デスゲーム始まってから約2週間経った頃、俺は今日も今日とてレベル上げのため、森の中で戦っていた。
「これで、終わりだ!」
片手直剣2連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》を狼のモンスターに放つ。すると狼がポリゴン片になって散った。
「はぁ……はぁ……まだ足りない。こんなんじゃ何も……!」
次の村に着いてから少しだけキリトに戦い方のアドバイスを受けながらレベル上げをした。俺が巻き込んでしまったであろう直葉を探す事もちゃんと欠かさずにやった。
「そんなに自分を責めないでください。シンヤさんは何も悪くありませんよ」
「……ああ。ありがとう、リーファ」
結論として直葉はいた。プレイヤーネームはALOと同じリーファ。しかし当然だが見た目は現実世界と同じ姿でALOの金髪にポニーテールのアバターではなかった。
正直な事を言えばいない事を期待していた。現実世界で待っていてくれた方が危険がないからだ。だが、いてしまったのだから仕方がない。俺やキリトからしたら安全なところで大人しくしていてくれたら安心出来たのだが、本人はどうしても「待ってるだけなのは嫌」と言ってきかないので今は俺と一緒にパーティを組んでレベル上げをしている。
「たった2週間で2000人以上か……クソっ!」
思わず近くの木を殴る。
たった2週間で2000人以上が死んだ。あまりにも早すぎる。これでもピンチに陥っているプレイヤーを見かけた時はもれなく全員助け出している。少し話を聞いて自身の経験を基にレベル上げに最適な場所だったり、戦い方のアドバイスをしていた。それでも既に原作を超える被害が出ているのだ。
──俺がいるせいだ。俺がいるから……!
……なら俺がいなくなればこの地獄は少しくらいはマシになるのか?原作通りに軌道修正されるのか?
そんな訳ないだろ……!!
「きゃあああ!!」
リーファと共に拠点にしている村へと戻る途中、微かにだが確かに悲鳴が聞こえた。
「リーファ!お前はこのまま村へ戻れ!」
「え!?ちょっと、シンヤさん!!」
俺は全速力で走る。声が聞こえた方へ一直線に。
すると巨大な猪が女の子を襲っている姿があった。
見えた……!あれか!!
「はぁああ!!」
片手直剣上段突進技ソードスキル《ソニックリープ》を使って巨大猪を横から突き刺す。そのままの勢いで近くの木まで押し込んだ。
すぐさま距離を取ってプレイヤーの女の子の様子を見る。大したダメージはなさそうだ。良かった
「あ、あの……ありがとうございます」
「気にしなくていい。とにかく今は少し離れておけ、あの巨体だと巻き込まれるぞ」
無事に離れた事を確認したところで再度巨大猪を見る。まだ体力結構残ってるな、中々にタフなようだ。
そして巨大猪が立ち上がるが、その時にはもう俺は接近出来ていた。そのまま斬り下ろしからの斬り上げ。そのままの流れで跳んで勢いをつけてもう1回斬り下ろし。
「……!こいつ、スーパーアーマーでも持ってるのか?」
HPは減っているものの、攻撃してもちっとも怯まず攻撃するモーションに入っている。こうなったら……
「せい!!」
俺は巨大猪の顔を思い切り左へ蹴った。体術スキルではないので全然ダメージは入らないが顔の向きを逸らし、攻撃の妨害をすることに成功した。だが代償として足を痛めた。つまり逆に俺がダメージを負ったのだ。痛覚はない。
「マジかよ、これ諸刃になるのかよ!」
そう驚きつつ、俺はソードスキルを放つため構えると剣が光輝く。そのまま《バーチカル・アーク》を放つ。それによりVの字の軌跡が描かれると巨大猪はHPが0になり、ポリゴン片となって散った。
「この辺のモンスターにしては強かったな。何なんだあの巨大猪は」
そう言いながら周りを見渡す。もうこの辺にモンスターはいなさそうだ。あのプレイヤーの女の子もいなくなっている。あのまま逃げたのかな……?それならそれで良いんだけど
そう思って剣をしまって村へと歩いているとさっきの女の子を見つけた。すぐそばには男のプレイヤーがいる。一瞬パーティメンバーかとも思ったがどうも様子がおかしい。
「まさか……ナンパか?こんな圏外で何バカな事を……」
俺はその2人に近づいて女の子に伸ばされている男の手を掴む。
「おい、何やってんだよ!こんなところ……で」
「ああ?何だテメェ!?」
男がメンチ切ってくるがそれどころではない。後ろ後ろ、と男の背後の方へ指を刺すと男が振り返る。
「あ?後ろがなんだって……」
狼が1体、そこにいた。しかも既に飛びかかってきている。
「うわあ!?」
と男が瞬時にその場から離脱。あいつ逃げ足速いな……
そう思いながら狼の攻撃を躱しつつ、右手で前足を掴んで狼の攻撃の勢いを利用して投げつける。左手は既に剣を抜き終わっており、流れるように《ソニックリープ》を放って狼を倒した。
「大丈夫だったか?」
「は、はい!何度も助けてくれてありがとうございます!」
「さっきも言ったけど、気にしなくていいよ。それからもし狩りをするなら、向こうの方が良い。モンスターの数が少ないから比較的安全に狩りが出来ると思う。この辺はもう少しレベルが上がったら来るといい」
あの巨大なモンスターに関してはキリトからの話にもなかった。あんなのがもし当たり前のように出てくるようならそれも付け加えたアドバイスをしてやらないと同じ事の繰り返しになる。アルゴから情報を買うか。
「はい、分かりました。ところで……えっと……その」
うん?ああ、名前か。そういや名乗ってなかったもんな。
「俺はシンヤだ。俺に何か用か?」
「あ、えっと私はシリカって言います。それでシンヤさんはこれからどうするんですか?」
「俺はこれから村に戻ろうと思ってるけど」
「それなら、村までご一緒していいですか?もしまたさっきみたいな事があると思うと少し怖いので」
シリカは不安そうな顔をしながら言った。
確かに巨大モンスターにナンパ野郎と立て続けに遭遇したら怖くもなるよな。
「分かった。少しの間だがよろしくな」
「はい!よろしくお願いします!」
それから村へ戻る道中でまたもや悲鳴が聞こえた。
「うわぁあ!近寄るなぁ!」
声のした方を見るとさっきのナンパ野郎が狼3体に襲われていた。HPは既に黄色くなっている。
「クソ!間に合え!!」
「シンヤさん!!」
俺は男の方へ走りながら片手直剣下段突進技ソードスキル《レイジスパイク》を使って急いで近づく。するとガキィィン!という金属音が鳴り響き、男に降りかかろうとしていた狼の攻撃を相殺した。
どうやら間に合ったみたいだ。ソニックリープよりも威力は低いけど、やっぱ射程はこっちのが長いんだな。ってそんなこと思ってる場合じゃねぇな
続いてくる2体目の狼の攻撃をタイミングを見計らって弾く。俗にいう《パリィ》というやつだ。
3体目も攻撃を仕掛けていたがそこにシリカが攻撃して止めていた。……その1体は任せよう。
残りの2体はちょうど近くにいる。それならこれでいける!
片手直剣2連撃ソードスキル《ホリゾンタル・アーク》水平斬りを2回、2体同時に当てるとそのままポリゴン片になって散る。
急いでシリカの方を確認するとシリカが盛大にズッコケていた。非常に危ういので俺が狼を斬りつけて倒した。
「大丈夫か……?」
「うぅ……すみません。少し焦っちゃって……」
「失敗くらい誰にだってあるさ、結果的に助かったんだから大丈夫大丈夫」
俺はそう言いながらアイテムストレージからポーションを取り出す。
「ほら、お前も大丈夫かよ?」
俺はナンパ野郎にポーションを与える。するとナンパ野郎は渋々受け取ると少し考えるようにしてからポーションを使った。
「……ああ、助かった。迷惑かけて悪かったよ」
そういってナンパ野郎は早々に立ち去っていってしまった。第一印象は最悪だったけど、あいつは実はそんなに悪いやつでもないのかもしれない。
「……1つ聞いてもいいですか?」
「ん?何だ?」
「私の時もそうですけど、どうしてあそこまで必死になって人のことを助けようとするんですか?」
「そんなに必死そうだったか?」
「はい、何だか辛そうでした。だから聞きたいんです」
うーん、そんな事聞かれてもなぁ……とそう思いながら考えると思いの外早くにその答えが俺の頭の中から泡のようにぶくりと浮かんできた。
「──俺を助けてほしいから?」
「え?」
「あーやっぱ今の無し!流石に考えなしだった」
気づけば自然と口に出ていた。何が助けてほしいからだ。流石に情けなさすぎるだろ……!
「ふふ、あはは!すごく顔赤くなってますよ!」
シリカが大笑いしている。え?俺そんなに顔赤い?やべぇ恥ずい……
「何もそんなに笑わなくたって……」
「あはは!す、すみません。今までかっこいいところしか見えてなかったから、何だかすごく新鮮でおかしくて」
「ぐぬぬ……!」
「ふふ、分かりました!私、シンヤさんのことを助けられる様に頑張りますね!」
「勘弁してくれ。恥ずかしいから」
はぁ……やってしまった。何だか弱音を吐いてしまった気がする。『俺を助けてほしいから』だなんて。でも実際、追い込まれていたのは紛れもない事実だ。目の前の誰かを助けられても自分の知らないところでそれ以上の人が死んでいる。それを自分のせいだとどうしても思ってしまって、背負いきれないものを無理に背負おうとして……そんなバカな俺のことを誰かに助けてほしいのかもしれない。
しばらくシリカと雑談しながら話していると村に着いた。そしてそこにはリーファがいた。すごい不機嫌そうだ。
「えっと、あの人は……?」
「名前はリーファ。俺の友達の妹だよ。あいつの兄がソロプレイヤー道を突き進んでるから俺と組む事になったんだ」
「あの、すごく怒ってませんか?」
「……そうみたいだな」
俺は意を決してリーファに近づいて話しかける。するとリーファが話し出した。
「シンヤさん。私はシンヤさんやお兄ちゃんの力になりたいんです。それなのに今回みたいにこうして取り残されるのは流石に傷つきます。私はそんなに頼りにならないんですか!?」
正直、強さで言えば何1つ言うことはない。流石現役の剣道部だ。多分俺より強いんじゃないか?
それでも俺が周りを頼ろうとしないのは、自分1人でやろうとしたのは──
「はぁ……やめたやめた。強がるのやめた!そもそも1人でどうにかしようだなんて、きっとキリトの奴に毒されたんだ。そうに違いない」
突然訳の分からない事を言い始めた俺にリーファとシリカは困惑している。いや、どっちかというと心配されてるか?
「リーファ、それにシリカも。頼む、力を貸してくれ。俺の我儘に付き合ってくれ」
最初からこれで良かったんだ。人によっては図々しい奴だとか思うんだろうけど、そもそもこれに関しては俺1人でどうにか出来るものではない。それがこの2週間でよく分かった。出来ないなら人を頼る。思う存分に頼る。それが俺という人間だ。プライドはないのかって?そのプライドで人の命が救えるのなら安いものだ。躊躇う理由にはならない。
出来る限り最善を尽くそう。そしてその結果がどんなものであれ、受け止めよう。