ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
バニーは、腰に下げている道具袋に手を入れると、ゴソゴソと何かを探し始めた。
そして、勢いよく一冊の分厚い本を取り出し、リューの目の前に突き出した。
「じゃ〜ん! これが、今のリューちゃんの悩みを解決してくれるであろうアイテム『すごくエッチな本』です!」
目の前で出されたその本を見た瞬間。
リューの顔に浮かんでいた期待に満ちた表情は一変し、深く傷ついたような悲しい表情へと変わった。
「バニー殿……それは?」
「えっへん! これはね、私達がゾーマを倒した後、願いを叶えてくれると言われている神の竜、神竜と戦って手に入れた本なんだよ! つまり神器!」
胸を張ってドヤ顔で答えるバニー。
それを聞いたリューは、悲しみと、少し怒りを滲ませた視線をバニーへと向けた。
「私は……真剣に相談させて頂いたのです……あなたなら、本当に何か良い方法を思い付いて下さって、私を導いてくれるかもしれないと……そう思っていたのです……」
ギリッと唇を噛み締め、リューは目をキッと吊り上げてバニーを睨みつけた。
「……ですが! 何もいい方法が思い付かないとはいえ、そんないい加減なデタラメで私をからかおうなど、正直失望しました……」
「えっ!? いやいやいや! 神器なのは本当だよ! あと、これが凄いアイテムなのも本当! 神竜はメッチャ強かったんだけどもさ、私達が仲間と協力してやっつけて、これを貰ったのも本当なんだよ!」
慌てて弁明するバニーだが、リューはそれを全く信じていない。
「仮に……本当に竜の神がいるとしましょう……オラリオを見ていても無数の神がいるのですから、どこかにそのような存在もいるのかもしれません……ですが、どこの世界に、そのような破廉恥な本を授ける竜の神がいるというのですか! 私もダンジョンで様々な竜を見た事がありますが、あれらがとてもそんな本を読む存在とは思えませんでした!」
エルフとしての生真面目さと、冒険者としての常識が、リューの頭の中でバニーの言葉を完全に拒絶していた。
「リューちゃん、本当に本当なんだって! 私がそんな嘘を付くはずないでしょ!? それに、さっきは『普通なら、これは信じる事が難しいかもしれない』といった事に対して『絶対信じます!』って言ってくれたじゃないの!」
バニーが必死に反論する。しかし、リューは引かなかった。
「限度があります! それに、あなたがからかっているという事は私でもわかりますよ! 本当に……信じていたのに……」
今度は目元を潤ませ、今にも泣きそうになるリュー。
「う〜ん、からかってもいないんだけどもなぁ……わかった! じゃあさ、今からアストレア様のところにいって、私が嘘を付いているのか聞いてみようよ! それなら信じてくれるでしょう?」
神が持つ、嘘を見抜く力を利用して証明してやろうというバニーの提案に、リューは顔を顰める。
「こんなふしだらな本をアストレア様に見せて巻き込むなど……それに、勢いに任せて有耶無耶にしようとするのもどうかと思います……私は、仮に解決策などなくとも、あなたが真面目に考えて答えて下さったのであれば、それで良かったのに……」
そう言って、リューは悲しそうにポロポロと悔し涙をこぼした。真面目すぎる彼女にとって、信頼し始めた相手からの「ふざけた対応」は、何よりも堪えるものだったのだ。
「だから、本当に本当なんだって! リューちゃんが真面目に相談してくれたのを、私がただのエッチな本を渡してからかおうとする訳ないでしょっ! そんなに言うんだったら、もし私が言ったのが本当だったら、高級酒場でソーマをご馳走してもらうからね!」
ここまで信じてもらえないと流石にバニーもカチンとくるものがあるので、引かずに賭けを持ちかける。
「……わかりました。あなたの話が本当でしたら、ソーマでも何でもご馳走させてもらいましょう。ただし、もし今の話が嘘なのであれば、アストレア・ファミリアに協力して頂いている報酬に関しては、しばらくの間は無しにさせて頂きますよ。かまいませんね?」
リューは冷たい声でそう言い放つ。ここまでいっても彼女は全く信じていなかった。
「全然いいよ! もう……せっかくリューちゃんの悩みに真面目に答えてあげようと思って出してあげたのに、失礼しちゃうんだから……」
軽くプンプンと頬を膨らませるバニー。
「まだいいますか……では、今からアストレア様の元へ向かいましょう」
そうして、二人はバチバチとした空気のまま、アストレア・ファミリアのホームへと向かうのだった。
◇ ◇ ◇
「……これは、紛れもなく神器ね」
アストレア・ファミリアのホームにて。
バニーが差し出した『すごくエッチな本』をマジマジと見つめた後、正義の女神アストレアは真剣な顔でそう断言した。
アストレアのその言葉を聞き、バニーはまるでピノキオのように鼻を長くして「えっへん!」と威張った態度をとる。
「あ、アストレア様……?」
自分の主神が放った信じられない言葉に、リューは絶句した。
「リュー……信じられないのも分かるわ。でもこの本からは、見た目とは違って、本当にとんでもない神威を感じられるの……バニーの言う通り、神器と呼んでも間違いない代物よ」
アストレアは、不思議な気持ちを隠しきれない様子で『すごくエッチな本』を持ちながら答えた。
「だからいったでしょ、リューちゃん! やったー! ソーマって高いから、まだ何度も飲めてないのよね〜」
満面の笑顔でガッツポーズをするバニー。
そしてリューは、今もまだ信じられない気持ちで、アストレアが手に持っている『すごくエッチな本』を凝視している。
自分の崇敬する主神の頭がおかしくなってしまったのではないかと、本とアストレアを交互に見比べて、ただただ混乱していた。
「じゃあさ、今から私がこの本についてアストレア様に話すから、それが嘘かどうかを確かめてもらおうよ。アストレア様、それでもいいですか?」
「えぇ、私は構わないけども……」
バニーとリューを交互に見ながら、アストレアは困ったように苦笑いを浮かべた。
「じゃあまず! この本は、私が仲間達と一緒に、大魔王ゾーマを倒した後、願いを叶えてくれる神竜から貰ったものである!」
「……本当ね」
嘘を一切感知しない神の言葉。アストレアのその判定を聞いて、リューは大きく目を見開いた。
バニーは更に言葉を続ける。
「この本を読んだら、魔力がとっても強くなって、新しい魔法も使えるようになって、普通なら長い修行が必要になる『悟り』を開いて、賢者になる事が出来る!」
「……嘘みたいだけども、これも本当ね」
アストレアはそう答え、チラッとリューの方を見た。
リューの表情は、これまでの常識が音を立てて崩れ去ったような、完全に信じられないといった顔つきになっている。
「最後に! 私はリューちゃんの悩みを聞いて、からかおうという気持ちは全くなく、真摯に考えて答えてあげようと思って、この本を出しました! これは?」
「……リュー、バニーの言葉は全て本当よ。この子は、あなたの為を思って、この『すごくエッチな本』を出してくれたみたい」
主神からの決定的な一言。
その瞬間、リューの顔は驚愕で固まり、震える声でポツリと呟いた。
「私に……この『ものすごくエッチな本』が必要……?」
◇ ◇ ◇
呆然とするリューの横で、アストレアが全く訳がわからないといった顔でバニーに問いかけた。
「そもそもバニー、あなたたちはその……神竜という願いを叶える凄い竜を倒したのよね? なのに、それでどうしてこんな本を望んだの?」
というアストレアの当たり前のような疑問に
「あぁ、私達も最初は違う願いを叶えてもらってたんですよ。勇者の父親を生き返らせてもらったり、強い武器が欲しいっていったり」
そう語るバニーの言葉に、リューの口からあり得ないという気持ちで言葉が漏れた。
「死者蘇生……」
神々の御業を以てしても禁忌とされる事象を、さらりとやってのける竜の神。
その規格外の事実にリューが戦慄している中、バニーは話を続ける。
「でも、神竜とは何度も戦えたんですよね。何度も叶えてもらうには条件も厳しくなってくるんですけども、私達はそれを達成して……ようやく勝てたと思った時に勇者が言ったんです。『もっと凄いエッチな本が欲しい』って……」
「「……」」
アストレアとリューが絶句する。
「まぁアレです。勇者と私は十六歳で冒険の旅に出たんですけども、やっぱり男の子ってそういう気持ちになるじゃないですか? でも、私は幼馴染の勇者には全くそんな気はなくて、パーティは男三人に女一人だったから、夜な夜なエッチな本を見て何かしてたみたいです」
さらりと自分の幼馴染でもある勇者の秘密を暴露し始めるバニー。
それを聞いた二人は、世界を救う勇者のあまりにも生々しい裏の顔に、ただただ何も言えず押し黙るしかなかった。
「だからだったんじゃないんですかね? 普通のエッチな本でも満足いかなくなったから、もっと凄いエッチな本が欲しくなっちゃったみたいで……」
そんな異世界の勇者の思春期全開な話を聞かされ、二人は何とも言えない複雑な気持ちになった。
「経緯は大体そんな感じで、でもこういうのって使って賢者モードになったらさめちゃうらしいじゃないですか。それで、勇者が何度か使って、もういらなくなったみたいだから私の道具袋に保管していたんです。ほら、一応は物凄い神器なので……」
笑いながらアストレアに言うバニー。
アストレアは顔を引きつらせて苦笑しているが、何ともいえない表情だ。
一方、リューはプルプルと震えながら声を出した。
「……つまり、一体何をどう使ったのかはエルフである私には分かりませんが、その『勇者の使用済みエッチな本』を私に使え……と?」
リューから返されたその言葉に、バニーは慌てて応える。
「何言ってるのリューちゃん! 本に罪はないんだよ! それにそれは神器だっていってるでしょ! チラッと見てみたけども、パッと見た感じだと何にも付いてなかったから大丈夫!」
「なっ!!! 何の話ですかっ!!!」
エルフとしての潔癖さと羞恥心から、リューは顔を真っ赤にしてパニックになりながら叫んだ。
そんなリューを見て、バニーはニヤニヤと笑いながらあしらう。
「おやおや〜? 何をどう使ったか分からないのに、な〜にをそんなに慌ててるのかなぁ(笑)」
「〜〜〜っ!!」
神聖なるアストレア・ファミリアのホームに、からかうバニーの笑い声と、真っ赤になったリューの悲鳴に近い声が響き渡っていた。
すいません。仕事なので働いてきます!