ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第三十八話:賢者としての魔法講義。そして舞台は新しい世界へ

前回、アリーゼからリューの性格を元に戻せないかと相談されたバニー。

 

「う〜ん、まぁ出来なくもないかもしれないけど……」

 

「本当!?」

 

バニーの言葉に、アリーゼはパァッと顔を輝かせて喜んだ。

しかし、バニーは真剣な眼差しを向ける。

 

「でもさ、それってちゃんとリューちゃんが、心の底から『元に戻りたい』って少しも思ってなかったら無理だと思うからね?」

 

その言葉に、アリーゼはハッとして表情を引き締めた。

 

「……うん、勿論よ。私もリオンが『戻りたくない』と思っているなら、無理矢理矯正してほしいとまでは思わないわ」

 

その言葉を聞いて、バニーはにっこりと微笑んだ。

 

「うん、ならいいよ。じゃあリューちゃんも待ってるし、ちょっと話してみるね」

 

「宜しくお願いします!」

 

アリーゼが深々と頭を下げ、二人はリュー達が待つ場所へと戻っていった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「あっ、話は終わりましたか? それで実は、バニーには色々と聞きたい事が……」

 

戻ってきた二人に気づき、リューは意気揚々と質問を投げかけようとした。

しかし、バニーはスッと片手を出してその言葉を軽く遮る。

 

「リューちゃん、ちょっと待った! その前に、ちょっとお姉さんとお話ししましょ」

 

「? どうしたんですか?」

 

急に改まったバニーに、リューは首を傾げた。

アストレア・ファミリアの一同も、心配そうにその様子を眺めている。

 

「リューちゃんはさ、私が渡した『すごくエッチな本』を読んでから性格が明るくなったじゃない?」

 

「はいっ! 実は、それについても感謝を! 朝からとてもいい気分なんですよ」

 

リューは満面の笑みを浮かべて、そう答えた。

魂が解放された今の解放感は、彼女にとってとても心地よいもののようだった。

 

「お〜それは良かったよ。お姉さんもとっても嬉しい」

 

バニーも釣られるように笑顔になるが、すぐに少しだけ真面目なトーンへと声を落とした。

 

「……でもさ、リューちゃんは昨日までの性格に未練とかはないの?」

 

「未練……ですか?」

 

突然の問いかけに、リューの笑顔が少しだけ不思議そうなものに変わる。

 

「そう。やっぱりさ、性格が変わるっていうのはとっても大変な事だと思うんだよね。だってこれまでの自分とは、また違う自分になるわけじゃない? そりゃーどっちも根っこの部分はリューちゃんなんだから、何も恥ずかしがる事も気にする事もないと思うんだよ? でもさ、今の解放された気分がとっても良かったっていうのは置いておいて、それでもリューちゃんが『やっぱり昨日までの私に戻りたい……』って思うなら、今ならまだ間に合うかもしれないよ?」

 

「まだ間に合う……」

 

バニーの話を聞いて、リューは真剣な顔で考え始める。

 

「そう。今はまだ魂が束縛から解放されたばかりだからね。分かりやすくいうと、まだ性格も固定されていないどっちつかずの状態だと思うの。だから、もし今少しでも『戻りたい』っていう気持ちがあるんだったら、今なら私が手助けしてあげられるかもしれないよ」

 

「……」

 

リューは視線を落とし、深く考え込み始めた。

これまでの生真面目で潔癖な自分。そして、羞恥心を捨ててポジティブになった今の自分。

どちらも自分自身には違いないが、自分でも感じるものがあるように、やはりその違いは大きいものがある。

 

「ゆっくり考えてみてね」

 

バニーは優しくそう言い、じっと待つ。

リューは己の心と向き合うように更に考え続け、アストレア・ファミリアの皆は、そんな彼女を見守っていた。

 

やがて、リューは静かに顔を上げ、まっすぐな瞳で口を開いた。

 

「決めました」

 

「リオン……」

 

アリーゼがリューの決心に耳を向ける。

 

「その……出来る事なら、私は昨日までの性格に戻りたいです」

 

その確かな言葉に、張り詰めていた空気が一気に解けた。

 

「リオンっ!」

 

アリーゼをはじめ、ライラや輝夜、そしてアストレアまでもが安堵の表情を浮かべて喜んでいた。

そんな自分を心から案じてくれていたファミリアの仲間達を見て、リューは「これでいいのだ」と深く確信した。

やはり自分は、これまでファミリアの仲間達と過ごしてきた『リュー・リオン』でありたいと。

 

しかし、バニーは念を押すように問い直す。

 

「本当にいいの? ファミリアの皆がどう思っていようと、これはリューちゃん自身の事なんだから、何も遠慮する事なんかないんだよ?」

 

バニーの言葉を聞いて、それでもリューの心は変化する事なく、まっすぐに答えた。

 

「はいっ! 自分でも考えてみたのですが、確かにこれはどちらも自分です! 昨日あの本を読ませて頂いてからの朝起きた自分は、今までに感じた事のない解放された気分でした。それに未練がないかと言われると困ってしまうのですが……でも、それでも私は昨日までの自分も嫌いではないのです。なので、今のセクシーギャルを目指したいと思っている自分をあそこで心配そうに見ている皆の顔を見たら、どちらでもいいのであれば、昨日までの性格がいいかなとそう思いました」

 

バニーはうんうんと頷いた。

 

「……分かったよ。リューちゃんの言葉はお姉さんの心に響きました! それならもう何もいう事はないよ!」

 

そう言って、バニーは一呼吸置く。

 

「じゃあリューちゃん、もうちょっと私に近付いてくれる?」

 

ただでさえ目の前に対峙しているのに、更に近付くとなると、これは……。

リューは少し頬を赤らめ、恥ずかしそうにしながら一歩前に出た。

 

「あっ、あの……これぐらいですか?」

 

恐る恐る距離を詰めるリューに対して、バニーは手招きをする。

 

「もう少しだよ!」

 

「えぇ〜っ!? ……これぐらいでいいですか?」

 

「うん、そんな感じかな。それじゃあリューちゃん、今から心を空っぽにしてみてもらえる?」

 

「心を空っぽに? ……無心になるという事ですか?」

 

疑問を浮かべるリューに、バニーは微笑む。

 

「いやいや、そんな難しく考える事はないよ。ただ、今から私が言葉を投げかけたりするから、それを受け止めやすいようにしてほしいだけ」

 

「わっ、分かりました!」

 

するとバニーは、そんなリューの頭を胸に引き寄せるように軽く抱きしめた。

突然の事にリューはビクッとなるも、そのままの状態で受け入れている。

バニーは、そんなリューに優しく語りかけ始めた。

 

「リューちゃん……あなたは今、性格が魔法の力で無理矢理変えられてしまったと思っていると思うんだけども、けっしてそういう訳じゃないんだよ? あの本が与えてくれたのは只のキッカケ。本来は、元々あなたの中に隠れていただけに過ぎないんだから」

 

「そっ、そうなんですか?」

 

「考えてもごらんよ。スケベな人でも24時間ずっとスケベな事をしている訳じゃないでしょ? 普段のやり取りや、その人が例えばサラリーマンだったりして、電車で通勤している時なんかは、結構皆真面目ぶった感じを出して取り繕ってるでしょ?」

 

(……サラリーマン? ……電車?)

 

聞き慣れない単語に一瞬疑問を抱くが、バニーはそのまま続ける。

 

「性格がセクシーギャルになっても、人は24時間いつでもセクシーギャルでいる訳じゃないんだから。セクシーな感じを出したい時もあれば、真面目な感じを出したい時もあるの」

 

「た、たしかに……?」

 

言われてみると、確かにそれは分からないでもない気がする……。自分にもそういうところは確かにあるし、恐らく人とはそういうものだと思うから。

 

「そんな感じで、今のセクシーギャルでいたい気分ちゃんをちょっと心の中の奥の方で休んでもらって、代わりに心の中で眠っている、昨日までの真面目な気分ちゃんに起きてきてもらうような、そんな気持ちになってみようよ」

 

「……今のギャルでいたい気分に休んでもらって、昨日までの真面目な気分に起きてきてもらう……ですか?」

 

「そう! ゆっくり、ゆっくりと自分の中の皆と対話してみる感じで」

 

「むむむ……」

 

リューは目を閉じ、バニーの胸の中で自分の内面と向き合い始めた。

 

そして、そんな二人の様子をアストレア・ファミリアの皆が見守っているのだった。

 

「そうそうゆっくり、ゆっくりね〜。あと、セクシーギャルなリューちゃんも、勿論たまに起きてきてくれてもいいんだよ? 新しく目覚めたのにずっと寝てるのは心によくないからね〜。普段は真面目なリューちゃんでいて、たま〜にギャルなリューちゃんになってみるっていうのも、ギャップ萌え的な感じでいいと思うな〜」

 

「ギャップ萌え……」

 

そうして10分程過ぎた頃だった。

 

「ふぅ……」

 

リューがゆっくりと目を開けて息を吐く。

 

「おっ? リューちゃん、どう? 何か変化は感じる?」

 

笑いながら問いかけてくるバニーに対して、リューは苦笑する感じで答えた。

 

「はい。多分ですが、きっと昨日までの真面目な自分に戻れたような、そんな気がします……本当に多分ですけども」

 

「お〜それは良かったよ。こういうのは、ぶっちゃけ気分が大事だからね〜」

 

バニーも嬉しそうに喜ぶが、すぐに真面目な顔になって指を立てた。

 

「でもね、覚えておいてほしいんだけども、あの本の効果は確かに本当に凄いものなの。なんていったって長年の修行を積まなくても、一発で賢者になれちゃうんだからね〜」

 

リューは小さく頷く。

 

「だからさ、今は真面目な気分になってるけども、自分をキチンと見つめていかないと、自分でも知らないうちにセクシーギャルな気分になっちゃってる時もあるかもしれないから、そこのところは注意しておいてね」

 

その話に、リューは姿勢を正して深く頭を下げた。

 

「……はい! 分かりました! ご指導、有り難う御座います!」

 

「うむうむ、悩めるリューちゃんの助けになれて、お姉さんは嬉しいよ〜」

 

笑顔で両手を左右の腰に当てて喜ぶバニー。

それを見ていたアリーゼが、たまらず声をかけた。

 

「リオンっ! その……元に戻ったの?」

 

「はいっ! アリーゼ、輝夜、ライラ、そしてアストレア様も、ご心配お掛けしました!」

 

申し訳なさそうに謝るリューの本来の姿を見て、ファミリアの面々は心底ホッとしたように胸を撫で下ろした。

バニーは、そんな温かいやり取りを微笑ましく眺めている。

 

「あっ、そうです。実は、今日はバニーに賢者という職業について教えて頂きたかったのですが……」

 

リューがふと思い出したようにバニーに向き直り、心配そうな顔をした。

 

「セクシーギャルな自分が心の奥底にいってしまったという事は、もう賢者では無くなってしまったのでしょうか?」

 

するとバニーは、両手を上にして大きく丸を作る感じにして大丈夫なジェスチャーをしながら答えた。

 

「あっ、そこは大丈夫だよ! 確かにセクシーギャルは、心の解放という意味で魔力が高くなりやすいメリットがあったんだけども、賢者の力については、リューちゃんにちゃんと根付いている筈だから、そこら辺は大丈夫」

 

その言葉に、リューは安堵の息を漏らす。

 

「じゃあさ、まずは私達の世界でいうところの賢者についてと、エクセリアとは違う『経験値』というものについて、少し講義させてもらおうかな」

 

そう言うと、バニーは懐からサッと眼鏡を取り出してかけ、あたかも賢そうに見せかける。ちなみにいうと、バニーは今日も朝からバニーガールの姿で、年齢は25歳なドラクエ3系の綺麗可愛い系お姉さんである。

 

「エクセリアとは違う、バニーの世界の経験値……ですか?」

 

「そう! まぁ小難しい説明は置いておいて、超簡単に説明しちゃうと、敵を倒したら経験値が増えて、それで職業にもよるんだけども一定数貯まったらレベルが上がって、魔法も皆大体同じくらいのペースで使えるようになるんだよ」

 

「皆が……同じ魔法を使う?」

 

「うん、私達の世界ではそんな感じになってるんだ。固有の魔法とかは殆どないの。だから偉業とかを達成出来ていなくても、私達の世界でいうところのレベルは上がっていっちゃうの」

 

バニーのその、この世界の常識とは違った説明に、アリーゼ達は「ほぅ〜」と感心したように聞いている。

 

「だからね、リューちゃんもすぐに私の世界の魔法を使えるようになると思うんだけども」

 

「本当ですか!?」

 

「うん、もちもち  でも、リューちゃんレベルになってきたら、低レベルの攻撃魔法を覚えても、戦いの幅は広がるかもしれないけど、あんまり戦力にはならないと思うんだよね〜」

 

リューは真剣な眼差しで話を聞いている。

 

「だからさ、私の魔法でまたモンスターを出して、それである程度今のリューちゃんにも役に立てる魔法が覚えられるくらいまで、一気にレベルアップさせちゃおうと思うの! あっ、ちなみに今言ったのは私達の世界でいうところのレベルアップね」

 

「それは……あの、また大魔王と戦うのでしょうか?」

 

心配げに尋ねるリューに、バニーは明るく笑って手を振った。

 

「大丈夫! あんなヤバい化け物達となんか、私がリューちゃん一人で戦わせる訳ないじゃない。経験値を沢山持ってるモンスターがいるから、そいつらと戦ってみてもらおうと思うんだけども、どうかな?」

 

バニーの話を聞いて、リューは静かに頷いた。

 

「……分かりました。まだ自分でもよく分かっていないのですが、バニーが一生懸命考えて下さった作戦なのは分かりましたので……はい! 是非その方法を試させて下さい!」

 

そしてバニーは、昨日と同じように再び魔法を展開する。

ポンッという軽い音と共に現れたのは、モンスターにしては可愛らしい見た目をしている、銀色のスライム。

バニーの世界では『メタルスライム』と言われているモンスターだ。

 

「あっ、あの、この可愛いらしい生き物を殺すのですか?」

 

「うんうん、そだよ〜  そいつはメタルスライムっていうやつなんだけどもね、経験値をいっぱい持ってる美味しいモンスターなんだ」

 

そう言って、本当に美味しそうな顔をするバニー。

 

「ささっ、サクッといっちゃお〜」

 

そのバニーの言葉に、リューは覚悟を決めたように剣を構えた。

 

「……強くなる為です。あなたには何の恨みもありませんが、バニーが言うにはモンスターとの事ですし……私の為に散って下さい!」

 

それを聞いたメタルスライムは、ビクッと震えて声を上げた。

 

「ピッ、ピキーっ!?」

 

「はっ!!!」

 

リューが勢いよく剣を振り下ろして攻撃してみるも、カンッ!と硬い音が鳴り響く。

 

「あっ、あれ? バニー!? この子、何だかもの凄く硬くないですか!? あとちょっと早いです!」

 

素早く逃げ回るメタルスライムと、それを必死に追いかけて斬りつけるリュー。

その不思議な戦いの様子を、アリーゼ達は面白そうに見ている。

 

「へぇ〜あんなモンスターとも戦えるのねぇ」

 

「……私、戦うならあ〜いうやつと戦いたかったなぁ」

 

「……まったくだ」

 

そんなやり取りをしている間に、リューの「疾風」とまで言われている連撃がそれを上回り、見事に撃破した。

 

「はっ!」

 

「お〜おめでとう! メタルスライムはちょっと面倒なところもあるんだけども、その分効果はあると思うんだよね〜。リューちゃん、どう? 何か変化は感じる?」

 

リューは目を閉じ、自分に起きた変化を感じ取るようにしてから目を開けた。

 

「……はい。不思議な感覚なのですが、幾つか新しい魔法が使えるようになった気がします」

 

その声に、アリーゼが身を乗り出した。

 

「えっ!? もう魔法が使えるようになったの!?」

 

バニーは腕を組みながら、得意げに鼻を高くしている。

 

「うむうむ、このバニーちゃんの手に掛かれば、まぁザッとこんなもんよ」

 

「そ、それで? リオンはどんな魔法が使えるようになったの?」

 

アリーゼが興味津々に尋ねると、バニーは顎に手を当てて少し考えた。

 

「そうだなぁ。賢者レベル1が一人でメタルスライムを倒せたらレベル11くらいになれるから……使えるのは、ザッとこんな感じかな?」

 

そして、バニーがサラサラっと紙に書いてくれたものをリューが受け取り、アストレア・ファミリアの皆も一緒に覗き込む。

 

* メラ - 小さな炎ダメージ

* ホイミ - 味方1人のHPを少し回復

* ニフラム - 敵1を光で消し去る

* スカラ - 味方1人の守備力を上げる

* ヒャド - 氷をぶつけてダメージ

* ピオリム - 味方全体のすばやさを上げる

* ギラ - 敵に炎系ダメージ

* マヌーサ - 敵の命中率を下げる

* ルカニ - 敵1体の守備力を下げる

* ラリホー - 敵を眠らせる

* スクルト - 味方全体の守備力を上げる

* リレミト - ダンジョンから脱出する

* キアリー - 味方1人の毒を治す

* イオ - 爆発系ダメージ

 

紙にずらりと並んだ魔法の名前と効果を見て、リューを筆頭に一同はかなり驚愕している。

 

「えっ!? こんなに!?」

 

「じゃあさ、試しに何か使ってみようよ。まずは初歩からね。人差し指を立てて『メラ』と唱えてみて」

 

その言葉を聞いて、リューは真剣な顔で指を立てた。

 

「はっ、はい! 『メラっ!』」

 

すると、なんと指先に小さな火がポッと灯ったではないか。

 

「おぉ〜」

 

アストレア・ファミリアの皆はまたまた感心したように声を漏らす。

 

「うんうん。これでもうリューちゃんがいれば、火起こしは楽ちんになるね!」

 

威力は高くなくても、今までにない全く新しい魔法が使えるようになって、リューは心底嬉しそうに火を見つめている。

 

「それじゃあ今度は、ホイミ・ピオリム・スクルトあたりを順番に使ってみちゃおうか」

 

「はっ、はい!」

 

そして、覚えたばかりの魔法を次々と実践していくリュー。

まずはホイミの柔らかな光が、日々の洗い物で手が荒れていたライラの手を優しく包み込み、綺麗に治していく。

 

「リュ〜! これは助かるよ!」

 

次にピオリムを唱えると、見えない風が皆を包み込み、身体が軽くなった!?と驚く声を上げる。

 

輝夜が驚いて自分の身体を見下ろす。

最後にスクルトをかけると、皆の防御力が一気に跳ね上がり、見えない鎧を纏ったような感覚に包まれた。

 

「あっ! なんだか私、今超硬くなってるかも!これなら、そこらにいる弱いモンスターの攻撃なんかなら、何もしなくても余裕で防げちゃうかもしれないわね」

 

アリーゼ達は驚きながらも大喜びで、そんな支援魔法を使えるようになったリューもとっても嬉しそうにしている。

 

「よ〜し! それじゃあ今度はもっと経験値が稼げるモンスターと戦っちゃおうか! 私の魔法は同じモンスターを倒しても2回目以降は経験値が貰えないみたいなんだけども、今度のやつはメタルスライムよりももっと凄いやつだから! こいつを倒せたら、使える魔法も一気に実用的になってくるよ!」

 

リューはゴクリと喉を鳴らし、力強く頷いた。

 

「やります! やらせて下さい!」

 

「うんうん  やる気が高いのはとってもいい事だよ。それじゃあ皆はまたちょっと下がってね」

 

「リオン! 私達も応援してるから、頑張ってね!」

 

アリーゼの声援に、リューは笑顔で振り返る。

 

「はいっ!」

 

「今度のやつはね、さっき戦ったメタルスライムの上位種になるやつで『はぐれメタル』っていうモンスターだよ」

 

「はぐれメタル……」

 

「こいつを倒せたら、回復呪文も一気に実用的なやつ(ベホイミ)を使えるようになるし、毒に加えて麻痺の治療も出来るようになるから、頑張ってみてね」

 

バニーが再び魔法を展開すると、ポンッという音と共に、今度は平べったくドロドロに溶けたような銀色のスライム――『はぐれメタル』が姿を現した。

 

「ピキーッ!」

 

「はぐれメタルですか……あなたにも恨みはありませんが、私が強くなる為です!」

 

リューは再び剣を構え、鋭い踏み込みで斬りかかる。

はぐれメタルは見た目のドロドロとした鈍重そうな姿とは裏腹に、メタルスライムをも凌駕する尋常ではないスピードでズルリと逃げ回るが、リューの「疾風」とまで言われている連撃がそれを上回り、見事に撃破した。

 

そして今度もまた、バニーがサラサラっと紙に書いてくれたものをリューが受け取り、皆がそれを覗き込む。

 

* バギ - 敵に風のダメージ

* ボミオス - 敵のすばやさを下げる

* ルーラ - 一度行った場所へ移動する

* マホトーン - 敵の呪文を封じる

* ベホイミ - 味方1人のHPを中回復

* ベギラマ - 敵に強めの炎系ダメージ

* キアリク - 味方のマヒを治す

* マホトラ - 敵からMPを吸い取る

* ザメハ - 眠っている味方を起こす

* メラミ - 敵に強めの炎ダメージ

* ルカナン - 敵グループの守備力を下げる

* インパス - 宝箱の中身や危険を調べる

* トラマナ - 毒沼・バリア・溶岩などのダメージ床を無効化

 

「……さっきのリレミトでも思ったけど、ルーラや回復系なんかは、オラリオの魔導士が聞いたら殴り込んできちゃいそうなくらい凄いわね」

 

アストレアがこめかみを抑えて呟く。

 

「それもそうですけども、アストレア様! このマホトーンとかズルくないですか!? こんなの使われたら私もエンチャントが使えなくなっちゃいますし、魔法の専門職の人には絶対バレちゃいけない魔法ですよ!」

 

アリーゼが抗議するように声を上げる中、リューは新しく覚えた魔法の数々を噛み締めるようにじっと見つめていた。

 

「どう? リューちゃん、賢者の魔法を使えるようになった気分は」

 

バニーが楽しそうに語りかけると、リューは顔を上げて力強く頷いた。

 

「はい! とっても最高の気分です! ……昨日の大魔王戦では、私は全く役に立てなかったので、これで少しは皆の役に立てるかもしれないと思うと、本当に本当に感謝しかありません!」

 

「リオン……」

 

アリーゼが感動したような表情でリューを見つめる。

 

「青二歳が……そんな事を悩んでいたのですか……」

 

輝夜もまた、感じ入った様子で小さく息を吐いた。

 

「よし! じゃあ今日のところはとりあえずこんなところかな? リューちゃんも使える魔法がいっぱい増えて、それらを使いこなしたり皆と連携していくのに、練習とかも必要だろうからね」

 

「はいっ! バニー、今日は本当に有難う御座いました! これだけ良くして下さったご恩は、一生忘れません!」

 

深々と頭を下げるリューを見て、バニーは笑いながら手を振る。

 

「そんなに固く考えてもらわなくても大丈夫だよ! また気が向いたらご飯でも奢ってくれたら……あっ、でも『ソーマ』の件は今度お願いしちゃってもいいかなぁ」

 

その言葉に、リューは笑いながら答えた。

 

「はい! 勿論ですよ!」

 

しかし、アリーゼ達は首を傾げる。

 

「ソーマ?」

 

「いや〜実はね? あの『すごくエッチな本』が本当に神器だってリューちゃん全然信じてくれなかったから、それならアストレア様に確認してもらおうって話になって『もし本当だったらソーマを奢ってよ』って話をしてたんだよ」

 

リューも苦笑しながら補足する。

 

「私は正直、バニーが勢いに任せて誤魔化してしまおうと思っている風に思えてしまったので、嘘ならアストレア・ファミリアの手伝いにきてもらっている報酬は、当分無しにさせてもらいますからね?と言っていたのですが」

 

そう笑いながら答えるリューに、アリーゼ達も納得したように笑い声を上げた。

 

「あ、あはは……あれはね〜確かに信じられないのも無理ないわ」

 

皆がうんうんと頷いている。

ふと、リューが思い出したようにバニーに尋ねた。

 

「ところでバニー、そういえば私達が来る前から訓練場で考え事をしていたようですが、何かあったのですか?」

 

それに対して、バニーはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふー。実はね、昨日の皆とバーンとの戦いを見てて、私もちょっとは思うところもあったんだ〜」

 

「というと?」

 

「ほら、私はバーンの幻影を出す魔法を使ってるから皆と一緒に戦えないじゃない? だからさ、またちょっとあの世界に行って、今度は私も本気でバーンをビックリさせてやろうと思って」

 

その信じられない言葉を聞いて、ライラが慌てて声を荒らげる。

 

「おっ、お前! あの化け物みたいな奴を、ただビックリさせてやりたいってだけで、しかも本物相手に殴り込みにいくのかよ! 魔法で出した幻影とは違って、一歩間違えたら死んじまうんだぞ!?」

 

「う〜ん、まぁそうなんだけどもさぁ……私も前はこういうタイプじゃなかった筈なんだけども、遊び人になったからかなぁ? なんか気持ちが抑えられなくなっちゃったみたい」

 

てへっと笑うバニーの破天荒な話に、一同は呆れ返る。

だが、リューだけは昨日今日の出来事もあって、ただ一人尊敬の眼差しで彼女を見ていた。あの大魔王バーンを相手に殴り込みにいこうなど、普通の人間には到底思いつく発想ではないのだから。

 

バニーはバニーで、自分もカイザーフェニックスを使えるようになった事だし、魔力覚醒とのコンボで一発喰らわしてやろうと密かに思っているのだった。

 

「前は10分くらいで自動で戻るようにしてたのよね? 今度もまた同じ感じでいくの?」

 

アリーゼの問いに、バニーは首を横に振る。

 

「いや〜前はたまたま大魔王の近くに出た訳なんだけども、今度はどうなるか分からないからさ。時間制限は無しにして、戻ってくる時は向こうでまた魔法陣を書いてから戻ってくるつもり。それに、あの時からこの世界でのレベルも上がったしね! スキルも使って賢者モードになれば、ぶっちゃけ今なら昔賢者だった頃よりも強くなれると思うんだ〜」

 

その頼もしい言葉に、皆も少し安心したように表情を緩めた。

 

「バニー……あの大魔王はとても危険な存在です……ですから、気を付けていってきて下さい」

 

とても心配する目で見つめるリューに、バニーは力強いガッツポーズで応えた。

 

「リューちゃん、有難うね! このバニーちゃんが、いっちょ悪い大魔王様を懲らしめてきてあげるわ!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

バニーは訓練場の床に魔法陣を描き、その中心に胡座をかいて目を閉じ、静かに集中している。

アストレア・ファミリアの皆は、邪魔にならないよう少し離れたところからそんなバニーを見守っていた。

 

やがて、バニーが目を開く。

 

「よし! 今度もきっと上手くいきそうな気がするわ! 何か不慮の事故でも起きない限り、問題無くあの世界に飛べる筈!」

 

そう言って魔法陣が淡い光を放ち始めた、まさにその時だった。

なんと、物陰から小さな影が飛び出してきたのだ。

 

「えっ!? アイズちゃん、なんで!?」

 

突然の事に驚愕するバニーに対して、飛び出してきたアイズは真剣な瞳で告げた。

 

「……私も大魔王と戦いたい。私も戦えるんだから……」

 

「いやっ、ちょっと待って! この魔法陣は一人用だから! 二人も乗っちゃうと、魔法陣の効果も全然変わってきちゃうから、本当にマズいのよっ!」

 

必死に止めるバニーだが、アイズは頑として譲らない。

 

「……私も一緒に行くの。もう、仲間はずれは嫌」

 

昨日、皆が大魔王の幻影達と激闘を繰り広げている時、アイズも戦闘に参加したかったのだが、幼女だからという理由で参加させてもらえなかったのだ。だから今度は、絶対大丈夫なタイミングを、朝からずっと見計らっていたのである。

 

だってバニーは昨日「カイザーフェニックスも使えるようになったから、ちょっと大魔王バーンにぶつけに行ってくるわ」と、居間で楽しそうに公言していたのだから。

勿論、それを聞いたフィン達は呆れていたのだが、アイズはその時からチャンスを伺っていたのだった。

そして今、その計画が実行に移されたのだ。

 

「あっ! 駄目! 魔法陣が起動しちゃう!」

 

バニーの悲鳴のような制止も虚しく、二人の身体は強烈な光に包まれ――次の瞬間、その場から完全に消え去ってしまった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

空間が歪むような感覚が収まり、バニーはゆっくりと目を開けた。

 

「……オラリオ?」

 

目の前に広がっていたのは、確かに見覚えのある迷宮都市の景色だった。

しかし、自分が知っているオラリオとは、なんかちょっと違う気がする、そんなオラリオの片隅であった。

 

何が違うのかと言われると困ってしまうが、バニーの感覚的なものによれば、ちょっと時代が進んだようにも思える。

大魔王のいる世界へと飛ぶはずが、イレギュラーによって辿り着いたその場所は、明らかに違和感を孕んだオラリオのように見えるのだった。




ありえるかもしれない展開



冒険者になりたての少年が酒場を飛び出して、狼男君がゲラゲラと笑っているシーンに….

バニー「あはははっ!なんか分からないけど、モテない男子が気になる女の子を振り向かせようと必死に努力してるー!!!」

狼男君「…あぁ?」
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