ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
「ふざけんなっ!」
バーンとの戦闘が終わり、私の魔法による結界が解除された直後の訓練場に、アレンの怒号が響き渡った。
広場の片隅では、灰になってしまったライラや、無惨に両断されたアリーゼたちアストレア・ファミリアの面々が、無事に元の姿に戻った事を確認し合い、涙ながらに抱きしめ合って生還を喜んでいる。
そんな感動的な光景の横で、私はアレンに凄い剣幕で詰め寄られていた。
「あんなの勝てる訳ねぇだろうが! なんだあのバケモンは……魔法は超強力、溜め無しで連射出来て当たれば即リタイア、おまけにチェスの駒を兵士にするだと? オリハルコンの兵士なんか聞いた事ないわ! 挙句の果てに、本気を出したらこれまでのが軽く流しているだけなのが分かって、そこにフィンが挑発したら、今度は真の姿とやらになってオッタルまでいたのに瞬殺だぁ? おかしいだろうが!」
「そっ、そんな事を私に言われても〜」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしてくるアレンに、私はたじたじになりながら一歩後ずさった。
(だって、大魔王の本当の強さなんて私にだって分からないもん……。ちょっと会って、一瞬戦って、すぐに逃げてきただけなんだから)
心の中でそう言い訳をするものの、今の彼にそれを言っても火に油を注ぐだけだろう。
そんな私達のやり取りから少し離れた場所で、フィンが一人、顎に手を当てて深く考え込んでいた。
そこへロキが歩み寄り、深刻な表情で声をかけた。
「……なぁ、フィン。うち思うんやけどもな、そろそろあのバケモンと戦うんはやめにしとけへんか?」
「ロキ、一体どうしたんだい?」
突然の主神の提案に、フィンが驚いて顔を上げる。
フィンの問い返しに、ロキはどう言葉を選んだものかと少し悩みながら口を開いた。
「さっきあの真の姿になった時あるやろ? あれで『天よ叫べ、地よ唸れ』ってちょい格好良さげなセリフを言った後あるやん? あの時、大魔王の力の影響は本当は結界内で収まるっちゅーのがバニーの魔法やったと思うんやが、空はいきなり黒くなって雷が鳴るわ、オラリオの外にまで響く地震が起こるわ、全然結界の中で済んでへんちゅーんがちょっと怖いなって思ってな……」
「あぁ、それは確かに……」
フィンの表情が険しくなる。
「結界の中やったら、ほんまに死んでもうても助かるっちゅーのがバニーの魔法の凄いとこなんやが、もし結界の外にも影響が起きて、それで人死にが起きたら? さっきの感じを見た後やと、あながち有りえん事とは思えんのや」
ロキの現実的な懸念に、周囲で話を聞いていた冒険者の一同も一様に沈黙し、考え込んだ。
強くなる為の特訓で、関係のない一般人に被害を出してしまっては本末転倒だ。
「それに、これはうちの勘なんやけどもな……あの大魔王バーンっちゅーやつ、まだ力を隠しとるで」
ロキが放ったその一言に、一同の間に雷に打たれたような驚愕が走った。
「それは……確かなのかい?」
「……分からん。でもな、うちの神としての勘がそういっとるんや。あのバーンっちゅう奴はほんまにヤバいってな……」
「それについては、私も同感よ。確証はないけども、確かに私もロキと似たような事を思ったわ」
ロキの言葉を後押しするように、フレイヤが静かに同意した。
「……私だけじゃなかったのね。えぇ、そうよ。私も同じような事を思ったわ」
アストレアもまた、青ざめた顔で頷く。
「戦いを見ていた女神が、三柱とも同じように思う……フィン、これは……」
リヴェリアがゴクリと喉を鳴らし、フィンへと視線を向けた。
「あぁ……間違いないんだろうね。正直最後の挑発はやり過ぎたかと思ってたんだけど、まさか更に上があるなんて……ロキの言葉は尤もだよ。分かった……大魔王バーンへの挑戦は、一時中断しよう」
フィンが苦渋の決断を下すと、近くで聞いていたアストレア・ファミリアの面々は、心底ホッとしたように胸を撫で下ろした。
そんな深刻な空気が流れる中、私はいつの間にか道具袋から取り出していたお酒の入ったグラスを片手に、グビッと一口飲んでから明るく言った。
「いや〜それにしても、あの大魔王強過ぎでしょ。あれは、私が前に戦った事のある大魔王よりも強かったんじゃないかな〜」
マイペースにお酒を飲みながらしゃべり始めた私を見て、皆が呆れたような視線を向けてくる中、アレンが忌々しげにこちらを睨みつけて口を開いた。
「……そうだ、女。バニーとか言ったな。確かに俺も、さっき戦った大魔王がとんでもない強さだというのは分かった。それはもういい」
アレンはギリッと歯を食いしばりながら続ける。
「だが、お前が戦って勝ったっていう、さっきの奴とは別の大魔王についても教えろ。あのバーンとかいう奴に勝つのは、正直認めるのは嫌だが今の俺達じゃ逆立ちしても無理そうなのは分かった。けどな、お前が仲間と一緒に四人で倒したっていう大魔王が別にいるんだろう? 今度はそいつと戦わせろ」
アレンのその要求に、その場にいた全員の視線が、再び私へと集中したのだった。
◇ ◇ ◇
「大魔王ゾーマと?」
私が聞き返すと、アレンは腕を組んで強く頷いた。
「あぁ、そうだ。お前が強いのは認めるし、大魔王っていう存在が別世界とはいえ本当にいるって事は分かった。でもな、そのゾーマって奴にはお前を含めて四人で倒したんだろ? そんな奴が相手だったら、俺等にも十分勝機がある筈だ。それに、本物ではないとはいえ、本物と同じくらいの強さを持つ大魔王を倒したっていうのは、偉業としても十分カウントされるんじゃないのか?」
神々が与える『偉業』――レベルアップに不可欠なその経験値を稼ぐという意味でも、別次元の大魔王討伐はオラリオの冒険者にとって最高峰の獲物となるはずだ。
彼の提案に、フィンやオッタルたちも確かに一理あるといった表情でこちらを見つめている。
私はグラスの酒を飲み干し、ニカッと笑って元気よく答えた。
「なるほどね……うん! 私はいいわよ!」
その場の空気が少しだけ前向きなものへと変わる。
私は空になったグラスをしまいながら、さっそく予定を立てようと問いかけた。
「それで? いつやるの?」
「その前に、お前魔力は問題ないのか?」
「う〜ん、まぁあと一回くらいなら大丈夫かな?」
私の軽い返事に対して、アレンが即座に答える。
「そうか……なら今からだ」
「今から!?」
突然の提案に私がビックリして声を上げると、アレンは真剣な眼差しで言い放った。
「……俺達にも普段の仕事がある。アストレア・ファミリアの連中も、毎日ここに来るわけにはいかねぇだろうが。だから、今やれる時にやっておくぞ」
アレンの言葉に、私はなるほどと頷いた。
そして、周囲で見守っていたロキ・ファミリアとアストレア・ファミリアの面々に向き直り、今からでも大丈夫かと確認を取る。両ファミリアとも異存はないようで、皆が一斉に武器を手に取り、再度戦闘の準備に入り始めた。
「そういえばさ、ゾーマの攻略法とか対処法とかは教えておいた方がいいの?」
私が親切心から尋ねると、アリーゼがパァッと顔を輝かせた。
「そりゃ〜教えてもら……」
「必要ない」
アリーゼの言葉を遮るように、アレンが冷たく言い放つ。
「えっ!?」
「いつでも弱点が分かる訳じゃねぇだろうが。それに、ダンジョンと違ってここなら死んでも生き返れるんだ。偉業の達成を確実にしたいと思うんだったら、まずは攻略法なんか聞かずに戦うべきだろうが」
アレンの冒険者としての矜持と、ストイックすぎる正論。
それを聞いたアリーゼは、一瞬たじろいだものの、すぐに真剣な顔つきになって頷いた。
「……まぁ、それもそうかもね。いいわ! 私もそれに賛成よ!」
「本来なら対処法を確認してから挑んだ方が被害を抑えられるんだけどもね、まぁバニーの魔法なら怪我をしても元に戻るから大丈夫か……僕達もそれで構わないよ」
フィンも苦笑しながら同意し、これで全員の意思が固まった。
私は再び魔力を練り上げ、訓練場に特殊な結界を展開する。
空間が歪むと共に、周囲の温度が急激に低下し始めた。
そして――。
「わははははははっ!」
「我が名はゾーマ。闇の世界を支配する者。そして、全てを滅ぼす者!」
禍々しい青黒いオーラと、凍てつくような冷気を纏いながら、大魔王ゾーマがその姿を現した。
先ほどのバーンが持っていた静かで底知れない威圧感とは対極にある、大魔王としての暴力的なまでの存在感。
「さ、さっきの大魔王バーンよりも、見た目は完全にこっちの方が化物ね」
アリーゼが冷や汗を流しながら、引きつった笑いを浮かべる。
「皆、準備はいいかい?」
フィンの声に応えるかのように、ゾーマが両手を広げて冷酷に告げた。
「さぁ、絶望を与えてやろう! 我が腕の中で息絶えるがよい!」
「……よし! 行くぞっ!」
フィンの力強い号令と共に、オラリオの精鋭達と、闇を支配する大魔王ゾーマとの新たなる死闘が幕を開けた。
真・大魔王バーン様の時に、瀕死のオラリオ勢を瞳の中に封じるパターンも妄想してたんですけどもね~
まぁ、それはまたの機会に!
それでは、今日もそろそろお仕事に出かけてきま~す(`・ω・´)ゞ