石使いランジャ   作:桜城静夜

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 村に戻ると大騒ぎになっていた。

 まだ日も高いのに、広場には村の者ばかりか近郷近在の男たちが勢揃いで、てんでに鶴嘴やらスコップやらの得物を持って気勢を上げているし、通報を受けて駆け付けたのか、甲冑を纏った騎士の姿も見える。

 乗り付けられた馬車の近くには親方もいて、爺さんたちと蒼い顔でおろおろ話し合っている様子が見えた。

 思わず師匠と顔を見合わせると、こちらに気付いたおカミさんたちの声が、口々に俺たちの名を呼び、馬を下りるとたちまち人込みと歓声に囲まれる。

 駆け寄った親方に飛び付いたベニカが抱き上げられると、俺たち三人は村のみんなに総出でもみくちゃにされた。

 兜を抱えた騎士団の隊長もやって来て、握手を交わすと、

「我々が来るまでもなかったようですね」

 と爽やかな笑顔で言った。俺より若そうだけど感じのいい人だ。

 現場を案内して欲しいと言う隊長の要望に、再び馬に乗ろうとする俺たちをおカミさんたちが引き止める。

「そんなのあとでいいじゃないの」

「悪党なんぞ狼にでも喰われちまえばいいのよ」

「ベニカを攫った罰だよ」

「二人がいてくれてよかった」

「領主様が樽を開けるって言ってるよ」

「飲んで行きな。ほら隊長さんも」

「あらイイ男じゃないの」

 彼女らの勢いには、さしもの騎士団も太刀打ち出来ないのか、最初の内こそ「私にはまだ仕事が」などと抵抗を見せていたが、敵は「いいからいいから」だの「堅い事言ってんじゃないわよ」だのと聞く耳を持たない。

 そのまま一緒に隣村の領主の邸まで連行されると、俺たち共々、やたらと酒に強い村の連中と、話の長い年寄りに朝まで付き合わされ、哀れな隊長は二日酔いの頭痛を抱えたまま、次の日の早朝、彼同様顔色の悪い騎士団を引き連れて城下に帰って行った。

 彼らが親方と共に現場の検分の為に再び村を訪れたのは、それから三日後の事だったが、村のおカミさんたちとはすっかり顔なじみになってしまっていた。

 行く先々で彼女らに声を掛けられる隊長の顔が、心なしか引き攣って見えたのは俺の気のせい。ということにしておこう。

 

 

 

 騒動の余熱も治まり、村も落ち着きを取り戻した頃、いつものように狩を終えて帰って来た俺たちを、ベニカが小屋の下で若い貴公子を伴って待っていた。

 よく見ると騎士団の隊長だ。一目で仕立ての良さが判る服を着込んでいるあたり、職を離れれば良家の子息なのだろう。

 彼は俺たちに気付くと、あの爽やかな笑顔で「ご無沙汰してます」と挨拶してくれた。

「今日はどうしました……?」

 師匠の問いに、彼は手にした繻子の包みを解き、取り出した二巻の文書を、恭しく捧げるように持つと、俺たちに一巻ずつ手渡した。

 縁飾りが型押しされた上質な紙に、青い封蝋が施されてる。捺されている封印は、組み合う四本の王杖を表す紋章だ。ここの国章だろうか。

「内務尚書閣下よりお預かりしました勅書です」

「勅書……?」

 俺たちはぽかんとした顔で書類を受け取ると、互いに顔を見合わせてから恐る恐る封を切った。

「今回の次第をご報告申し上げました所、陛下が殊の外お喜びだそうで」

 我が事のように嬉しそうな隊長の言葉を聴きながら、装飾文字だらけで読み辛い文書に目を通すと、「この度の隠し鉱山摘発並びに人命救助の功を称え、褒賞をもって報いる故、タルセンド城謁見の間に参内されたし」と言った内容が、持って回った調子で書かれていた。

 へぇ。王様からご褒美を頂けるって訳ね。ソーセンのレポートにあった、「封建社会の萌芽期」の一文を思い出せば、何やら感慨深いものがあるな。

 それにしても、師匠の「タラサノの狩人」とある肩書きはいいとして、「ホルザレン会ロアルデ支部ケルデン門下の石読み」てのは何だ。俺はいつから親方の門下に入ったんだ。

「あのね、親方が『身分が定まらないのは何かとご不便でしょうから、記憶が戻られるまで僭越ながら私が後見いたします』って」

 背伸びしながら一緒に文書を覗き込んでいたベニカが、弾んだ声で説明してくれた。あぁそういう事ね。恐らくこれを見越していた隊長からの助言もあったんだろう。

 いずれはベニカを神都まで連れて行かなきゃならないんだし、石読みの身分があったほうが話が早いな。今後は遠慮なくその肩書きを名乗らせてもらうことにしよう。

「凄ぇ……。あの英雄王から謁見を許されるなんて……」

 少々戸惑ってる俺をよそに、師匠は文書を何度も読み返すと、上気した顔でそう呟いた。珍しいな。いつもは穏やかな彼がこんなに興奮してるなんて初めて見た。

「英雄王?」

「はい。『金狼』の二つ名を戴く勇将として、先の戦で戦功を上げ、敵刃に斃れた先王に代わって、下層階級の出身ながら、辺境王に封ぜられた立志伝中の人ですから」

 いつに無く饒舌な師匠の言葉を受けて、隊長が続ける。

「陛下に憧れて騎士を志す者も少なくありません。斯く言う私もその一人ですが……」

 彼は言いながらはにかんだ笑顔を浮かべると、「それでは城でお会いしましょう」と言い残して帰って行った。

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