ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
妙に違和感のするオラリオを見ながら、アイズがおずおずと謝ってくる。
「……ごめんなさい」
「アイズちゃん……」
そんなアイズを見て、バニーは怒る気持ちなど全くわかなかった。まぁ、元々怒るつもりも無かったのだが。
「まぁアレだね! やっちゃったのは仕方ないよ。アイズちゃんも仲間外れな気がして嫌だったんだよね?」
「……うん」
自分のやった事を反省して落ち込んでいるアイズ。
「だからさ、次からは気をつけるって事にしよ! ドンマイだよ、アイズちゃん!」
そう言ってくれるバニーに、アイズの落ち込んだ表情が明るくなる。
「……うん! バニー、有難う!」
そうして笑顔になる二人。
「でもさぁ、ここはオラリオ……なんだよね?」
「?」
不思議そうな顔をして首を傾げるアイズ。
「オラリオじゃないの?」
「う〜ん、いやね? 私もオラリオだとは思うんだよ? でもさぁ、な〜んか私の知ってるここの記憶と違和感あるんだよねぇ……」
「そうなの?」
そうは言われても、これまでそれほどオラリオの街並みを興味を持って見てきた訳ではないアイズには、いまいちピンとこない。
「まぁとりあえずさ、まずはファミリアのホームに戻ってみようか! 私のこの違和感も、フィンやリヴェリアに聞いてみれば一発でしょ!」
「うん、私もそれがいいと思う」
そんなやり取りの後にファミリアのホームに向かう二人。
しかし、ロキ・ファミリアの門の前には、見知らぬ男二人が門番の様に立っていたのだった。
「……あれ? アイズちゃん、あんな人達ファミリアの中にいたっけ?」
と、アイズに聞いてみるバニー。しかしアイズも、可愛くはてなマークを浮かべるように首を傾げている。
「……私も知らない」
「……ちょっと私が話をしてくるからさ、アイズちゃんはちょっとここで待っててよ」
「うん。わかった」
そして、ロキ・ファミリアの門に向かっていくバニー。
「は〜い、お疲れ様〜」
そういって、あたかも自然とファミリアの中に入っていこうとするバニーを、慌てて止めに入る門番の二人。
「おっ、おい! ちょっと待て!」
「えっ? どうしたの?」
門をくぐるのが当たり前のようにするバニーガールの女に対して、門番は鋭い声を上げた。
「ここはロキ・ファミリアのホームだぞ!? ファミリアの人間でないものは、通常通すわけにはいかん!」
「あ〜大丈夫大丈夫! 私もファミリアの人間だからさ」
と軽くウィンクしてくるバニーだが、門番は全く取り合ってくれない。
「嘘をつくな嘘を! お前みたいな格好をした女がファミリアにいたら、一発で覚えてるわ!」
「そもそも、部外者がロキ・ファミリアの名を語るのは許されん事だぞ!? アンタ、そこのとこちゃんと分かってるのか!?」
厳しい剣幕の門番達に、バニーガールちゃんは困り顔になる。
「う〜ん、本当なんだけどもなぁ……」
それを見て呆れるような感じで、門番がシッシッと手を振った。
「……あのな、一応ここで門番をしているからには、ファミリアのメンバーくらい把握してるんだよ。だから、アンタも訳分からん事を言ってないで帰った帰った」
そう言われ、バニーは少し可愛い感じで唇を尖らせて背を向ける。
「……ちぇっ」
◇ ◇ ◇
アイズの元へ戻ってきたバニーに対して、アイズが尋ねる。
「どうだった?」
「う~ん、駄目だったわ。なんかさ、門番の人はファミリアのメンバーを全員知ってるって言ってて、お前みたいな格好の女がいたら絶対覚えてるわ!とか言われちゃった」
肩をすくめて嘆くバニーに対して、アイズは納得したようにこくりと頷いた。
「……遊び人は、強くてかっこいい」
アイズにとって、バニースーツというものは強いバニーが愛用している服という認識が大きい。だって、そもそも幼女であるアイズには、バニーガールという職業の人なんて知る筈もないのだから。
そして、そんなアイズのお腹からくぅ~という可愛い音が聞こえてきた。
「ちょっとお腹空いてきたかも」
アイズが軽く自分の平らなお腹を触りながら呟く。
「あ~そういえば、ご飯まだ食べてなかったんだったけ?」
バニーはそう言うと、胸元からスッと財布を取り出して中身を確認した。
「うん! お金は一応まだ余裕あるから、とりあえず夜ご飯でも食べにいこっか」
「うん!」
二人は気を取り直し、違和感のあるオラリオの街を歩きながら道行く人にオススメの飲食店を聞いてみる事にした。
すると『豊穣の女主人』という酒場のご飯が美味しいと聞き、そのまま教えられた通りにお店へと入っていく。
カランコロンと、にぎやかな店内にベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ~」
明るい声で出迎えてくれたのは、薄緑色の髪をした店員のシル・フローヴァだった。
彼女はバニーと、その後ろにいるアイズを見た途端、一瞬だけピクッと目を見開いたが、瞬時にいつもの柔らかな笑顔に切り替えて二人を席へと案内する。
そして二人は食事を注文し、ワイワイと普段の事や戦い方について話し合ったり、アイズも『すごくエッチな本』を読んで賢者になりたいと言い出したりして、和やかな時間を過ごした。
大体一時間以上は経過していただろうか。
バニーは引き続きお酒を飲み続け、アイズもご飯は食べ終わって、今はお手洗いにいっているそんな時だった。
どこからともなく聞こえてきた、誰かを嘲笑うかのような大きな声。
しかし、バニーはお酒を飲むのに夢中で、周りの声などあんまり聞いていない。酒場だから周りの音が煩いというのもあるが、只々何となく聞き流している。
ぼんやりといい気分に浸りながら喧騒に耳を傾けてみると、どうやら誰かをだしにして目当ての女性を口説こうとしている男がいて、それが見事に玉砕してつめられているのを雰囲気から察したバニー。
そして、冒険者になりたてっぽい少年が勢いよく酒場を飛び出した後、「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」「無様だな」という言葉を聞いて、お酒が入っていたのもあって、バニーは堪えきれずに笑い出した。
「あはははっ! なんか分からないけど、モテない男子が気になる女の子を振り向かせようと必死に努力して失敗してるー!!!」
そんなバニーの大声で、狼男(実はロキ・ファミリアのLv5 狂狼)君を大きく笑い出した途端、辺りが急に静かになった。
当然である。なんせ、ロキ・ファミリアの中でも風貌と言動で恐れられているベート・ローガに対して、見るからに笑いものにしているのだから、皆がビックリしたのも仕方がない。
「……あぁ?」
ベートが鋭い視線を声の元に向ける。
すると、どちらかといえば酒場で働いてそうなバニーガールの女性が、席に座ってこっちを見ながらゲラゲラと笑っているではないか。
ベートとしては、相手が女である事もあって一瞬考えるが、しかしそれで自分が舐められる訳にはいかない。
無言で席を立ち、そのままバニーガールの元へと、両手をポケットに入れながらゆっくりと歩いていった。
「ちょっ、ちょい待ちぃベート!」
ロキが慌てて声をかけるが、ベートは止まらない。
バニーガールの元へ辿り着いたベートは、見下ろすように睨みつけた。
「おぃ、そこのお前。俺になんか文句あんのかぁ?」
ドスの聞いた声に周りの人達はビビり始めるが、当の本人であるバニーちゃんは歴戦の猛者(もさ)なので、そんなの全然気にした風でもなく答えた。
「えぇ? 別にぃ~? ただ、誰かをだしにして女の子を振り向かせようとしてたみたいなのに、それが全然効果無くて、むしろ余計嫌われちゃったみたいだったから、ちょっと面白かっただけよ」
お酒を飲んで笑いながら言うバニー。
その言葉に、ベートのこめかみがピキピキっとなって青筋が浮かぶ。
「おぃ……変な格好してるクソ女。お前、女だからっていい気になってんじゃねぇぞ?」
殺気すら混じった目で睨みながらベートは言うが、バニーは全然気にしていない。
「えぇ? 私がクソ女ですって? それなら、自分よりも下の冒険者の子をだしにして笑いものにしてるアンタは、もっといかれたクソ野郎じゃないのよ」
そう言いながら、バニーはまだゲラゲラと笑っている。
そんな様子を離れた席で見ているロキは、密かに感心していた。
「……あの姉ちゃん、ベート相手にやるなぁ」
ベートはその言動もあって、同じファミリアの者にもかなり怖がられているタイプである。
そんなベートに対して、酒に酔っているとはいえ、あんな台詞が吐けるというのは並の女ではない。
「てめぇ……調子に乗ってると、マジでぶっ殺すぞ」
更にピキピキきているベートだが、バニーは笑いながら首を振る。
「えぇ? 君がぁ? ……う~ん、君にはちょっと無理かなぁ」
ジョッキ片手に笑いながら答えたバニーに対して、遂にベートが切れた。
「……後悔すんなよ、クソがっ」
そう吐き捨てて、本気ではないが、軽く頭をはたいてやろうと近付いた時だった。
バニーはベートの方を見ず、ただタイミングよくバニーの指先がベートの前に突き出された。
「ラリホー」
バニーがそう唱えた瞬間。
抵抗すらする間もなく、ベートは糸が切れたようにその場でバタリと倒れ、瞬時に深い眠りについてしまったのだった。
それを見た酒場にいる者達、そしてロキ・ファミリアの者達は驚愕の表情になる。
「なっ、あのベートを一瞬で?」
ロキが目を見開く。
「うっそでしょー!?」
ティオナが信じられないものを見たように驚きの声を上げた。
「……リヴェリア、あの女性を知っているかい?」
酒に酔っていたとはいえ、自分のファミリアの幹部が軽くやられてしまったのだ。フィンが険しい顔で尋ねてみるが、リヴェリアもまた訝しげに首を横に振る。
「……いや、初めてみる顔だが」
「ワシもじゃ……並のおなごじゃないぞ、あれは」
ガレスも真妙な顔でバニーを見つめる。
そんな事を喋っていたロキ達だったが、なんとバニーの方からロキの方に向かって手を振ってくるのである。
「あぁっ! ロキ! そこにいたの!」
「えぇっ!? うち?」
ロキは素っ頓狂な声を上げた。
今、あのベートを無造作に眠らせた女が、ジョッキ片手に、しかもあたかもロキの知り合いであるかのように笑いながら近付いてくるではないか。
瞬時にロキを守ろうとするロキ・ファミリアの者達。
フィンも視線や態勢から、いつでも戦闘に入れるように意識を切り替える。
だが、ロキは自分を守ろうと、前方に出ようとするファミリアの者達を片手で制して、
「あ~ベートのやつがすまんな。普段はあそこまで喧嘩っ早い奴とは違うんやが、酒が入ってたんか気が短くなってたみたいや」
「ベート? あぁ、さっきの狼君の事? あんなボウヤを躾けるくらい、軽いもんよ」
バニーは笑いながらそう答える。
その答えに、一同は息を呑んだ。
なにせ、あの狂狼として知られるベート・ローガを『ボウヤ』扱いしたのだ。
しかも、現にさっきは本人の攻撃を意に介さず、一瞬で無力化していたのである。
これが驚かれずにいられるか。
「あ~うちも見たわ。アンタ凄いやんか。あと、すまんな。もしかして、ウチら知り合いやったか?」
ロキが尋ねる。
絶対に違うと分かっているが、相手はさも知り合いであるかのように語りかけてきたのだ。当然の返しであろう。
だが、自分の知り合いである筈もない相手は、信じられない事を口にした。
「んも~なぁに言ってるのよ! 昨日も一緒に飲んでたじゃないの! 忘れたの?」
その言葉に、ロキは心底驚いた。
なんせ神である自分には分かる。相手は一切嘘を付いていないのだ。
しかし、自分にはてんでそんな記憶がない。ただただ混乱するばかりである。
そして、隣にいたフィンからも話しかけてくる。
「あ~、僕からもちょっといいかい?」
その声を聞いて、バニーはようやくフィンを見つけたという風に顔を輝かせた。
「あぁっ! んもう! フィンもこんな所にいたの? リヴェリアもガレスも、探したんだから!」
そう親しげに笑うバニーだが、フィン達は軽くロキを見て、ロキもそれに軽く頷いた。
つまり、このバニーガールの女性は嘘を付いていない。
……しかし、ロキもフィンもリヴェリアもガレスも、このバニーガールの事など全く記憶にない。
これはおかしいぞ? と思っていた時であった。
「……バニー、席を移ったの?」
そう言ってやってきたのは、なんと自分達と共にいる十六歳のアイズではなく、幼い頃のアイズにそっくりの少女なのだった。
「あっ! ロキ、それにフィン達も、ここにいたの? 私達探してたんだよ?」
不思議そうにそう言う幼女アイズの言葉に、バニーも同調する。
「もっといってやってよ、アイズちゃん! 私達、結構探してたんだもんね~」
お酒を飲みながら言うバニー。だが、フィン達はそれどころではない。
「アイズ……なのかい?」
「? そうだよ。どうしたのフィン」
首を傾げる幼女アイズに、リヴェリアもガレスも驚愕の表情を浮かべる。
そこでロキが我に帰り、幼女アイズとバニーに語りかけた。
「えぇ~っと、アイズたん? アイズたんやんな?」
「? そうだけど、どうしたの?」
返事を返すアイズ。
ロキはその神の力で、目の前のアイズが嘘を付いておらず、さらに長年共に過ごしてきた感覚から、それが本物の『アイズ・ヴァレンシュタイン』であると確信する。
そして、ロキは再びバニーの方を見た。
「……あんさんも、名前を教えてもらってもえぇか?」
そう尋ねるロキに対して、バニーは不満そうに口を尖らせた。
「な~によ、もう。忘れちゃったの? バニーよ、バニー。同じファミリアなのに、失礼しちゃうわね」
「同じファミリア!? ……あぁっ! そういや、確かにウチのファミリアのもんや。ウチには分かる……」
ロキのその言葉に、その場にいたフィン達は更なる混乱の渦へと叩き落とされたのだった。
ベートは耐異常を持っていますが、今は結構お酒を飲んでいるのと、バニーはバニーでこう見えても熟練の魔法使いですから、ベートの耐性を貫通するのは訳ないのです!