ドラクエ3の女賢者さんが、遊び人になってダンまち世界に転移してきたよ   作:ポップ

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第九話:首脳陣への開示と、賢者の石

「……一日一度、十分間のみ、魂に刻まれたあの頃の姿と力を現出させる。更に、道具袋への接続も許可」

 

黄昏の館の奥、団長室。

羊皮紙に書き写された私のステータス(スキルの項目)を読み上げたフィンは、手にした紙と、ソファでワインを飲んでいる私を交互に見比べた。

 

「これが、君が恩恵(ファルナ)を受けて発現したスキルかい?」

 

「そう。ロキにはすでに見せたんだけどね」

 

私が頷くと、同席していたドワーフの巨漢――ガレスが、豊かな髭を撫でながら低い声を出した。

 

「『あの頃の姿と力』ねぇ。それに、道具袋とはまた奇妙な能力じゃな」

 

「ただでさえ常識外れな無詠唱魔法を使うというのに、まだ裏があるというのか」

 

リヴェリアが、探るような翠色の瞳を私に向けてくる。

今日はファミリアの首脳陣である彼ら三人に、私の能力を正式に共有するための場だった。主神のロキは、自分の机に足を乗せながらニヤニヤと笑ってこの様子を眺めている。

 

「口で説明するより、見せた方が早いわね。ちょうど今日の分、まだ使ってないし」

 

私は立ち上がり、目を閉じて背中の恩恵――【賢者の回帰(ルビス・メモリア)】を意識した。

パァァァァッ……!

淡い光が全身を包み込む。

その瞬間、バニースーツと網タイツが消え去り、私の体は『神鳥の法衣』に包まれた。右手には『神鳥の杖』、左腕には『女神の盾』、頭に『ほしのサークレット』を戴き、腕には『ほしふるうでわ』が輝いている。

ステータスが、遊び人からあの頃の『賢者』へと跳ね上がる。

 

「なっ……!?」

 

「姿が変わった……いや、それだけじゃないぞ、フィン!」

 

ガレスが目を見開き、リヴェリアは信じられないものを見るように一歩前に出た。

 

「なんて純粋で淀みのない魔力だ……。それに、その装備の数々。どれを見ても、オラリオの第一級武装を凌駕するほどの神秘を感じる」

 

魔道士の頂点に立つリヴェリアだからこそ、私が身に纏っている装備の異常さが直感で理解できたのだろう。

 

「これが私の『あの頃』の姿。そして……」

 

私は腰元に出現した古びた革袋――道具袋に手を突っ込み、ゴソゴソと中を探った。ルビスの剣や変化の杖、エッチな本などをかき分け、目的のものを取り出す。

 

「はい、これ。いつもファミリアのお金で美味しいお酒を飲ませてもらってるから、そのお礼」

 

私がポンとテーブルの上に置いたのは、手のひらサイズの淡く輝く美しい石だった。

 

「石……? 魔石の一種かい?」

 

フィンが不思議そうに覗き込む。

 

「『賢者の石』っていうの。私、こう見えても元・賢者だから、攻撃だけじゃなくて回復魔法も使えるのよ。でも、私は遊び人だし、いつもあなたたちと一緒に迷宮(ダンジョン)に潜れるわけじゃないでしょ?」

 

「ふむ。で、これがどうしたと?」

 

「これ、掲げると周囲の味方全員の傷をそれなりに回復してくれるの。しかも、使っても壊れないし、何度でも使えるから」

 

ピタリ、と。

団長室の空気が、文字通り凍りついた。

 

「……バニー。君、今、なんて言った?」

 

常に冷静沈着なフィンの顔から、表情がすっぽりと抜け落ちていた。

 

「え? だから、みんなの傷を回復できて、何度でも使えるって」

 

「な、何度でも、だと!?」

 

ガレスが弾かれたように大声を上げた。

 

「おいおいおい! オラリオの常識じゃあ、ポーションは使い捨て、回復魔法(ヒーラー)は術者の精神力(マインド)を消費するのが当たり前じゃぞ! 何度でも使える全体回復アイテムなど……そんなものが迷宮にあれば、探索の前提が根底から覆るわ!」

 

「……全く同感だ。もしそんなものが他派閥に知れ渡れば、血みどろの争奪戦が起きるぞ」

 

リヴェリアも額に冷や汗を浮かべ、テーブルの上の石を爆弾か何かのように見つめている。

どうやら、この世界では私が思っている以上にヤバいアイテムだったらしい。

 

「カハッ、アハハハハハ!」

 

沈黙を破ったのは、ロキの大爆笑だった。

 

「傑作や! フィンもガレスもリヴェリアも、揃いも揃って鳩が豆鉄砲食らったような顔しよって! バニーちゃん、ホンマにあんたはウチの退屈を吹き飛ばしてくれるわ!」

 

「もう。そんなに深刻な顔しなくてもいいじゃない。あげるわけじゃなくて、私がここに居候している間、特別に貸してあげるって言ってるのよ」

 

私は神鳥の杖を軽く振りながら、肩をすくめた。

 

「あなたたちが怪我して帰ってきたり、万が一死んじゃったりしたら、私が美味しいお酒を飲める場所がなくなっちゃうからね。まあ、用心棒代の前払いだと思って、遠慮なく使ってよ」

 

「……」

 

フィンは深く、本当に深くため息をついた後、その『賢者の石』を慎重に手に取った。

 

「……分かった。君の厚意に甘えよう。ただ、このアイテムの存在と、君のスキルの全貌は、ファミリア内でも一部の幹部だけの極秘事項にさせてもらうよ」

 

「ええ、好きにしてちょうだい」

 

十分が経過し、光と共に私の姿が再びバニースーツに戻るのを確認すると、私はソファに座り直してワイングラスを手に取った。

 

「あー、やっぱりこの服の方が肩が凝らなくていいわ。さ、説明も終わったことだし、私はもう少し飲ませてもらうわね」

 

こうして、日々のタダ酒と快適な居候生活の対価として『貸与』された賢者の石は、ロキ・ファミリアの迷宮探索における最大の命綱として、ひっそりと彼らの手に握られることになったのだった。

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