「はぁ……これ意味あったのかなぁ……」
あれから更に約2週間が経過。つまりデスゲーム開始から約1ヶ月が経った。この1ヶ月で3000人のプレイヤーが死んだ。
「この2週間で死亡したのは600人程。確かに多くのプレイヤーがいなくなっているが、それでも劇的に減っていル。シー坊のやった事に意味がなかったなんて事はないんじゃないカ?」
「なら良いんだけど、それでも気にしちゃうんだよ。その600人の事をな」
今俺と話しているのは情報屋、《鼠》のアルゴ。彼女の情報だとどうやら俺が戦ったあの巨大猪を始めとした
アルゴの推測だと巨大種はフィールドに低確率で現れて、その全てにスーパーアーマーが付いているとのこと。もちろんだが通常のモンスターよりもステータスは高い。
つまり、そんなやつと何の覚悟も準備もしてない状態で訳も分からず突然襲われるのだ。そりゃやられる人増えるよねぇ……俺らがそれを見かけていなかった事を考えるとちゃんと倒されてはいるようだ。しかし、初心者の多いはじまりの街周辺。そこには結構な数が湧いていたので驚いた。この前見た時はいなかった気がするんだけど、いつの間に……
そんな巨大種をはじまりの街周辺とそれ以外のところからも何体か倒して数を減らした後、レベル上げに苦労してそうなプレイヤーに片っ端から声を掛けて手伝ってやったりもした。
それ以外はいつも通り、フィールド上で危なそうなプレイヤーがいたら助ける事をしていた訳だ。
「ま、とにかくオレっちとしては感謝しかないヨ。最前線のプレイヤーは迷宮区攻略に躍起になってたし、他のプレイヤーは危険を冒してまでやってくれなかったからナ」
アルゴは巨大種に関する情報を求めていたようだが中々やってくれるプレイヤーがいなかったらしい。実際、俺らも人手を増やそうと手伝ってくれる人を探したが殆どの奴らに断られた。その中でも快く応じてくれたのは……
「よう、何だか元気なさそうだな」
「あ、エギルさん。改めてありがとうございました。手伝ってもらって」
エギル、それからここにはいないがクライン達だった。迷宮区に近い所は特に手強かったため、手伝ってくれて非常にありがたかった。それから俺らの情報をアルゴに提供し、それを基にアルゴが発行している攻略本に巨大種の情報を載せたのできっと被害に遭うプレイヤーは減ったのだと思いたい。
「気にするな。今回のような情報は攻略に役立ってくるからな。むしろお礼を言うのはこちらの方だ。それでお前さんは今日も迷宮区に行くのか?」
「ああ、いつフロアボスと戦う事になっても問題ないようにレベル上げしてくるよ」
俺は今レベル上げに力を入れていた。色んなクエストを受けたし、巨大種の経験値が高かったのもあって、おそらく最前線のプレイヤーとはそこまで差はないと思いたいけど、現時点で既に原作にはなかった状況になっているし、フロアボスなんて絶対に何かあるだろうと思っている。そのため出来るだけレベルは高くしておきたい。
「もちろん、リーちゃんも連れていくんだロ?もしかして付き合ってるのカ?」
「はぁ……何でいきなりそんな話になるのか分からんが、断じてそういう関係ではないからな?」
アルゴは会う度に何かしら揶揄ってくる。本当にいい加減にしていただきたい。
「ニャハハ!じゃあ、あのツインテールの子の方かナ?」
「それも違う」
「なるほド。二股してるのカ」
「何でだよ!してねぇよ!どうしてその結論に至ったんだ!?」
俺が必死にツッコミを入れていると今度はエギルが口を開いた。
「お前、流石に二股はどうかと思うぞ……」
「乗るな!エギル!そんな心底幻滅した目で俺を見るなぁ!」
そうして散々揶揄われた後、リーファと合流して迷宮区でレベル上げをした。そしてその翌日、ついに第1層攻略会議がおこなわれようとしていた。
******
迷宮区に1番近い街《トールバーナ》にて攻略会議が開かれるとのことで俺とリーファはその場所に訪れていた。
会議の場は遺跡風の円形劇場であり、その場所に多くのプレイヤーが集まっていた。
「はーい!それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいまーす!」
円形の中央にいる青髪のプレイヤー、ディアベルが手を叩いて注目を集める。
「まず、今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺の名はディアベル。職業は、気持ち的にナイトやってます!」
SAOにジョブシステムなんてないにも関わらず、ナイトを名乗るディアベルのユーモアある自己紹介は多くのプレイヤーの心を掴んだようだ。
そんなこんなで会議は特に何の問題もなく進んでいった。ボス戦のパーティは原作通り、キリトとアスナが組んでいたので俺らもそこに混ぜてもらった。
「久しぶりだな、キリト」
「ああ、そっちは何だか色々あったみたいだな。アルゴから聞いたよ。悪いな、手伝えなくて」
アルゴから聞いたのか……
俺としてはアルゴが俺を揶揄う目的でキリトに何かしら偏向報道や誤解を招くような言い方をしていないかが気になるところだが、まぁそれは後にしよう。
「気にすんな。その分、今回のボス戦に期待しておくからさ」
「おに──じゃない、キリト君がどれくらい強いのか私楽しみだなー?」
「た、頼むからそういうのはやめてくれ……」
そうしてアスナの方にも「よろしく」と簡単に挨拶する。
「それにしても、結局リーファはそれ着ることにしたんだな」
キリトがリーファにそう言う。
リーファは今、緑色のフード付きのケープを身につけている。最初はヒラヒラしてて戦闘の邪魔になりそうという理由で着ていなかったが街に入れば色んなプレイヤーから
「毎回毎回、リーファと同じパーティ組んでる俺にヘイトが向けられるんだぜ?俺の苦労がお前に分かるか?」
「……俺の妹が迷惑かけたみたいだな、ごめん」
そんな雑談をしているとディアベルから声がかかる。
「よーし、そろそろ全員組み終わったかな。それじゃあ──」
「ちょお待ってんか、ナイトはん!」
1人の男がそう言って円形の中央へやってくる。キバオウだ。
「ワイはキバオウってもんや。ボスと戦う前に言わせてもらいたい事がある。こんなかに今まで死んでいった3000人にワビぃ入れなアカン奴らがおるはずや!」
「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり……元ベータテスターの人達のこと、かな」
「決まってるやないか!ベータ上がり共はこんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった!奴らはうまい狩場やらボロいクエストを独り占めして自分らだけポンポン強なって、その後もずーっと知らんぷりや──こんなかにもおるはずやで!ベータ上がりの奴らが!そいつらに土下座させて溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティメンバーとして命は預けられんし、預かれん!」
思わず溜息が出そうになってしまう。
確かにキバオウの言う事も事実なのだろうとは思うけどさ。でも、それは本当にベータテスターに限った話なのか?俺らみたいにベータテスターじゃなくても最前線で戦っていけてるプレイヤーはたくさんいる。ではそいつらの中に自分より弱いプレイヤーに手を差し伸べた奴らが何人いる?絶対に全員ではないはずだ。
それにベータにはなかった巨大種の件もある。それによって死んでいったベータテスターだって何人もいるはずだ。
俺からしてみればベータテスターもビギナーもあんまり変わらん。結局のところ、キバオウの言ってる事はただベータテスターが気に入らないというだけの話でしかない。
「発言いいか?」
するとエギルがそう言って歩き出しキバオウのところへ行く。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任を取って謝罪・賠償しろ。ということだな?」
「そ、そうや……!」
エギルはポーチから1冊の本を取り出した。それはアルゴの攻略本だった。
「このガイドブック、あんたも貰っただろう。道具屋で無料配布しているからな」
「も、もろたで。それが何や!」
「配布していたのは元ベータテスター達だ」
エギルのこの発言に周囲のプレイヤーが驚愕する。そしてエギルは周囲に目を向ける。
「いいか?情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのに沢山のプレイヤーが死んだ……その失敗を踏まえて俺達はどうボスに挑むべきなのか、それがこの場で論議されると俺は思っていたんだがな」
エギルの発言に反論出来ず、ディアベルの説得もあってキバオウはこの場は引き下がってくれた。
その後はディアベルが攻略本の最新版を持ってきてフロアボスの内容を読み上げる。ここも原作と同じか……このまま原作通りに進んでくれればフロアボスは曲刀の
「明日は朝10時に出発する。では解散!」
******
攻略会議の後の夜中、俺は宿のベットに寝転がっていた。
そんな俺は攻略会議の時のとある言葉を思い出していた。
『こんなかに今まで死んでいった3000人にワビぃ入れなアカン奴らがおるはずや!』
2週間くらい前の俺だったら、ベータテスターでもないのに堂々と土下座しにいっていたかもしれない。
だが、今の俺は違う。この2週間で冷静になって考えて、そして巨大種の件で確信した。俺は悪くねぇ、と……
まぁ原作に存在しない俺という存在のせいで原作とは違う要素のあるSAOになってしまった、そんな世界線になってしまったという可能性はあるとは思う。けどそれは俺がきっかけになったというだけで悪いのは茅場。あいつが催したデスゲームですし。だから『助けてあげたかった』という悔いはあれど『俺のせいだ』と自分を責めることはもうしない。
俺はいつも通り、自分の手の届く範囲を精一杯守り抜く。手の届かない所は他プレイヤーに任せる。助けたりして仲良くなった奴には同じ様に困ってる奴がいたら助けてやってくれと頼み込んでいる。みんな良い奴だったからきっとやってくれるだろう。
でも、1つだけ俺のせいと思うものはある。リーファだ。リーファに関しては完全に俺が巻き込んだ様なもの。必ず生きて、何事もなく現実世界に帰してみせる。