ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第六話:小さな案内役と、極寒の吹雪

「ん〜っ! この屋台の串焼き、スパイスが効いてて美味しい! お酒が進むわね!」

 

私は片手に肉汁たっぷりの串焼き、もう片方にはエールが並々と注がれた革袋を持ち、オラリオの市場を上機嫌で練り歩いていた。

 

暗黒期というだけあって街ゆく人々の表情は暗く、活気も乏しいが、それでも見たことのない珍しい食材や品々は、遊び人の好奇心を満たすには十分だった。

 

「ねえ、アイズちゃん。ほら、串焼き食べる? 甘辛くて美味しいわよ」

 

私が振り返って串を差し出すと、数歩後ろを歩いていた金色の髪の少女――アイズは、ふるふると小さく首を横に振った。

 

「……ううん、いらない」

 

歳の頃は八、九歳といったところだろうか。自分の背丈ほどもある細身の剣を背負った彼女は、私のウサ耳と露出の激しいバニースーツを、ただただ不思議そうに見上げている。

強い警戒心や敵意はない。彼女はロキやフィンに「このよく分からないお姉ちゃんの機嫌を損ねないように、適当に街を案内してやってくれ」とお使いを頼まれただけの、小さな案内役なのだ。

 

「真面目ねぇ。子供はもっと遊んで、いっぱい食べた方が大きくなれるわよ? 遠慮しないで――」

 

私が笑ってエールを煽ろうとした、その時だった。

――ズドォォォォンッ!!

市場の入り口付近で、突如として爆発音が轟いた。

悲鳴が上がり、土埃が舞う。平和だった市場は一瞬にしてパニックに陥り、人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。

 

「ヒィィッ! イヴィルスだ!」

 

「逃げろっ! 魔剣を持ってるぞ!」

 

土埃の中から現れたのは、見覚えのある黒いローブを纏った男たちだった。

その手には、赤黒い光を放つ不気味な直剣――魔法の力を封じ込めた使い捨ての『魔剣』が握られている。

 

「ひゃはは! 逃げろ逃げろ! 神の箱庭を燃やし尽くせ!」

 

「オラリオに恐怖を!」

 

男たちが魔剣を振りかざし、周囲の屋台に次々と炎を放っていく。

それを見た瞬間、先程までぽやんとしていたアイズの雰囲気が、劇的に変わった。

 

「……っ!」

 

彼女の金色の瞳に、暗く、深く、痛々しいほどの『殺意』が宿る。

まるで、親の仇を見るような――あるいは、世界そのものを憎むような、子供が絶対に抱いてはいけない凄絶な感情。

 

「アイズちゃん?」

 

「私が、倒す……! 強く、ならなきゃ……!」

 

アイズは私の制止を聞く前に、背負っていた剣を抜き放ち、弾かれたように前線へと飛び出していった。

まだレベルは低いのだろうが、その踏み込みの鋭さと剣筋は、大人顔負けの才覚を感じさせる。彼女は一瞬で先頭の男の懐に潜り込み、鋭い斬撃を見舞った。

 

「ぐあっ!? なんだこのガキは!」

 

「チッ、冒険者か! 燃やせ!」

 

男の一人がアイズに向かって魔剣を振り下ろす。

炎の斬撃が放たれるが、アイズは小柄な体を活かしてすんでのところで躱し、そのまま男の膝裏を斬り裂いた。

 

「すごいすごい。あの子、剣の才能は本物ね」

 

少し離れた場所から、私は串焼きを齧りながら感心して見守っていた。

だが、多勢に無勢。アイズが一人を無力化している間に、残りの三人が彼女を取り囲むように魔剣を構えていた。

 

「死ね、生意気なガキが!」

 

三方向からの、一斉射撃。

放たれた炎の渦は逃げ場を塞ぎ、アイズの小さな体を飲み込もうとする。アイズは息を呑み、咄嗟に剣を盾にして身をすくめた。

 

(いくら才能があっても、あれは防ぎきれないわね)

 

私はため息をつき、革袋のエールを一気に飲み干した。そして、アイズたちがいる空間へ向けて、ピシッと指を突き出す。

 

「【ヒャダルコ】!」

 

詠唱もなく紡がれたその一言で、周囲の空気が急速に凍てついた。

アイズを包み込もうとしていた三つの業火が、突如として発生した猛烈な吹雪と鋭い氷柱に真っ向から衝突する。

 

「なっ!?」

 

「ひぃぃっ!? な、なんだこの吹雪はぁっ!?」

 

相殺、などという生ぬるいものではない。

荒れ狂う冷気は魔剣の炎を力押しで食い破り、そのまま黒ローブの男たちを飲み込んだ。ガチガチと歯の根が合わなくなるほどの極寒が市場の入り口を支配し、炎を放っていた男たちは全身を分厚い霜と氷に覆われ、ガタガタと震えながらその場にへたり込んだ。

 

「あ、あつ……いや、寒……っ」

 

「ま、魔剣が……凍りついて……」

 

炎の熱は完全に消え去り、アイズは傷一つない状態で、目の前で凍りつく敵と、突然現れた氷の嵐を呆然と見つめていた。

 

「……え?」

 

「もう、無茶しちゃダメでしょ。ロキに頼まれた案内役のあなたが黒焦げになっちゃったら、私、この後どこに飲みに行けばいいか分からなくなっちゃうじゃない」

 

私はバニースーツのヒールを鳴らしながら、ゆっくりとアイズの隣に歩み寄った。

 

「あなた……今の、魔法? 遠くから、詠唱もなしに……」

 

「だから言ったでしょ? 私は『遊び人』だけど、昔はちょっと魔法が得意だったの」

 

私は呆然とするアイズの頭にポンッと手を乗せ、クシャクシャと撫でた。

 

「敵を倒して強くなりたい気持ちは分かるけど、自分の身の丈に合わない無茶はバツよ。……死んじゃったら、それ以上強くなることもできないんだからね」

 

私の言葉に、アイズはハッとして俯いた。

焦りと復讐心で周りが見えなくなっていた自分を、少しだけ省みたようだった。

 

「さーて、残りのゴミ掃除をパパッと終わらせちゃおうか」

 

私は、震えながらも立ち上がろうとしているイヴィルスの男たちの方を向き、にっこりと微笑んだ。

 

「【ラリホーマ】」

 

ふわりと。

私の指先から放たれた目に見えない催眠の波動が、路地裏全体を包み込んだ。

強力な範囲睡眠呪文。ヒャダルコで体力を削られた男たちに、これに抵抗する術はない。

 

「な……んだ、急に……眠気が……」

 

「バ、バケ……モノ……」

 

バタッ、バタタッ。

先ほどまで殺意を振り撒いていた男たちが、一瞬にして糸の切れた操り人形のように地面に倒れ伏し、幸せそうな鼾(いびき)をかき始めた。

完全に制圧された戦場。

アイズは、一滴の血も流さず、文字通り「指先一つ」で状況を覆した私を、底知れぬ怪物を見るような目で見上げていた。

 

「すごい……」

 

ポツリと、アイズの小さな唇からそんな言葉が漏れた。

自分を案内するただの奇妙な大人だと思っていたバニーガールの背中に、彼女は純粋な驚きと、強い力への憧憬を浮かべていた。

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