現在、俺らはボス部屋へ向けてディアベルのパーティを先頭に行軍中。俺らは最後尾の少し離れたところにいた。
「俺達が相手するのは《ルインコボルト・センチネル》ていうボスの取り巻きだ」
キリトから今回のボス戦の役回りを説明される。分かってはいたけど取り巻きが相手かぁ……なんというか地味な役回りだなぁ。これはこれで大事なのは分かるけどさ。でも
「どーせならボスを相手にしたかったよなぁ……」
「だよな」
キリトが俺の意見に賛同してうんうんと頷く。やはりゲーマーとしてはボスに挑みたい気持ちが強い。ここがデスゲームである事が悔やまれる。
「まったく、もう少し緊張感を持ってよね」
まるで今から命懸けのボス戦をやるとは思えない態度の俺やキリトにリーファが苦言を呈する。
「そうだぞ、キリト」
「言われてるぞ、シンヤ」
「あんた達2人に言ってるの!」
「本当に大丈夫なの……?」
そんな俺らの様子を見てアスナはかなり不安を感じたようだ。
しばらく歩いて、ようやくボス部屋まで辿り着いた。
するとディアベルがみんなに声をかける。
「聞いてくれ、みんな。俺から言う事はたった一つだ……勝とうぜ!」
張り詰めた空気の中、みんなが力強く頷き返した。
果たして、このボス戦は何が原作と違ってくるのか……警戒しておかないとな。
「行くぞ!」
ついにボス部屋の扉が開かれた。
そしてフロアボスである《イルファング・ザ・コボルトロード》がボス部屋の中央にいた。
グルラアアアア!!
そんな咆哮と共に取り巻きである《ルインコボルト・センチネル》が3体、ボスを守るように出現する。
「攻撃開始!!」
ディアベルの掛け声と共にプレイヤーが一斉に動き出し、戦いの火蓋が切られたのだった。
あのボス部屋の最奥……なんであそこだけ明かりがないんだ?
俺はそんな事を考えながらも戦闘に集中する。そして取り巻きが振り下ろしてきた武器を弾いて隙を作る。
「スイッチ!!」
俺がそう言うとリーファが前に出てきて、両手持ちした片手直剣を取り巻きに片手直剣単発ソードスキル《スラント》で斜め斬りし、取り巻きがポリゴン片となって散った。
そして再度取り巻きが出現する。その数、なんと10体ほど。
一斉に俺達4人に襲いかかってきて、もはや連携が取れない状況だ。
「なんか数が多すぎないか!?」
「どうして急にこんな──!」
俺とリーファは突然増えた取り巻きに戸惑いながらもダメージを与えていく。
「とにかく、こいつらをボスのところに行かせちゃダメだ。ヘイトを集めないと……!」
「はぁ!!」
キリトが俺らに声をかけ、アスナは次々と取り巻きを突き刺していく。
取り巻きのヘイトを常に俺らに向ける事に意識しながら、敵の攻撃を弾いたり躱したり受け流したりして相手の攻撃を対処しながら攻撃を当てていく……クッソ大変だなこれ!!しかも敵が多くて身動きも取りづらいのだ。やってらんねぇなマジで……
ようやく、取り巻きが残り3体になった。それと同時にボスの咆哮が部屋中に響き渡る。急いでボスの方を見るとボスの残りのHPバーが1本だけになったらしい。
するとボスが持っていた盾と剣を捨てて腰につけていた武器を取り出す。あれは……
「……!!あれは……!」
俺は確かに見た。ずっと注意を向けていた最奥の暗闇から黄色く光る何かがあった事を。あれは瞳だ。俺の予感が正しいなら……
俺は今戦っていた取り巻きの首に剣を突き刺して倒す。周りを見渡すとちょうど俺が相手していたので最後だったらしい。ならもうここにいる必要はないか!そう判断して俺はボスのところへ全力で走った。
「シンヤ?何を──!」
キリトは言いかけて止める。キリトも気付いたようだ……最奥にいる
するとドンッ!!という音ともに暗闇からもう一体の《イルファング・ザ・コボルトロード》が物凄い速さで飛び出した。姿は現在いる赤い体色ではなく、黒い体色になっており手には野太刀が握られている。
「クソッ!これじゃ間に合わねぇ!」
「あれは……!ダメだ!全員、全力で後ろに跳べぇ!!」
キリトがボスを相手にしているパーティに向かって叫ぶ。だが咄嗟のことに反応できず野太刀に薙ぎ払われてしまう。範囲攻撃だったのだろう、周囲にいた奴らも纏めて吹っ飛ばされた。幸い、体力に余裕があったのか誰も死んではいなかったが体力は相当削られただろう。そこに赤い方がソードスキルを使って追い討ちをかけようとしている。
「させるかよぉ!!」
《ソニック・リープ》で赤い方の攻撃を弾いた。が、間髪入れずに黒い方の野太刀が俺に向かって迫っていた。
「マジか……!」
ソードスキルの
「うおおおお!!」
そんな俺と野太刀の間にキリトが割り込んできた。キリトが野太刀を弾くと一旦俺達は距離を取った。その際、一瞬だけ後方を確認したが次々に取り巻きが出現していてほぼ全員がその対応に追われている。
「増援はあまり期待できないな。となると俺達だけでこの2体のボスを相手にしなきゃか……」
だが幸いな事に黒い方のHPバーは1本だけ。これならまだ可能性が全くない訳じゃない。
赤い方が距離を詰めてきて攻撃を仕掛けてくる。俺は前に出てそれをタイミングを見計らってソードスキルをボスとぶつけ合った。すぐさまボスの背後から黒い方が飛び出してくるが、俺の方の背後からもキリトが飛び出してソードスキルを相殺する。すると……
「「はぁぁあ!!」」
いつの間にかやってきていたリーファとアスナがそれぞれ、赤い方をリーファが、黒い方をアスナが攻撃した。
「ボスの攻撃は引き続き、俺とシンヤで引き受ける。リーファ達はそのまま隙をついて攻撃してくれ!」
キリトが改めて俺達の役割を明確にする。
その間にもボス達は攻撃をしてくるので先程と同じように攻撃を相殺する。ボス達がしてくる
「大丈夫なんだよね……?」
リーファが俺らを心配してくれてるのは分かってる。だが、あまり舐めないでほしいものだ。
「やれるよな、シンヤ」
「ああ!やってやろうぜ、キリト!絶対に勝つぞ……!」
弾く、弾く。何度も何度も何度も何度も、ただひたすらに。
ボス部屋には2体のフロアボスとたった2人のプレイヤーによる剣戟音が響き渡っていた。
ボス達は時にボス部屋にある柱を足場に縦横無尽に移動して斬りかかってくる事もあった。その動きにも何とか喰らいついて攻撃を相殺し続けた。
「あの構えは……!」
俺が赤い方の攻撃を相殺した直後、キリトからそんな呟きが聞こえた気がした。
黒い方がやろうとしているのはカタナ単発ソードスキル《幻月》。全く同じモーションから斬り上げか斬り下ろしのどちらかが繰り出される見極めが非常に難しいソードスキルだ。
だが今の俺にそんな知識はない。ただ嫌な予感がしただけ。キリトがほんの一瞬、少し不安そうな顔をしていたように見えたから。
「キリト!!」
そしてキリトが2択を外してしまった。俺は技後硬直から解放された瞬間、弾かれたかのように体が動いてギリギリでキリトと野太刀の間に剣を滑り込ませる事に成功した。だが受けるタイミングが悪く相殺出来ずにそのまま近くにいたキリトも一緒に吹っ飛ばされた。
「ぐっ……!クソ!」
「これはマズイ……!」
武器で攻撃を受けたからHPの減少は最小限に抑えられている。だから問題はそこじゃない。ボスが2体同時にソードスキルを放とうとしているのだ。クソッ!間に合わねぇ!
「お兄ちゃん!シンヤさん!」
リーファが必死になって叫ぶ。だが無慈悲にもボス達は俺達にソードスキルを放った。
「お、らぁぁぁあ!!」
「はぁぁああ!!」
──ガキィィィン!!!
突如として響き渡った金属音。俺達の前に姿を現したのは……
「エギル……ディアベル……!!」
「すまねぇな。遅くなっちまった」
「だが俺達はまだ体力が万全じゃない。だから後は頼む……!」
よく見るとエギルとディアベルのHPは黄色い。まだ回復出来てないのに、無茶を承知で助けに来てくれたのか……!
そしてボス達のHPは気付けばあと僅かになっていた。次で最後だ……!
「いくぞ、キリト!」
「ああ!アスナ、リーファも最後の攻撃、一緒に頼む!」
「了解!」
「うん!」
赤い方が俺達を目掛けて突撃してくる。その攻撃を俺が弾いてリーファとスイッチしてリーファがボスの懐へ飛び込み、《ホリゾンタル・アーク》を叩き込む。たまらず赤い方が後ろに下がる。
それと同時に黒い方が垂直に跳んで体をひねる。カタナ重範囲攻撃ソードスキル《
「届……けぇ!!」
キリトが全力で跳躍してからの《ソニック・リープ》で黒い方の横腹を斬り裂きスキルを中断させた。
キリトなら何とかしてくれると信じていた俺は黒い方を無視して後ろに下がった赤い方を追っていた。
黒い方が着地した瞬間をアスナが狙うがそれを分かっていたかのように黒い方は野太刀でアスナを斬り裂こうとする。
「ダメぇ!!」
リーファが咄嗟にアスナに跳びついてギリギリで回避する。その際に2人のケープが斬られて2人の素顔が露わになる。2人はすぐに立ち直し、ボスに向き合う。その時には俺が赤い方をキリトが黒い方をそれぞれ相手にしていた。
アスナが黒い方へ、リーファが赤い方へ向かって走る。そして2体のボスが攻撃を弾かれたタイミングで攻撃する。
「「はぁぁぁあああ!!!」」
HPが残り僅かだからか、2人の攻撃によってここに来て漸く2体のボスがまともに怯んだ。この隙は逃さない!!
「「うおおおおおおああああ──ッ!!!」」
俺達の全力の雄叫びと共に放たれた《バーチカル・アーク》が赤と黒、両方のボスを斬り裂き、ついにHPを削り切ってボスがポリゴン片になって散っていった。
そしてボス部屋には大きく《Congratulations!!》という文字が表示され、それを見たプレイヤー達から歓声が上がる。
はぁ……疲れた……
俺は思わずその場に座り込む。するとリザルト画面が表示されたので確認していると《
「とにかく今はお疲れ様、だな。2体目のボスが現れて俺が1人でとび出した時に守ってくれてありがとうな、あれはほんとに助かったぜ」
「それはお互い様だろ?お前だって俺が相殺をミスった時に助けてくれたしさ」
そうして俺とキリトがお互いを労っているとアスナ、リーファが「お疲れ様」と声をかけてきて、それからエギルが話しかけてきた。
「2人共見事な戦いだった。congratulation、この勝利はあんた達のものだ」
「いや、そんな事ないよ。エギルとディアベルがいなかったら俺達の命はなかった訳だからな」
俺がそう返すと突然声を荒げた奴がいた。
「ちょっと待てよ!!」
全然知らないプレイヤーだ。だが俺とキリトに向けて怒りをぶつけているのは分かった。
「お前……ボスの動き、使う技を知ってたんだろ?それにお前は2体目のボスが現れた時の動きが異常なほど早かった!知ってたなら、何でそれを事前に教えなかった!そうすればもっと楽に勝ててた筈だ!みんな、危険な目に遭う事もなかった筈だ!!」
彼は震えながらそう叫んだ。おそらく怖かったのだろう。助けに来てくれたエギルとディアベルが回復出来ていなかった事から取り巻きの相手に忙しく、常にHPが危険な状態で戦っていた事は容易に想像できる。ずっと命を危険に晒されたのだから怖いのは当たり前だ。でもだからと言ってその恐怖心を俺達のせいにされるのは普通に悲しい。
すると周りのレイドメンバーから疑惑の目を向けられる。元ベータテスターなんじゃないか?という声も聞こえてきた。
別に俺はベータテスターではないのだが……
でもまぁ確かに、彼等からしてみれば俺はおかしいのかもしれない。あの時、最奥は別に不自然に暗くなってた訳ではない。それこそ最初からあそこに何かあると思っていなければ気付けない程のものに俺は気付けたのだからその疑いはあって当然だろう。
「落ち着いてくれ、みんな。攻略本にも『ベータ時代のもの』とあった。彼等だって攻略本以上の事は知らなかったはずだ」
ディアベルがそう言って庇ってくれるが、もはや聞く耳を持たない。何なら攻略本そのものを疑ってかかる始末。
ディアベルだけじゃない。エギルやアスナ、リーファも庇ってくれているが完全に焼け石に水のようだ。
「……シンヤ、ごめん。お前を巻き込む事になるかもしれない」
「何言ってんだ、もう巻き込まれたようなもんだろ?最後まで付き合うさ」
俺がキリトの言葉にそう返す。
今更何を言ったところで俺に対する疑惑が完全に晴れる事はないだろうし、それに俺は元よりキリトに色々1人で背負わせる気はなかったし。
「ああ、ありがとうな」
俺にそう言ってからキリトは動き出した。
「フフ……ハハハハ!!」
めちゃくちゃ空気の悪い中、キリトはバカ笑いする。
「元ベータテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな……」
「な、何だと!?」
「考えてもみろ。SAOのベータテストに当選した1000人の内、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う?殆どがレベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ……でも俺はそいつらとは違う。俺はベータテスト中、他の誰も到達できない層まで昇った。俺がボスのカタナスキルを知っていたのは、ずっと上の層でカタナを使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ?情報屋なんか問題にならないくらいにな」
「な……なんだよそれ、そんなのもうベータじゃねぇ。チートだ、チーターじゃねえか!」
キリトの言葉に周囲のプレイヤーが騒ぎ、キリトの事を非難し始めた。そんな数々の言葉の中に《ビーター》という単語が耳に入った。
「……ビーターか、いい呼び方だな。そうだ、俺は《ビーター》だ。他のベータテスターごときとは違う。俺はこのボス部屋の違和感にもすぐに気付いた。こいつがあの時、すぐに動けたのも俺がこいつにだけ全てを話していたからだ」
するとその場の全員が俺の方を見ている。
この状況で何も話さない訳にもいかないので俺は立ち上がってキリトの隣に並び立つ。
「別に俺達にも教えてくれたっていいじゃないか!とでも言いたそうだな?」
「あ、当たり前だ!教えてさえくれていれば──」
「どうにかなったって?笑わせるな。正直、あのフロアボスの連携はとんでもないものだった。とてもじゃないが、あんたらの実力でどうにか出来るとは到底思えないな……むしろ今よりも酷い結果になってたんじゃないか?」
「何だと……!?」
俺の言葉に周りの奴らの怒りが高まる。するとキリトが続けて話す。
「ハハ、それは言えてるな。俺らの戦いを少しでも見てた奴がいるなら分かるんじゃないか?」
キリトの言葉に何人かが悔しそうな顔をする。
「情報だけあったって意味はない。実力が伴わなきゃ話にならん。情報を見て、何とかなるだろうだなんて舐めてかかって死んでいく奴なんて沢山いるんだからな」
「その通りだ。あんた達には情報を教えるほどの価値を感じなかった。それだけの事だ。悔しかったら今からレベル上げでもしに行ったらどうだ?」
俺とキリトはメインメニューを開いてLAボーナスであるコートを装備した。
俺のは《コート・オブ・トワイライト》。夕焼けのような赤色のコートだった。
キリトのは《コート・オブ・ミッドナイト》。アニメで見た通りの漆黒のコートだ。
「2層の転移門のアクティベートはこっちでやっといてやる。ついてくるのなら、初見のMobに殺される覚悟をしてこいよ」
キリトはそう言って2層の方へ歩き出す。俺も一緒になって歩いていった。
******
「いやーもう清々しいくらいの嫌な奴だったな!」
「まったく、お前まであんなノリノリで来なくても良かったんだぞ?」
2層に続く階段で俺達は話していた。
「お前だけに背負わせねぇよ。ベータテスターへの憎しみなんて大層なもの。今更遠慮するような仲でもないんだし、存分に頼ってくれよ」
「ああ……頼りにしてるぜ、親友!」
俺とキリトは拳をコツンとぶつける。
その後、階段を昇りきったところでアスナがやって来てエギルからの伝言や何で名前知ってたのかって事、キリトへのお礼、それからリーファの事をアスナにお願いしてアスナは1層に戻っていった。
「さて、じゃあ改めて2層に行くか!」
「ああ、行こう!」