ここは俺の知ってるSAOの世界とは違うっぽい   作:夢幻人.

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02.始まりの日

 

2022年11月6日

ついにこの時が来た。いや、来てしまったというべきか……

今日はSAOの正式サービスの開始の日だ。デスゲームになると分かっていながら自分から首を突っ込むのは気が引ける。つーか普通に怖い、泣いていいかな?

だが、やらないという道は選べない。ただの推測でしかないけれどこのパラレルワールドが俺が生まれるという事だけで終わるとは思えないのだ。嫌な予感としか言えないし、何の根拠もないけどね。それにバタフライ効果なんていう言葉もあるし、俺がいる事で予想だにしない致命的な何かがあったって不思議じゃない。そんな状況で逃げるだなんて……

 

「そんな事出来ない……!見捨てるなんて事したくない」

 

この世界の俺はどうやら正義感が強いらしい。前世の俺ならきっとそんな強さは持てなかったと思う。

そして同時にこう思う。あれだけいい感じの事を言っておいてあれなんだけど、実はただSAOをやってみたいだけだって。好奇心には勝てないのだ。

 

「よし、んじゃそろそろ行きますか!」

 

ナーヴギアをセットしてベッドに寝転がって俺はあの言葉を言う。ゲームを起動するあの言葉を

 

「リンクスタート!」

 

 

******

 

 

「こ、ここが……!」

 

見渡してみればそこは既に自分の知らない世界だった。まるで本当に異世界に来てしまったんじゃないか、という感覚にすらなってしまう。

 

「俺は来れたのか……夢にまで見たこの世界に……!」

 

浮遊城アインクラッド──全100層で構成されている鋼鉄の城。その第1層《はじまりの街》。名前の通りこのSAOの物語が、全てが始まる場所だ。

 

俺は好奇心のままに走り出した。もちろん考えなしに走っているわけじゃない。まずは何よりもこの世界の戦い方を体に叩き込まなくてはならない。でないと話にならん。いやそれなら先にポーションを幾つか買っておかないとか……命は大事にしないとね。

 

というわけでポーションを幾つか購入して街の外の圏外へとやってきた。俺は初期装備である片手直剣を抜いて目の前にいる猪のモンスターに狙いを定める。ひとまずは普通に武器を振って攻撃。猪が俺に突撃してくるが俺は危なげなく回避する。その隙をついて再度攻撃して怯んでる間に距離を取る。

 

「ふむふむ、こんな感じなのか」

 

何というか新鮮だ。実際にこうして剣を使ってモンスターと戦うなんて……なんだかすげぇわくわくしてきた!次はソードスキルを試してみようかな。

 

「えーっと……ソードスキルはこんな感じで構えれば良いのかな?」

 

アニメで見た事を参考にそれっぽく構えてみると剣から青色の光が発せられる。どうやら成功したらしい。俺は突っ込んでくる猪にタイミングを見計らってスキルを放った。

 

「はぁ!」

 

片手直剣単発ソードスキル《ホリゾンタル》。これにより猪のHPが0になり、ポリゴン片になって消えた。

 

「いいね、この調子でどんどんいこう」

 

それからしばらく戦闘を続けたところで街の鐘がリンゴンリンゴンと鳴り響き、気づけば街の広場へと転移されていた。

 

「ついに始まるのか……!」

 

『ソードアート・オンライン』という物語の始まりに欠かせない、SAOの生みの親である茅場 昌彦によるデスゲーム宣言だ。

 

すると上空に

 

《Warning》《System Announcement》

 

と表示されたかと思いきや警告表示が空を一気に赤く染め上げた。

そしてそんな赤い空から赤いドロドロしたものが流れ出し、巨大な赤いローブを形成し、1つのアバターとなった。

 

「迫力あるなぁ……」

 

などと呑気に関心しているとそのアバターが話し始めた。

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場 晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

出ました茅場さん!待ってました!

周りからは驚きの声が聞こえてくる。みんな、これが何かしらのイベントだと思ってそれなりに盛り上がっているようだ。

 

「プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない──繰り返す、不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。諸君は自発的にログアウトすることができない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止・解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる。より厳密には、10分間の外部電源切断。2時間のネットワーク回線切断。ナーヴギアのロック解除・分解・破壊が試みられた場合、脳破壊シークエンスが実行される」

 

続いて聞こえてくるのは驚愕と困惑の声。一部の者は「何言ってんだあいつ?」という感じで全く信じていない。

 

「残念ながら、現時点でプレイヤーの家族・友人が警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようとした例が少なからずあり…その結果、213人のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している」

 

213人……多くの数の人間が被害に遭っているという事実にさらに困惑の声は広がる。

 

「ご覧のとおり、多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。よって、既にナーヴギアが強制的に解除される恐れは低くなっていると言ってよかろう。諸君らには、安心してゲーム攻略に励んでほしい」

 

茅場 晶彦の周囲には複数のウインドウが展開される。見慣れたニュース番組の映像がちらほら見受けられる。

 

「しかし、十分に留意してもらいたい。今後、ゲームに於いてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に──」

 

短い間。この世界が『ゲームであっても遊びではない』事の理由が告げられる。

 

「──諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される」

 

やり直しが出来ない世界、それがこの世界だ。もはやVRMMORPGというより、もう一つの現実だと言えるだろう。

俺は知っていたからまだなんとも思わないが、周りの奴らは違う。楽しみにしていたゲームがデスゲームだったのだ。恐怖でしかない。

 

「諸君らが解放される条件はただ1つ。このゲームをクリアすればよい。現在君たちがいるのはアインクラッド最下層の第1層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒すことで上の階に進める。第100層にいる最終ボスを倒せばクリアだ」

 

原作ではクリアまでに約2年かけた。だがそれは100層ではなく75層までしか進めていない。もし100層まで行くとなれば3年、もしかしたら4年かかるかもしれない。

 

「最後に、この世界が諸君らにとってもう1つの現実だという証拠をお見せしよう。諸君らのアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ」

 

俺は早速アイテムストレージから《手鏡》を取り出す。すると全身が青い光に包まれる。

しばらくして光が収まり、自身の姿を手鏡で確認する。

 

「おお、現実世界の俺だ……」

 

そこには紛う事なき俺がいた。分かっていても少し驚いてしまう。そして周りから次から次へと驚愕の声が上がる。

 

「諸君らは今、「何故?」と思っているだろう。ナーヴギア開発者である茅場晶彦は、何故このような事をしたのか、と。──私はこの世界を創り、鑑賞するためだけにナーヴギアを、そしてSAOを作った。そして、全ては達成せしめられた」

 

この男は目的を鑑賞だと言った。きっとそれは前世で小説を読み、アニメを見ていた俺ら(・・)と一緒なのだろう。この総勢約1万人のプレイヤーがこれから織り成す物語を見るために……

ふとここにログインする前にも感じた嫌な予感を再度感じた。何だ?俺はこの展開を知っている。知らない展開ではないはずなのに何故こうも胸がざわつくのか……

 

「以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する──プレイヤー諸君の、健闘を祈る」

 

するとアバターが消えて空が元通りになる。そして一瞬の静寂が訪れた。

 

「いや……いやぁあ!」

 

そんな誰かの悲鳴とともにプレイヤー達の感情が一斉に弾けた。

「ふざけるな!」だの「この後、約束がある」だの「出してよぉ!」だの様々な悲鳴が飛び交うなか、俺は駆け足で広場を抜け出した。

 

未だ胸のざわめきが治らない。何かが起こると根拠のない予感が俺の中で消えてくれない。その何かに備えるためにもまずは自分が強くならなくてはならない。

そう思いながら走っている途中で背後から声をかけられた。

 

「お前……シンヤか!?」

 

「……!キリト!」

 

振り返るとそこには俺の友達である桐ヶ谷 和人──いや、キリトがそこにいた。

ちなみにシンヤというのは俺のプレイヤーネームだ。キリトと同じく自身の名前の上と下をくっつけただけの何の捻りもない名前。

 

「キリトはこれからどうするつもりなんだ?」

 

「俺は次の村へ行こうと思ってる。どうせこの辺は他プレイヤーに狩り尽くされるだろうからな。お前も来るか?」

 

その時、キリトの顔が一瞬だが暗くなった気がした。おそらくクラインとの別れが原因だろう。見捨ててしまったと自分を責めているのかもしれない。こいつはそういう奴だ。原作とか関係なく今まで友達として接してきたからこそ分かる。

 

「ああ、連れてってくれ!それからお前にもう一つ聞きたいんだけど、お前の妹はログインしてるのか?」

 

「え?スグの事か?……全然そんな素振りなかったから大丈夫だと思いたい、けど」

 

だがあの時の言葉が本気だとしたら人知れずログインしてる可能性も否定は出来ないか……ならば

 

「そうか、分かった。でも一応探しておきたいよな、心配だし……次の村を拠点にしながらレベル上げと捜索を同時にこなすしかないか」

 

今すぐ確かめたい気持ちはある。だが今はあのパニック状態だし、プレイヤーネームが分からない以上《黒鉄宮》にある石碑を見に行っても意味はない。強くなることもやらなきゃならない以上、今はそっちを優先した方が良い。拳を強く握りしめて俺とキリトは決断する。

 

「だな。そうしよう。とにかくまずは次の村へ向かおう」

 

俺とキリトは走り出す。次の村へ向けて。

原作ではこの後、1層がクリアされないままたった1ヶ月で2000人が死んでしまう。きっとボスを倒すのはキリト達がやってくれるだろう。なら俺はその死んでしまう人達を1人でも多く守りたい……!何かがあっても守れるように強くなりたい!

 

 

だがそんな俺の決意を嘲笑うかのように俺の嫌な予感は現実のものとなってしまう。

 

ゲーム開始から1ヶ月で3000(・・・・)人が死んだ。未だ第1層はクリアされていない──2022年12月2日

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