甘党狸を追い出せない   作:貴重品

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初投稿です


甘党狸がやってきた

俺は井上コタツ、割と珍しい文系の大学院生である。今、俺はそこそこのピンチを迎えている。今、俺の目の前には狸がいる。それも、俺のポケットWi-Fiを咥えた状態なのだ。俺は貧乏だ。だから、ポケットWi-Fiしか契約していない。つまり、このまま奴に端末をもっていかれるとしばらく自宅での研究作業ができない上に、人との連絡も不便になる。しかも新しい端末を手元に置くために少額とはいえ金がかかる。それだけは死んでも避けたい。

 

「良い子だからそれを置いてくれないかなぁ?」

 

そろりと足を前に出した瞬間。狸はビクッと震えて走り出し、そして・・・透明な窓に写った自分に驚きそのまま窓に激突。ゴクンという嫌な音が鳴り俺のポケットWi-Fiは無事奴の腹の中に入った。これが俺と化け狸の共同生活の始まりだ。

 

ひとまず、狸の首根っこを掴んで捕獲。すると、顔面を強打し顔を覆っていた狸は突然暴れだし、手を抜けて、再び走りだし、床に落ちていた紙に足を滑らせてゴシャっと音を立ててこけた。

俺がもう一度首を掴もうと、手を伸ばすと狸の周りにモヤがかかり、なぜか人影が見え始めた。

 

「え?」

 

「あーあ。言葉が通じねぇの不便で仕方がねぇ、お前ら人間はすぐに手を出しやがる。」

 

ついさっきまで、狸がいた所には、ごく普通の青年が座り込んで鼻をさすりながら文句を言っていた。

 

「だいたい、なんだよイイ子ってなにも知らねぇくせに、だいたい音を出しながら近づいてきたらビビるだろうが。クソ...」

 

理解が追いつかない…メガネをとって目を擦っても俺の前にいるのは先程までいた四足歩行ではなく、人型の生物だった。

 

「じゃあお前何???」

 

「今お前の目にどう映ってるか知らんが、お前の見たいようになってんだよ。あ゛ー痛てぇ、血ぃ出たかも。」

 

鼻血が出ている。どうやら激突したダメージはそれなりのものだった様だ。ポタポタと床に垂れている。

 

「あー汚いなぁほら、ティッシュ詰めとけ。」

 

「どこにだよ」

 

「鼻にだよ!」

 

「はなって何だ!」

 

「お前が痛がってるそれだよ!」

 

両手で鼻にティッシュを押し込む目の前の何かを見て、ふっと思い出す。こいつ俺のWi-Fi飲み込んでやがる。

 

「おい、Wi-Fi返せ。」

 

「なんだそれは?」

 

話が通じないLv100だ…どうするよ。これ。

 

「お前がさっき飲み込んだ奴だよ。」

 

不思議そうな顔で青年が答えた。

 

「そりゃあ無理な相談だな。」

 

えーどうすっかなこれ、と思っていると狸だったやつはフッフッフといって自慢げな顔をした。

 

「何て言ったって飲み込んだからな!食ったものは返せねぇよ!おめぇがビビらせるから味はわかんなかったけどな!」

 

「ふざけんな!」

 

頭にきた、が、キレたところでどうにもならない。幸い、こいつは今怯んでいる。

 

「おいおい、そんな怒んなよ。食い物一つで…なぁ?落ち着けって。」

 

とりあえず吐き出させる為に青年の首を首を掴む。そうするとまた、モヤがかかり始めて右手には狸がいた。

 

「どういう仕組み?」

 

「お前が俺を狸だよなって思いながら触るから元に戻ったんだよ。まぁ一回人間になってお前の意識に俺が喋れることが刷り込まれたからこうして会話できてるわけだ。」

 

なるほど仕組みはわかんないが簡単な理屈はわかった。とりあえず吐き出させよう。指を突っ込もうとすると狸は焦った様に暴れる。

 

「おい、何する気だ!」

 

「そら、お前、指突っ込んで吐かせるんだよ。」

 

狸の顔がスンッとなった。

 

「やめろ、死ぬ。」

 

「死なねぇよ!吐き出せ!」

 

「いや、なんか、腹に馴染んでてよぉ。」

 

「馴染むな。」

 

はぁ狸って獣医に連れてって良いのか?保健所か?調べようとスマホを起動するその画面の右上には見慣れたマークが付いていた。

 

「Wi-Fiが動いてる…?こいつの中で?」

 

目をやると狸はどこから出したのか飴玉を眺めていた。

 

「そうだ!お前!お前の食い物食っちまったのはどうにもならんが、これ、俺のとっておきの飴玉だ。よかったら食ってくれ!」

 

Wi-Fiが何なのか未だにわかってないらしいがWi-Fiが使える事にかわりない。だが、案外悪い奴ではなさそうだ。俺はしばらくこいつを家に置く事にした。

 

「ところでその飴玉どこで手に入れた。」

 

「拾った。甘いものはみんな欲しいからな。早いもん勝ちだ。」

 

その晩こいつは俺の家のスティックシュガーを全部食いやがった。

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