。
すると、地面に落ちたオリハルコンの駒が眩い光を放ちながら急速に巨大化し、装甲の軋む音と共に、まるで生きている兵士のような姿へと変貌を遂げたではないか。
「っ! これは……」
「ちょっ! なんやそれ!」
フィンが言葉を失い、ロキが結界の外から叫ぶ。
それも無理はない。ただのオリハルコンのチェスの駒が、金属の肉体を持つ八体の強靭な兵士へと様変わりしたのだから。
「禁呪法……そう呼ばれる技の一つだ。なに、その方達も九人いるのだ。こちらも数を合わせさせてもらっても問題あるまい?」
バーンの傍らには、キング、クイーン、ルーク、ビショップ、ナイト、そして三体のポーンからなるオリハルコンの軍団が整列していた。
これで大魔王を含めて数の上では同数になったものの、目の前で起きた常識外れの事態に対する驚きで、対峙しているフィン達は唖然として言葉を失っている。
「では始めるとするか。大魔王対神の眷属達の戦いをな」
バーンの不敵な笑い声が、闘技場に響き渡った。
すいません。21時から夜勤なので、後半は修正が途中かもですが、お仕事行ってきます!