ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ 作:ポップ
黄昏の館での生活は、遊び人にとってこの上なく快適だった。
ふかふかのベッド、三食昼寝付き、そして何より、ファミリアの資金で年代物の高級ワインが飲み放題。ロキとの『監視と用心棒』の契約は、私にとって天国のような環境をもたらしていた。
「あー、極楽極楽。お昼から飲むお酒は最高ねぇ」
私は館の広いラウンジのソファでくつろぎながら、ウサ耳を揺らしてワイングラスを傾けていた。
そんな堕落しきった私の前に、トテトテと小さな足音が近づいてきた。
「……ねえ」
見上げると、金色の髪を揺らしたアイズが、真剣な表情で私を見つめている。
「あら、アイズちゃん。今日は剣の素振りはお休み?」
「うん。……昨日、あなたが言ったから。強くなるためには、まず休むことって」
「ああ、言ったわね」
私はクスクスと笑った。あの後、彼女なりに私の言葉を真面目に受け取って、休む努力をしているらしい。本当に素直でいい子だ。
「だから、今日はこれにする」
言うが早いか、アイズは羽織っていたマントをバサリと脱ぎ捨てた。
「ぶふっ!?」
私は口に含んでいたワインを、危うく盛大に吹き出しそうになった。
マントの下に隠されていたのは、私と同じ『バニースーツ』――のようなものだった。
彼女の小さな体には少しダボついている黒い服。背中には不器用に縫い付けられた白い綿の尻尾。足元には、サイズが合わずにルーズソックスのようにダルダルにたるんだ黒い網タイツ。
そして頭には、針金と布で作られた、へにょりと曲がった手作りのウサ耳カチューシャが乗っていた。
「ど、どうしたのその格好!?」
「……自分で、縫った。これで私も、遊び人」
アイズはたるんだ網タイツを一生懸命引き上げながら、大真面目な顔で私を見つめている。
羞恥心という概念がまだ育っていない八歳の幼女にとって、この露出度の高い格好はただの「強い人が着ている服」なのだろう。私の言葉を受けて、彼女なりに必死に「遊び人」というものになろうとした結果が、この手作りの衣装らしい。
「これで、上手く休める……?」
「いや、服の問題じゃなくてね……あー、もう、かわいすぎるんだけど」
私は腹を抱えて笑い転げた。純粋すぎる勘違いと、ダルダルの網タイツ姿で真剣に問いかけてくる幼女。面白すぎて涙が出てくる。
だが、その和やかな(?)空気は、ラウンジの扉が開く音と共に凍りついた。
「アイズ、休憩は終わったか? 午後は座学の……」
ラウンジに入ってきたのは、翠色の髪を長く伸ばした美しいハイエルフの女性だった。
ロキ・ファミリアの副団長にして、アイズの実質的な保護者(オカン)であるリヴェリア・リヨス・アールヴ。
彼女は、ダルダルの網タイツと手作りのウサ耳をつけたアイズの姿を見て、持っていた魔導書をポロリと床に落とした。
「あ、リヴェリア。見て。私、遊び人になった」
アイズが誇らしげにへにょへにょのウサ耳を揺らすと、リヴェリアの顔からスゥッと血の気が引いていくのが見えた。
そして次の瞬間、彼女の翠色の瞳が、般若のような怒りの形相で私を射抜いた。
「き、貴様ぁぁぁぁっ!! 私たちの純真なアイズに、何というふしだらな格好をさせているのだ!!」
「ち、違うわよ! アイズちゃんが勝手に服を――」
「問答無用! そのふざけた服装を今すぐやめさせろ! 教育に悪すぎる!!」
リヴェリアが杖を構え、ラウンジに轟音と共に攻撃魔法の詠唱が響き渡ろうとした、まさにその時。
「なんやなんや、騒がしい……ブッフォォォ!?」
騒ぎを聞きつけてやってきたロキが、バニー姿のアイズを見た瞬間、両鼻から滝のように鼻血を噴き出して床に崩れ落ちた。
「ア、アイズたんの……バニー……尊すぎる……ッ! グッジョブやバニーちゃん、ウチは眼福で死ねる……!」
「ロキ!! 貴様も神ならこのふざけた状況を止めんか!!」
鼻血を流してサムズアップする主神をリヴェリアが杖で殴り飛ばし、ラウンジは完全にカオスと化した。
「……? リヴェリア、なんで怒ってるの?」
激怒するハイエルフと、床に沈む神を交互に見つめながら、アイズはきょとんと首を傾げている。
彼女には、なぜ自分が怒られている(ように見える)のか、全く理解できていないらしい。
「あー……リヴェリア、ストップ。これ以上怒るとシワが増えるわよ」
私はため息をつきながら立ち上がり、アイズの頭のウサ耳カチューシャをそっと外してあげた。
「アイズちゃん。遊び人の服を着ても、強くはなれないし、上手くも休めないのよ」
「ちがうの?」
「うん。服じゃなくて、中身の問題だから。……それにね」
私はアイズの目線に合わせてしゃがみ込み、その小さな肩に手を置いた。
「剣士には剣士の、遊び人には遊び人の戦い方があるの。私の真似じゃなくて、アイズちゃんは『アイズちゃんの強さ』を見つけなきゃダメ。……だから、明日からはちゃんとリヴェリアと一緒に、剣と座学のお勉強を頑張ること」
「……うん。わかった」
少し残念そうにしながらも、アイズは素直にこくりと頷いた。
「よしよし、いい子ね」
私が頭を撫でてやると、背後で息を荒げていたリヴェリアが、ほんの少しだけ毒気を抜かれたようにため息をついた。
「……分かればいい。アイズ、早く着替えてきなさい」
「はーい」
アイズがマントを拾ってトテトテと去っていくのを見送った後、私は冷や汗を拭いながらワイングラスを手に取った。
強くなることへの執着が少し和らいだのは良いことだが、まさかあんな斜め上のアプローチをしてくるとは。
(子供の純粋さって、時々イヴィルスより恐ろしいわね……)
遊び人と、真面目すぎる小さな剣士。
私たちの奇妙な関係は、周囲に多大な胃痛と鼻血を振り撒きながら、こうして少しずつ形を変えていくのだった。