ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
アレンが一瞬で倒され、残されたオラリオ陣営の八人に極度の緊張が走る。
圧倒的な格上の前で安易に動けず、彼らが様子を窺っている中、バーンは静かに口を開いた。
「では、今度はこちらからいかせてもらおうか」
大魔王が右手を掲げて炎の不死鳥を顕現させ、それを前に突き出した。
「【カイザーフェニックス】!」
「皆っ! 散れ!」
フィンの鋭い号令で、八人は全方向へと咄嗟に散開した。
猛烈な熱波を伴う一撃目の不死鳥が、彼らのいた場所を焼き尽くして通り過ぎる。かろうじて致命傷を避けたかに見えた――その直後だった。
バーンはすぐさま空いた左手から、二撃目の不死鳥を放ったのだ。
「連射っ!?」
アリーゼが驚愕の声を上げると、バーンはニヤリと笑った。
「連続して放てぬと言った覚えはないぞ?」
高速で飛来する二発目のカイザーフェニックス。
最も回避行動が遅れていた小人族(パルゥム)のライラに、その業火が牙を剥く。
「うっ、うわぁーーーーっ!!!」
「ラ、ライラー!!!」
リューの悲痛な叫びも空しく、ライラの小さな体はカイザーフェニックスの直撃を受け、一瞬にして灰と化してしまった。
高レベルの冒険者であれば、致命傷を負っても肉体が黒焦げになる程度で済む事もある。しかし、ライラはまだレベル3であったため、大魔王の絶大な火炎魔法の熱量に耐えきれず、文字通り肉体すら残らなかったのだ。
「……これ、本当に元に戻るんでしょうね」
アリーゼが怒りのような形相で大魔王を睨みつける。
その憎悪の視線を受けても、バーンはどこ吹く風で笑った。
「ふむ、それは余に聞いてもらっても困る。余を召喚しているあの娘に聞いてもらわねばな。だが、通常灰になった者が復活するというのは、神の奇跡といえど中々難しいのではないか?」
その言葉に、アリーゼの鋭い視線が結界の外にいる私へと向けられる。
私はギクッとして冷や汗を流した。
(えっ!? そんな事言われても困るよ! だって私、この魔法を使えるようになったばかりだし……ライラが生き返らなかったら、私のせい……って事になるのかな……!?)
結界の仕様にはそれなりに自信があったものの、完全に灰になってしまったケースは未検証だ。私が心の中で大焦りしている間にも、結界内での死闘は続いていく。
「リューは詠唱して! 近接戦はフィン達に任せましょ! あのアレン・フローメルでさえ、あんなにアッサリとやられちゃったのよ! だから私達は、あなたを必死で守るわ! リューは必殺の一撃をお見舞いしてあげるのに集中して!」
アリーゼが悲しみを押し殺し、団長としての的確な指示を飛ばす。
「アリーゼ……分かりました!【今は遠き森の空。無窮の夜天に……】」
リューはライラが灰にされた涙をこらえるように、剣を構えて詠唱を開始した。
「輝夜! 私達はリューを守るわよ!」
「承知した……流石に私も、あの化け物が相手では心許ないからな……」
アリーゼと輝夜がリューの盾となるべく立ち塞がる。
その間も、大魔王は【イオラ】を連発し、前衛へと向かってくるフィン、ガレス、オッタルを牽制していた。
絶え間なく降り注ぐ爆裂魔法の雨。それを掻い潜りながら、三人の強者はついにバーンの懐へと肉薄する。
だが、甘くはなかった。
「ぬぉぉぉーっ」
ガレスがバーンの片手から放たれた闘気弾を腹部に受け、後方へと吹き飛ばされる。
第一級冒険者の頑強な肉体のおかげで即死こそ免れたものの、甚大なダメージである事は間違いない。
さらに、フィンの神速の槍を躱しながら光魔の杖で迎撃し、オッタルの大剣による重い一撃を、片手で放ったカイザーフェニックスで対応してみせた。
そして、三人の攻撃の連携が一瞬途切れたその隙を突き、バーンは光魔の杖を構えた。
「どれ、前回のとは違い、今度は本気のカラミティウォールだ。耐えられるかな?」
バーンの杖が前方を薙ぎ払う。
「【カラミティウォール】!」
「くっ!」
高速で迫り来る圧倒的な衝撃波の波に、フィン、オッタル、そして立ち上がったばかりのガレスまでもがまとめて吹き飛ばされ、地面を何度も転がった。
前衛が崩されたその瞬間――リューの詠唱が完了する。
「【……何物よりも疾(と)く走れ——星屑の光を宿し敵を討て!】ルミノス・ウィンド!」
リューから放たれる、風と光の属性を持った無数の光の玉が、大魔王に向かって凄まじい速度で放たれた。
「いけーーー!!!」
アリーゼと輝夜が祈るように叫び、それを見送る。
無数の光弾が大魔王に直撃する――誰もがそう思った瞬間。
大魔王の目の前に、透明な鏡のような物が出現した。
「覚えておくのだな。魔法には、相手の魔法を跳ね返せる魔法があるという事を」
バーンがニヤリと笑いながら告げる。
途端に、大魔王に向かっていたはずの無数の光の玉が跳ね返り、術者であるリュー達へと襲い掛かった。
「まさか、そんな……」
「嘘でしょーっ!」
リューとアリーゼの絶望の声が響く。
回避する間も無く、反射された魔法がアストレア・ファミリアの三人に無慈悲に着弾し、大爆発を起こした。
「【カイザーフェニックス】!」
追撃の手を緩めない大魔王は、爆炎が晴れる前に炎の不死鳥を放ち、それと同時に自身も光魔の杖を構えて肉薄する。
体勢を立て直す事すらできない中で、飛来した不死鳥が輝夜を呑み込んだ。
悲鳴を上げる間もなく、彼女の体は一瞬にして業火に焼かれ、この世から消え去ってしまった。
「輝夜ーーー!!!」
アリーゼが悲痛な叫びを上げる。
リューは絶望のあまり、「あ、あ、あ……」とうわ言のような声を漏らした。
そして、不死鳥と同時に襲い掛かってきた大魔王の光魔の杖が、アリーゼの胴体を容赦なく両断した。
「あっ……アリーゼーーーっ!!!」
仲間を次々と失ったリューが、血を吐くように泣き叫ぶ。
「ふふっ、弱者の叫びというのは心地よいものよ」
楽しそうに笑う大魔王の言葉に、リューの理性が飛んだ。
「大魔王ーーーっ!!!」
怒りの形相で特攻を掛けるリュー。しかし、そんな彼女に対してバーンは冷酷に一言だけ告げる。
「消えよ」
至近距離から放たれたカイザーフェニックスの一撃により、リューもまた一瞬にして黒焦げとなり、動かなくなった。
◇ ◇ ◇
「まいったね……これは」
全身傷だらけで立ち上がったフィンが、焦りの表情を浮かべながら呟く。
「フィン……この魔法の結界内で起きたダメージは元に戻るというが、灰にされた者も元に戻れるのか?」
オッタルが油断なく大剣を構えながら問うと、フィンは苦々しく首を振った。
「……分からない」
戦場に残されたのは、フィン、ガレス、オッタルの三人のみ。
「残るはそなたら三人か……今から殺される事になるが、まぁよくやったのではないか?」
バーンが笑いながら宣告する。
その圧倒的な実力差を前にして、フィンは槍の柄を強く握り締め、意を決したように大魔王を見据えた。
「……あなたが本当に大魔王で、そしてとんでもない存在だという事は痛いほど分かった。でも、それが正真正銘の本気なのかい?」
「ほぅ? どういう事かな」
興味深そうに耳を傾けるバーンに対し、フィンは挑発的な笑みを浮かべた。
「……この世界には、隻眼の黒竜と呼ばれているとんでもない化物がいるのでね。僕達冒険者やこの世界の人々は、その黒竜討伐を夢見て、そして願っているんだけども、今のあなたのとんでもない強さを目にしても、おそらく黒竜の方が強いんじゃないかと僕は思ったんだよ」
その明らかな挑発を聞いて、バーンは不快になるどころか愉快そうに笑い声を上げた。
「なるほどな。今目の前にいる大魔王よりも、その隻眼の黒竜という竜の方が強いと、そなたは思うわけか。なるほど、面白い」
バーンの笑い声が闘技場に響く。
「では、そなたの今の発言と、これまでの戦いの健闘を讃えて、余の真の姿を見せてやろうではないか」
バーンはニヤリと笑うと、結界の虚空に向かって声を放った。
「ミストバーンよ、来い」
直後、何もなかったはずの空間が歪み、突如として白いフードに白い衣を纏った異様な男が姿を現した。
「……バーン様」
「何もいうな、今の余もそなたも仮初の器よ。だが、そこな勇者に侮られたままでいるというのも癪ではないか。本来であれば数百年の寿命を縮める行為になるが、今の余にとってはどうでもよいことだ」
その言葉を受け、ミストバーンは無言で主の覚悟を噛み締めるように、深く首を垂れた。
「……かしこまりました。では、魔界最強と謳われたこのお身体を、今お返し致します」
突然現れた謎の男の言葉に、フィン達は困惑する。
また新しい敵の増援かと、三人は警戒を強めた。
「また仲間が増えたじゃと!?」
ガレスの怒声に、バーンは軽く手を振る。
「案ずるでない。この者は戦いには参加せぬ。本来であれば、この空間には余しか召喚されないはずだからな」
「じゃあ、なぜ……」
「なに、余は部下に大事なものを預けていたのでな。それを返してもらうだけだ」
「大事なもの?」
オッタルの問いに、バーンは静かに頷く。
「あぁ。それは余の肉体だ」
その言葉と共に、ミストバーンと呼ばれた男が白い衣を脱ぎ捨てた。
その下から現れたのは、若い魔族の肉体。そしてその肉体が、老いたバーンの体と重なり合うように同化していく。
「余は、限りある寿命を延命する為に、肉体を二つに分けた。若い魔族の肉体は『凍れる時の秘宝』と呼ばれる時を止める呪法で止めておき、その肉体をガス生命体である部下に預けた。皆既日食の際にその呪法を行使する事で、永遠に近い命を手に入れる為にな」
「永遠の命……」
「そうだ。だがそれも、今の余にとっては関係のない話よ。そして思ったのだ。先程のそなたの言葉に対して、余も本気を見せてやらねばなと。今の老いた肉体で出来る本気ではない、元の姿に戻った正真正銘の本気をな」
老いた肉体と若き肉体が完全に融合し、凄まじい闘気と魔力の奔流が巻き起こる。
そしてそれが収まった後、そこに立っていたのは、若く、そして絶対的な力を体現する『真の大魔王』の姿だった。
「刮目せよ! この姿こそ、天地魔界に恐るるものなしと謳われた、真の大魔王バーンの姿なり!」
その圧倒的なプレッシャーの前に、オラリオ勢は完全に沈黙した。
フィンも、黒竜を引き合いに出して挑発のつもりで言ってみたものの、実はこれまでの戦いがまだまだ本気じゃなかったという驚愕の事態に、思考が全く追いついていなかった。
そして――。
「天よ叫べ!」
大魔王バーンの声と共に、空が黒く染まり、けたたましい雷雲が渦を巻き始めた。
「地よ唸れ!」
その声と同時に、激しい地震が闘技場を揺るがす。
本来、これはバニーの魔法で作られた結界内でのみ起こる出来事の筈である。しかし、真の大魔王の放つ力の余波は、すでに結界の枠を超え、結界外の……そしてオラリオの外にまで影響を及ぼし始めていた。
「これは……」
「嘘じゃろう?」
「……」
フィンが絶句し、ガレスが冷や汗を流し、オッタルが沈黙する。
「神の眷属達よ! さぁ、来るがよい!」
バーンが両手を上下に構え、静かに待ちの姿勢を取る。
絶対的な死の気配が漂う中、フィンは必死に頭を回転させ、活路を見出そうと口を開いた。
「ガレス、オッタル、冷静に考えてみるんだ。確かに大魔王は本来の肉体を取り戻して強くなったのかもしれない……でも、今見てみるとさっきまで持っていたあの杖がない。つまり今度は、遠慮なく僕らの武器をぶつけられるかもしれない……っていう事じゃないかな?」
「ふむ……なるほどな。確かにあの杖は厄介じゃった」
その言葉を聞いてオッタルも同意する。
「……一理あるかもしれん」
「それと、余裕なのか分からないけど、今大魔王は完全に待ちの構えになっている。この隙に三人同時にかかれば、今度は本当にダメージを与える事が出来るかもしれない」
「……分かった。俺もその考えが間違っているとも思えん。お前の策に乗ろう」
大魔王の構えの隙を突く。それが彼らに残された唯一の希望だった。
「どうした? 来ないのか?」
「いくぞーっ!」
大魔王の挑発に対し、フィンの号令と共に三人の最強の冒険者たちが同時攻撃を仕掛ける。
死角のない完璧な三方向からの必殺の一撃。
だが、大魔王は両手を上下に構えたまま、全く動こうとしなかった。
そして、彼らの武器が大魔王の肉体に接触するその刹那。
「【天地魔闘】!!!」
バーンの声と共に、神速の反撃が炸裂した。
大魔王とすれ違う最中、武器をいなされ、破壊され、眼前で放たれた巨大な炎の鳥が、フィン達三人を一瞬にして飲み込み焼き尽くした。
「なっ、何が起こったんや!?」
「オッタル!?」
「大魔王、バーン……」
ロキが悲鳴を上げ、フレイヤが目を剥き、アストレアが戦慄する。
炎が晴れた後、闘技場には力なく倒れ伏した三人の姿があった。
「ほぅ、まだ生きていたか」
バーンが静かに見下ろす先には、全身を焼かれながらも、かろうじて意識を保っているフィンの姿があった。
フィンは、折れたオッタルの大剣を見つめながら、信じられないものを見たという驚愕の顔を大魔王に向ける。
「オッタルの剣を、手刀で折った……?」
その問いに、大魔王は薄く笑みを浮かべた。
「あぁ。元々光魔の杖は、老いた余の護身用に作らせた物。今の余が肉体に闘気を込めれば、光魔の杖以上の武器になるのでな」
「化け物だね……」
フィンの口から零れ落ちたその言葉を最後に、オラリオの勇者は静かに意識を手放し、地に伏した。
すいません…
真・大魔王バーンとの戦いがアッサリと終わってしまいましたが、アニメを見てもバーン様ってあんまり自分から攻撃して無かったので、何度か考え直したんですが、上手い感じにまとめられず、天地魔闘の構えで瞬殺な感じで終わらせてもらいました。
ミストバーンが来れた事については、まぁアレです。
光魔の杖を虚空から出したように、自分の身体も虚空から持ってきたとか、そんな感じのニュアンスで思って頂けましたら。