ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
翌日の夕方、バニーは騎士達と共に、ロモス城に到着した。
城門を守る兵士達を始め、城内を行き交う侍女や文官、廊下に立つ騎士達まで、誰もがバニーの姿を見た瞬間、驚いた様に目を見開いている。
しかし、隣を歩く騎士達が何も言わずに案内を続けている為、わざわざ足を止めて声を掛ける者はいない。
謁見の間に通されたバニーは、王座に座るシナナ王と初めて顔を合わせた。
「貴殿が、バニー殿か」
「えぇ。初めまして、王様」
シナナ王は、くだんの騎士から少々変わった装いの女性だとは聞かされていたが、想像していたよりも遥かに大胆な格好だった為、ほんの一瞬だけ言葉を失った。
それでも、人にはそれぞれ事情もあるのだろうと思ったシナナ王は、その事には一切触れずに話を始める。
「遠いところを、よく来てくれた」
シナナ王は王座から立ち上がると、バニーに丁寧に頭を下げた。
「まずは、我が国の騎士とネイル村の者達を助けてくれた事に、改めて礼を言わせてもらいたい」
「別にいいわよ。私もあの人達には村まで連れていってもらったし、今は村の教会に泊めてもらってるんだから」
「それでも、貴女がいなければ、多くの者が命を落としていたかもしれない。本当に感謝している」
頭を上げたシナナ王は、今回の件について説明し始めた。
パプニカ王国から正式な申し出があった事。
交流を目的とした催しであり、危険な戦いを行わせるつもりはない事。
そして、ロモスとしては参加を強制するつもりはない事。
「既に参加してくれるとは聞いているが、本当に構わないのかね?」
参加の意思は聞いているものの、シナナ王は本人の気持ちを確認しておきたいらしい。
「うん。まぁ、何をするのか分からないっていうのは、ちょっと気になるけどね」
バニーが僅かに眉を寄せると、シナナ王は申し訳なさそうに続ける。
「申し訳ない。課題は公平を期す為、直前まで伏せられるそうなのだ」
バニーの不安も当然だと考えたのか、シナナ王は申し訳なさそうに眉を下げた。
「了解。でも、報酬は本当に何でもいいの?」
シナナ王は、バニーの確認に大きく頷く。
「勿論だ。我が国の民を救ってくれた礼もある。私に用意出来る物であれば、可能な限り応えよう」
「それじゃあ、一つお願いがあるんだけど」
「申してみよ」
世間では聖女とまで呼ばれている女性が、一体どの様な報酬を望むのか。
シナナ王は僅かに身を乗り出し、興味深そうにバニーの次の言葉を待った。
「私が今お世話になってるネイル村に、酒場の一つでも作ってほしいのよ」
予想外の願いに、シナナ王が目を瞬かせる。
「酒場を?」
「えぇ。今の村には、皆で集まってお酒を飲んだり出来る様なお店がないのよ」
バニーは、ネイル村で過ごした日々を思い出しながら続けた。
「そういうお店が一つあるだけでも、村の中に活気が出るでしょ?」
「なるほど……」
バニーはシナナ王の顔色を窺いながら、遠慮がちに付け加えた。
「あとは、私もそこでたまにご馳走とかしてもらえたら嬉しいかな〜なんて」
シナナ王は、暫く何も言わずにバニーを見つめた。
望む物を用意すると言われれば、金や宝石、もしくは高価な魔法道具を求める者が多いというのに、このバニーという女性が望んだのは『世話になっている村に酒場を設置してほしい』というものだった。
しかも、取って付け加えた様に『自分もたまにご馳走してもらえたら』と言っているのを見て、何を勘違いしてしまったのか、王はそれをバニーの照れ隠しだと思ってしまう。
「分かった」
シナナ王は力強く頷いた。
「パプニカでの交流会が終わり次第、王国の費用でネイル村に酒場を建てさせよう。国内を行き交う商人達が立ち寄りやすい店になれば、巡り巡って村の発展にも寄与するであろう。勿論、バニー殿が店を利用する時は、いつも無料で構わない」
「本当!?」
「あぁ。ロモスの民を救ってくれたお礼と、急遽無理な頼み事も引き受けてもらうのだ。それぐらいはさせてもらおう」
「やった!」
嬉しそうに何度も頷きながらウサ耳を揺らすバニーを見て、シナナ王は穏やかな笑みを浮かべた。
自分自身の為ではなく、世話になった村の為に報酬を使おうとする。その人柄にも、シナナ王は深く感心していた。
(良かった。これでネイル村に帰った後も、お酒を飲む場所に困らなくなるわね。しかも私はタダだし)
完成した酒場のカウンターで、財布を気にする事なく好きなだけお酒を注文する自分の姿を思い浮かべた途端、バニーの口元が分かりやすく緩んでいく。
本人は平静を装っているつもりらしいが、頬は完全ににやけており、僅かに揺れる身体に合わせて、頭のウサ耳まで楽しげに揺れていた。
シナナ王は、その笑顔もネイル村の将来を喜んでいるからだと、好意的に受け止めている。
勿論、酒場が出来れば村に活気が出ると思っているのは、バニーの偽らざる本心である。だが、自分が気軽にお酒を飲みに行けるという点も、バニーにとっては非常に重要だった。
(ネイル村はとっても良い所だけども、そういうお店がない事だけは残念に思ってたのよねぇ)
「それから、オラリオという都市についても城の書庫を調べさせてみたのだが、やはりそういう名称の都市は見つからなくてな……」
「あ〜、やっぱりそうかぁ」
或いはと思って期待していた手掛かりがなかったと知り、先程まで緩み切っていたバニーの表情が僅かに曇る。
「だが、パプニカ王国には、我が国よりも多くの書物が残されていると聞く。ロモスで分からなくとも、パプニカでは何か分かるかもしれん。パプニカ王にも、バニー殿が書庫に立ち入る事が出来ないか、こちらから頼んでおこう」
自国の民を救った礼とはいえ、一国の王が他国にまで話を通してくれるという。
そこまで自分の為に動いてもらえるとは思っていなかったので、バニーは驚いた後、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「有難う、王様!」
「いや、礼を言うべきなのはこちらの方だ」
「あっ、あと、今のやつ以外にも色々と調べてみたい事があるんだけど……」
バニーが少し言い難そうに続けると、王は笑みを浮かべながら、鷹揚と返事を返す。
「勿論だ。今夜は城の客室で休んでもらい、明日からは自由に王宮の書庫を見てもらって構わない」
「本当?助かるわ!」
「何か探している書物があるのなら、管理している者に聞いてみてくれ。出来る限り用意させよう」
こうしてバニーは、交流会の詳細が決まるまでの間、ロモス城に滞在する事になった。
◇ ◇ ◇
翌朝、朝食を終えたバニーは、城の侍女に案内されて王宮の書庫を訪れた。
高い天井まで届く幾つもの本棚が並び、その間には数え切れないほどの書物や巻物が収められている。
ネイル村に滞在していた間は、そういえば文字を読む様な機会は殆どなかったが、昨日王都に入ってきて、馬車の窓から見えた看板や、使用されている文字が問題なく読めた事には、バニーも気付いていた。
書庫に並ぶ本の背表紙を確認してみても、やはりバニーが元いた世界で使われていたものと同じ文字で書かれている。
「う〜む……」
そう小さく呟きながら、バニーは書庫の奥へと入っていった。
最初に探したのは、アリアハンやロマリアといった、自分の知る国について記された書物だった。
書庫を管理する老人にも協力してもらい、古い地理書や各国の記録を調べていくが、アリアハンもロマリアも、中々それらしい国の痕跡は見つからない。
次に魔王バラモスについて調べてみたものの、こちらも該当する記録はなかった。
「やっぱり、全然違う世界なのかなぁ……」
何冊目になるか分からない古い書物を閉じて肩を落とすバニーだったが、それでも諦めず、今度はゾーマという名を探し続けた。
そして昼を過ぎた頃、古代に存在した魔王や魔族について纏められた、一冊の古びた書物を見つける。
傷んだ表紙を慎重に開き、薄くなった文字を目で追いながら暫く頁を捲っていると、バニーの指がある場所で止まった。
『遥か昔、世界を闇に閉ざした大魔王ゾーマなる存在あり』
「……ゾーマ」
思わず、その名を声に出していた。
更に文章を読み進めていくが、残されていた記録は断片的なものだった。
大魔王ゾーマが世界を闇に閉ざした事。
名も残されていない、当時の勇者達によって討たれたと伝わっている事。
それ以上の詳しい記録は殆ど残されていなかったものの、大魔王ゾーマという名前だけは、間違いなく記されている。
以前、大魔王バーンと話した時、彼もゾーマを遥か昔に存在した大魔王として知っていた。
つまり、ここはバーンがいた世界と同じ場所である可能性が高い。
「う〜ん……それじゃあ、私はまた、自分がいた時代よりもずっと未来に来ちゃったって事?」
バニーは古い書物を開いたまま、椅子の背に身体を預けた。
アリアハンやロマリアといった国の名前が残っていないのも、あまりにも長い年月が流れていて、国そのものが失われてしまったからなのかもしれない。
ゾーマを倒した勇者の名前さえ残っていないという事は、それほど未来なのだろう。
「でも、ここがバーンのいた世界なら……あいつも、この世界のどこかにいるのかしら?」
気になったバニーは、書物を机に置いたまま書庫の外に出ると、扉の前に立っている一人の兵士に声を掛けた。
「ねぇ。ちょっと聞いてもいい?」
「はい。何でしょうか」
「そういえば、今って魔王とかいるの?」
あまりにも唐突な質問に、兵士は一瞬だけ目を丸くした。
「魔王ハドラーの事でしょうか?」
「ハドラー?」
それは、初めて聞く名前だった。
「はい。魔王ハドラーは強力なモンスター達を従え、各地への侵攻を続けているそうです。つい先日も、カール王国の姫を攫いに来たらしいのですが、騎士団が協力してなんとか追い返したのだとか。このロモスでも、最近は魔王軍の影響と思われるモンスターの被害が増えているのです」
「へぇ……ハドラーっていうのが、今の魔王なのね」
バニーはそれ以上尋ねる事なく、教えてくれた兵士に礼を言って書庫の中へ戻った。
魔王ハドラーか……。
少なくとも、今の時代に大魔王バーンが表立って活動しているわけではなさそうである。
「まぁ、今は帰る方法を探すのが先よね」
再び椅子に座ったバニーは歴史書を閉じると、今度は魔法に関する書棚へ向かった。
自分が知っている呪文以外にも、この時代にはどんな魔法が存在するのか。折角これだけの書物を自由に読めるのだから、もしかすると、何か参考になるかもしれない。
攻撃呪文。
回復呪文。
補助呪文。
破邪呪文。
一冊ずつ手に取って内容を確認していく中、バニーは破邪呪文について纏められた頁で手を止めた。
「魔法陣の中にいるモンスターを弱らせる、悪しき者の侵入を拒む【マホカトール】……こんな呪文もあるのね」
別の書物には、物質に生命を与える禁呪法についても書かれていた。
氷や炎、或いは金属や石といった物に魔力を与え、命ある存在へと変えるという。
「流石にこれは、簡単に使ったら駄目なやつっぽいわね……」
絶対怒られるやつだと思い、バニーは禁呪法の書物を元の場所に戻した。
その後も書棚を眺めていると、一冊の魔法書に見覚えのある呪文名を見つける。
【ルーラ】
遠く離れた町や城へ、一瞬で移動する呪文であり、バニーも使い慣れている魔法である。
だが、その頁の続きには、バニーの知らない名前が書かれていた。
【トベルーラ】
「トベルーラ?」
説明によると、ルーラから派生した飛翔呪文であり、術者自身の身体を魔力で包み、空中を自由に飛び回る事が出来るという。
「何これ。凄く便利そうじゃない!」
バニーは魔法書を机に運ぶと、食い入る様に読み始めた。
ルーラと同じく身体そのものを魔力で運ぶ呪文ではあるが、一瞬で目的地まで移動するルーラとは異なり、トベルーラは術者が常に魔力を制御し続けなければならない。
移動する方向、速度、高さ、身体の傾き。
それらを全て術者が調整する必要があるらしいが、これが出来れば、文字通り空を自由に飛ぶ事が出来る。
ルーラを使えるならば、訓練次第ではトベルーラも使えるようになるらしいが、それだとちょっと時間も掛かりそうである。
幸いにもここの書物には、トベルーラと契約する為の術式も記されていた為、バニーは早速、書庫の責任者に相談し、王宮の魔法使いの元に案内してもらう事にした。
◇ ◇ ◇
「トベルーラを習得したいのですか?」
突然やってきたバニーにそう呟きながら、王宮魔法使いは、彼女が開いている魔法書に目を落とした。
年齢は五十を少し越えたくらいだろうか。長い杖を持ち、深い青色のローブを身に纏っている。
「うん。これって、私にも使える様になると思う?」
「そうですな。呪文との契約そのものは、記載されている術式を正しく行えば可能でしょう。ただ、実は私自身も、トベルーラはまだ扱えませんでして……」
王宮に仕える魔法使いであれば、大抵の呪文を使えるものだと勝手に思っていたバニーは、意外そうに目を瞬かせた。
「えっ、王宮の魔法使いでも使えないの?」
「特に飛翔呪文は、契約しただけで簡単に扱える様になるものではありません。身体を浮かせているだけでも、相当な魔力制御が必要となります」
「ふ〜ん……やっぱりルーラとは、またちょっと違うのね」
バニーは魔法書を閉じると、早速練習を始めたいと王宮魔法使いに頼み込んだ。
客人に一人で術式を扱わせるのは危険だと考えたので、王宮魔法使いも同行し、二人は王城の訓練場へと向かう。
訓練場に到着すると、バニーは王宮魔法使いに確認してもらいながら、魔法書に記されている術式を地面に描き始めた。
完成した術式に魔力を流すと、描かれていた文字が淡く輝き、そこから溢れた光がバニーの身体へと吸い込まれていく。
「よしっ!これで契約は出来たのかな?それじゃあ早速!」
バニーは訓練場の中央に立つと、片手の握り拳を掲げ、全身に魔力を巡らせながら呪文を唱えた。
「【トベルーラ】!」
次の瞬間、バニーの身体が地面から少し浮かび上がる。
「おっ!?」
だが、喜んだのも束の間、身体が前方へ大きく傾いていき、そのまま地面すれすれを滑る様に飛んでいく。
「ちょっ、ちょっと〜!」
バニーは慌てて魔力を弱めたが、今度は身体を支える力まで失い、地面へ落下してしまった。
「痛たた……浮かぶだけなら簡単だと思ったのに」
服に付いた砂を払いながら再び立ち上がり、二度目の挑戦に移る。
今度は上昇する力を抑えられず、訓練場の遥か上まで一気に飛び上がってしまい、三度目には前へ進もうとした途端、空中で何度も回転する羽目になった。
それでもバニーは諦めなかった。
失敗する度に魔力の流し方を変え、身体を包む力が一部分だけ強くならない様、少しずつ調整していく。
練習を繰り返すうちに、最初は数秒しか保てなかった姿勢を、徐々に長く維持出来る様になっていった。
次は前へ。
その次は後ろへ。
少しずつ高度を上げ、曲がり方や止まり方も身体で覚えていく。
昼過ぎから始めた練習だったが、夕日が王城を赤く照らす頃には、バニーは訓練場の上空を自由に飛び回れるまでになっていた。
「これは中々楽しいわね!」
城壁よりも高いところまで昇り、王城の敷地内上空を大きく飛び回る。
地上では、王宮の魔法使いや訓練中だった兵士達が、呆然と空を見上げていた。
「今日初めて知った呪文を、こんな短時間で……」
王宮魔法使いは、信じられない様子で呟いた。
まだ自分の半分も生きていないであろう若い女性が、長年自分が身に付けられなかった飛翔呪文を、こうもアッサリと使える様になってしまう事には、複雑な思いがある。
これが才能か……。
そうして上空を飛び回っていたバニーは、速度を落としながら訓練場へ戻ってくると、今度は姿勢を崩す事なく、両足で静かに地面へ降り立った。
「どう?ちゃんと飛べてたでしょ?」
「……お見事です」
新しい遊びを見つけた子供の様に、バニーは満面の笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
バニーが王宮の書庫に通い始めてから、数日が過ぎた。
その間にもパプニカ王国から正式な返事が届き、交流会の開催日は二週間後と決まった。
ロモス王国とパプニカ王国の交流を目的とし、魔法を志す若者や、各国から招いた賓客にも見てもらいたいという事から、場所はパプニカ王国の王都にある王立競技場で執り行う事になった。
そして、ロモス王国の所属として参加を表明したバニーは、正式にロモス王国の臨時魔法顧問という扱いになる。
書庫の利用は自由だし、城下町へ出掛ける事も特に制限はされていない。
更には、顧問料という名目で少なくない金額まで渡されるようになり、金貨の入った袋を受け取った時には、流石のバニーも目を丸くする。
(4人で冒険の旅に出かけた時は、アリアハンの王様は50ゴールドしかくれなかったのに……)
まぁ、今となっては若干思う事もあるが、今更その話をしても仕方がない。
期日までの間、昼間は書庫に籠もって古い歴史や魔法について調べ、夕方になると城下町へ出掛けて、気になった酒場に入ったりしながら、この土地の料理やお酒を楽しんでいく。
トベルーラの練習も続けており、今では城壁の周囲を飛び回る程度なら、何の問題もなく出来る様になっている。
「未来には、私の知らない呪文が沢山あるのねぇ」
同じ名前の呪文でも、自分が知っている使い方とは異なるものまである。
バニーにとって、王宮の書庫は何日通っても飽きる事のない場所だった。
◇ ◇ ◇
その頃、パプニカ王国では、ロモス王国からの返書が王の元に届いていた。
「ロモスを訪れた聖女殿が、どうやら交流会の申し出を受けてくれたらしいぞ」
パプニカ王は、嬉しそうにテムジンへ報告した。
「おぉ、それは素晴らしい事で御座いますな」
表向きには喜ばしそうな笑みを浮かべたテムジンが、王へと向き直る。
「我が国の者達にとっても、貴重な経験となるでしょう。私としても、是非、くだんの聖女と噂される人物のお力を拝見したいものです」
「うむ。開催は二週間後で、王立競技場で行われるのであったな。あそこであれば、多くの者が見に来られる催しを行えるであろう」
パプニカ王は、今から交流会の日が待ち遠しいと言わんばかりに、楽しそうな笑みを浮かべた。
他国の賢者がどの様な魔法を使うのか。
そして、その経験が自国の若者達にどの様な刺激を与えるのか。
王にとって今回の催しは、両国の親交を深めるだけでなく、次代の魔法使い達を育てる為の機会でもあったのだ。
「それでしたら、他国の王族や重鎮達にも招待状を送ってみてはいかがでしょうか」
「他国にも?」
「はい。各国の者達にも見て頂ければ、魔法を志す者達の励みにもなりましょう。それに、一般の民達にも場を開放すれば、世界にパプニカの魔法技術を知ってもらう事が出来ます」
「なるほど、それは良い考えだ」
パプニカ王は、腹心であるテムジンの提案を、純粋に両国の交流を盛り上げる為のものだと受け取った。
「では、その手配も任せる」
「畏まりました」
王の前から退出したテムジンは、人気のない廊下まで来たところで足を止める。
先程まで浮かべていた穏やかな笑みが消え、代わりに悪どそうな表情へと切り替わった。
(ふんっ、聖女などと持て囃され、己の身の程も弁えずに目立とうとする愚かな女め)
各国の王族。
重臣。
そして、多くの民衆。
出来る限り大勢の者を集めた方がいい。
(各国の権力者や民衆達が見ている中で、我が国の賢者との差を思い知らせてくれるわ。二度と聖女などと名乗れない様、徹底的に笑い者にしてやろう)
そうすれば、目障りな噂も立ち消え、パプニカの名声も更に高まるというもの。
「精々、今のうちに楽しんでおくがいい」
誰にも聞こえない声で呟いたテムジンは、各国に送る招待状の準備を始めた。
◇ ◇ ◇
数日後、各国もパプニカから招待状を受け取り、ロモスに現れたという聖女の噂は、次第に大きくなっていった。
「聖女様とは、どの様な方なのでしょう?」
「噂では、相当高位の魔法を使用されるらしいぞ」
「パプニカの賢者様と、どちらが凄いんだろう?」
「怪我人が大勢いたのに、それを一気に纏めて治したというのは本当なのかな?」
交流会の日が近付くにつれて、人々の関心は更に高まっていく。そして、バニー本人の知らないところで、二つの国だけで行われる筈だった魔法交流の催しは、各国の注目を集める一大行事へと変わっていった。
◇ ◇ ◇
それから二週間後。
バニーはロモスの港から船に乗り、騎士達と共に海を渡ってパプニカ王国へと入った。
港に到着した後は、パプニカ側が用意した豪華な馬車に乗り換え、王都を目指して街道を進んでいく。
暫くして、馬車の窓から外を眺めていたバニーの目に、幾つもの旗が掲げられた大きな建物が入った。
その周囲には数え切れないほどの人々が集まっており、遠く離れた馬車の中にまで、地鳴りの様な歓声が聞こえてくる。
「ねぇ。あれって何?」
「……あちらが、今回の催しが行われる、パプニカ王立競技場になります」
向かい側に座るロモスの騎士が、少し自信なさげに答える。
競技場へ続く道の両側には多くの人々が集まっており、中には「聖女様!いらっしゃい!」と大きく書かれた布を掲げている者までいた。
「聖女様は、どの馬車に乗っているんだ!?」
「早く御姿を拝見したい!」
「パプニカの賢者様との勝負が楽しみだ!」
競技場の正面には、二人の魔法使いらしき人物を描いた巨大な横断幕まで掲げられており、その上には大きな文字が躍っていた。
『賢者の国パプニカ 対 ロモスの国の聖女』
窓の外から聞こえてくる声と、競技場に掲げられた大きな文字を見て、バニーの表情が引き攣っていく。
自分が聞いていたのは、魔法を使える者同士が互いの技を披露する、交流を目的とした催しだった筈であり、これほど大勢の民衆が集まるなどとは聞いていない。
(というか、『パプニカ対聖女』ってどういう事?私、国と戦うの?)
「うへぇ……こんなに人が集まってるところで、見世物になるのぉ?というか、交流会じゃなかったの?なんでいつの間にか、国対個人のバトルになっちゃってるのよ!」
窓から顔を離したバニーは、向かい側に座っている騎士を見た。
「ちょっとぉ。聞いてた話と、なんか違わない?」
バニーが聞いていたのは、あくまで両国の魔法使いが技を見せ合うというものである。
だが、目の前に広がっている光景は、どう見ても国を挙げた一大興行で、とてもそんなささやかな会で終わりそうにも無さそうだった。
問い掛けられた騎士も、窓の外を見ながら困惑している。
各国から賓客が招かれるとは聞いていたが、これほど多くの民衆を集め、大々的に宣伝されているとは知らされていなかったのだ。
「いえ……実は私も、聞いていたものとは大きく違っている為、正直困惑しております」
「えぇ……」
騎士は御者へ声を掛け、馬車を道の脇に止めさせた。
「至急、パプニカ側に確認してまいります。バニー殿は、ここで少々お待ち下さい」
「うん……お願いね」
騎士は馬車を降りると、競技場の入り口に立つパプニカの兵士達の元へ向かった。
一方のバニーは、窓の外から何度も聞こえてくる「聖女様」という声を聞きながら、力なく座席に背中を預ける。
「やっぱり、参加するんじゃなかったかも……」
そうしてバニーを乗せた馬車は、鳴り止まない歓声を間近に聞きながら、競技場の手前で待機する事になった。
お疲れ様です~!
番外編(ロモス)第三話を投稿させて頂きました~!
番外編を書き始めた頃からとは、若干考えていた道からズレ始めてはいるものの、それでもこれはこれで悪くないんじゃないかな~と思って、何とか頑張って書いています。
下の次回予告では、メインっぽいシーンの展開を結構書いちゃっているものの、他にもシーンは考えてあるので、もし良かったらチラ見してみて下さい。
それでは、もし少しでも面白いと思って頂けましたら、感想やコメント、評価をどうぞ宜しくお願いします!
↓
【次回予告】
全ての課題が終わり、交流会が締め括られようとしていた、その時。
……
……
……
「ところで、バニー殿。貴女が最も得意とするのは、どの系統の魔法ですかな?」
突然の問い掛けに、バニーは少し考えてから答える。
「う〜ん……まぁ、炎系かなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、テムジンの口元に僅かな笑みが浮かんだ。
「では、貴女が扱える最強の炎呪文を、我が国の賢者に向けて放って頂けないでしょうか」
……
……
……
「いや、私の一番強い炎って、本当に危ないわよ?」
テムジンは、その言葉を聞いても内心で冷笑していた。
炎系呪文である以上、一流の賢者のみが使えるフバーハを破れる筈がない。
「御心配には及びません。我が国の賢者が、正面から防いで御覧に入れます」
……
……
……
次の瞬間。
競技場を埋め尽くした人々の視界を、巨大な炎の翼が覆い尽くしていく。
「【カ○○ー○○○○○ス】!」
果たして、賢者の国パプニカが誇る防御魔法は、バニーが放つ最強の炎を防ぎ切る事が出来るのか。
……
……
……
地上から遥か遠く離れた、大魔王の居城。
一匹の悪魔の目玉が映し出す地上の光景を、白い衣を纏った男と、杯を手にした老人が見つめていた。
「……バーン様。あの炎は……」
普段は殆ど感情を表に出さない男の声が、僅かに揺れる。
老人は赤い酒の入った杯を傾けたまま、楽しげに口元を吊り上げた。
「……ほう。余の炎を使う者が、地上に現れたか」
その双眸に、久しく見せていなかった興味の色が宿る。
「面白い……」
次回――『賢者の国と、大魔王の炎』。