ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
Lv5の時はボコボコにやられちゃいましたけども、Lv6の今ならもしかして……(p_-)
ifのお話という事であんまり細かく突っ込まないでほしいのですが、とりあえず豊穣の女主人でバニーがロキ・ファミリアの面々と出会い、ティオナ達若手幹部が仮初のバーンと戦うまでの間のお話という事で思って頂ければと。
ロキ・ファミリアのホーム、黄昏の館。 昼下がりの静かな廊下を歩きながら、団長であるフィン・ディムナは、客分にしてファミリア最大の異端児である『遊び人』――バニーの自室へと向かっていた。
コンコン、と控えめに扉をノックする。しかし、部屋の中からは何の返事も返ってこない。
いつもなら「開いてるわよ~」と間延びした声が返ってくるか、すでに酒場へ出かけて留守にしているかのどちらかなのだが、今日は妙に静まり返っている。試しにドアノブに手をかけてみると、鍵はかかっていなかった。
「バニー、いないのかい?」
フィンが扉を開けて中へと足を踏み入れると、部屋の主の姿はどこにもなかった。
だが、その代わりにフィンの目を引いたのは、机の上の羊皮紙に描かれている幾何学模様の魔法陣だった。
しかもその魔法陣は、今まさに淡い光を放ちながら、脈動するように明滅している。
「……これは?」
フィンは眉をひそめて机に近づいた。
歴戦の冒険者であるフィンだが、魔法の専門的な知識に関しては門外漢だ。ましてや、異世界の魔法を操るバニーが残したものとなれば、迂闊に触れるのは危険だと直感した。
フィンは一度部屋を出ると、館の図書室にいた副団長のリヴェリアを呼びに向かう。すると、ちょうど彼女と話し込んでいたらしいガレスも同行し、三人でバニーの自室へと戻ってきたのだった。
「なるほど、これか……」
フィンから事情を聞いたリヴェリアは、机の上に描かれた魔法陣を食い入るように見つめる。しかし、オラリオ最高峰の魔導士と謳われる彼女をして、その表情は険しい。
「これは……正直に言おう、フィン。私にも正確には分からん」
オラリオ屈指の魔導士からの思いがけない言葉に、フィンは思わず目を丸くした。
「君でも分からないのかい?」
リヴェリアは険しい顔のまま、小さく首を横に振る。
「ああ。そもそもこれは、私たちが知る恩恵(ファルナ)の魔法や古の精霊魔術とは、魔法の形態そのものが根本から違っているのだ。だが……一つだけ確かなことがある」
リヴェリアは、机の脇に散乱していた羊皮紙のメモに視線を落とした。そこには、空間の座標や次元軸といった、バニーが書き殴ったらしき計算式が並んでいる。
「これはおそらく、バニーが以前から研究していると言っていた『元の世界に戻る為の術式』だ」
「元の世界に、じゃと……? ということは、あやつはこれを使って一人で帰ってしまったというのか?」
ガレスが髭を撫でながら訝しむ。しかし、怪しく光り続ける魔法陣を見つめていたフィンは、小さく首を傾げた。
「それにしては妙だね。バニーの性格からして、僕達に何も言わずに帰ったりするかな?あと、これは僕が来た時からずっと光っているけども、このまま放置しておいても大丈夫そうだと思うかい?」
フィンに意見を求められ、リヴェリアは困ったように眉間を押さえた。
「……さあな。何とも言えん。なにせ、魔法の基本的な事からして私の知識とは全く違うのだからな。魔力が自然霧散するのを待つしかないかもしれんが……」
リヴェリアがそう答えた、まさにその途中だった。
カァァァァッ……!
前触れもなく、机の上の魔法陣から放たれる光が急激に強まった。同時に、フィンの右手の親指が、かつてないほどの激痛を伴ってズキズキと疼き出してきた。
「なっ、なんじゃ!?」
ガレスが驚愕の声を上げる。その光景と親指の強烈な警告に、フィンは即座に危機を察知して叫ぶ。
「2人とも! 今すぐこの部屋を出るんだ!」
三人が踵を返し、扉へと飛び出そうとした――まさにその時。魔法陣の光が爆発的に膨れ上がり、空間がぐにゃりと歪む。轟音と共に三人の視界は、瞬く間に白一色へと染め上げられたのだった。
◇
――ドンッ!! 光が晴れた瞬間、耳を劈いたのは、凄まじい爆発音だった。
「……ここは?」
視界が回復したフィンが、思わず呟く。
そこは、先ほどまでいた黄昏の館の部屋ではない。見渡す限りゴツゴツとした岩肌が広がる荒野のような場所。そして、彼らのすぐ目の前で繰り広げられていたのは、目を疑うような光景だった。
「ぐわあああああっ!!」
「ポップ!!」
悲痛な叫び声の先で、緑色の法衣を着た人間の少年が、全身を炎に包まれて火だるまになり、地面へと崩れ落ちる。その傍らには、額当てをしている少年や、武闘着を着た少女、長髪の剣士達が倒れ伏していた。
そして、その視線の先に立つ存在を見た瞬間――フィン、ガレス、リヴェリアの三人は、背筋に氷柱を突き立てられたかのように息を呑んだ。
そこに立っていたのは、白いローブを纏い、底知れぬ威圧感を放つ長身の老翁。そしてその背後には、白い衣で全身を覆った不気味な男と、道化師めいた仮面を被った男が静かに控えていた。
「……今のはメラゾーマではない。……メラだ」
老翁が静かに告げたその言葉に、倒れていた少年たちが絶望に顔を歪める。
だが、その場に突如として現れた三人の異分子の姿に気が付くと、両陣営の動きがピタリと止まった。
「「「……え?」」」
沈黙を破ったのは、奇妙な仮面を被った一つ目の使い魔だった。
「あれれ~?いきなり変な三人組が出てきたよ?子供に、ヒゲのおじさんに、エルフのお姉さんだぁ!一体どこから来たのかなぁ、ねぇキルバーン?」
その隣に立つ、死神のような黒い装束を纏った男――キルバーンが、飄々とした口調で答える。
「……これは驚いたねえ。ここは僕たち魔王軍の居城、大魔宮(バーンパレス)の最奥。普通は入ってこれない筈なのに……バーン様の結界をすり抜けて現れるなんて、一体どういう手品を使ったのかな?」
キルバーンが人差し指と親指を顎にあて、何かを考えるようにしながら使い魔と軽口を叩く中、白髪の老翁――バーンの鋭い双眸が、静かにフィンたち三人へと向けられた。
「……何者だ」
たった一言。それだけで、大気が鉛のように重く軋んだ気がした。フィンの右手の親指は、もはや疼くどころか、ちぎれ飛びそうなくらいに激痛を訴えている。
(……異常だ。バニーの魔法陣で別の世界へ飛ばされたのは間違いないみたいだけど、なんだ、あの老人は……!)
フィンは冷や汗を拭うことすら忘れ、槍の柄を強く握りしめたまま思考を高速で回転させていく。自分達は暗黒期を乗り越え、レベル6へと到達したオラリオでも最上位に入る冒険者だ。
以前バニーが語っていた『別世界の強敵』の話は耳にしたことがあったが、今目の前にいる老翁から放たれる魔力と威圧感は、かつて戦ったレベル7のザルドやアルフィアをも遥かに上回っている。
それだけではない。背後に立つ白衣の男と死神のような男からも、底知れない強者の気配が漂っている。
(マズイ……状況は分からないけど、ここでまともに目の前の3人と戦うような事があれば、レベル6の僕たちであっても確実に全滅する……!)
本能的に相手が只者ではないと理解したフィンは、今の一瞬で『いかにして生き残るか』へと意識を切り替えた。
その時、後方に控えていたリヴェリアが、杖を構えてバーン達を警戒しながら、低く押し殺した声で二人を呼んだ。
「フィン、ガレス。ちょっとこっちに来てくれ……」
二人が半歩下がって耳を寄せると、リヴェリアは額に汗を浮かべながら早口に告げ始めた。
「先程の魔法陣について詳細は分からなかったが、おそらくアレには時間制限で自動的に元の世界に戻れるような仕組みが組み込まれていたように思う」
リヴェリアが辛うじて読み取った魔法陣の効果を聞き、フィンとガレスはほんの少しだけ安堵の息をついた。
「なるほどね……バニーらしい安全装置だ。ちなみに時間は?」
フィンの問いに、リヴェリアは記憶の中の術式から逆算するように僅かに目を伏せ、短く答えた。
「……おそらく、10分」
「10分か……」
フィンは小さく息を吐き、不敵な笑みを浮かべて長槍を構え直した。
「正体不明の化け物を打ち倒すのは無理でも、10分間生き延びるだけなら、何とかなりそうな気はするね」
「おう!オラリオのLv6が10分ぽっちも持ちこたえられなんだら、眷属としてもロキに合わせる顔がないわい!」
ガレスも愛用の大斧と巨大な盾を構え、重々しく頷く。
「アンタたち!どこから現れたのか知らねえが、そいつは大魔王バーンだ! 相手が悪すぎる、早く逃げろぉっ!!」
火傷を負った少年――ポップが悲痛な声で叫ぶ。しかし、フィンは少年達を背に庇うように、一歩前へと踏み出した。
「忠告は感謝するよ。状況は分からないけど、どうやらここは、君達の命運が賭かった戦場みたいだね。……あいにく僕達も事故で飛ばされてきた身で、事情は分からないんだけども」
フィンはそこで言葉を切ると、目の前の大魔王を見据え、高らかに名乗りを上げた。
「傷ついて倒れている少年達を見捨てて逃げるほど、僕たち『ロキ・ファミリア』の誇りは安くない! ガレス、リヴェリア!少しの間だけでいい、全力で凌ぎ切るぞ!」
「おうっ!」
「あぁ!」
フィンの号令に応え、ガレスが巨大な盾を構えて前衛に並び立ち、リヴェリアがその後方で杖に魔力を宿す。
迷いなく臨戦態勢に入った三人の姿を前に、バーンは面白そうに目を細めた。
「ほう……どこの誰かは分からぬが、余を前にして、その者達を庇うか」
バーンが薄く笑い、ゆっくりと右手の人差し指を向けてきた。
「見上げた気迫だが、余の前に立つというのなら、誰であろうと容赦はせぬ」
そうしてバーンの指先から、小さな火――【メラ】が放たれた。 見た目はただの火の粉に過ぎないが、リヴェリアはその内側に秘められた異常な魔力密度を即座に見抜く。
「フィン、ガレス! あれはただの火の粉ではない!絶対に触れるな!」
リヴェリアの切迫した叫びに、前衛の二人は一切の躊躇なく反応した。
当初は巨大な盾で振り払おうと身構えていたガレスだったが、オラリオ最高峰の魔導士の警告を信じ、巨体に似合わぬ身軽さで強引に横へと跳躍する。フィンもまた、滑るように地を蹴ってその直線上の軌道から間一髪で身を翻した。
二人の間を通り抜けた、頼りなく揺れる小さな火の粉。
それが、そのまま後方の巨大な岩壁へと吸い込まれた――次の瞬間。
――ドォォォォォンッ!!
触れた刹那、耳を劈くような轟音と共に炎の渦が巻き起こった。立ち込める土煙が晴れた後には、分厚い岩盤がドロドロのマグマのように赤熱して溶解している。
(……嘘だろ。あんな小さな火の粉一つが、これほどの威力を持っているというのか……!?)
(オラリオの魔剣でもあり得んぞ……! ワシの盾でも、まともに受け止めておればエライ事になっておったわい……!)
もしリヴェリアの警告がコンマ一秒でも遅れていれば。
その光景を目の当たりにしたフィンとガレスの背筋を、冷たい汗が音もなく流れ落ちていく。
「ふむ。余のメラの威力を見抜くとは、やるではないか」
バーンは余裕の笑みを崩さず、楽しげに喉を鳴らすと、今度はその右手をゆっくりと上へ掲げた。
「ならば、これはどうかな?」
バーンの掌から、先程とは比較にならない程の莫大な魔力が溢れ出し、巨大な炎の不死鳥が顕現した。
それは、場の空気そのものを焼き尽くすような、圧倒的な熱量。
「あっ、あれはっ!?」
リヴェリアが驚愕に目を見開く。その炎の鳥は、かつてバニーが見せてくれた魔法と同じ姿をしていたのだ。
「【カイザーフェニックス】!」
巨大な炎の鳥が、大魔王の号令と共に咆哮を上げて三人へと襲いかかる。
「二人とも、散れっ!!」
フィンの絶叫と共に、三人は全速力で左右へと飛び退いた。
そこからの10分間は、三人にとって文字通り悪夢のような時間だった。攻撃に転じる余裕など一切ない。
バーンが片手で無造作に放つ爆裂魔法や炎の不死鳥を、フィンとガレスが死に物狂いで回避・攪乱し、リヴェリアが防御魔法を張り続けて余波を防ぐ。
途中で乱入してきたボロボロの魔族(ハドラー)のお陰で一時的にバーンの注意が逸れ、背後の少年たちが無事に脱出を果たしたのを見届けた後も、三人は全身を煤と血に塗れさせながら、ただひたすらに『生き残ること』だけに全神経を注いで大魔王の猛攻を凌ぎ続けた。
そして、三人の体力が限界を迎えようとしたまさにその瞬間――
足元に眩い帰還の光が浮かび上がり、彼らは間一髪で大魔宮から強制送還されたのだった。
◇
ドサッ、と音を立てて、フィンたち三人はバニーの自室の床へと転がり落ちた。レベル6の第一級冒険者である三人が、床にへたり込んで肩で荒い息をついている。
そのただ事ではない気配を感じ取ったのか、廊下から足音が近づき、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「あれ~? フィンにガレスにリヴェリアじゃない! 私の部屋で三人で床に寝転がって、一体何してるのよ?」
そこには、片手にワインの瓶を持ったバニーの姿があった。あまりにも呑気なバニーの声を聞いた瞬間、三人は同時にバニーの方を振り返り――
「「「バニーっ!!!」」」
疲労困憊でへたり込んでいたはずの三人が、鬼気迫る形相でガバッと立ち上がった。
「ひゃあっ!? な、なに!? なんで三人ともそんなボロボロで血走った目をしてるのよ!?」
突然の剣幕にワイン瓶を抱えて仰け反るバニーへ、フィンがずいっと詰め寄る。
「君が机の上に描きっぱなしにしていた魔法陣のせいで、僕たちがどんな目に遭ったと思っているんだい!? 死ぬかと思ったよ!!」
「そうじゃ! あと少し遅ければ、ワシら全員まとめて消し炭になるところじゃったわい!!」
「バニー! あのように危険な魔法陣を放置して飲みに出かけるとは、一体どういう了見なのだ!!」
珍しく声を荒らげるフィンとガレス、そしてリヴェリアまでもが今にも噛みついてきそうなくらいの勢いで詰め寄ってきて、バニーは目を白黒させながら後ずさる。
「えっ、机の魔法陣?あれ、魔力を少し込めて定着具合をテストしてただけなんだけど、もしかして勝手に暴発しちゃった?……てへっ☆」
そう言って、バニーは頭を軽くコツンと叩きながら、ペロッと舌を出してウインクしてみせる。
もちろん、死線をくぐり抜けてきたばかりの首脳陣三人にそんな愛嬌が通じるはずもなく、リヴェリアの般若のような怒号が黄昏の館に木霊したのは言うまでもない。
かくして、バニーのうっかりによって大魔王の恐ろしさをその身に刻んだロキ・ファミリアの三人は、この後すぐにステータスを更新しに向かい、大魔王バーンという存在のヤバさに改めて戦慄するのであった。
宜しくお願いします〜