ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
「……教えて」
スースーと間抜けな寝息を立てるイヴィルスの男たちを治安維持隊(ガネーシャ・ファミリア)に引き渡した後。
黄昏の館(ロキ・ファミリアの拠点)への帰路につく道中で、私の後ろを歩いていたアイズが、網タイツの裾をきゅっと掴んできた。
「ん? なにを?」
「さっきの魔法。詠唱もしないで、あんなに強い魔法を出す方法……私に、教えてほしい」
金色の瞳が、すがるように私を見上げている。
幼い体で自分の背丈ほどもある剣を振るい、イヴィルスに単身で突っ込んでいった彼女。その根底にあるのは、ただひたすらに「強くなりたい」という悲痛なまでの渇望だった。
「うーん……」
私はウサ耳を揺らして、少し困ったように頬を掻いた。
「教えるのはいいんだけど、魔法ってそういうものじゃないのよ。剣の素振りみたいに練習して身につくものじゃなくて、もっとこう、魔力を練り上げる感覚を体に覚えさせなきゃいけないから……」
「魔力も、覚える。だから」
「それにね、私、今は『遊び人』だから。人にものを教えるなんて面倒くさいこと、あんまりしたくないのよねぇ」
私が本音をこぼすと、アイズはショックを受けたように目を伏せたが、それでも網タイツを掴む小さな手は離さなかった。
頑固な子だ。かつて一緒に旅をした、不器用で真っ直ぐだった戦士の顔が少しだけ重なる。
「……ま、とりあえずは『遊び方』から教えようか」
「あそび、かた……?」
「そう。アイズちゃん、いつも肩に力が入っててガチガチだもの。そんなんじゃ、いざって時に剣も魔法も素早く出せないわよ。まずは美味しいご飯を食べて、よく寝て、適度にサボる。これができないと、強くなる前に心が折れちゃうわ」
私がポンと頭を撫でると、アイズは「……?」と不思議そうに首を傾げていたが、少しだけその表情が柔らかくなった気がした。
◇ ◇ ◇
「カハッ! あんた、ホンマに規格外やな!」
黄昏の館に戻り、市場での出来事を報告すると、主神のロキは腹を抱えて大笑いした。
「ウチのアイズに『適度にサボれ』やて? フィンやリヴェリアが聞いたら卒倒するで、ホンマ。……せやけど、不思議とあんたには懐いとるみたいやな」
「懐いてるっていうか、私が魔法を使うから興味を持たれてるだけよ」
ソファに寝そべりながら、私はロキが用意してくれた高級な果実酒をグラスに注いだ。
「で、ロキ。私を呼んだのはアイズちゃんの報告だけじゃないんでしょ?」
「ん、せや。バニー、あんた……正式にウチのファミリアに入らへんか?」
ロキが真剣な――神としての威厳を持った目で、私を見た。
「最初はただの『監視』と『パトロン』のつもりやった。けど、アイズのピンチを救ってくれたし、何よりあんたはオモロい。ただの客分やのうて、ちゃんと『ロキ・ファミリア』の証を背負ってみる気はないか?」
「ふーん……。入ったら、何かいいことあるの?」
「そらもう! ファミリアの金で飲み歩けるし、何よりウチの『恩恵(ファルナ)』を刻めば、あんたのその力……もしかしたら、もっとオモロい方向に化けるかもしれへんで?」
確かに、今は遊び人に転職して弱体化している状態だ。
この世界の『恩恵』とやらを受ければ、神の力で何か新しい力が引き出されたりするのだろうか。
「……いいわよ。面白そうだし」
「よし! 交渉成立や! ほな、さっそく背中出し!」
私はバニースーツの背中を開け、ソファにうつ伏せになった。
ロキが私の背中にまたがり、チクリと針で自身の指先を刺す。そこから垂れた一滴の『神の血』が私の背中に落ちた瞬間、カァッ……と淡い光が広がり、背中がじんわりと熱くなった。
「よしよし、これでウチの眷属や。ステータスはどうなっとるかな……ん?」
ロキの指先が私の背中をなぞり、やがてピタリと止まった。
「……なんやこれ」
「どうしたの? 何か変?」
「レベルは当然『1』なんやけど……問題はこの『スキル』の欄や」
ロキは怪訝そうに首を傾げ、スッと目を細めた。
「【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】……? なんやこれ。神の文字(ヒエログリフ)で注釈が出とるけど……」
「ルビス・メモリア?」
聞き慣れた神の名前に、私は思わず振り返ろうとした。
「ちょい待ち。……読み上げるで。『一日一度、十分間のみ、魂に刻まれたあの頃の姿と力を現出させる。更に、道具袋への接続も許可』……?」
ロキが読み上げたその内容に、私は目を丸くした。
あの頃の姿と力。
それはつまり、あらゆる魔法を極め尽くした、あの『賢者』としての能力を、一時的に完全に取り戻せるということだ。
しかも「道具袋」まで使える? 強力な装備や、とっておきのアイテムたちを詰め込んでいた、あの底なしの革袋に!?
「ちょっと、それって……!」
私は弾かれたように起き上がった。背中の光が収まり、黒い入れ墨のようなステータスが刻まれているのが感覚でわかる。
「試しに使ってみていい!?」
「お、おう。ウチもこのスキルの効果がホンマに発動するか見てみたいわ」
私は目を閉じ、体の奥底にある新しい扉――恩恵によってもたらされたスキル【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を強く意識した。
パァァァァッ……!
私の体を、眩い光が包み込む。
その瞬間、体の内側から爆発的な魔力と活力が溢れ出し、半減していたはずの魔力タンクが、カチリと音を立ててかつての限界値まで跳ね上がったのがわかった。
光が収まると、ロキが目を丸くして声を上げた。
「……ホンマに、姿まで変わりよったで」
私が着ていたはずの網タイツとバニースーツは消え失せ、代わりに身を包んでいたのは、かつての冒険の終盤で手に入れた『神鳥の法衣』と『神鳥の杖』だ。さらに頭には『ほしのサークレット』、腕には『ほしふるうでわ』、そして左腕には『女神の盾』がしっかりと装備されている。
「うわぁ……懐かしい! 本当に賢者に戻っちゃった!」
神鳥の杖を軽く握り直すと、あの頃の感覚が完全に手に馴染んでいるのがわかる。遊び人の状態でもザルドとそれなりに打ち合えたのだ。この状態なら、イヴィルスの連中が束になってかかってきても、真正面から消し飛ばせる自信がある。
さらに、私は腰元に現れた見慣れた古びた革袋――『道具袋』に手を突っ込み、そこから一つの小瓶を取り出した。かつて使っていた『エルフののみぐすり』だ。
試しに蓋を少しだけ開けると、その瞬間に、神の眼を持つロキですら肌が粟立つほどの、極めて濃密で純粋な魔力の匂いが部屋中にあふれ出した。
「なっ……なんやその液体。そんな小さな袋から物を取り出す空間魔法も大概やが、その瓶から漏れとる魔力、オラリオの最高級ポーションでもありえへん濃度やぞ……! ホンマに、デタラメやな、あんた」
ロキが呆れを通り越して、肩をすくめた。
「一日十分だけ。制限時間付きとはいえ、こんな無法なスキル、オラリオの歴史上でも聞いたことないで」
「ふふっ。まあ、遊び人が真面目に戦うのは、一日十分くらいがちょうどいいわね」
私は法衣を翻し、嬉しくてその場でクルリと回った。
基本はバニーガールの遊び人。でも、いざという時の十分間だけは、最強の魔法使いになれる。
「ロキ、ファルナをくれてありがとう!」
「ま、ええわ。暗黒期のオラリオで、その力がどう暴れるか、ウチに見せてもらうで」
こうして私は正式にロキ・ファミリアに加入し、最強の切り札を手に入れた。
この力が、幼いアイズの運命や、オラリオを覆う暗黒期の戦局にどう関わっていくのか――私の新しい『遊び』は、ここからが本番だった。
【現在のステータス・所持品状況】
■発現スキル
【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】
・一日一度、十分間のみ発動可能。全盛期(賢者)のステータスと装備を現出させ、道具袋への接続が可能になる。
■装備(スキル発動時)
・武器:神鳥の杖
・防具:神鳥の法衣
・盾:女神の盾
・兜:ほしのサークレット
・装飾品:ほしふるうでわ
■道具袋の中身
・ルビスの剣
・けんじゃのせいすい
・エルフののみぐすり
・賢者の石
・変化の杖
・エッチな本
・すごくエッチな本
エッチな本は何かのネタになるかなって。
アイズもバニーみたいに魔法を使いたいみたいなので、まずは形から入ってみるという手も…
評価0が出てしまったので、更新はこれで終わるかもしれません。